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時価評価を巡る課税上の諸問題について
−法人税法上の収益認識基準を中心として−

 
福田 吉晴

税務大学校
研究部教授


はじめに

1  わが国で金融商品に時価評価を導入すべきことを最初に明らかにしたのは、平成9年6月、企業会計審議会による「金融商品に係る会計処理基準に関する論点整理」(以下、論点整理という)においてである。これは、前年の平成8年11月、当時の橋本総理の指示による金融システム改革、いわゆる日本版ビッグバンを契機とするものであるが、論点整理公表後の平成10年6月には金融商品公開草案でより具体的な時価評価基準が明らかにされた。そして、平成11年1月22日、企業会計審議会は「金融商品に係る会計基準の設定に関する意見書」(以下、意見書という)を公表し、金融商品の時価評価導入を明らかにしたのである。
また、金融商品を時価評価するに当たって直面する大きな問題として配当可能利益計算と密接に関係している現行商法における計算規定との整合性の問題がある。この間題に関しては、平成10年6月に法務省と大蔵省が「商法と企業会計の調整に関する研究会報告書」を取りまとめ公表し、金融商品に対しては時価評価の導入が望ましいことを明らかにしたが、平成11年1月28日付日本経済新聞で「法制審議会は金融債権の時価評価の導入を決め、関連法案の年内の施行をめざす」との報道がされているように商法もその実現の方向に動いている状況にある。
このような、時価評価導入の先駆けとなったのが、金融機関のいわゆるトレーディング取引に対する時価評価の導入である。これは、平成8年6月21日に成立した「金融機関等の経営の健全性確保のための関係法律の整備に関する法律」により、平成9年4月1日より導入されたものであるが、企業会計面においても大きなインパクトを与えたと言われている(1)
このようにわが国では時価評価導入が現実のものとなりつつあるが、諸外国でも状況は同様である。まず、国際会計基準委員会(IASC)は平成10年12月に、暫定基準ではあるがIAS第39号「金融商品:認識と測定」を策定し、金融商品を公正価値で評価すべき基準を明らかにしている。又、米国の財務会計基準審議会(FASB)でも、平成10年6月にSFAS第133号「デリバティブとヘッジ活動に関する会計処理」を公表し、デリバティブについてはすべて適正価額で評価すべきことを明らかにしており、時価評価導入を巡る現実的な動きは世界同時進行の感を呈している。

2   一方、税務上の取扱に関しては、トレーディング取引に係る有価証券等の時価評価損益を課税所得に反映させることが平成9年度の税制改正で定められ(措法67の9)、さらに、平成10年4月より金融システム改革のための関係法律の整備等に関する法律による証券投資信託法の一部改正により証券投資法人制度が創設されたことにより措法67の15が設けられた。それによれば棚卸資産及び有価証券等の評価は時価によることが規定され、その時価評価損益は課税所得に含めることとされた。このように時価評価損益への課税は一部行われているが、従来からの取得原価主義を基調とし、実現した収益を課税所得に含めるとする基準に変化は認められず、税制調査会においても、時価評価の導入に伴う評価損益の取り扱いを巡る本格的な議論はなされていない状況にある(2)

3   ところで法人税法上の課税所得の計算構造は、法法21及び法法22に規定されているとおり、別段の定めのないものについては、法法224により「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算する」こととしている。そして、その計算基盤は企業会計による企業損益に基づくことを前提としているが、現行法上では企業会計が未実現損益を企業損益として受け入れても、法法252や法法30などにより課税所得とは成りえないこととなる。果して従来どおりの法人課税を継続することが適切なのか、むしろ金融システム改革を契機とする会計制度の変革(具体的には、企業会計等で時価評価基準を導入するとともに、評価損益を企業利益として計上するというこれまでの取得原価主義の修正とも言うべき動向をいう)に合わせ、未実現損益をも課税所得計算に加えるべきではないかとも考えられる。
  そこで本稿では、時価評価の導入に伴う評価損益を課税所得とする場合の諸問題について考察することとした。

4  本論の前提条件や構成は以下のとおりである。

(1) 時価評価を導入する意義の1つとして、デリバティブ取引等のオフバランス取引をオンバランス化することが挙げられ、かつその表示金額を時価で示すことでその有用性が認められるが、本稿では、係る取引を個別具体的に掲げ、その評価損益をいつ認識し、評価額をどのようにすべきかの問題をとりあげるものではない。本稿の主旨としてはデリバティブ取引や有価証券等金融商品全体における未実現の評価損益を課税所得として取扱うことの基本的な考え方を提示するとともに、金融商品の一部である有価証券とデリバティブの損益認識基準の在り方について若干の検討を加えることとした。従って、個々の金融商品にかかる時価評価をいかに行うか又個別具体的に課税上の取扱をどうするかといった問題は別途の課題として整理している。

(2) 本論の構成としては、まず第1章でこれまでの資産評価の沿革について企業会計、商法、法人税法それぞれの変遷と相互の関係を概観し、第2章では課税所得の本質について、経済的所得概念及び法律的所得概念それぞれの面から比較検討し、そもそも未実現所得はそれぞれの概念に含まれるのか否かを考察する。第3章は、包括的所得概念を基調としつつも実現したものが課税所得とされる現状において、1わが国税法上の実現概念の変遷、2米国税法における実現概念の生成、3企業会計上の実現概念の沿革についてそれぞれ概観する。第4章では、時価評価導入に伴う収益認識概念の拡張を巡る議論を概観するとともに、わが国の税制上における時価評価導入に向けた取り組みの現状を概観する。
以上の検討を踏まえ、第5章では時価評価導入に伴う未実現損益を課税所得に含めることの根拠や意義を考え、課税所得とすべき範囲や基準等を提唱する。そして、最後の第6章で企業会計における有価証券等の時価評価に対し、税務上いかに対応すべきかについて若干の検討を試みることと した。

〔注〕

(1) 古賀 智敏 稿「トレーディング勘定の時価評価と会計基準」について
企業会計、1997年4月号第49巻4号、P27本文に戻る

(2) 古牟田 勲稿 「法人課税ベース見直し方向の検証2
税研 97年9/20号 P26〜27本文に戻る

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