第4節 国税と仮登記又は譲渡担保に係る債権との調整

担保のための仮登記の優先

(仮登記担保契約)

1 法第23条第1項の「仮登記担保契約に関する法律第1条(趣旨)に規定する仮登記担保契約」とは、金銭債務を担保するため、その不履行があるときは債権者に債務者又は第三者(以下第23条関係において「債務者等」という。)に属する所有権その他の権利の移転等をすることを目的としてされた代物弁済の予約、停止条件付代物弁済契約その他の契約で、その契約による権利について仮登記のできるものをいう(仮登記担保契約に関する法律(以下「仮登記担保法」という。)第1条)。

(担保のための仮登記)

2 法第23条第1項の「担保のための仮登記」とは、仮登記担保契約で、土地若しくは建物の所有権又はその所有権以外の権利(先取特権、質権、抵当権及び企業担保権を除く。)の取得を目的とするものに基づく仮登記をいう(仮登記担保法第1条、第20条参照)。

(注) 仮登記担保契約の目的となる権利としては、土地又は建物の所有権のほか、不動産登記法第3条《登記することができる権利等》に掲げる地上権、永小作権、地役権、賃借権及び採石権(同法第105条)、立木法上の立木の所有権(同法第2条)、船舶の所有権及び賃借権(商法第686条、第687条、第701条、船舶登記令第3条)、航空機の所有権(航空法第3条の3、航空機登録令第26条)、工場財団(工場抵当法第14条)、鉱業財団(鉱業抵当法第3条)、漁業財団(漁業財団抵当法第6条)、港湾運送事業財団(港湾運送事業法第26条)、道路交通事業財団(道路交通事業抵当法第8条)及び観光施設財団(観光施設財団抵当法第8条)の所有権、建設機械の所有権(建設機械抵当法第7条、建設機械登記令第16条)、ダム使用権(特定多目的ダム法第20条、第26条、ダム使用権登録令第3条)、特許権(特許法第27条、第66条、第98条、特許登録令第2条)、実用新案権(実用新案法第14条、第26条、第49条、実用新案登録令第2条)、意匠権(意匠法第20条、第36条、第61条、意匠登録令第2条)、商標権(商標法第18条、第35条、第71条、商標登録令第2条)、鉱業権(鉱業法第5条、第59条、鉱業登録令第32条)、特定鉱業権(日本国と大韓民国との間の両国に隣接する大陸棚の南部の共同開発に関する協定の実施に伴う石油及び可燃性天然ガス資源の開発に関する租税特別措置法(以下「大陸棚特別措置法」という。)第32条、漁業権(漁業法第77条、第117条、漁業登録令第27条)、入漁権(漁業法第98条、第117条、漁業登録令第27条)、育成者権(種苗法第19条、第32条、品種登録規則第1条)及び回路配置利用権(半導体集積回路の回路配置に関する法律(以下「半導体集積回路配置法」という。)第10条、第21条、回路配置利用権等の登録に関する政令第34条)がある。

(担保のための仮登記がされているとき)

3 法第23条第1項の「仮登記担保契約に関する法律第1条(趣旨)に規定する仮登記担保契約に基づく仮登記又は仮登録がされているとき」には、納税者に対する債権について納税者の財産の上に仮登記担保法第1条に規定する仮登記担保契約に基づく仮登記(以下「担保のための仮登記」という。)がされている場合のほか、納税者以外の者に対する債権について納税者の財産の上に担保のための仮登記がされている場合(納税者が物上保証人となっている場合)も含まれる。

(注) 債務不履行を停止条件とする代物弁済契約に基づく権利移転請求権保全の仮登記、代物弁済の予約に基づく権利移転請求権保全の仮登記、債務不履行を停止条件とする賃借権、地上権等の設定請求権保全の仮登記等実質的な意味で金銭債権担保の機能を果たしている仮登記は、担保のための仮登記に当たるものとする。

(法定納期限等以前にされている担保のための仮登記)

4 法第23条第1項の「法定納期限等以前」には、その法定納期限等に当たる日を含む。したがって、その日にされた担保のための仮登記も、法定納期限等以前にされた担保のための仮登記となる。

債権額の範囲

(換価代金)

5 法第23条第1項の「換価代金」には、担保のための仮登記がされた財産のほか、従物、付加物等担保のための仮登記の効力の及んでいるものの換価代金も含まれる。

(担保のための仮登記によって担保される債権額)

6 担保のための仮登記によって担保される債権額の範囲については、次のことに留意する。

(1) 担保のための仮登記がされている財産につき強制換価手続が行われた場合において、その担保のための仮登記の権利者(以下「仮登記担保権者」という。)が、利息その他の定期金を請求する権利を有するときは、その満期となった最後の2年分についてのみ権利を行使することができる(仮登記担保法第13条第2項)。また、仮登記担保権者が債務の不履行により生じた損害の賠償を請求する権利を有する場合においても、その最後の2年分について権利を行使することができる(同法第13条第3項本文)。ただし、利息その他の定期金と通算して2年分を超えることができない(同項ただし書)。

(2) 仮登記担保権者が、担保のための仮登記の実行の通知に基づき、その財産を取得する場合には、仮登記担保法第13条第2項及び第3項(第20条において準用する場合を含む。)は適用されないから、利息その他の定期金は2年分に限定されない。

担保のための仮登記がある財産の差押え

(清算期間の経過前にされた本登記の効力)

7 清算期間の経過前に、仮登記担保権者のために担保のための仮登記に基づく本登記がされていても、その所有権等の移転の効力は生じない(仮登記担保法第2条第1項参照)から、この場合には、債務者等である滞納者に代位しその本登記を抹消の上、担保のための仮登記がされている財産を差し押さえることができる。

(注) 清算期間とは、仮登記担保権者が仮登記担保権の実行によって財産を取得しようとする場合に行う清算金(仮登記担保法第3条第1項に規定する清算金をいう。)に係る見積額の通知書が、その契約の相手方である債務者等に到達した日から2月の期間をいう(同法第2条第1項参照)。

(清算期間の経過前にされた清算金の支払と財産の差押え)

8 清算期間を経過しなければ、担保のための仮登記がされた財産の権利移転の効力は生じない(仮登記担保法第2条第1項、第20条)から、清算期間の経過前においては、清算金の支払がされても、その財産の差押えができる。

清算金の支払請求権に対して物上代位権の行使があった場合の優先

(清算金)

9 法第23条第2項の「清算金」とは、清算期間が経過した時における担保のための仮登記がある財産の価額から、その時の債権及び債務者等が負担すべき費用で仮登記担保権者が代わって負担したものの額(仮登記担保法第2条第2項、第3条第1項参照)とを控除した額に相当する金銭をいう。

(物上代位)

10 担保のための仮登記がされている場合において、その仮登記後に登記がされた先取特権、質権又は抵当権を有する者は、仮登記担保法第4条第1項《物上代位》の規定に基づき、債務者等の清算金の支払請求権を差し押さえることにより、先取特権等の効力をその順位に従って清算金の支払請求権に及ぼすことができる。
 なお、担保のための仮登記後にされた担保のための仮登記の権利者の物上代位についても同様である(仮登記担保法第4条第2項、第3項)。

(物上代位権の行使があった場合の債権額の範囲)

11 物上代位権の行使に係る担保権によって担保される債権が弁済を受けることのできる金額の範囲は、担保のための仮登記がされた財産の換価代金から配当を受け得る場合と同様に、元本のほか最後の2年分の利息又は損害賠償請求権等の金額に限られる(仮登記担保法第4条第3項、第20条、民法第375条等)。

(清算金の支払請求権に対して物上代位権を行使した担保権により担保される債権と国税との関係)

12 担保のための仮登記がされた財産について、その仮登記の後に登記(仮登記を含む。以下12において同じ。)がされた先取特権、質権、抵当権又は担保のための仮登記に係る権利を有する者が、清算金の支払請求権に対して物上代位権の行使をした場合におけるその物上代位権の行使に係る債権と清算金の支払請求権を差し押さえた国税との優先関係は、次のとおりである(法第23条第2項)。

(1) 清算金の支払請求権に対して物上代位権の行使をした法第19条第1項各号《不動産保存の先取特権等の優先》に掲げる先取特権によって担保される債権は、清算金に係る換価代金につき、常に国税に優先する。

(2) 清算金の支払請求権に対して物上代位権の行使をした法第20条第1項各号《法定納期限等以前にある不動産賃貸の先取特権等の優先》に掲げる先取特権の登記が国税の法定納期限等以前にされているときは、その先取特権によって担保される債権は、清算金に係る換価代金につき、国税に優先する。

(3) 清算金の支払請求権に対して物上代位権の行使をした質権、抵当権の登記又は担保のための仮登記が国税の法定納期限等以前にされているときは、その質権、抵当権の登記又は担保のための仮登記によって担保される債権は、清算金に係る換価代金につき、国税に優先する。

清算金の支払請求権の差押え

(清算金の支払請求権者)

13 清算金の支払請求権を有する者は、仮登記担保契約の相手方である債務者等であって(仮登記担保法第3条第1項、第20条)、担保のための仮登記がされた財産が譲渡された場合においても、その財産の譲受人は、清算金の支払請求権を有しない。

(差し押さえることができる清算金支払請求権の範囲)

14 差し押さえることができる清算金の支払請求権(供託金の還付請求権を含む。以下15から17までにおいて同じ。)は、仮登記担保権者が行った担保のための仮登記の実行の通知に係る清算金の見積額の範囲内に限られない。したがって、通知した清算金の見積額が過少であると認められるときは、正当な清算金の額に達するまで差し押さえることができる。

(差押えをすることができる時期)

15 清算金の支払請求権に対する差押えは、仮登記担保権者が仮登記担保権の実行の通知をした後清算金の支払又は供託をするまでの間は、することができる。

(物上代位権者への差押えの通知)

16 清算金の支払請求権について差押え又は交付要求をした場合において、既に、その清算金の支払請求権に対する物上代位権の行使(仮登記担保法第4条第1項又は第2項《物上代位》に規定する権利の行使をいう。)による差押えをした者があるときは、その者に対して書面により差押え(法第55条)又は交付要求(法第82条第3項)の通知をするものとする。この書面の様式は、別に定めるところによる。

(受戻権の行使と清算金の支払請求権に対する滞納処分との関係)

17 清算金の支払請求権を差し押さえた場合において、仮登記担保権者が、清算期間経過後、清算金を差押債権者に支払又は供託する以前に、債務者等が、債権等の額(債権が消滅しなかったものとすれば債務者が支払うべき債権等の額をいう。)に相当する金銭(9参照)を仮登記担保権者に提供して、担保のための仮登記がされた財産の受戻権を行使したとき(仮登記担保法第11条本文)は、清算金の支払請求権に対する差押えの効力は失われる。

(注) 受戻権とは、債務者等が、仮登記担保権者から清算金の支払債務の弁済を受けるまで、債権等の額に相当する金銭を仮登記担保権者に提供して、担保のための仮登記がされている財産の受戻しを請求することができる権利をいう。

根担保仮登記の効力

18 仮登記担保契約で消滅すべき金銭債務がその契約の時に特定されていないものに基づく仮登記は、強制換価手続においてはその効力を有しない(法第23条第4項、仮登記担保法第14条、第20条)ので、国税の徴収との関係においては、担保のための仮登記によって担保される債権が存在しないものとして取り扱う。

徴収職員の調査

19 法第23条第1項の規定の適用については、仮登記担保権者の証明を要件とするものではない。
 なお、徴収職員は、仮登記担保権の設定の事実及びその設定の時期が国税の法定納期限等以前であるかどうかにつき、登記により調査の上確認しなければならない。