取立て

(意義)

1 法第67条第1項の「取立」とは、徴収職員が、被差押債権の本来の性質、内容に従って、金銭又は換価に適する財産の給付を受けることをいう。

(取立ての範囲)

2 債権を差し押さえたときは、差押えに係る国税の額にかかわらず、被差押債権の全額を取り立てるものとする(法第67条第1項)。

(取立権取得の効果)

3 徴収職員は、債権差押えにより、その債権の取立権を取得するから、徴収職員が自己の名で被差押債権の取立てに必要な裁判上及び裁判外の行為をすることができる。ただし、滞納者が有する解除権又は取消権等の形成権については、一身専属的権利及び人格的権利並びに取立ての目的・範囲を超えるような形成権の行使はすることができない。したがって、支払督促の申立て、給付の訴えの提起、配当要求、担保権の実行、保証人に対する請求又は破産手続、会社更生手続若しくは民事再生手続への参加(例えば、債権の届出、議決権の行使等)等の行為をすることができるが、債務の免除、債権の譲渡、弁済期限の変更等取立ての目的を越える行為をすることはできない。

(注)

1 国税に関する法律に基づく処分に対する不服申立てがあった場合においても、被差押債権の取立ては制限を受けない(通則法第105条第1項参照)。

2 債権差押えに基づく取立訴訟において、第三債務者は、差押えに係る国税の存否を争うことはできない(昭和52.1.28広島地判、昭和45.6.11最高判参照)。

3 生命保険契約の解約返戻金請求権を差し押さえた債権者は、その取立権に基づき滞納者(契約者)の有する解約権を行使することができる(平成11.9.9最高判参照)。

(取立ての方法)

4 第三債務者が被差押債権をその履行期限までに任意に履行しないときは、徴収職員は、遅滞なくその履行を請求し、請求に応じないときは、3の債権取立てに必要な方法を講ずるものとする。
なお、被差押債権の取立てについては、給付の訴えの提起、支払督促の申立て、仮差押え又は仮処分の申請等をする必要がある場合には、法務省の関係部局に依頼して行う(法務大臣の権限法第1条)。

(担保権のある債権の取立手続)

5 抵当権等により担保される債権を差し押さえた場合において、第三債務者が被差押債権の取立てに応じないときは、次に掲げるところによる。

(1) 抵当権、質権(権利質並びに流質契約のある商事質及び営業質に掲げるものを除く。)、先取特権又は留置権の目的となっている財産については、執行法その他の法律の規定
により担保権の実行をする。
なお、流質契約のある商事質又は営業質の目的となっている財産については、流質期限の経過後は、滞納者の財産として差し押さえる。

(2) 債権質の目的となっている債権については、その債権の債務者(第四債務者)から直接取り立てる(民法第366条)。
なお、上記の債務者が取立てに応じないときは、執行法第193条《債権及びその他の財産権についての担保権の実行の要件等》の規定により担保権の実行又は行使をする。

(3) 不動産物権の上の質権については、抵当権実行の方法に準じて、その不動産物権について競売の申立てをする。(民法第361条参照)。

(4) (2)及び(3)に掲げる以外の権利質については、執行法第193条の規定により担保権の実行又は行使をする。(民法第362条参照)。

(生命保険契約の解約返戻金請求権の取立て)

6 生命保険契約の解約返戻金請求権を差し押さえた場合には、差押債権者は、その取立権に基づき滞納者(契約者)の有する解約権を行使することができる(平成11.9.9最高判参照)。ただし、その解約権の行使に当たっては、解約返戻金によって満足を得ようとする差押債権者の利益と保険契約者及び保険金受取人の不利益(保険金請求権や特約に基づく入院給付金請求権等の喪失)とを比較衡量する必要があり、例えば、次のような場合には、解約権の行使により著しい不均衡を生じさせることにならないか、慎重に判断するものとする。

(1) 近々保険事故の発生により多額の保険金請求権が発生することが予測される場合

(2) 被保険者が現実に特約に基づく入院給付金の給付を受けており、当該金員が療養生活費に充てられている場合

(3) 老齢又は既病歴を有する等の理由により、他の生命保険契約に新規に加入することが困難である場合

(4) 差押えに係る滞納税額と比較して解約返戻金の額が著しく少額である場合

(注) 差押債権者による死亡保険契約等の解除は、保険者(保険給付の義務を負う者)が解除の通知を受けた時から1か月を経過した日に、その効力が生じる(保険法第60条第1項、第89条第1項)。ただし、介入権者(保険契約者以外の保険金受取人であって、保険契約者若しくは被保険者の親族又は被保険者である者)が、保険契約者の同意を得て、当該期間が経過するまでの間に、解約返戻金に相当する金額を差押債権者に支払うとともに、保険者に対しその旨の通知をしたときは、解除の効力は生じない(同法第60条第2項、第89条第2項)。

(電子記録債権の取立手続)

6-2 差し押さえた電子記録債権を取り立てた場合には、税務署長は電子債権記録機関に対して支払等記録を嘱託する(電子記録債権法第4条、第25条第1項)。
 なお、第三債務者が電子記録債権の支払と引換えに支払等記録をすることについて税務署長の承諾を求めた場合には、取立てによる支払等記録の嘱託に代えて、これを承諾する(同条第3項)。

(取立ての責任)

7 徴収職員が被差押債権の取立てに当たって故意又は過失により違法に滞納者に損害を与えたときは、国は、国家賠償法第1条第1項《公権力の行使に基づく損害の賠償責任》の規定により、滞納者に対してその損害を賠償しなければならない場合がある。

(給付の受領の資格)

8 第三債務者から取り立てた金銭は、歳入歳出外現金出納官吏の資格において、受け入れる(出納官吏事務規程第1条第5項参照)。

(履行の場所)

9 被差押債権の履行場所は、原則として、次に掲げるとおりであり、被差押債権が持参債務であるときは、税務署の所在地が履行場所となる(10の(2)のただし書参照)。
なお、滞納者と第三債務者との間で金融機関に振込入金することにより履行することになっている場合であっても、同様である。

(1) 商行為により生じた債務(商法第516条参照)

イ 行為の性質又は当事者の意思表示で定まっているときは、その定められている場所

ロ イ以外の場合には次による。

(イ) 特定物の引渡しを目的とする債務については、行為の当時その物の存在した場所

(ロ) 特定物の引渡し以外の給付を目的とする債務については、履行する時の債権者の営業所(営業所がないときは住所)

(2) (1)以外の債務(民法第484条参照)

イ 取引の慣行又は意思表示で定まっているときは、その定められている場所

ロ イ以外の場合には次による。

(イ) 特定物の引渡しを目的とする債務については、債権発生の当時その物の存在した場所

(ロ) 特定物の引渡し以外の給付を目的とする債務については、履行する時の債権者の場所

(注) 売買代金について、目的物の引渡しと同時に代金を支払うべきときは、その引渡しの場所が履行場所となる(民法第574条)。

(履行の時間)

9-2 被差押債権の履行に当たって、法令又は慣習により取引時間の定めがあるときは、その取引時間内に限り、履行の請求をすることができる(民法第484条第2項)。
 なお、取引時間外に被差押債権の履行があったときも、それが弁済期日内であれば、正当な弁済の提供があったものとして取り扱う(昭和35.5.6最高判参照)。

(履行の費用)

10 被差押債権の履行の費用については、次による(民法第485条参照)。

(1) 取立債務であるときは、その取立てに要する費用は滞納処分費として支出する。ただし、第三債務者が取立てに要する費用を支出し、その費用を債務の額から差し引いて給付した場合は、その費用に相当する額を滞納処分費として支出しなくても差し支えない。この場合においては、第三債務者に対し、その費用に相当する額については履行の請求をしないものとする。

(2) 持参債務であるときは、その取立てに要する費用は第三債務者に負担させる。ただし、本来の履行場所である滞納者の住所又は営業所と税務署の所在地とが異なるため費用が増加した場合における増加費用については、(1)に準ずる。

(3) 履行場所が特約によって定まっているときは、その履行場所からの取立てに要する費用については、(1)に準ずる

(4) 弁済の費用について特約があるときは、その特約の定めるところに従い、(1)から(3)までに準ずる。

取立不能の判定

11 第三債務者に弁済の資力がなく取立不能と認められる場合には、債権の差押えを解除するものとする。この場合において、取立不能の判定は、原則として強制執行等の強制的な取立手続をした後において行うが、第三債務者の資力その他の状況により、その債権が取立不能と認められるときは、強制的な取立手続をすることなく判定して差し支えない。

取立財産の差押え

12 第三債務者から取り立てた金銭(第56条関係22参照)以外の財産については、その財産の種類に応じて、法第56条《差押の手続及び効力発生時期等》、第68条《不動産の差押の手続及び効力発生時期》、第70条《船舶又は航空機の差押》又は第71条《自動車、建設機械又は小型船舶の差押え》の規定による差押えの手続をとらなければならない(法第67条第2項)。

徴収したものとみなす

13 法第67条第3項の「徴収したものとみなす」とは、金銭(第56条関係22参照)を取り立てたときは、その限度において、滞納者の国税の納税義務を消滅させることをいう。
なお、国税の納付に使用することができる有価証券を取り立てた場合において、その支払がなかったときは、滞納者の国税の納税義務は消滅しない(証券ヲ以テスル歳入納付ニ関スル法律第2条参照)。

弁済の委託

(意義)

14 法第67条第4項の「弁済の委託」とは、第三債務者が有価証券の現金化及びその現金による被差押債権の弁済手続を、弁済受託に関する証書に記載された税務署長が定める条件により、徴収職員に委任することをいう。
なお、弁済委託により受領した証券は債権の弁済に代えて受領するものではないから、第三債務者の債務(被差押債権)は、弁済委託により直ちに消滅するものではない。

(弁済受託に関する証書)

15 徴収職員は、弁済の委託を受けたときは、弁済受託に関する証書を弁済の委託をした者に交付しなければならない(法第67条第4項、通則法第55条第2項)。
なお、当該証書は、通則規則第16条《納付書の書式等》に規定する別紙第6号書式の納付受託証書を補正の上使用する(規則第3条第2項参照)。

(弁済受託に関する証書に記載する延滞税の金額)

16 弁済受託に関する証書に記載する延滞税の金額は、弁済委託を受けた証券の種類により、それぞれ次に掲げる日までの金額とする。
なお、次のそれぞれに掲げる日の翌日以後の延滞税については、通則法第63条第6項第1号《納付委託に係る延滞税の免除》の規定に準じて、免除することができるものとする。

(1) 証券が一覧払いのものであるときは、その委託を受けた日

(2) 証券が先日付小切手であるときは、その振出日として記載された日

(3) 証券が(1)以外の手形であるときは、その満期日

(弁済委託に使用できる証券)

17 弁済委託に使用することができる証券は、証券ヲ以テスル歳入納付ニ関スル法律の規定に基づき国税及び歳入の納付に使用することができる証券以外の有価証券のうち、次に掲げる小切手、約束手形又は為替手形に限る取扱いとする(法第67条第4項、通則法第55条第1項参照)。
なお、証券の券面金額が差押えに係る国税の額を超える場合であっても、被差押債権の金額を超えない限り、その証券による弁済の委託を受けることができる。

(1) 再委託をする銀行が加入している手形交換所に加入している銀行(手形交換所に準ずる制度を利用して再委託銀行と交換決済をすることができる銀行を含む。以下17において「所在地の銀行」という。)を支払人とし、再委託銀行の名称(店舗名を含む。)を記載した特定線引の小切手で、次のいずれかに該当するもの

イ 振出人が弁済委託をする者であるときは、弁済委託を受ける徴収職員の所属する税務署長を受取人とする記名式のもの

ロ 振出人が弁済委託をする者以外の者であるときは、弁済委託をする者が税務署長に取立てのための裏書をしたもの

(注) 信用金庫、農業協同組合等は、小切手法ノ適用ニ付銀行ト同視スベキ人又ハ施設ヲ定ムルノ件により、小切手法の適用については銀行と同視されているので、これらのもののうち、手形交換所に代理交換の認められているものは、手形交換所に加入している銀行として取り扱う。

(2) 支払場所を所在地の銀行とする約束手形又は為替手形で、次のいずれかに該当するもの

イ 約束手形については振出人が、為替手形(自己あてのものに限る。)については支払人が、それぞれ弁済委託をする者であるときは、税務署長を受取人とし、かつ、指図禁止の文言の記載のあるもの

ロ 約束手形については振出人が、為替手形(引受けのあるものに限る。)については支払人が、それぞれ弁済委託をする者以外の者であるときは、弁済委託をする者が税務署長に取立てのための裏書をしたもの

(3) 支払人又は支払場所を所在地の銀行以外の銀行とする(1)及び(2)に掲げる小切手、約束手形又は為替手形で、再委託銀行を通じて取り立てることができるもの

(弁済委託を受けることができる場合)

18 弁済委託を受けることができる場合は、最近において取立てが確実と認められる17の証券を提供した場合で、かつ、次に掲げる場合のいずれかに該当するときに限る取扱いとする(法第67条第4項、通則法第55条第1項参照)。

(1) 第三債務者の提供した証券の支払期日が、被差押債権の弁済期以前であるとき。

(2) 第三債務者の提供した証券の支払期日が弁済期後となるときは、その証券の支払期日まで弁済期限を猶予することを滞納者が承認したことを証する書面を、併せて提出したとき(19、令第29条参照)。

(滞納者の承認)

19 法第67条第4項ただし書の「滞納者の承認」とは、滞納者が被差押債権の弁済期限の猶予を承認することをいう。この場合における弁済期限の猶予は、差押債権者である国と滞納者との間には影響を及ぼさない。

(取立ての費用)

20 弁済委託を受けた証券の取立てにつき費用を要するときは、その費用の額に相当する金額を第三債務者から併せて提供させなければならないが(法第67条第4項、通則法第55条第1項後段参照)、この場合における費用とは、銀行に再委託した場合における取立手数料その他銀行が取立てをするために要する費用(例えば、取立済通知を電信で受けるように依頼して取立委託をする場合の実費等)をいう。
なお、取立費用は、徴収職員としての資格ではなく、歳入歳出外現金出納官吏の資格において受領するものである(出納官吏事務規程第1条第5項参照)。

(再委託)

21 弁済委託を受けた証券は、その取立てのため、徴収職員が確実と認める金融機関に再委託をすることができる(法第67条第4項、通則法第55条第3項)。

(納付委託に関する規定の準用)

22 弁済委託については、通則法第55条第1項から第3項《納付委託》までの規定が準用される(法第67条第4項)。