第三債務者等がある無体財産権等

1 法第73条第1項の規定により差し押さえる財産は、電話加入権、合名会社の社員の持分のほか第三債務者等がある無体財産権等であり、おおむね次の財産がこれに該当する。

(1) 合資会社及び合同会社の社員の持分

(2) 中小企業等協同組合法、水産業協同組合法、農業協同組合法、森林組合法、農住組合法等による各種の組合等の組合員等の持分

(3) 信用金庫の会員の持分

(4) 中小漁業融資保証法に基づく漁業信用基金協会の会員の持分

(5) 民法上の組合の組合員の持分

(6) 有限責任事業組合の組合員の持分

(7) 無尽講及びたのもし講の講員の持口

(8) 営業無尽の加入者の権利

(9) 動産の共有持分

(10) 株式

(11) 賃借権

(12) 買戻権

(13) 仮登記(保全仮登記を除く。以下第73条関係において同じ。)に係る権利

(14) 特許権、実用新案権及び意匠権についての専用実施権及び通常実施権、商標権についての専用使用権及び通常使用権、育成者権及び回路配置利用権についての専用利用権及び通常利用権並びに特許を受ける権利についての仮専用実施権及び仮通常実施権

(14)-2 著作物を利用する権利

(15) 出版権

(16) 引湯権

(17) ゴルフ会員権(預託金会員制ゴルフ会員権をいう。以下第73条関係において同じ。)

(18) 削除

(19) 信託の受益権

(20) 公有水面埋立権

電話加入権

(意義)

2 法第73条第1項の「電話加入権」とは、東日本電信電話株式会社又は西日本電信電話株式会社(以下「NTT」という。)と加入電話契約を結んだ者が、その契約に基づいてNTTの電気通信サービスの提供を受ける権利をいう(電話サービス契約約款(平成11年東企営第99−1号、平成11年西企営第1号。以下「電話約款」という。)第7条)。
なお、電話加入権の譲渡は、NTTの承認がなければその効力を生じない(電気通信事業法附則第9条第1項、昭和59年法律第86号による廃止前の公衆電気通信法(以下「旧公衆電気通信法」という。)第38条第1項)。

(振替社債等)

2-2 法第73条《電話加入権等の差押え》の規定の適用を受ける財産には、振替社債等(第73条の2関係1参照)は含まれない。

(差押えと譲渡等との優劣)

3 電話加入権に対する差押えとその譲渡等との優劣の関係は、次のとおりである(電気通信事業法附則第9条第1項、旧公衆電気通信法第38条の3第3項、電話加入権質に関する臨時特例法第6条第2項)。

(1) 電話加入権の譲渡の承認があったときは、その譲渡承認の請求書をNTTにおいて電話に関する現業事務を取り扱う事務所(以下3において「取扱事務所」という。)が受け取った時と、当該取扱事務所が電話加入権の差押通知書を受け取った時との先後により、その優劣が定まる。

(2) 電話加入権の質権の登録があったときは、その質権の登録請求書を取扱事務所が受け取った時と、当該取扱事務所が電話加入権の差押通知書を受け取った時との先後により、その優劣が定まる。

(差押え後の譲渡禁止)

4 NTTは、電話加入権の差押えの通知を受けた後は、その電話加入権の譲渡承認の請求があっても、承認しないことになっている。

(差押え後の契約解除)

5 NTTは、差押えを受けた電話加入権についても、加入契約を解除することができる(電話約款第24条)。

持分会社の社員の持分

(意義)

6 持分会社(会社法第575条第1項)の社員の持分とは、社員がその資格において会社に対して有する権利義務の総体、すなわち、社員権をいう。
 なお、持分会社の社員の持分は、原則として、他の社員の全員の承諾がなければ譲渡することができないが、業務を執行しない有限責任社員の持分については、業務を執行する社員全員の承諾があれば譲渡することができる(会社法第585条第1項、第2項)。

(利益配当請求権等に対する差押えの効力)

7 社員の持分の差押えの効力は、社員の会社に対する将来の利益配当請求権、退社に伴う持分払戻請求権及び出資の払戻請求権に及ぶ(会社法第611条第7項、第621条3項、第624条第3項)ほか、残余財産分配請求権にも及ぶ(会社法第666条参照)ので、これらの債権が確定したときは、別個に債権差押えの手続をとる必要はなく、会社に対して、決算確定の場合には利益の配当を、退社の場合には持分の払戻しを、社員が出資の払戻請求をした場合には出資の払戻しを、会社の解散の場合には残余財産の分配を、それぞれ請求することができる(59参照)。

(退社の告知権)

8 社員の持分を差し押さえた場合には、会社法第609条第1項《持分の差押債権者による退社》の規定により、事業年度の終了する6月前に会社及び当該社員に予告した上、事業年度の終わりにおいて当該社員を退社させることができる。この場合においては、事業年度の終わりにおいて当然に退社の効力を生ずる。
 なお、上記の予告は、社員が相当の担保を提供したときは、その効力を失う(会社法第609条第2項)から、担保として提供された社員の財産を差し押さえるものとする。

(持分払戻請求権の保全)

9 8の告知権を行使したときは、会社の本店所在地の地方裁判所に対して、持分払戻請求権の保全に関し必要な処分をすることを申し立てることができる(会社法第609条第3項)。

(差押え後の任意清算)

10 社員の持分の差押えの通知を受けた持分会社が任意清算しようとするときは、会社財産の処分方法について差押債権者である国の同意を要する(会社法第671条第1項)。会社が同意を受けないで財産を処分したときは、会社に対してその持分に相当する金額の支払を請求し、又は訴えをもってその処分の取消しを請求することができる(同法第671条第2項、第863条第1項第2号、第2項)。

協同組合等の組合員等の持分

(意義)

11 1の(2)に掲げる「中小企業等協同組合法、水産業協同組合法、農業協同組合法、森林組合法、農住組合法等による各種の組合等の組合員等の持分」とは、組合員等がその資格において組合等に対して有する権利義務の総体をいう。
  なお、組合員等の持分は、組合等の承諾がなければ譲渡することができず、また組合員等以外の者が持分を譲り受けようとするときは、加入の例によらなければならない(中小企業等協同組合法第17条、水産業協同組合法第20条、第86条第1項、第92条第2項、第96条第2項、第100条第2項、農業協同組合法第14条、森林組合法第30条、農住組合法第17条等)。

(持分の一部払戻請求)

12 組合員等の持分を差し押さえた場合においては、法第74条《差し押えた持分の払戻の請求》の規定により、持分の一部の払戻しを請求できるときがある。

(残余財産分配請求権等の取立て)

13 組合員等の持分差押えの効力は、残余財産分配請求権及び持分払戻請求権(法第74条の規定による一部の払戻しのほか、法定脱退による払戻しを含む。)に及ぶから、これらの債権が確定したときは、別個に債権差押えの手続をとることなく、取立てをすることができる(59、第74条関係6の(注)参照)。

(剰余金配当請求権の差押え)

14 組合員等の持分を差し押さえた場合において、剰余金の配当を受けようとするときは、その請求権は、別個に債権として差し押さえるものとする。

信用金庫の会員の持分

(意義)

15 1の(3)に掲げる「信用金庫の会員の持分」とは、会員がその地位に基づいて信用金庫に対して有する権利義務の総体をいう。
 なお、会員の持分は、信用金庫の承諾がなければ、他の会員又は会員の資格を有する者にも譲渡することができない(信用金庫法第15条)。

(持分の一部の譲受請求)

16 会員の持分を差し押さえた場合においては、法第74条《差し押えた持分の払戻の請求》の規定により、持分の一部の譲受けを請求できるときがある(第74条関係7参照)。

(残余財産分配請求権等の取立て)

17 会員の持分差押えの効力は、残余財産分配請求権及び持分払戻請求権(法定脱退によるもの)に及ぶから、これらの債権が確定したときは、別個に債権差押えの手続をとることなく、取立てをすることができる(59参照)。

(剰余金配当請求権の差押え)

18 会員の持分を差し押さえた場合において、剰余金の配当を受けようとするときは、その請求権は、別個に債権として差し押さえるものとする。

漁業信用基金協会の会員の持分

(意義)

19 1の(4)に掲げる「中小漁業融資保証法に基づく漁業信用基金協会の会員の持分」とは、会員がその地位に基づいて漁業信用基金協会に対して有する権利義務の総体をいう。
 なお、会員の持分は、漁業信用基金協会の承認を得なければ譲渡することができず、会員でない者が持分を譲り受けようとするときは、加入の例によらなければならない(中小漁業融資保証法第12条第1項、第2項)。

(持分の一部の払戻請求)

20 会員の持分を差し押さえた場合においては、法第74条《差し押えた持分の払戻の請求》の規定により、持分の一部の払戻しを請求できるときがある。

(残余財産分配請求権等の取立て)

21 会員の持分差押えの効力は、残余財産分配請求権及び持分払戻請求権(法第74条の規定による一部の払戻しのほか、法定脱退による払戻しを含む。)に及ぶから、これらの債権が確定したときは、別個に債権差押えの手続をとることなく、取立てをすることができる(59、第74条関係6の(注)参照)。
 なお、漁業信用基金協会が剰余金を配当することはない(中小漁業融資保証法第44条)。

民法による組合の組合員の持分

(意義)

22 1の(5)に掲げる「民法上の組合の組合員の持分」とは、組合員として有する財産的地位をいう。
 また、組合員の持分の譲渡については、他の組合員全員の同意が必要とされているが(民法第667条参照)、契約によって特別の定めがされているときは、その定めに従う。
 なお、組合員としての地位に基づいて組合財産を構成する個々の物又は権利について有する共有の権利をも持分というが、この持分の処分は、組合及び組合と取引をした第三者に対抗できないから(民法第676条)、この持分を差し押さえることはできない。

(残余財産分配請求権等の取立て)

23 組合員等の持分差押えの効力は、残余財産分配請求権及び持分払戻請求権に及ぶから、これらの債権が確定したときは、別個に債権差押えの手続をとることなく、取立てをすることができる(59、第74条関係6の(注)参照)。
 なお、組合員の持分を換価処分によって換価することができない場合において、他に差し押さえるべき適当な財産がないときは、脱退の意思表示をさせた後、持分払戻請求権の取立てをすることに留意する。

(利益分配請求権の差押え)

24 組合員の持分を差し押さえた場合において、利益の分配を受けようとするときは、その請求権は、別個に債権として差し押さえるものとする。

有限責任事業組合の組合員の持分

(意義)

25 1の(6)に掲げる「有限責任事業組合の組合員の持分」とは、組合員として有する財産的地位をいう。
 また、組合員の持分の譲渡については、他の組合員全員の同意が必要とされているが(有限責任事業組合契約に関する法律(以下「LLP法」という。)第3条参照)、契約によって特別の定めがされているときは、その定めに従う。
 なお、組合員としての地位に基づいて組合財産を構成する個々の物又は権利について有する共有の権利をも持分というが、この持分の処分は、組合及び組合と取引をした第三者に対抗できないから(LLP法第56条、民法第676条)、この持分を差し押さえることはできない。

(残余財産分配請求権等の取立て)

26 組合員等の持分差押えの効力は、残余財産分配請求権及び持分払戻請求権に及ぶから、これらの債権が確定したときは、別個に債権差押えの手続をとることなく、取立てをすることができる(59、第74条関係6の(注)参照)
 なお、組合員の持分を換価することができない場合において、他に差し押さえるべき適当な財産がないときは、脱退の意思表示をさせた後、持分払戻請求権の取立てをすることとするが、組合員はやむを得ない場合を除いて任意脱退することはできない(LLP法第25条)ことに留意する。

(利益分配請求権の差押え)

27 組合員の持分を差し押さえた場合において、利益の分配を受けようとするときは、その請求権は、別個に債権として差し押さえるものとする。

無尽講及びたのもし講の講員の持口

(意義)

28 1の(7)に掲げる「無尽講及びたのもし講」は、慣習によって成立したものであるが、実質的には組合であるから、民法の組合に関する規定の適用があり、その講員(加入者)は、その拠出した金銭又は物の価額に応じて持口を有する。
 また、講員の持口は、講規約に特約がないときは、他の講員全員の同意がなければ、譲渡することができない。
 なお、講員の持口は、未給付口については積極財産であって差し押さえることができるが、給付口については消極財産であって差押えの対象とならない。

(給付請求権等の取立て)

29 講員の持口の差押えの効力は、当せん、落札等の給付原因によって生じた給付金請求権及び脱退によって生じた払戻請求権に及ぶから、これらの債権が確定したときは、別個に債権差押えの手続をとることなく、取立てをすることができる(59参照)。なお、上記の取立てについては、次のことに留意する。

(1) 講員の持口を換価できない場合において、他に差し押えるべき適当な財産がないときは、脱退の意思表示をさせた後、払戻請求権の取立てをするように取り扱うものとする(民法第678条参照)。

(2) 講規約によって、担保を供しなければ給付を行わないこと、脱退者に対する払戻しは満講までは行わないこと等を定めているときは、これらの要件を満たさなければ、給付又は払戻しを受けることができない。

営業無尽の加入者の権利

(意義)

30 1の(8)に掲げる「営業無尽の加入者の権利」とは、加入者が無尽契約、物品無尽契約(無尽業法第1条参照)又は定期積金契約(銀行法第2条第4項等参照)に基づき、無尽会社又は銀行に対して有する権利義務の総体(例えば、掛金払込義務、給付受領権利等)をいう。
 また、加入者の権利の譲渡について会社の承認を要する旨の契約があるときは、会社の承認がなければ、権利を譲渡することができない。
 なお、営業無尽の加入者の権利の給付口及び未給付口については28と同様であるが、無尽講と異なり、加入者相互間には法律関係を生じない。

(給付金請求権等の取立て)

31 給付金請求権又は払戻請求権の取立てについては、29に定めるところと同様である。

動産の共有持分

(意義)

32 1の(9)に掲げる「動産の共有持分」とは、共有者がその動産に対して有する量的に制限された所有権をいい、特約がなければ各共有者の持分は相等しいものと推定される(民法第250条)。
 なお、共有持分は、他の共有者の同意を得ないで、自由に譲渡することができる。

(差押えと目的物の占有との関係)

33 共有動産の持分を差し押さえた場合でも、徴収職員は、目的物を占有しないものとする(民法第249条参照)。

(持分の分割の請求)

34 動産の共有持分の換価ができないときは、次の方法によるものとする。

(1) 分割禁止の特約がない場合において、他に差し押さえるべき適当な財産がないときは、滞納者に代位して(通則法第42条、民法第423条)、他の共有者の全員に対して共有物の分割を請求し(民法第256条第1項本文)、滞納者の分割物の引渡請求権の取立て(59参照)を行う。

(2) (1)により分割の請求をした場合において、分割の協議が調わないときは、滞納者に代位して、訴えにより裁判所に分割の請求をする(民法第258条第1項)。

(3) 分割禁止の特約がある場合には、その禁止期間は分割を請求することができない(民法第256条第1項ただし書)。
 なお、共有物の分割禁止の特約は、5年を超えて定めることができず(民法第256条第1項)、また、持分の差押えを受けた後は、差押えの効力として、特約の更新(同条第2項)をしても、差押債権者である国に対抗することができない。

株式

(意義)

35 1の(10)に掲げる「株式」とは、株式会社における出資者である社員(株主)の地位を細分化して均等な割合的地位の形式にしたものをいう。
 また、株式については、譲渡し、又は質入れすることができる(会社法第127条、第146条第1項)が、株主名簿に記載又は記録しなければ、株式会社その他の第三者に対抗することができない(同法第130条第1項、第147条第1項)。
 なお、社債株式等振替法による振替の対象となっている株式の差押えに当たっては、振替社債等として差し押さえ、株券発行会社(同法第117条第6項に規定する株券を発行する旨の定款の定めがある株式会社をいう。)の株式の差押えに当たっては、株式を差し押さえるのではなく、次に掲げるところによる。

(1) 株券を発行している場合 当該株券を有価証券として差し押さえる。

(2) 株券が未発行の場合 その株式会社を第三債務者として株券交付請求権を差し押さえ、株券の交付を受けた上で、その株券を有価証券として差し押さえる。

(剰余金配当請求権等の取立て)

36 株式の差押えの効力は、次に掲げる債権に及ぶから、これらの債権が確定したときは、別個に債権差押えの手続をとることなく、取立てをすることができる(59参照)

(1) 剰余金配当請求権

(注) 株式の差押え時において、既に株主総会決議等によって剰余金配当請求権が確定している場合には、当該債権は、当該株式とは別個独立に処分することができるものであるから、別個の債権として差し押さえる。

(2) 会社法第2条第17号《定義》の譲渡制限株式を差し押さえた場合の当該株式の買取請求権

(3) 同法第189条第1項《単元未満株式》に規定する単元未満株式を差し押さえた場合の当該株式の買取請求権

(4) 同法第185条《株式無償割当て》に規定する株式無償割当てに係る割当てを受ける権利

(5) 同法第277条《新株予約権無償割当て》に規定する新株予約権無償割当てに係る割当てを受ける権利

(残余財産分配請求権の取立て)

37 株式の差押えの効力は、残余財産分配請求権に及ぶから、これらの債権が確定したときは、別個に債権差押えの手続をとることなく、取立てをすることができる(59参照)。

買戻権

(意義)

38 1の(12)に掲げる「買戻権」とは、不動産の売主が売買契約と同時にした買戻しの特約(民法第579条参照)により買主が支払った代金(別段の合意をした場合にあっては、その合意により定めた金額)及び契約の費用を償還して当初の売買を解除し、目的物を取り戻すことができる権利(所有権移転請求権としての財産権)をいう。

(買戻権の換価)

39 買戻権は、有効な約定期間内に権利行使ができるが、この期間は10年を超えるときは10年に短縮され(民法第580条第1項)、また、その期間を定めないときは最長5年とされている(同条第3項)から、買戻権の換価に当たっては、当該換価による買戻権を取得した買受人が、その期間内に買戻権を行使することができる余裕があるように考慮する。

特許権の専用実施権及び通常実施権等

(特許権の専用実施権及び通常実施権)

40 1の(14)に掲げる「特許権についての専用実施権及び通常実施権」とは、特許権者以外の者が特許発明を利用することができる権利をいう(特許法第77条、第78条参照)。これらの専用実施権及び通常実施権は差し押さえることができるが、専用実施権については、実施の事業とともにする場合、特許権者の承諾を得た場合及び相続その他の一般承継の場合を除いては、移転することができず(同法第77条第3項)、通常実施権については、特許法第83条第2項、第92条第3項、第4項若しくは第93条第2項《裁定の請求》、実用新案法第22条第3項《裁定の請求》又は意匠法第33条第3項《裁定の請求》の裁定による通常実施権を除き、専用実施権と同様(承諾については、専用実施権についての通常実施権にあっては特許権者及び専用実施権者の承諾)である(特許法第94条第1項)。

(実用新案権の専用実施権及び通常実施権)

41 1の(14)に掲げる「実用新案権についての専用実施権及び通常実施権」とは、実用新案権者以外の者が登録実用新案を利用することができる権利をいい(実用新案法第18条、第19条参照)、その移転については、おおむね40と同様である(同法第18条第3項、第24条第1項、特許法第77条第3項)。

(意匠権の専用実施権及び通常実施権)

42 1の(14)に掲げる「意匠権についての専用実施権及び通常実施権」とは、意匠権者以外の者が登録意匠又はこれに類似する意匠を利用することができる権利をいい(意匠法第27条、第28条参照)、その移転については、おおむね40と同様である(同法第27条第4項、第34条第1項、特許法第77条第3項)。

(商標権の専用使用権及び通常使用権)

43 1の(14)に掲げる「商標権についての専用使用権及び通常使用権」とは、商標権者以外の者が指定商品等について登録商標を使用することができる権利をいう(商標法第30条、第31条参照)。これらの専用使用権及び通常使用権は差し押さえることができるが、商標権者(専用使用権についての通常使用権にあっては、商標権者及び専用使用権者)の承諾を得た場合及び相続その他の一般継承の場合を除いては、移転することができない(同法第30条第3項、第31条第3項)。

(育成者権の専用利用権及び通常利用権)

44 1の(14)に掲げる「育成者権についての専用利用権及び通常利用権」とは、育成者権者以外の者が登録品種等を利用することができる権利をいう(種苗法第25条、第26条参照)。これらの専用利用権及び通常利用権は差し押さえることができるが、品種の利用の事業とともにする場合、育成者権者(専用利用権についての通常利用権にあっては、育成者権者及び専用利用権者)の承諾を得た場合及び相続その他の一般承継の場合を除いては、移転することができない(同法第25条第3項、第29条第1項)。

(回路配置利用権の専用利用権及び通常利用権)

45 1の(14)に掲げる「回路配置利用権についての専用利用権及び通常利用権」とは、回路配置利用権者以外の者が登録回路配置を利用することができる権利をいう(半導体集積回路配置法第16条、第17条参照)。これらの専用利用権及び通常利用権は差し押さえることができるが、回路配置の利用の事業とともにする場合、回路配置利用権者(専用利用権についての通常利用権にあっては、回路配置利用権者及び専用利用権者)の承諾を得た場合及び相続その他一般承継の場合を除いては、移転することができない(同法第16条第3項、第17条第3項)。

(特許を受ける権利についての仮専用実施権及び仮通常実施権)

45-2 1の(14)に掲げる「特許を受ける権利についての仮専用実施権及び仮通常実施権」とは、特許を受ける権利を有する者以外の者がその特許を受ける権利を利用することができる権利をいう(特許法第34条の2、第34条の3参照)。これらの仮専用実施権及び仮通常実施権は差し押さえることができるが、その特許出願に係る発明の実施の事業とともにする場合、特許を受ける権利を有する者(仮専用実施権に基づいて取得すべき専用実施権についての仮通常実施権にあっては、特許を受ける権利を有する者及び仮専用実施権者)の承諾を得た場合及び相続その他の一般承継の場合を除いては、移転することができない(同法第34条の2第3項、第34条の3第4項)。
 なお、仮専用実施権又は仮通常実施権に対する差押えの効力は、特許権が登録された後の専用実施権又は通常実施権には及ばない(同法34条の2第6項、第34条の3第10項参照)。

共有専用実施権等

46 1の(14)に掲げる「特許権、実用新案権及び意匠権についての専用実施権及び通常実施権、商標権についての専用使用権及び通常使用権、育成者権及び回路配置利用権についての専用利用権及び通常利用権並びに特許を受ける権利についての仮専用実施権及び仮通常実施権」の共有持分の譲渡については、他の共有者の同意を必要とする(特許法第73条、第77条第5項、第94条第6項、第33条第3項、第34条の2第8項、第34条の3第9項、実用新案法第18条第3項、第19条第3項、意匠法第27条第4項、第28条第3項、商標法第30条第4項、第31条第4項、種苗法第23条、第25条第5項、第29条第4項、半導体集積回路配置法第14条、第16条第5項、第17条第5項)。

著作物を利用する権利

46-2 1の(14)-2に掲げる「著作物を利用する権利」とは、著作権者の許諾に係る利用方法及び条件の範囲内において、その許諾に係る著作物を利用することができる権利をいい、著作権者の承諾を得ない限り、譲渡することができない(著作権法第63条第2項、第3項)。

出版権

47 1の(15)に掲げる「出版権」とは、設定行為の定めるところによって、頒布の目的をもって、著作物を原作のまま印刷その他の機械的又は化学的方法により文書又は図画として複製する独占的排他的な権利をいい(著作権法第80条第1項)、その設定、移転、変更、消滅(混同又は複製権の消滅によるものを除く。)若しくは処分の制限又は出版権を目的とする質権の設定、移転、変更、消滅(混同又は出版権若しくは担保する債権の消滅によるものを除く。)若しくは処分の制限は、文化庁長官が管掌する出版権登録原簿に登録しなければ、第三者に対抗することができない(同法第88条)。
 なお、出版権は、著作者の承諾がなければ、譲渡することができない(同法第87条)。

引湯権

48 1の(16)に掲げる「引湯権」とは、源泉権(第72条関係12)を有する者との契約に基づいて、継続的に一定量の温泉の給湯を受ける権利をいう(昭和2.5.3静岡地(沼津支)判、昭和43.11.25山形地判参照)。

ゴルフ会員権

(意義)

49 1の(17)に掲げる「ゴルフ会員権」とは、ゴルフ場を経営する株式会社等に対するゴルフ場及びその付属施設の優先的利用権、年会費納付等の義務、据置期間経過後退会時の預託金返還請求権の三つの権利義務から成る契約上の地位をいう(昭和50.7.25最高判参照)。

(差押えの効力)

50 ゴルフ会員権の差押えの効力は、預託金返還請求権にも及ぶから、別個に債権差押えの手続をとることなく、規約等に定めるところにより、その取立てをすることができる(59参照)。
 なお、差押通知書の「差押財産」欄には、ゴルフ場及びその付属施設の優先的利用権及び預託金返還請求権(金額を明示する。)がある旨を併記するものとする。

信託の受益権

51 削除

51-2 1の(19)に掲げる「信託の受益権」とは、信託行為に基づいて受託者が受益者に対し負う債務であって信託財産に属する財産の引渡しその他の信託財産に係る給付をすべきものに係る債権及びこれを確保するために信託法の規定に基づいて受託者その他の者に対し一定の行為を求めることができる権利をいう(信託法第2条第7項)。

公有水面埋立権

51-3 1の(20)に掲げる「公有水面埋立権」とは、都道府県知事から免許を受けて公有水面(河、海、湖、沼その他の公共の用に供する水流又は水面で国の所有に属するものをいう。)の埋立てを行う権利をいい、埋立ての免許を受けた者は、都道府県知事の許可を受けなければ、埋立てを行う権利を譲渡することはできない(公有水面埋立法第1条第1項、第16条第1項)。

差押手続

(第三債務者等)

52 法第73条の「第三債務者等」とは、おおむね次に掲げる者をいう。

(1) 電話加入権については、NTT

(2) 持分会社の社員の持分については、その持分会社

(3) 中小企業等協同組合法、水産業協同組合法、農業協同組合法、森林組合法、農住組合法等による各種の組合等の組合員等の持分については、その組合等

(4) 信用金庫の会員の持分については、その信用金庫

(5) 漁業信用基金協会の会員の持分については、その漁業信用基金協会

(6) 民法上の組合の組合員の持分については、その組合(業務を執行する組合員があるときはその者、業務を執行する組合員の定めがないときは他の組合員全員)

(7) 有限責任事業組合の組合員の持分については、その組合

(8) 無尽講及びたのもし講の講員の持口については、その講の講元(講親)

(9) 営業無尽の加入者の権利については、その無尽会社又は銀行

(10) 動産の共有持分については、他の共有者

(11) 株式については、その株式会社

(12) 賃借権については、その貸主

(13) 買戻権については、その買戻権のある財産の差押え時における所有者

(14) 仮登記に係る権利については、その仮登記時における登記義務者

(15) 特許権、実用新案権若しくは意匠権についての専用実施権若しくは通常実施権又は商標権についての専用使用権若しくは通常使用権については、その特許権者、実用新案権者、意匠権者若しくは専用実施権者又は商標権者若しくは専用使用権者

(16) 育成者権又は回路配置利用権についての専用利用権又は通常利用権については、その育成者権者、回路配置利用権者又は専用利用権者

(16)-2 特許を受ける権利についての仮専用実施権又は仮通常実施権については、特許を受ける権利を有する者又は仮専用実施権者

(17) 著作物を利用する権利又は出版権については、その著作権者

(18) 引揚権については、その源泉権者

(19) ゴルフ会員権については、そのゴルフ場を経営する株式会社等

(20) 削除

(21) 信託の受益権については、その信託の受託者

(22) 公有水面埋立権については、都道府県知事

(差押通知書)

53 法第73条第1項の「差押通知書」とは、令第30条第2項《差押通知書の記載事項》に掲げる事項を記載した規則第3条《書式》に規定する別紙第6号書式によるものをいい、これを第三債務者等に送達することによって差押えの効力を生ずる(法第73条第2項)。

(差押調書)

54 法第73条第1項の財産を差し押さえた場合には、差押調書を作成し、滞納者に対して、差押調書の謄本を交付しなければならない(法第54条)。

(差押えの登記の嘱託)

55 法第73条第3項の「その権利の移転につき登記を要するもの」とは、1に掲げる財産のうち、登記を第三者対抗要件とする賃借権、登記した買戻権及び(13)から(15)まで((14)-2を除く。)に掲げる権利をいい、法第73条第3項において準用する法第72条第3項の「関係機関」については、別に定めるところによる。
 なお、引湯権にあっては、その地方の慣行に従った公示方法(例えば、温泉組合等に対する登録の依頼、立札その他の標識の掲示)を講ずるものとする。
 また、賃借権、買戻権又は仮登記に係る権利の差押えの登記は、付記登記により行われる(不動産登記規則第3条第4号)。

(登録免許税の非課税)

56 税務署長が差押えの登記を嘱託する場合には、登録免許税法第5条第11号《滞納処分に関する登記等の非課税》の規定により、登録免許税は課されない。

差押えの効力

57 法第73条第1項の規定による差押えの効力は、差押通知書が第三債務者等に送達された時に生ずるが(法第73条第2項)、その権利の移転につき登記を要するものについては、差押通知書が第三債務者等に送達される前に差押えの登記がされた場合には、その差押えの登記がされた時に差押えの効力が生ずる(法第73条第3項、第72条第4項)。ただし、特許権、実用新案権及び意匠権についての専用実施権、商標権についての専用使用権、育成者権及び回路配置利用権についての専用利用権並びに特許を受ける権利についての仮専用実施権については、差押えの登録がされた時に差押えの効力が生ずる(法第73条第4項、第72条第5項、特許法第98条第1項、第34条の4第1項、実用新案法第18条第3項、意匠法第27条第4項、商標法第30条第4項、種苗法第32条第1項、半導体集積回路配置法第21条第1項参照)。

預託証書等の取上げ

58 徴収職員は、第三債務者等がある無体財産権等の差押えのため必要があるときは、預託証書、会員証書等その財産権に関する証書を取り上げることができるが(法第73条第5項)、この場合の手続等については、第65条関係3から5までに定めるところに準じて行う。

取立て

59 法第73条第5項において準用する法第67条《差し押えた債権の取立》の規定により取立てができる財産は、持分会社の社員の利益配当請求権、退社に伴う持分払戻請求権及び出資の払戻請求権、株主の剰余金配当請求権及び残余財産分配請求権、ゴルフ会員権に係る預託金返還請求権並びに信託の受益権に係る受益債権等差押えの効力が及ぶ債権に限られる。