【照会要旨】

 甲は○年に死亡しましたが、その相続人は子A及び子Bの2人でした。
 相続人であるA及びBは、甲の遺産について協議分割を了していました。
 その後、Cが民法第787条の規定に基づく認知の訴えを提起し、甲の子として認知されたことから、Cから甲の遺産についてA及びBに対して民法第910条の規定に基づく価額による分割請求が行われました。A及びBは、すでに遺産分割により甲の遺産を取得していましたが、分割請求に応ずることとし、それぞれが遺産分割によって取得した遺産である土地のうちの一部を分筆してCに交付しました。
 しかし、このような場合は、Cは民法第910条の規定によって「価額のみによる支払の請求」しかできないのであり、A及びBが遺産分割によって取得した土地の一部をCに交付したのは、代物弁済とみられることから、A及びBはCに支払うべき価額に相当する金額で土地の譲渡を行ったものとして譲渡所得の課税が行われると考えますがどうでしょうか。

【回答要旨】

(1) 民法第910条の条文からすると、既にAB間で遺産分割を了した甲の遺産は、A及びBの完全な所有物となっており、CはA及びBに対しては価額による支払の請求しか認められていません。したがって、Cには、甲の遺産そのものを引き渡せといういわゆる物権的請求権はないものと考えられます。
  そこで、A及びBがCからの価額による支払請求に対して遺産分割を経て取得した遺産を交付したということは、本来の給付に代えてなす給付であって、代物弁済に該当するものと考えられ、この限りにおいては、照会意見は妥当なものです。

(2) しかし、遺産分割前にCが認知され、遺産分割によりCがその土地を取得した場合には、その土地は相続によって取得したことになることから、そのCが取得した土地についてA及びBに譲渡所得課税が行われることはありません。
 民法が遺産分割後に認知が行われた場合には価額のみによる支払の請求だけを認め、物権的な請求を認めなかったのは、その認知を受けた者の権利の保護は、価額による支払請求を認めるだけで充分であり、既に遺産分割によって安定している法律状態を覆す、つまり遺産分割によって確定した法律状態を信頼して取引をした第三者の権利を侵害してまで被認知者の地位を保護する必要はないという判断に基づくものに過ぎず、民法が上記のような趣旨から遺産分割後における認知については遺産の現物分割を認めていないことを理由に、本件のようにたまたま遺産そのものを現物で交付した場合については遺産分割前に認知があった場合と峻別し、代物弁済として譲渡所得課税を行うということについては、実質的な意味から疑問なしとしません。

(3) 上記のことから、A及びBが価額の支払に代えて遺産分割によって取得した土地をCに給付したというのであれば、これは代物弁済ですからA及びBに対して譲渡所得課税を行うこととなりますが、A、B及びCの3人が連署した次に掲げる書類等により、Cが遺産の現物分割により土地を取得したものと認めることができる場合には、A及びBに対する譲渡所得課税は行わないものとして取り扱うのが相当です。

1 その土地をCが遺産分割によって取得したものであることを示すA、B、C間の最終的な遺産の分割に関する協議書

2 Cが取得した土地は、遺産の現物分割によるものである旨を記載したCの書面

【関係法令通達】

 所得税法第33条、第60条
 民法第787条、第910条

注記
 令和5年8月1日現在の法令・通達等に基づいて作成しています。
 この質疑事例は、照会に係る事実関係を前提とした一般的な回答であり、必ずしも事案の内容の全部を表現したものではありませんから、納税者の方々が行う具体的な取引等に適用する場合においては、この回答内容と異なる課税関係が生ずることがあることにご注意ください。