給料等の差押禁止とその範囲

(これらの性質を有する給与)

1 法第76条第1項の「これらの性質を有する給与」とは、役員報酬、超過勤務手当、扶養家族手当、宿日直手当、通勤手当等をいう。

(現物給与)

2 給料、賃金、俸給、歳費、退職年金及びこれらの性質を有する給与に係る債権(以下第76条関係において「給料等」という。)の全部又は一部が金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもって支給される給料等の額は、当該物若しくは権利を取得し、又は当該利益を享受する時における価額とする(所得税法第36条第1項、第2項)。

(差押可能金額)

3 法第76条第1項の規定に基づき差押えができる金額の計算に当たっては、その計算の基礎となる期間が1月未満のときは百円未満の端数を、1月以上のときは千円未満の端数を、それぞれ次のように取り扱うものとする。

(1) 給料等の金額については、切り捨てる。

(2) 法第76条第1項各号に掲げる金額については、切り上げる。

(差押禁止債権)

4 執行法第152条第1項第1号«差押禁止債権»の「債務者が国及び地方公共団体以外の者から生計を維持するために支給を受ける継続的給付に係る債権」は、法第76条及び第77条の規定により差押えが禁止されるものではないが、その債権の差押えが滞納者及びその者と生計を一にする親族の最低生活に支障を及ぼすと認められる場合には、法第76条の規定によるもののほか、執行法第152条第1項に規定する差押禁止額の限度においても、その差押えを行わないものとする。

(第1号の金額)

5 法第76条第1項第1号の「所得税法第183条(給与所得に係る源泉徴収義務)、第190条(年末調整)、第192条(年末調整に係る不足額の徴収)又は第212条(非居住者等の所得に係る源泉徴収義務)の規定によりその給料等につき徴収される所得税に相当する金額」とは、これらの規定により徴収されるべき所得税に相当する金額ではなく、これらの規定により現実に徴収する所得税に相当する金額をいうものとする。したがって、これらの規定により徴収すべきであった所得税に相当する金額を徴収せず、所得税法第222条«不徴収税額の支払金額からの控除及び支払請求等»の規定により給料等の債権に係る支払うべき金額から控除をした場合のその金額に相当する所得税とみなされる金額は、その給料等の債権に係る第1号の徴収される所得税に相当する金額になる。

(第2号の金額)

6 法第76条第1項第2号の「地方税法第321条の3(個人の市町村民税の特別徴収)その他の規定によりその給料等につき特別徴収の方法によって徴収される道府県民税及び市町村民税に相当する全額」についても、5と同様である。
なお、道府県民税及び市町村民税については、地方税法第41条第1項«個人の道府県民税の賦課徴収»及び第321条の3の規定により普通徴収の方法により徴収する場合もあるが、この場合には、法第76条第1項第2号の規定に該当する金額がない。

(第3号の金額)

7 法第76条第1項第3号の「健康保険法第167条第1項(報酬からの保険料の控除)その他の法令の規定により給料等から控除される社会保険料(所得税法第74条第2項(社会保険料控除)に規定する社会保険料をいう。)に相当する金額」についても、5と同様である。

(その他の法律)

8 法第76条第1項第3号の「その他の法令」とは、国民健康保険法又は地方税法、介護保険法、労働保険の保険料の徴収等に関する法律、国民年金法、独立行政法人農業者年金基金法、厚生年金保険法、船員保険法、国家公務員共済組合法、地方公務員等共済組合法、私立学校教職員共済法、恩給法をいう(所得税法第74条第2項参照)。

(同一期間につき2以上の給料等の支給を受ける場合)

9 同一期間につきAとBとの支払先から給料等の支給を受ける場合において、これらの給料等につき差押えをした場合の法第76条第1項第4号(以下9において「第4号」という。)及び第5号(以下9において「第5号」という。)の金額計算は、次のいずれかの方法によるものとする。

(1) Aの給料等につき、第4号及び第5号の金額を計算し、次にAとBとの給料等の合計額について第4号及び第5号の金額を計算し、その合計額から、Aの給料等の第4号及び第5号の金額を控除したものをもって、Bの給料等の第4号及び第5号の金額とする方法

〔例〕
Aの給料
支給額・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・300,000円
法第76条第1項第1号から第3号まで(以下9において「第1号から第3号まで」という。)の金額・・・・・・50,000円
Bの給料
支給額・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・50,000円
第1号から第3号までの金額・・・・・・・・・・・・・5,000円
滞納者の家族構成 配偶者、扶養親族2人

上記の場合におけるAとBとの給料のそれぞれ第4号及び第5号の金額の計算は、次のとおりである。

イ Aの給料の第4号の金額は235,000円(滞納者分100,000円+配偶者・扶養親族分45,000円×3人)、第5号の金額は3,000円((支給額300,000円−第1号から第3号までの金額50,000円−第4号の金額235,000円)×20/100)、その合計額は238,000円となる。

ロ AとBとの給料の合計額350,000円についての第4号の金額は235,000円(滞納者分100,000円+配偶者・扶養親族分45,000円×3人)、第5号の金額は12,000円((350,000円−Aの第1号から第3号までの金額50,000円−Bの第1号から第3号までの金額5,000円−AとBとの給料の合計額についての第4号の金額235,000円)×20/100)、その合計額は247,000円となる。

ハ Bの給料の第4号及び第5号の金額の合計額は9,000円(ロの第4号及び第5号の合計額247,000円−イの第4号及び第5号の合計額238,000円)となる。このうち、Bの給料の第4号の金額は0円(AとBとの給料の合計額についての第4号の金額235,000円−Aの給料の第4号の金額235,000円)、Bの給料の第5号の金額は9,000円(Bの給料の第4号及び第5号の金額9,000円−Bの給料の第4号の金額0円)となる。

ニ 以上の結果、AとBとの給料のそれぞれ第4号及び第5号の金額は次のとおりとなる。
Aの給料の第4号の金額・・・・・・・・・・・・・・・235,000円
Aの給料の第5号の金額・・・・・・・・・・・・・・・・3,000円
Bの給料の第4号の金額・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・0円
Bの給料の第5号の金額・・・・・・・・・・・・・・・・9,000円

(2) AとBとの給料等の合計額につき、第4号及び第5号の金額を計算し、そのそれぞれの金額をそれぞれの給料等の金額から第1号から第3号までの金額を控除した残額に相当する金額であん分した金額をもって、それぞれの給料等の第4号及び第5号の金額とする方法

〔例〕 設例が(1)と同じ場合におけるAとBとの給料のそれぞれ第4号及び第5号の金額の計算は、次のとおりである。

イ AとBとの給料の合計額350,000円についての第4号の金額は、235,000円、第5号の金額は12,000円となる((1)のロ参照)。

ロ Aの給料の金額から、第1号から第3号までの金額を控除した金額は、250,000円(300,000円−50,000円)となる。

ハ Bの給料の金額から、第1号から第3号までの金額を控除した金額は、45,000円(50,000円−5,000円)となる。

ニ イの第4号の金額をロの金額とハの金額であん分すると、Aの給料の第4号の金額は
199,153((235,000円×250,000円/(250,000円+45,000円))
 Bの給料の第4号の金額は
35,847円(235,000円×45,000円/(250,000円+45,000円))

ホ イの第5号の金額をロの金額とハの金額であん分すると、Aの給料の第5号の金額は
10,169円(12,000円×250,000円/(250,000円+45,000円))
 Bの給料の第5号の金額は
1,831円(12,000円×45,000円/(250,000円+45,000円))

ヘ したがって、AとBとの給料のそれぞれ第4号及び第5号の金額は、次のとおりとなる(第76条関係3参照)。
Aの給料の第4号の金額・・・・・・・・・・・・・・・・・200,000円
Aの給料の第5号の金額・・・・・・・・・・・・・・・・・・11,000円
Bの給料の第4号の金額・・・・・・・・・・・・・・・・・・36,000円
Bの給料の第5号の金額・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2,000円

給料等に基づき支払を受けた金銭の差押禁止

(現物給与)

10 法第76条第2項の「給料等に基き支払を受けた金銭」とは、納税者が支払者から給料等として金銭の支払を受けて占有するものをいうのであるから、現物給与を受けた者については、同項の規定の適用がない。
なお、徴収上支障がないと認められる場合には、同項の規定に準じて取り扱うことができる。

(支払を受けた金銭)

11 法第76条第2項の「給料等に基き支払を受けた金銭」には、支払者から銀行口座等に振り込まれた金額に相当する預金債権は含まれないが、その差押えにより生活の維持を困難にするおそれがある金額については、差押えを猶予し、又は解除することができる(法第152条第2項参照)。

(差押禁止額)

12 法第76条第2項の規定による差押禁止額は、法第76条第1項第4号及び第5号に掲げる金額の合計額(例えば150,000円)に、給料等の支給の基礎となった期間の日数(30日)のうちに、差押えの日(6月10日)から次の支払日(6月30日)までの日数(20日)の占める割合(20/30)を乗じて計算した金額(150,000円×20/30=100,000円)である。

賞与等及び退職手当等の差押禁止

(賞与等の差押禁止額の判定)

13 賞与及びその性質を有する給与に係る債権(以下13において「賞与等」という。)については、その支払を受けるべき時における給料等とみなして、法第76条第1項の規定が適用されるので、賞与等以外の給料等が支給されるときは、これらの給料等と併せて法第76条第1項の差押禁止額を判定する(法第76条第3項前段)。
なお、上記の場合において法第76条第1項第4号又は第5号に掲げる金額についての限度を計算するときは、その支給の基礎となった期間は1月であるものとみなして判定する(法第76条第3項後段)。

(退職手当等の場合の加算額の計算)

14 法第76条第4項第4号の規定による差押禁止額に加算すべき金額を計算する場合において、同号の「5年をこえる場合には、そのこえる年数1年」に1年未満の端数があるときは、すべて切り上げて計算する取扱いとする。

滞納者の承諾がある場合の差押え

(承諾)

15 法第76条第5項の「滞納者の承諾」とは、徴収職員が同条第1項、第2項及び第4項の規定を適用しないで給料等又は給料等に基づき支払を受けた金銭の差押えをすることに、滞納者が同意することをいう。この滞納者の承諾は、書面により徴するものとする。

(注) 滞納者が提出する承諾書には、印紙税は課されない(印紙税法第2条参照)。

(差押えのできる範囲)

16 法第76条第1項(同項第1号から第3号までの規定を除く。)、第2項及び第4項(同項第1号及び第2号の規定を除く。)の規定は、滞納者の承諾があるときは適用しないのであるから(法第76条第5項)、その承諾を受けた場合には、その承諾を受けた範囲内において、差押禁止範囲の全部又は一部について差押えをすることができる。
なお、法第76条第3項の債権も、滞納者の承諾がある場合には、上記に準じて差押えができるものとする。