第2章 清算人等の第二次納税義務

第1節 成立要件

(成立の要件(1項関係))

58 次に掲げる要件のいずれにも該当するときは、清算人又は残余財産の分配等(分配又は引渡しをいう。以下同じ。)を受けた者は第二次納税義務を負う(徴収法34条1項)。

  1. (1) 法人が解散した場合であること
  1. イ 「法人が解散した場合」の意義
  2. 「法人が解散した場合」とは、株主総会その他これに準ずる総会等で解散の日を定めたときはその日が経過したとき、解散の日を定めなかったときは解散決議をしたとき、解散事由(例えば、社員が一人となった場合)の発生により解散したときはその事由が発生したとき、裁判所の命令又は裁判により解散したときはその命令又は裁判が確定したとき、主務大臣の命令により解散したときはその命令が効力を生じたとき、休眠会社がみなし解散となったとき等をいう(会社法471条、472条、641条、824条、833条、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第148条、中小企業等協同組合法62条1項、82条の13第1項、106条4項、宗教法人法43条1項、2項、81条1項、会社更生法178条、218条等)。ただし、会社法第921条《吸収合併の登記》、第922条《新設合併の登記》、第919条《持分会社の種類の変更の登記》等の規定による解散の登記をしたときは、清算手続が行われないので、「法人が解散した場合」には含まれない。
     なお、解散は、その登記の有無を問わないことに留意する(徴基通第34条関係1本文、昭和47.9.18東京地判)。
  3. ロ 解散についての調査
  4. 解散については、商業登記簿等の公簿を調査して確認する。
     ただし、その登記がない場合においては、その法人の解散についての株主総会等の議事録、裁判所の解散命令又は解散判決、株式会社の解散の場合の裁判所及び税務署に対する異動届出書、法人税の申告書等解散の事実を証明することができる文書等を調査して、その法人の解散の事実を確認する。
  5. ハ 法人が事実上解散状態にある場合の処理
  6. 法人が解散しないで事実上解散状態にある場合には、その法人の財産の分配等がされているときでも、清算人等の第二次納税義務を負わせることはできない。この場合には徴収法第39条《無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務》、通則法第42条《債権者代位権及び詐害行為取消権》等の規定の適用ができる場合があることに留意する(徴基通第34条関係1の(注)1)。
  1. (2) 当該法人に課されるべき国税等を納付しないで、清算人が残余財産の分配等をしたこと。
  1. イ 課されるべき国税等の調査
     法人に課されるべき国税等(法人に課されるべき、又はその法人が納付すべき国税をいう。以下同じ。)とは、法人が結果的に納付しなければならないこととなる全ての国税をいい、解散の時又は残余財産の分配等の時において成立していた国税に限られない(徴基通第34条関係2)。したがって、徴収法第34条第1項の規定の適用に当たっては、賦課担当部門と密接な連携を図り、徴収漏れの生じないように留意する。
  2. ロ 残余財産の分配等の調査
  3. (イ) 分配とは、法人が清算する場合において、残余財産を株主、社員、組合員、会員等(以下この章において「株主等」という。)に原則としてその出資額に応じて分配することをいい(会社法504条、505条、666条等)、引渡しとは、法人が清算する場合において、残余財産を一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第239条《残余財産の帰属》等の規定により処分することをいう(宗教法人法50条、医療法56条等、徴基通第34条関係3参照)。
     なお、分配等は、法人が解散した後に行ったものに限らず、解散を前提にそれ以前に行った分配等も含まれる(徴基通第34条関係3なお書、昭和47.9.18東京地判参照)。

    (注)

    1. 1 株式会社が残余財産を株主の有する株式の数に応じて分配しない場合としては、会社法第108条第1項《異なる種類の株式》に規定する株式を発行している場合があること及び合名会社、合資会社又は合同会社(以下「持分会社」という。)にあっては、残余財産の分配につき定款で別段の定めがされている場合があることに留意する(会社法666条)。
    2. 2 残余財産とは、一般には法人が解散する場合に現務の結了、債権の取立て及び債務の弁済をした後に残った積極財産をいう(会社法481条、502条等)が、徴収法第34条第1項に規定する残余財産とは、国税を完納することなく、法人がその有する財産の分配等をしたときのその積極財産をいうことに留意する(昭和47.7.18広島高判、昭和47.9.18東京地判)。
       なお、清算中の法人の財産を株主等に交付した場合においても、それがその株主等に対する正当な債務の弁済であれば、その交付は、徴収法第34条第1項の残余財産の分配等には該当しないが、金銭その他の財産の交付がなくても、例えば、株主等に対する債務の免除をしたときにおいては、徴収法第34条第1項の残余財産の分配等に該当するのであるから留意する。
    3. 3 持分会社が解散しない場合において、退社又は除名された社員に対してした持分の払戻しは、徴収法第34条第1項の残余財産の分配には該当しないことに留意する。
    4. 4 法人の解散後にその財産を役員、従業員が取得した場合であっても、それらの者が株主等でないときは、分配等には該当しないことに留意する。
  4. (ロ) 分配については、清算人がその任務終了時に作成した決算報告書、清算人から株主等に宛てた残余財産分配通知書、清算人が清算開始時及び清算終了時において作成する財産目録及び貸借対照表並びにその原始記録、法人税の申告書又は定款等を調査し、また、引渡しについては、その寄付行為等の内容を調査し、それぞれ分配等を受けている事実を確認する。
     なお、これらの書類が整備されていない場合においては、その法人の最終の財産目録等を基礎としてその後の財産の移動を追及する方法により、分配等の事実を調査するものとするが、この場合においては、株主等の出資額に応じ給料、旅費等適当な名目で金銭その他の財産の分配等がされていることがあるので、その実体の把握に努める。
  5. (3) 当該法人に対して滞納処分を執行してもなお徴収すべき国税の額に不足すると認められること。
  6. (注) 徴収不足かどうかについての判定及び徴収不足の判定時期等については、21から24まで《徴収不足の判定》参照。

(成立の要件(2項関係))

59 次に掲げる要件のいずれにも該当するときは、特定清算受託者等(60の(2)参照)は第二次納税義務を負う(徴収法34条2項)。

  1. (1) 信託法第175条《清算の開始原因》に規定する信託が終了した場合であること
  2. イ 「信託が終了した場合」の意義
  3. 「信託が終了した場合」とは、信託法第175条《清算の開始原因》の規定により、次に掲げる事由によって信託が終了し、清算をしなければならない場合をいう(徴基通第34条関係15)。
  1. (イ) 信託の目的を達成したとき(信託法163条1号)。
  2. (ロ) 信託の目的を達成することができなくなったとき(信託法163条1号)。
  3. (ハ) 受託者が受益権の全部を固有財産で有する状態が1年間継続したとき(信託法163条2号)。
  4. (ニ) 受託者が欠けた場合(受託者が2人以上ある信託については、全ての受託者が欠けた場合)であって、新たな受託者が就任しない状態が1年間継続したとき(信託法163条3号、87条1項)。
  5. (ホ) 受託者が2人以上ある信託の受託者の一部が欠けた場合において、信託行為の定めによりその欠けた受託者の任務が他の受託者によって行われず、かつ、新たな受託者が就任しない状態が1年間継続したとき(信託法163条3号、87条2項)。
  6. (ヘ) 受託者が信託事務を処理するのに必要と認められるために支出した費用の償還等を受けるのに信託財産が不足している場合等において、一定の手続を行っても費用の償還等を受けられなかったこと又は委託者及び受益者が現に存しないことにより、受託者が信託を終了させたとき(信託法163条4号、52条、53条2項、54条4項参照)。
  7. (ト) 信託の終了を命ずる裁判があったとき(信託法163条6号、165条、166条参照)。
  8. (チ) 信託財産について破産手続開始の決定があった場合において、当該破産手続が終了したとき(信託法163条7号、175条参照)。
  9. (リ) 委託者が破産手続開始の決定、再生手続開始の決定又は更生手続開始の決定を受けた場合において、破産管財人等により、共にまだ履行が完了していない信託契約の解除がされたとき(信託法163条8号、破産法53条1項、民事再生法49条1項、会社更生法61条1項、金融機関等の更生手続の特例等に関する法律41条1項及び206条1項参照)。
  10. (ヌ) 信託行為において定めた事由が生じたとき(信託法163条9号)。
  11. (ル) 委託者及び受益者が信託の終了について合意したとき(信託法164条1項)。
  12. (ヲ) 遺言によってされた受益者の定めのない信託において、信託管理人が欠けた場合であって、信託管理人が就任しない状態が1年間継続したとき(信託法258条8項、3条2号参照)。
  1. ロ 信託の終了についての調査
  2. 信託の終了については、税務署に対する異動届出書、納税申告書、限定責任信託登記簿、裁判所の信託の終了命令等信託の終了の事実を証明することができる文書等を調査して、その事実を確認する。
  1. (2) 当該信託に係る清算受託者に課されるべき、又はその清算受託者が納付すべき国税を納付しないで信託財産に属する財産を残余財産受益者等に給付をしたこと。
  2. イ 清算受託者に課されるべき国税等の調査
  3. 清算受託者に課されるべき、又は清算受託者が納付すべき国税は、その納める義務が信託法第2条第9項に規定する信託財産責任負担債務となるものに限られるが(信託法21条1項参照)、信託が終了した時又は残余財産の給付の時において成立していた国税に限られない(徴基通第34条関係17)。
     なお、信託財産責任負担債務とは、受託者が信託財産に属する財産をもって履行する責任を負う債務をいい(信託法2条9項)、信託財産責任負担債務となる国税としては、例えば、次に掲げるものがある。
  1. (イ) 法人課税信託(集団投資信託、退職年金等信託、特定公益信託等を除いた信託のうち法人が委託者となる信託であって、一定の要件を備えたもの等をいう。法人税法2条29号の2参照)に係る法人税(同法4条の2参照)、消費税(消費税法15条1項参照)及び所得税(所得税法6条の2第1項参照)
  1. (ロ) 受益者等(相続税法9条の2参照)が存しない信託等において課される贈与税及び相続税(同法9条の4参照)
  2. (ハ) 信託事務を処理するに当たり支払った報酬等に対する源泉徴収に係る所得税
  1. ロ 残余財産の給付についての調査
  1. (イ) 給付とは、信託が終了した時以後に、残余財産を残余財産受益者等に、原則として信託行為に定めるところにより給付することをいう(信託法177条4号、181条、徴基通34条関係18参照)。
  2. (ロ)  給付については、清算受託者が清算開始後において作成する財産目録及び貸借対照表並びにその原始記録又は納税申告書等を調査し、給付を受けている事実を確認する。
     なお、これらの書類が整備されていない場合においては、その受託者の最終の貸借対照表等を基礎としてその後の財産の移動を追及する方法により、給付の事実を調査するものとする。
  1. (3) 当該清算受託者に対して滞納処分を執行してもなお徴収すべき国税の額に不足すると認められること。
  2. (注) 徴収不足かどうかについての判定及び徴収不足の判定時期等については、21から24まで《徴収不足の判定》参照。

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