(問)

 次の排出量取引を実施する際に締結する売買契約書について、印紙税の取扱いを教えてください。

(1) 京都メカニズムに基づく認証排出削減量(CER)を国内企業間で取引するに当たり売買予定数量等を定めるCER売買契約書文例1(PDFファイル/114KB)

(2) 環境省自主参加型国内排出量取引制度に基づいて排出枠を制度参加者で売買するための取引条件を定める標準契約書文例2(PDFファイル/115KB)

(答)

1. 京都議定書に基づく温室効果ガス排出削減の取組に関して、国や企業は自助努力に加えて京都メカニズムを活用してCER(Certified Emission Reduction)等の算定割当量(地球温暖化対策の推進に関する法律(平成10年法律第117号)第2条第6項に規定する算定割当量その他これに類似するものをいい、以下「京都メカニズムクレジット等」といいます。)を購入することが見込まれています。

(参考)

排出量取引の対象とされる「京都メカニズムクレジット等」には次のようなものがあります。

(1) 京都メカニズムに基づくもの(京都メカニズムクレジット)

・ AAU(Assigned Amount Unit):京都議定書における初期割当量

・ RMU(Removal Unit):吸収源活動による吸収量

・ ERU(Emission Reduction Unit):JIプロジェクト(先進国同士が共同で事業を実施し、その削減分を投資国が自国の目標達成に利用できる制度)により発生する排出削減量

・ CER(Certified Emission Reduction):CDM(Clean Development Mechanism)プロジェクト(先進国と途上国が共同で事業を実施し、その削減分を投資国(先進国)が自国の目標達成に利用できる制度)により発生する排出削減量

(2) 環境省自主参加型国内排出量取引制度に基づくもの(排出枠等)

・ JPA:本制度の目標保有参加者に対して交付される排出枠

・ jCER:CDMプロジェクトにより発行されたCERを、京都議定書に基づく国別登録簿上の保有口座から政府保有口座へ移転した後に、本制度のための登録簿内の保有口座において発行、交付されるもの

2. 京都メカニズムクレジット等の売買を行う企業及び公共・公益法人等(以下「企業等」といいます。)の間では以下の文例1、文例2のような契約書を取り交わしています。

(1) 文例1(PDFファイル/114KB)の契約書は、京都メカニズムに基づく排出量取引を行おうとする国内の企業等の間で締結する売買契約書で、売手企業等が将来(5年程度の期間)において獲得すると見込まれるCERについて、各対象年の売買予定数量及びトン当たりの価格(第2条)を定めておき、各対象年においては個別契約を改めて締結することなく、売手企業等から買手企業等へCERを引き渡すこととし、その引渡方法(第3条)及び対価の決済方法(第4条)等を定めています。

(2) 文例2(PDFファイル/115KB)の契約書は、環境省自主参加型国内排出量取引制度の参加者間で締結する標準契約書で、参加者間で各年度内において行う排出枠等(JPA及びjCER)の売買に関して、個別売買契約を成立させる方法(第4条)、排出枠等の引渡方法(第6条)及び売買代金の支払方法(第7条)等の取引に共通して適用される取引条件を定めています。

3. 文例1、文例2の契約書で売買の目的物とされている京都メカニズムクレジット等は、無形の財産的価値があることから、会計上は無形固定資産に近い性格を有していると考えられていますが、印紙税法上の無体財産権(特許権、実用新案権、商標権、意匠権、回路配置利用権、育成者権、商号及び著作権)に該当しないので(印紙税法別表第一 課税物件表第1号文書の定義欄2)、文例1、文例2の契約書は、いずれも第1号の1文書(無体財産権の譲渡に関する契約書)には該当しません。

4. 特定の相手方との間において継続的に生ずる取引の基本となる契約書(その契約書に記載された契約期間が3か月以内であり、かつ、更新に関する定めのないものは除かれます。)のうち、営業者の間において、売買、売買の委託、運送、運送取扱い又は請負に関する複数取引を継続して行うため、その取引について、共通する基本的な取引条件のうち目的物の種類、取扱数量、単価、対価の支払方法、債務不履行の場合の損害賠償の方法又は再販売価格のうちの1以上の事項を定める契約書は、第7号文書(継続的取引の基本となる契約書)に該当します(印紙税法別表第一 課税物件表第7号文書の定義欄1印紙税法施行令第26条第1号印紙税法基本通達別表第一 第7号文書の5)。
 これらの取引条件のうち、文例1の契約書では、売買の目的物の種類、取扱数量、単価及び対価の支払方法を、文例2の契約書では、売買の目的物の種類及び対価の支払方法を定めていますから、契約当事者の双方が株式会社等、印紙税法上の営業者に該当する者である場合には、これらの契約書は第7号文書に該当し、1通につき4,000円の印紙の貼付が必要となります。

(注)

1. 印紙税法施行令第26条第1号に規定する第7号文書は「営業者の間において」が要件となりますので、契約の当事者の一方又は双方が営業者に該当しない者である場合はこれにあてはまりません。(ここでいう「営業者」とは、印紙税法別表第一 課税物件表第17号文書の非課税物件欄2に規定する営業を行う者をいいます。具体的には印紙税関係の質疑応答事例に掲載されている「営業者の間における契約であることの要件」の項目を参照してください。)
 すなわち、京都メカニズムクレジット等を保有する企業から営業者に該当しない独立行政法人が継続して京都メカニズムクレジット等を購入することを約する契約書は、企業が保有する契約書のみならず独立行政法人が保有する契約書についても、第7号文書には該当しないことになります。

2. 契約書に記載された契約期間が3か月以内であり、かつ、更新に関する定めのないものは第7号文書には該当しないこととされています(印紙税法別表第一 課税物件表第7号文書の物件名欄)。この期間的要件については、印紙税関係の質疑応答事例に掲載されている「契約期間が3か月を超えるものの判断」の項目を参照してください。

5. なお、文例2の契約書(PDFファイル/115KB)では、排出枠等の個別の売買契約が成立したときには、個別売買契約確認書を売主・買主の間で送交付することを定めていますが(第4条第4項)、この個別売買契約確認書(文例3(PDFファイル/60KB))は排出枠等の売買契約の成立を証する文書ではありますが、3.で説明したように排出枠等は印紙税法上の無体財産権には該当せず、この文書の記載内容には、そのほかの印紙税の課税事項を含んでいないことから、課税文書には該当しないことになります。

6. 以上をまとめると、排出量取引に関する売買契約書に対する印紙税の取扱いは、一般的には次のとおりとなります。

(1) 京都メカニズムクレジット等は印紙税法上の無体財産権に該当しないので、1回の売買を行うために作成する契約書は第1号の1文書(無体財産権の譲渡に関する契約書)には該当せず、印紙税の課税対象となりません。

(2) 契約期間中における京都メカニズムクレジット等の売買を継続して行うために作成される契約書で、売買取引に共通して適用される取引条件のうち目的物の種類、取扱数量、単価、対価の支払方法、債務不履行の場合の損害賠償の方法又は再販売価格のうちの1以上の事項を定める契約書は、第7号文書(継続的取引の基本となる契約書)に該当して、契約書1通につき4,000円の印紙税が課されます。
 なお、このような契約書であっても、次のいずれかに該当するものは第7号文書には該当しません。

1 取引の当事者の一方または双方が営業者でないもの

2 契約期間が3か月以内であり、かつ、更新に関する定めのないもの