徴徴4−12(例規)
昭和40年12月10日

国税局長 殿

国税庁長官

 札幌国税局から別紙のとおり上申があった標題のことについては、下記のとおり扱われたい。


1 問題点(1)について

 訴訟により解決するとの観点から、甲の持分の差押えにつき民法第177条(対抗要件―登記)および第909条ただし書(分割の遡及効)の規定により、丙に対抗できるものとして処理すること。

2 問題点(2)および(4)について

 仮処分の効力は、仮処分当事者以外の者に及ばないものとして処理すること。したがって、問題点(4)については、検討の必要がないと考える。
 なお、本件譲渡禁止の仮処分は、民事訴訟法第756条において準用する第747条(現 民事保全法38条参照)(事情変更による仮差押の取消)に規定する取消事由にあたると考える。

3 問題点(3)について

 甲説により処理することが相当であること。


別紙

札局徴徴 2〜41
昭和40年8月8日

国税庁徴収部
徴収課長 殿

札幌国税局徴収部
徴収部長

 標題について、下記事業について甲説、乙説があり、当局としては甲説によるものと解しているが、いささか疑義があるので至急何分の指示を願いたい。


1. 事実関係

 登記簿閲覧の結果、昭和40年1月5日付順位2番の仮処分の登記のためにする共同相続人甲名義の職権保存登記と同日付仮処分債権者を共同相続人乙とする仮処分(民法第252条の保存行為)の登記のある建物を発見し、昭和40年3月26日付甲の滞納処分として差押えを行ない同月27日付差押えは登記された。
 その後昭和40年6月21日付共同相続人丙(甲、乙の母)から異議申立があったが、それによると遺産分割はすでに差押前である昭和40年3月2日付家事調停(被申立人甲、共同申立人乙、丙ほか他の共同相続人全員)において成立し、当該建物は丙の取得するところとなったので遺産分割の遡及効と差押前の仮処分の効力によって差押処分は対抗できないから取消を求めるというにある。
 なお、この事案について地元法務局は仮処分債権者と当該建物の登記権利者とが異なるため、登記上疑義があるとの理由から登記を留保し、法務省民事局長あて照会中である。

2. 問題点

(1) 遺産分割の遡及効は登記なくして第三者に対抗しうるか。
(甲説)
 民法第909条は遺産分割の遡及効を規定するが、遺産分割は一旦有効に存在した遺産の共有関係を前提とするものであるから、第三者にも明らかにしない間は第三者との関係においては共有関係が存続するかのような取扱いをうけることも、やむをえないものといわなければならない。したがって、遺産分割による物権変動も意思表示を必要としない。
 相続登記の場合と異なり登記なくして第三者に対抗しえない。
(乙説)
 民法第909条本文は遺産分割の遡及効を規定し、また但書は遺産分割前の第三者の権利を害することができない趣旨に解するのが相当である。
よって、遺産分割後の第三者は、但書の第三者にあたらないから登記の有無を論ずるまでもなく、遺産分割後の第三者に対抗しうる。

(2) 係争物にかかる仮処分において、登記上の仮処分債権者と異なる係争物の取得者による当該仮処分の効力の主張は許されるか。
(甲説)
 民事訴訟法第755条は、係争物に関する仮処分につき当事者の一方に限定し、仮処分債権者として登記された者に対しては優位な地位を与えている。したがって、民法第252条の保存行為としての仮処分であったとしても、登記上仮処分債権者として登記されていない債権者は、共同相続人の一人であっても前記仮処分の効力は主張できない。
(乙説)
 民法第252条は共有者の一人によっても保存行為ができる旨を規定している。この保存行為としての仮処分は共有者全員のためにするものであるかぎり、他の共有者の単独取得となった場合においてもなおその効力は主張できる。

(3) 単独所有の登記のある共有不動産に対する不動産としての差押えの効力
 上記(1)および(2)において甲説による場合の差押えの効力範囲は全体に及ぶか
(甲説)
 相続による持分取得は登記なくして第三者に対抗しうる((大判大正8.11.3最高裁第二小法廷昭和38.2.22新判例体系民事法編民法9巻402の2の4ページ))との立場から共有持分の範囲において効力を生ずるが、他の部分については無権利者に対する差押処分であるから効力を生じない。
(乙説)
 相続による持分取得は、登記なくして第三者に対抗し得ない(大判大正9.5.11)との立場から、共有不動産について単独所有の登記がなされたときは、あたかも所有権について存在する制限物権について登記がなかった場合と同様に対第三者関係においてはその者の持分権が拡張していると考えることができるから、差押えの効力は全体に及ぶ。(我妻民法講義 75ページ)

(4) 滞納処分と仮処分の効果について
 かりに上記(1)の甲説と(2)の乙説による場合は、いわゆる滞納処分と仮処分との競合が生ずるが、国税徴収法第140条の規定と判例の傾向との相違をいかに調整するか。
(当局の意見)
 昭和16年3月26日大審院判例によると、譲渡禁止の仮処分後の滞納処分について「・・・仮処分により保全せらるべき権利と相容れざるものにおいては、これをもって仮処分債権者に対抗しえざるものといわざるべからず」と判示したこの判例は旧国税徴収法第19条当時のものであり、現行国税徴収法第140条においても同様なのか疑義があったが、この点については別紙のとおり昭和37年3月23日最高裁判所第2小法廷において控訴審における、昭和16年3月26日大審院判例の引用を正当と判示していることから、現行国税徴収法下においても同様上記判例に拘束をうけると解する。