直法1―104
直所1―61
査調3―65
昭和32年6月25日

国税局長 殿

国税庁長官

石炭鉱業の鉱害賠償費の取扱を下記のとおり定めたから、今後処理するものから、これによられたい。

一 毎年安定鉱害に対する鉱害賠償未払金

(安定鉱害の意義)

1 この通達において、安定鉱害とは、石炭の採掘のための土地の掘さくに因る鉱害(以下「鉱害」という。)で、その進行を停止したものをいうものとすること。

(鉱害賠償費の損金算入)

2 石炭鉱業の鉱業権者(租鉱権者を含む。)たる法人又は個人(以下これらを「石炭業者」という。)が昭和32年4月1日以後に安定した鉱害について、その賠償に要する費用(以下「鉱害賠償費」という。)を、当該安定鉱害の生じている土地、建物及び構築物その他の物件(以下これらを「土地物件」という。)1件ごとに未払金として、当該鉱害が安定した事業年度又は年分の所得の計算上損金又は必要経費に算入したときは、当該未払金の金額のうち、当該土地物件の所在する地区の所轄通商産業局長(以下「通商産業局長」という。)が当該土地物件1件ごとに認定した鉱害賠償費(通商産業省石炭局で定めた「鉱害賠償未払金賠償費算定基準」に基いて算定した石炭業者負担分とする。以下同じ。)の金額を限度として、これを認めるものとすること。

(通商産業局長の認定)

3 安定鉱害の安定の時期の認定については、通商産業省石炭局長の通達に基き通商産業局長が行うことになつているから、2の損金又は必要経費の算入の時期についても、原則として、当該通商産業局長の認定した安定の時期によるのであるが、当該安定の時期が、その石炭業者の納税地の所轄税務署長が次により検討した安定の時期と著しく異なつていると認められる場合においては、当該税務署長は、その事実の概要を国税局長に報告することとし、当該国税局長は、当該安定鉱害の時期について当該認定した通商産業局長と協議して、その安定の時期を決定するものとすること。この場合において、当該石炭業者についての調査が国税局の収税官吏によつてされたものであるときは、安定鉱害の安定の時期の検討及び通商産業局長との協議の双方とも、当該国税局長が行うものとすること。

(安定鉱害の認定)

(1) その鉱害の生じている炭鉱の地質、採掘状況、充てん状況、地表の最大沈下量、沈下範囲及び土地物件の鉱害度等を総合的に勘案して、土地の陥落の進行が停止し、鉱害が安定しているかどうかを検討すること。

(安定の時期の認定)

(2) 安定鉱害については、鉱害の生じている炭鉱の坑内図及び坑外図、その安定鉱害に係る採掘年次、過去のその鉱害の生じている炭鉱の地質状況から見た実績並びにその地域の他の炭鉱の状況を検討し、当該事業年度又は年において安定したものであるかどうかを検討すること。

(鉱害賠償費の未払金からの支出等)

4 2により安定鉱害の鉱害賠償費を未払金に計上している石炭業者が、当該鉱害賠償費に係る土地物件の復旧(臨時石炭鉱害復旧法(昭和27年法律第295号。以下「臨鉱法」という。)第50条の規定による納付金の納付によつて行われる復旧を含む。以下同じ。)又は金銭賠償(米麦作の減収又は無収田に対する年々補償等の暫定的な補償を除く。以下同じ。)に要する費用を支出した場合において、その支出金額が当該鉱害賠償未払金の金額をこえるときは、そのこえる金額については、その支出の日を含む事業年度又は年分の所得の計算上、これを損金又は必要経費に算入するものとし、その支出金額が当該鉱害賠償未払金の金額に満たないときは、当該鉱害賠償未払金の金額の残額は、その賠償が完了した日を含む事業年度又は年分の所得の計算上、これを益金又は総収入金額に算入するものとすること。

(鉱害賠償費の支出をしない場合の益金算入)

5 2により安定鉱害の鉱害賠償費を未払金に計上している石炭業者が、当該鉱害賠償費を未払金に計上した事業年度の翌事業年度開始の日から5年を経過した日の前日を含む事業年度終了の日又は鉱害賠償費を未払金に計上した年を含めて5年を経過した年の末日において当該鉱害賠償未払金に係る土地物件の復旧に着手していないとき又はその土地物件に係る被害者との間に金銭賠償の額を確定していないときは、同日において有する当該土地物件に係る鉱害賠償未払金の金額を、当該事業年度又は年分の所得の計算上、益金又は総収入金額に算入するものとすること。ただし、当該土地物件についての賠償が完了しないことについてやむを得ない事由があると認めて通商産業局長が再認定したときは、この限りでないこと。

(鉱害賠償未払金を未払金として計上しなくなつた場合の益金算入)

6 2により安定鉱害の鉱害賠償費を未払金に計上している石炭業者が、当該鉱害賠償未払金に係る賠償を完了しない場合において、その鉱害賠償未払金の金額の全部又は一部を未払金として計上しなくなつたときは、当該計上しなくなつた鉱害賠償未払金の金額は、その計上しなくなつた日を含む事業年度又は年分の所得の計算上、これを益金又は総収入金額に算入するものとすること。

(鉱業権の譲渡等の場合の益金算入)

7 2により安定鉱害の鉱害賠償費を未払金に計上している石炭業者が、当該安定鉱害が生じている鉱区に係る鉱業権を出資又は譲渡した場合において当該石炭業者が当該出資又は譲渡した後においても当該鉱害賠償費を負担する旨の特約があるときを除いては、当該出資又は譲渡した日において有する当該鉱区において生じている安定鉱害に係る鉱害賠償未払金の金額は、当該出資又は譲渡した日の属する事業年度又は年分の所得の計算上、益金又は総収入金額に算入するものとすること。

(解散の場合の益金不算入)

8 2により安定鉱害の鉱害賠償費を未払金に計上している法人が解散した場合においても、当該解散の日において有する鉱害賠償未払金の金額は、当該解散の日の属する事業年度の所得の計算上、益金に算入しないことに留意すること。

(事業廃止の場合の総収入金額算入)

9 2により安定鉱害の鉱害賠償費を未払金に計上している個人が石炭鉱業を廃止した場合においては、当該事業の廃止の日において有する鉱害賠償未払金の金額は、当該事業の廃止の日の属する年分の事業所得の計算上、これを総収入金額に算入するものとすること。

(死亡の場合の相続人の承継)

10 2により安定鉱害の鉱害賠償費を未払金に計上している個人が死亡した場合において、当該個人の相続人が当該安定鉱害の生じている鉱区に係る鉱業権を承継して石炭鉱業を継続し、当該鉱害賠償未払金の債務として承継したときは、これを認めるものとすること。この場合において、5の取扱の適用については、死亡した個人が当該鉱害賠償費を未払金に計上した年から起算することに留意すること。

ニ 既安定鉱害に対する鉱害賠償未払金

(既安定鉱害についての鉱害賠償費の損金算入 )

1 石炭業者が、臨時石炭鉱害復旧法施行令(昭和27年政令第333号)第2条に規定する地域において生じている安定鉱害で、昭和32年3月31日以前に安定したもの(以下ニにおいて「既安定鉱害」という。)について、臨鉱法の存続期間内に復旧させることを目途として復旧計画を作成し、その復旧計画の順序に従つて、復旧に着手すべき地区内に生じている既安定鉱害に係る土地物件の1件ごとにその鉱害賠償費を未払金として当該地区の復旧に着手することが予定されている事業年度又は年分の所得の計算上損金又は必要経費に算入したときは、当該金額のうち通商産業局長が当該土地物件ごとに当該事業年度又は年に係るものとして認定した鉱害賠償費の金額を限度として、これを認めるものとすること。

(注) 昭和32年3月31日以前に終了した各事業年度又は昭和31年分以前の各年分において、既安定鉱害についての鉱害賠償費を未払金に計上し、ニの9によりその計算を認められた既安定鉱害に係る分についても、改めて、この通達により通商産業局長の認定を受けて損金又は必要経費に算入するのであるから留意を要する。

(鉱害賠償費の未払金からの支出等)

2 1により既安定鉱害の鉱害賠償費を未払金に計上している石炭業者が、当該鉱害賠償費に係る土地物件の復旧又は金銭賠償に要する費用を支出した場合においては、一の4の取扱に準じて取り扱うものとすること。

(鉱害賠償未払金を未払金として計上しなくなつた場合の益金算入)

3 1により既安定鉱害の鉱害賠償費を未払金に計上している石炭業者が、当該鉱害賠償未払金に係る賠償を完了しない場合において、その鉱害賠償未払金の金額の全部又は一部を未払金として計上しなくなつたときは、一の6の取扱に準じて取り扱うものとすること。

(鉱業権の譲渡等の場合の益金算入)

4 1による既安定鉱害の鉱害賠償費を未払金に計上している石炭業者が、当該既安定鉱害が生じている鉱区に係る鉱業権を出資又は譲渡した場合においては、一の7の取扱に準じて取り扱うものとすること。

(解散の場合の益金不算入)

5 1により既安定鉱害の鉱害賠償費を未払金に計上している法人が解散した場合においては、一の8の取扱に準じて取り扱うものとすること。

(事業廃止の場合の総収入金額算入)

6 1により既安定鉱害の鉱害賠償費を未払金に計上している個人が石炭鉱業を廃止した場合においては、一の9の取扱に準じて取り扱うものとすること。

(死亡の場合の相続人の承継)

7 1により既安定鉱害の鉱害賠償費を未払金に計上している個人が死亡した場合において、当該個人の相続人が当該既安定鉱害の生じている鉱区に係る鉱業権を承継して石炭鉱業を継続したときは、一の10の取扱に準じて取り扱うものとすること。

(鉱害賠償費の支出をしない場合の益金算入)

8 1により既安定鉱害の鉱害賠償費を未払金に計上している石炭業者が、当該鉱害賠償費に係る土地物件について臨鉱法廃止の日(その廃止の日が昭和37年7月31日後となるときは、昭和37年7月31日とする。以下同じ。)を含む事業年度終了の日又は臨鉱法廃止の日の属する年の12月31日までに当該土地物件の復旧に着手していないときは、これらの日において有する当該土地物件についての鉱害賠償未払金の金額の全額を、当該事業年度又は年分の所得の計算上、益金又は総収入金額に算入するものとすること。

(既安定鉱害賠償費についての経過的取扱―1)

9 石炭業者が昭和32年3月31日以前に終了した各事業年度又は昭和31年以前の各年において既安定鉱害についての鉱害賠償費を未払金に計上している場合において、その計算が特に不当と認められないときは、これを認めるものとすること。

(既安定鉱害賠償費についての経過的取扱―2)

10 石炭業者で、昭和32年3月31日以前に終了した各事業年度又は昭和31年以前の各年において既安定鉱害の鉱害賠償費を未払金として損金又は必要経費に算入し、9によりその計算を認められた金額があるものが、1により既安定鉱害の鉱害賠償費について通商産業局長の認定を受けた場合においては、当該金額のうち1により各事業年度又は各年の損金又は必要経費に算入することが出来る金額に達するまでの金額は、それぞれ当該各事業年度又は各年分の所得の計算上、益金又は総収入金額に算入するものとすること。

(既安定鉱害賠償費についての経過的取扱―3)

11 石炭業者で、9の取扱により昭和32年3月31日以前に終了した事業年度又は昭和31年以前の各年において損金又は必要経費に算入された鉱害賠償未払金を有しているものが、昭和32年4月1日以後最初に終了する事業年度(その事業年度が昭和32年6月30日以前に終了する事業年度であるときは、当該事業年度の翌事業年度とする。)又は昭和32年分の所得の計算について、既安定鉱害の鉱害賠償費の未払金計上についての通商産業局長の認定を受けなかつた場合においては、当該鉱害賠償未払金の金額は、当該事業年度又は年分の所得の計算上、これを益金又は総収入金額に算入するものとすること。

三 その他

(特鉱法による納付金)

1 特別鉱害復旧臨時措置法(昭和25年法律第176号)第24条第1項の規定による納付金は、納付の日を含む事業年度又は年分の所得の計算上、これを損金又は必要経費とするものとすること。ただし、当該納付金について、その納期開始の日を含む事業年度又は年分の所得の計算上、これを損金又は必要経費として未払金に計上したときは、これを認めるものとすること。

(臨鉱法による納付金)

2 石炭業者が一又はニにより安定鉱害の鉱害賠償費を損金又は必要経費に算入していない場合においては、臨鉱法第50条の規定による納付金は、納付の日を含む事業年度又は年分の所得の計算上、これを損金又は必要経費とするものとすること。ただし、当該納付金について、その納期開始の日を含む事業年度又は年分の所得の計算上、これを損金又は必要経費として未払金に計上したときは、これを認めるものとすること。

(自己復旧費及び金銭賠償費)

3 石炭業者が一又はニにより安定鉱害の鉱害賠償費を損金又は必要経費に算入していない場合においては、鉱業法(昭和25年法律第289号)第111条第2項の規定による金銭賠償額については、被害者との交渉が妥結し、支払が確定した事業年度又は年分の所得の計算上、これを損金又は必要経費とし、同項但書の規定による自己復旧費については、復旧工事をした事業年度又は年分の所得の計算上、これを損金又は必要経費とするものとすること。

(米麦作の減収補償金等)

4 米作若しくは麦作の減収又は無収田の補償金その他の暫定的な補償金については、その支払が確定した事業年度又は年分の所得の計算上、これを損金又は必要経費とするものとすること。この場合において、その暫定的な補償金の全額が確定していないため、その一部の金額について内払したときは、その内払の金額については、その支出の日を含む事業年度又は年分の所得の計算上、これを損金又は必要経費とするものとすること。

(鉱害賠償費の損金算入の申告)

5 この通達による安定鉱害に対する鉱害賠償未払金の損金又は必要経費への算入に関する取扱は、法人にあつては、法人税法第18条から第21条までの規定による申告書又は法人税法第23条の規定による申告書で、同法第18条、第20条若しくは第21条に規定する事項を記載したものに、個人にあつては、確定申告書又は損失申告書に、当該安定鉱害の鉱害賠償費についての通商産業局長の認定書を添付しない場合には、これを適用しないものとすること。