【新設】(払済保険へ変更した場合)

9−3−7の2 法人が既に加入している生命保険をいわゆる払済保険に変更した場合には、原則として、その変更時における解約返戻金相当額とその保険契約により資産に計上している保険料の額(以下9−3−7の2において「資産計上額」という。)との差額を、その変更した日の属する事業年度の益金の額又は損金の額に算入する。ただし、既に加入している生命保険の保険料の全額(傷害特約等に係る保険料の額を除く。)が役員又は使用人に対する給与となる場合は、この限りでない 。

(注)

1 養老保険、終身保険及び年金保険(定期保険特約が付加されていないものに限る。)から同種類の払済保険に変更した場合に、本文の取扱いを適用せずに、既往の資産計上額を保険事故の発生又は解約失効等により契約が終了するまで計上しているときは、これを認める。

2 本文の解約返戻金相当額については、その払済保険へ変更した時点において当該変更後の保険と同一内容の保険に加入して保険期間の全部の保険料を一時払いしたものとして、9−3−4から9−3−6までの例により処理するものとする。

3 払済保険が復旧された場合には、払済保険に変更した時点で益金の額又は損金の額に算入した金額を復旧した日の属する事業年度の損金の額又は益金の額に、また、払済保険に変更した後に損金の額に算入した金額は復旧した日の属する事業年度の益金の額に算入する。

【解説】

(1) 保険契約においては、既契約の途中で保険料が支払えなくなったような場合に、保険料の払込を中止し、既払保険料に係る解約返戻金を利用して契約の存続を図る方法がある。これを一般に「払済保険」という。
 従前、既契約の保険を払済保険へ変更した場合、実務上、何らの経理処理も行われていなかったが、税務上も、通常その変更が払込期間の中途で保険料の支払が困難になった場合に行われるものであること、新たな保険契約の締結ではなく既契約の保険期間のまま保険金額が減額されるにとどまること等の事情を考慮して、これが容認されていた。

(2) ところが、最近、契約当初から払済保険への変更を予定して、これにより税負担の軽減を図る事例が見受けられる。
 すなわち、現在、定期保険は、一定の要件を満たす貯蓄性の高いものを除き、支払保険料の全額について期間の経過に応じて損金に算入することが認められているが、定期保険の保険料の中には将来の保険事故に備える責任準備金の部分、つまり実質的な前払部分が含まれており、保険期間の中途に解約した場合はその金額を基に解約返戻金が支払われることになる。
 このため、例えば、逓増定期保険特約付の終身保険を加入するに当たって、契約当初は終身保険部分は非常に低くし、特約部分の保険料を多額にして保険料の大部分を支払時に損金処理した上で、その後解約返戻金相当額が最高になる時点において、既保険契約を払済保険に変更して、変更後は解約返戻金相当額を原資とした終身保険とすることにより、結果的に既に損金処理された保険料の一部を簿外資金として留保することが可能となるのである。

(払済保険のイメージ図)

払済保険のイメージ図

(3) 払済保険は、解約返戻金を利用して契約の存続を図る方法である。この場合、保険期間は元契約のままで、そのときの解約返戻金を一時払保険料(元契約が定期保険特約付終身保険の場合は終身保険)に充当することになる。
 したがって、払済保険の保険金は、変更時の元契約の残存保険期間を保険期間とし、変更時の被保険者の到達年齢を加入年齢とする終身保険等の一時払保険料に解約返戻金を振り替えて計算した金額となる。換言すれば、解約返戻金を一時払いして新たに終身保険等に加入したとみることもできる。
 これと類似する制度として、保険契約の転換制度がある。保険契約の転換は、既契約の養老保険や定期保険に係る責任準備金や配当金等の合計額を新たな養老保険や定期保険に係る一時払保険料に充当する形で契約を切り替えるものである。
 払済保険との違いは、払済保険は既契約の保険種類や保険期間は変更できないが、転換の場合は保険の種類、保険期間などの変更が可能であること、払済み保険は元契約に復旧することができるが、転換にはそのような措置はない点である。
 しかし、いずれも既契約による責任準備金又は解約返戻金を一時払保険料として充当する点については一致しており、その経済的な効果や払済保険の現状等を考慮すれば、税務上双方について同様の処理を行うことが相当であると考えられる。

(4) したがって、払済保険においても、転換の処理(基通9−3−7)と同様に、払済保険に変更した日を含む事業年度において、過去に先行して損金算入した支払保険料の前払部分の精算があったとみなして、解約返戻金を収益計上する一方で、その同額が保険料として一時払いされたものとして処理することが相当である。本通達の本文では、このことを明らかにしている。
 ただし、例えば、役員又は部課長その他特定の使用人のみを被保険者とし、死亡保険金の受取人が被保険者の遺族とされている場合には、支払保険料の全額がその役員又は使用人に対する給与とされることから、払済保険への変更時に保険契約者において洗替経理処理を行う必要はない。

(5) 現行の9−3−7の取扱いにおいては、養老保険、終身保険及び年金保険から同種類の保険に転換した場合にも、洗替経理処理を行うこととしている。
 しかし、払済保険は、保険期間が既契約と同じであり、単に保険金額が変更されるだけであるため、養老保険等の場合に積立保険料として資産計上した金額は理論的には変動することはないことから、課税上の大きな問題は生じない。
 このため、定期保険特約が付加されているようなものは別として、単体の養老保険、終身保険及び年金保険から同種類の払済み保険に変更した場合には、これらの保険に洗替経理処理を行わず、そのまま保険事故の発生又は解約失効等により契約が終了するまで資産計上を継続することとしても差し支えないものと考えられる。本通達の(注)1では、このことを明らかにしている。

(6) なお、上記の洗替経理処理を行った場合の払済保険変更後の経理処理は、転換の場合と同様に、変更のあった日に解約返戻金相当額の保険料の一時払いをしたものとして、払済保険変更後の保険の種類に応じて、それぞれ各種の生命保険料の税務上の取扱いを適用して処理することとなる。本通達の(注)2では、このことを明らかにしている。

(7) 払済保険は、一定期間内であれば元の保険契約への復旧が可能である。このため、払済保険への変更時に元の保険契約を精算したとみなして処理した場合には、その後復旧されたときにどのように処理するかが問題となる。
 この点については、復旧されれば、元の保険契約に戻ることになるのであるから、払済保険への変更はなかったものとして処理すべきものと考えられる。
 具体的には、払済保険に変更した時点で益金の額又は損金の額に算入した額を復旧した日の属する事業年度の損金の額又は益金の額に、また、払済保険に変更した後に損金の額に算入した額を復旧した日の属する事業年度の益金の額に算入することになる。
 本通達の(注)3では、このことを明らかにしている。
 なお、復旧に際して払い込まれた保険料は、当然のことながら当初の契約の保険に基づく税務上の取扱いによることとなる。

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