第8章 無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務

第1節 成立条件

(成立の要件)

100 次に掲げる要件のいずれにも該当するときは、無償譲渡等の処分(徴収令第14条第1項に規定する無償又は著しく低い額の対価による譲渡(担保の目的でする譲渡を除く。)、債務の免除その他第三者に利益を与える処分をいう。以下この章において同じ。)により権利を取得し、又は義務を免れた者は、滞納者の国税につき、第二次納税義務を負う(徴収法39条)。

  1. (1) 納税者が法定納期限の1年前の日以後に無償譲渡等の処分をしたこと。
    • イ 法定納期限の1年前の日
    • 無償譲渡等の処分が、滞納に係る国税の法定納期限の1年前の応当日の当日にされた譲渡、債務の免除その他第三者に利益を与える処分についても、徴収法第39条の規定が適用される(徴基通第39条関係2参照)。
       なお、法定納期限の1年前の応当日以後かどうかの判定は、次により行う(徴基通第39条関係2なお書参照)。
      • (イ) 法定納期限の1年前の日かどうかの判定の基準となる日
        • A 無償譲渡等の処分がされた日が、1年前の日以後かどうかの判定の基準となるのは、無償譲渡等の処分についての契約が成立した日とする。ただし、契約が成立した日とそれに基づく無償譲渡等の処分がされた時(権利を取得し、又は義務を免れた時)が異なるとき(例えば、契約によって権利移転等の時期を定めているとき)は、無償譲渡等の処分がされた日とする。
          • (注) 無償譲渡等の処分につき登記等の対抗要件又は効力発生要件の具備を必要とする財産(例えば、土地、建物、鉱業権等)については、これにかかわらずBによることに留意する。
        • B 無償譲渡等の処分につき登記等の対抗要件又は効力発生要件の具備を必要とするときは、その要件を具備した日とする(平成29.11.17大阪高判参照)。この場合において、仮登記とそれに基づく本登記があるときは本登記がされた日とし、処分禁止の仮処分の登記とその仮処分により保全された登記請求権に基づく登記があるときはその登記請求権に基づく登記がされた日(平成29.11.17大阪高判参照)とする。
           なお、譲渡等の処分がされた時が登記等の日後であることが訴訟等により明らかにされている場合には、その日によって判定する。
      • (ロ) (イ)の判定の基準となる日の調査
      • 無償譲渡等の処分が法定納期限の1年前の日以後かどうかの判定の基準となる日の調査は、次による。
        • A 無償譲渡等の処分についての契約が成立した日及び無償譲渡等の処分がされた日については、譲渡契約書、貸借対照表等の帳簿書類を調査して確認する。
           ただし、これらの帳簿書類がないか又は不明の場合においては、当事者に対する質問により確認し、必要に応じ質問てん末書等を作成する。
        • B 登記等の対抗要件又は効力発生要件の具備された日については不動産登記簿等の公簿を調査し、確認する。
    • ロ 無償譲渡等の処分
      • (イ) 無償譲渡等の処分の範囲
      • 無償譲渡等の処分とは、次に掲げるものをいうが、国及び法人税法第2条第5号《定義》に規定する法人に対するものは除かれる(徴収令14条1項)。
         また、担保の目的でする譲渡も除かれる。
        • (注) 「担保の目的でする譲渡」がされているときは徴収法第24条《譲渡担保権者の物的納税責任》の規定が適用できる場合があることに留意する。
           なお、滞納国税が無償譲渡等の処分に係る国税(例えば、売買を基因として成立した申告所得税)である場合においても、その処分は、無償譲渡等の処分に該当することに留意する(昭和44.7.2松江地判参照)。
        • A 無償譲渡等の処分の「譲渡」とは、贈与、特定遺贈、売買、交換、債権譲渡、出資、代物弁済等による財産権の移転をいい、相続(包括遺贈及び包括の名義による死因贈与を含む。以下同じ。)等の一般承継によるものは含まれない(徴基通第39条関係3)。
           なお、配偶者に対する財産分与と徴収法第39条の関係については、おおむね、98《財産分与として配偶者に事業譲渡がされた場合》に準じて処理する(昭和45.11.30東京地判参照)。

          (注)

          1. 1 包括遺贈又は包括名義の死因贈与(民法964条、554条参照)があった場合には、通則法第5条《相続による国税の納付義務の承継》の規定の適用がある。
          2. 2 強制換価手続による所有権の移転は、上記の譲渡には含まれない。
          3. 3 滞納者が、例えば、生計を一にする親族(徴基通第37条関係6、民法第725条)の生活費、学資等に充てるためにした社会通念上相当と認められる範囲の金銭又は物品の交付は、徴収法第39条に規定する「無償又は著しく低い額の対価による譲渡」には当たらない。
        • B 無償譲渡等の処分の「債務の免除」とは、民法第519条《免除》の規定による債務免除のほか、契約による債務の免除も含まれる(徴基通第39条関係4)。
        • C 無償譲渡等の処分の「その他第三者に利益を与える処分」とは、譲渡、債務の免除以外の処分のうち、滞納者の積極財産の減少の結果(滞納者の身分上の一身専属権である権利の行使又は不行使の結果によるものを除く。)、第三者に利益を与えることとなる処分をいい、例えば、地上権、抵当権、賃借権等の設定処分、遺産分割協議(平成21.12.10最高判参照)、株主に対する剰余金の配当(平成26.11.26東京高判参照)がある(徴基通第39条関係5)。
      • (ロ) 認定賞与等との関係
      • 認定賞与又は認定配当について徴収法第39条の規定を適用できるかどうかを判定するに当たっては、これらの基礎となった事実関係の内容がいかなる実体にあるかを調査した上、その結果、その事実関係が無償譲渡等の処分と認定できる場合(例えば、通常支給される賞与とは別個に、役員に対し、交際費、機密費、接待費等の名義で金銭を支給し、課税計算上賞与と認定された場合でも、それが一種の勤労の対価としての対価性がないもので、実質的には、無償譲渡等の処分に該当する場合(昭和50.3.24東京地判、昭和51.1.29東京高判参照)又は同族会社の株主に対して創業何周年記念、工事完成記念等の名称を付して金銭を支給した場合に、課税計算上配当として認定された場合で、実質的には無償譲渡の処分に該当する場合等)において適用するものとすること。この場合において、徴収法第39条を適用するときは、事前に賦課担当部門と十分な協議をし、その事績は滞納処分票等に明確に記録しておくものとする。
      • (ハ) 無償譲渡等の処分の調査
      • 無償譲渡等の処分の事実関係の調査は、イの(ロ)に準ずる。
         なお、当事者に対する質問により確認する場合は、その無償譲渡等の処分をした目的、理由についても聴取する。
    • ハ 低額譲渡
       ロの(イ)の処分が、著しく低い額の対価による譲渡(以下この章において「低額譲渡」という。)であるかどうかの判定については、次により行うものとする。
      • (イ) 低額譲渡の範囲
      • 低額によるものであるかどうかの判定については、財産の種類によって異なり、例えば、上場株式、社債等のように一般に時価が明確である財産については比較的価額の差がわずかであっても著しく低いと判定すべき場合があり、また、不動産のように通常は人により評価額を異にし、価額の差がある程度開いていたとしても著しく低い額と判定すべきでない場合がある。この場合において、値幅のある財産については、特別の事情がない限り、時価のおおむね2分の1程度に満たない価額をもって著しく低い額と判定して差し支えない(徴基通第39条関係7、平成2.2.15広島地判、平成13.11.9福岡高判参照)。
      • (ロ) 低額譲渡の判定時期
      • 低額譲渡に当たるかどうかの判定の時期は、次によるものとする。したがって、法定納期限の1年前の日以後の処分について、それが低額譲渡に当たるかどうかの判定は、その日前の時期において行う場合が生じ得る(イの(イ)参照)。
        • A 低額譲渡の判定は、Bに掲げる場合を除き、無償譲渡等の処分の基因となった契約が成立した時の現況による。したがって、条件付契約、予約契約、効力発生要件が別にある場合の契約等、契約が成立した時とそれに基づき無償譲渡等の処分がされた時(権利を取得し、又は義務を免れた時)が異なる場合があっても、契約が成立した時の現況により判定する(徴基通39条関係8、昭和50.4.22広島地判参照)。
        • B 当事者が契約成立の時に具体的な代価の額を定めなかったときは、代価の額を定めた時の現況により低額かどうか判定する。
        • (注) 契約が成立した時及び代価の額を定めた時の調査は、イの(ロ)のAに準じて行うことに留意する。
      • (ハ) 低額譲渡の判定方法
      • 低額譲渡に該当するかどうかは、当該財産の種類、数量の多寡、時価と対価の差額の大小等を総合的に勘案して、社会通念上、通常の取引に比べ著しく低い額の対価であるかどうかによって判定する(微基通第39条関係7、平成2.2.15広島地判、平成13.11.9福岡高判参照)。
         なお、この場合の対価については、次に留意する。
        • A 対価の内容
          • (A) 売買、交換又は債権譲渡については、それにより取得した金銭又は財産が、出資については、それにより取得した持分又は株式が、代物弁済についてはそれにより消滅した債務が、それぞれ対価となる(徴基通第39条関係3)。
          • (B) 債務の免除については、債務の免除と対価関係にある反対給付が対価になる(徴基通第39条関係4)。
          • (C) (A)及び(B)以外の処分のうち、地上権の設定等第三者に利益を与えることとなる処分については、地上権の設定等により受けた反対給付(例えば、権利金、礼金等)が対価となる(徴基通第39条関係5)。
        • B 対価の有無の調査
        • 対価の有無の調査は、イの(ロ)に準ずる。
        • C 対価の額の算定
        • 対価の額は、(ロ)に掲げる時におけるその額をいうが、例えば、交換については、その物の価額による。
  2. (2) 徴収不足が、無償譲渡等の処分に基因すること。
  3. 徴収不足が、無償譲渡等の処分に基因すること(以下この章において「基因関係」という。)とは、その無償譲渡等の処分がなかったならば、現在の徴収不足が生じなかったであろう場合をいう(徴基通第39条関係9)が、この判定については、次により行うものとする。
    • イ 基因関係の判定方法
    • 徴収不足である場合において滞納者が滞納国税の法定納期限の1年前の日以後に無償譲渡等の処分をしているときは、当該無償譲渡の処分と徴収不足との間に基因関係があるものとする。ただし、当該無償譲渡等の処分をした後に、滞納者がその国税の総額を徴収できる財産を取得している場合には、当該無償譲渡等の処分について、基因関係がないものとして取り扱って差し支えない(昭和52.4.20東京高判参照)。
    • (注) 国税に優先する債権を被担保債権とする担保権が設定された財産について、その被担保債権額が譲渡時に当該財産の価額を上回っている場合は、特段の事情がない限り、徴収不足が当該財産の譲渡に「基因すると認められるとき」には該当しないことに留意する(平成27.6.16福岡地判参照)。
    • ロ 無償譲渡等の処分が2以上ある場合
    • 滞納者が滞納国税の法定納期限の1年前の日以後に2以上の基因関係のある無償譲渡等の処分をしている場合には、原則として次により処理する。
      • (イ) 無償譲渡等の処分が、親族その他の特殊関係者(102参照)とそれ以外の第三者にされている場合には、まず前者から第二次納税義務を負わせることとして取り扱う。
      • (ロ) 親族その他の特殊関係者に対する無償譲渡等の処分相互又はそれ以外の第三者に対する無償譲渡等の処分相互の間では、納付通知発付時に最も近いものから第二次納税義務を負わせることとして取り扱う。
  4. (3) 滞納者に対して滞納処分(租税条約等の規定に基づく当該租税条約等の相手国等に対する共助対象国税(租税条約等実施特例法第11条の2第1項に規定する共助対象国税をいう。)の徴収の共助の要請をした場合には、当該要請による徴収を含む。)を執行してもなお徴収すべき国税の額に不足すると認められること。

(注) 徴収不足かどうかについての判定及び徴収不足の判定時期等については、21から24まで《徴収不足の判定》参照。

第二次納税義務関係事務提要主要項目別目次