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租税条約の情報交換規定に基づく情報収集と質問検査権

 
中田 弘樹

税務大学校
研究部教授


序章

第1節 情報交換規定の目的

 我が国は現在、世界各国と租税条約を締結している。
租税条約のねらいは、国際間の二重課税を排除し、相手国との間における人的交流、文化交流及び経済交流を促進することにある。
ところが、こうした国際間の交流に基づく取引には、他方で租税の回避や租税のほ脱に利用され易いという側面を伴う。
租税の回避やほ脱が国際間で行われると、相手国の居住者には質問検査権が及ばないところから、租税の適正な執行が困難となる。
国際交流、国際間取引が増大している今日において税務行政を適正に執行するためには、国家間の協力が不可欠であり、今後その必要性はますます増大していくことであろう。(小松芳明 「逐条研究 日米租税条約」平成元年税務経理協会 232頁)
租税条約の中の情報交換規定は、こうした観点から、租税条約を実施するために、締結国が可能な限り必要な情報を提供すること及び、交換された情報の取扱い等について規定をするものである。
情報交換規定に基づき情報交換をすることは、国際取引事案の調査に当たって、大変有効な手段である。
それぞれの条約上の情報交換規定の内容は、1992年改正OECDモデル租税条約第26条とほぼ同じ内容であるので、モデル条約第26条をここに掲載する。


第26条 情報交換

1  両締約国の権限のある当局は、この条約及びこの条約が適用される租税に関する両締約国の国内法令(当該国内法令に基づく課税がこの条約の規定に反しない場合に限る。)を実施するために必要な情報を交換する。情報の交換は、第1条の規定によって制限されない。一方の締約国が受領した情報は、当該一方の国の国内法令に基づき得た情報と同様に秘密として取り扱うものとし、この条約の適用される租税の賦課若しくは徴収、これらの租税に関する執行若しくは訴追又はこれらの租税に関する不服申立てについての決定に関与する者又は当局(裁判所及び行政機関を含む。)に対してのみ開示することができる。
これらの者又は当局は、当該情報をこれらの目的のためにのみ使用することができる。これらの者又は当局は、当該情報を公開の法廷又は司法上の決定において開示することができる。

2  1の規定は、いかなる場合にも、一方の締約国に対し、次のことを行う義 務を課するものと解してはならない。

(a) 当該一方の締約国又は他方の締約国の法令及び行政上の慣行に抵触する 行政上の措置をとること。

(b) 当該一方の締約国又は他方の締約国の法令の下において又は行政の通常 の運営において入手することができない情報を提供すること。

(c) 営業上、事業上、産業上、商業上若しくは職業上の秘密若しくは取引の 過程を明らかにするような情報又は公開することが公の秩序に反すること になる情報を提供すること。

第2節 問題の所在

 租税条約の情報交換規定に基づいて、条約相手国から、情報提供の依頼がある場合には、国内法において、情報交換のための質問検査権が、特に定められていないことから、各税法の質問検査権(所得税法234条、法人税法153条等)を根拠として、これら各税に関する調査を行う時に、情報を収集している。
したがって、法人税法等の調査サイクルに合わせて収集することになるため、条約相手国からの要請に対して、必ずしも迅速な対応ができない状況にある。
今後、国際協力の促進という観点から、ますます回答の迅速化が求められていくと考えられる。
そこで本稿では、租税条約に基づく情報交換規定と、国内法に基づく租税行政庁の情報収集権との関係について、諸外国の状況を概観し、我が国の現状と問題点について考察する。
具体的には、第2章において、スイス、アメリカ、ドイツ、イギリス及びフランスの状況を概観し、日本との比較の参考に供する。
第3章においては、我が国において、租税条約上の情報交換規定を直接の根拠として情報収集をすることは、法的に可能か、という点について検討する。
第4章においては、現在国内で行われている純粋な任意調査について、法理論的な解明を試みる。
最後に第5章においては、国内法に情報交換に係る質問検査権の規定を創設する場合の問題点について検討する。

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