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債権譲渡登記制度を利用した集合債権
譲渡担保に関する滞納処分上の諸問題

 
吉田 和人

研究科第34期
研究員


はじめに

 近年、企業の資金調達手段の多様化、調達コストの削減、資産のオフ・バランス化による財務体質の向上等を図るため、金融機関や事業会社が、安定したキャッシュ・フローを生み出す多数の債権を、SPC(Special Purpose Company:特別目的会社)や信託会社等に譲渡し、当該債権を担保に発行した証券を投資家に販売する等して資本市場から直接資金を調達する「債権流動化」といわれる手法が急速に広まりつつある(1)
債権流動化においては、投資家保護のために、流動化しようとする多数の指名債権が有効に譲渡され、かつ、右譲渡をもって第三者に対抗できることが必要である(2) 。しかし、民法467条により債権譲渡の第三者対抗要件を具備するには、将来発生すべき債権を含む多数の目的債権について個々に確定日付ある証書による債務者への通知又は債務者の承諾が必要となり、現実問題としては不可能に近い(3)。そのため、実務界から、民法467条の対抗要件制度の簡素化が強く要請されていた(4)。この流れの中で、平成4年に「特定債権等に係る事業の規制に関する法律」(以下「特定債権法」という。)(5)、 平成10年に「債権譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律」(以下「債権譲渡特例法」という。)(6)が制定され、それぞれ民法467条の対抗要件の特例として、簡易な対抗要件制度を創設するに至っている。
ところで、債権流動化は債権の売買であるから、債務者の倒産等のリスクは譲受人に移転する。したがって、必然的にリスクを計算できるだけの規模の債権を目的債権とする必要がある。しかし、目的債権がそのような規模に至らない場合にも債権譲渡による資金調達という経済的ニーズは存する。そこで、事業会社等の有する債権の譲渡による資金調達手法を図り、かつ、債務者の倒産等のリスクが譲受人に移転しないスキームとして考えられているのが、債権の譲渡担保であり、債務者の有する将来発生すべき債権をも含む複数の債権を債権者に包括的に譲渡する担保形態を集合債権譲渡担保(7)という。
集合債権譲渡担保についても、民法467条による対抗要件の具備が困難であることがその有用性の障害となっていたが、債権譲渡特例法により創設された対抗要件制度(債権譲渡登記制度)は、債権流動化のみならず、集合債権譲渡担保の対抗要件としても利用できるものとなっており、債権譲渡登記制度を利用することにより、対抗要件を簡易に具備することが可能となった(8)
以上のような債権譲渡を利用する資金調達手法の拡大という経済社会の状況と国税滞納処分との関係については、国税滞納者の多くは中小事業者であることから、集合債権譲渡担保と滞納処分による債権差押えとの関係が問題となる場面が増加すると考えられる。
また、債権譲渡登記制度は、債務者対抗要件と第三者対抗要件とを分離するという民法467条の対抗要件制度とは異なる構造を有するものであり、債権譲渡登記制度を利用する集合債権譲渡担保と滞納処分の債権差押えとが競合した場合、従来の民法467条による対抗要件を具備した債権譲渡と滞納処分の債権差押えが競合した場面とは、異なる対応が必要となる。
そこで、本稿は、債権譲渡登記制度を利用する集合債権譲渡担保に関する滞納処分上の問題点を整理検討することとしたい。

〔注〕

(1) 債権譲渡法制研究会「債権譲渡法制研究会報告書」NBL616号(1997)31頁。本文に戻る

(2) 例えば、債権の譲渡人(オリジネ一夕ー)が破産した場合でも、目的債権(流動化の対象として譲渡された債権)が譲渡人の破産財団に組み込まれないよう、SPCに対する譲渡をもって破産管財人に対抗できる必要がある。本文に戻る

(3) 神田秀樹=能見善久「債権流動化と債権譲渡の対抗要件」金融研究15巻2号(日本銀行金融研究所、1996)82頁。本文に戻る

(4) 債権譲渡法制研究会「前掲注(1)」同頁。本文に戻る

(5) 平成4年法律77号(平成4年6月5日公布、平成5年6月1日施行)本文に戻る

(6) 平成10年法律第104号(平成10年6月12日公布、平成10年10月1日施行)本文に戻る

(7) 集合債権譲渡担保とは、担保の目的債権について、1包括債権群を担保とする(多数の債権を包括的に担保とする。)、2将来債権群を担保とする(設定者が担保設定時点で有する債権のみならず、将来取得するであろう債権についても担保とする。)、3流動債権群を担保の目的とする(個別債権の発生・消滅を前提とする。)、という要素を兼ね備えた債権譲渡担保であると理解されている。「権利(債権)の非典型担保〜その現状と課題」金融法研究9号(金融法学会、1993)66頁〔伊藤進〕。本文に戻る

(8) 特定債権法は、同法の定める特定の種類の債権(リース・クレジット債権等)につき、特定の方式(譲渡、信託等)による債権流動化を図るものであり、その対抗要件制度が集合債権譲渡担保に利用されることはない。本文に戻る

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