通則法に規定する納税の猶予には、1納税者が災害により、その財産につき相当な損失を受けた場合において、納期限が到来していない一定の国税について認められるもの(通則法第46条第1項。以下「相当な損失を受けた場合の納税の猶予」という。)、2納税者に、災害を受け、若しくは病気にかかり、又は事業の休廃止をした等の事実がある場合において、その該当する事実に基づき、納税者がその納付すべき国税を一時に納付することができないときに認められるもの(同条第2項。以下「通常の納税の猶予」という。)、3一定の期間が経過した後に納付すべき税額が確定した場合において、納税者がその国税を一時に納付することができない理由があるときに認められるもの(同条第3項。以下「一定期間後に税額が確定した場合の納税の猶予」という。)の3種類がある。

この章は、上記の納税の猶予のうち、通常の納税の猶予及び一定期間後に税額が確定した場合の納税の猶予の取扱いについて定めたものである。

なお、相当な損失を受けた場合の納税の猶予及び通常の納税の猶予のうち、震災、風水害等の災害を受けた場合の取扱いについては、昭和53年6月21日付官総4−21ほか9課共同「『災害被災者に対する租税の軽減免除、納税の猶予等に関する取扱要領』の全部改正について」(事務運営指針)(以下「災免事務取扱要領」という。)の定めによるほか、この取扱要領により処理する。

また、相互協議に係る納税の猶予の処理については、平成13年6月25日付官協1−39ほか7課共同「相互協議の手続について」(事務運営指針)に定めるところにより処理する。

第1節 通常の納税の猶予の要件等

通常の納税の猶予は、納税者に通則法第46条第2項各号のいずれかに該当する事実(以下「猶予該当事実」という。)があり、その該当する事実に基づき、納税者がその納付すべき国税を一時に納付することができないと認められる場合において、その納付困難な金額を限度として、納税者の申請に基づき、1年の範囲内で納税を猶予するものである。

4 通常の納税の猶予の要件

(1) 要件

通常の納税の猶予を認めることができるのは、次に掲げる要件の全てに該当する場合であり(通則法第46条第2項、第5項)、具体的には下記(2)から(8)までに定めるところによる。

  • イ 納税者に猶予該当事実があること。
  • ロ 猶予該当事実に基づき、納税者がその納付すべき国税を一時に納付することができないと認められること。
  • ハ 納税者から納税の猶予の申請書が提出されていること。
  • ニ 相当な損失を受けた場合の納税の猶予の適用を受ける場合でないこと。
  • ホ 原則として、納税の猶予の申請に係る国税の額に相当する担保の提供があること。

(2) 通常の納税の猶予を受けることができる者

通常の納税の猶予を受けることができる者は、通則法第2条第5号《定義》に規定する納税者、国税の保証人及び第二次納税義務者である(通則法第52条第6項、徴収法第32条第3項による通則法第4章第1節の規定の準用)。

なお、次に掲げる者は、通常の納税の猶予を受けることができない(徴基通第24条関係9(3)、第151条関係1、第151条の2関係1参照)。

  • イ 通則法第38条第3項《繰上保全差押え》の規定の適用を受ける者
  • ロ 通則法第52条第1項《担保の処分》の規定により処分を受ける担保財産の所有者である物上保証人
  • ハ 徴収法第24条第1項《譲渡担保権者の物的納税責任》の規定の適用を受ける譲渡担保権者
  • ニ 徴収法第159条第1項《保全差押え》の規定の適用を受ける納税義務があると認められる者

(注)

  1. 1 国税の保証人及び第二次納税義務者が納税の猶予を受けることができるのは、これらの者に猶予該当事実がある場合に限られる(徴基通第32条関係13参照)。
  2. 2 国税の納付義務の承継の場合において、被相続人、被合併法人等(以下「被承継人」という。)の国税につき納税の猶予又はその申請がされているときは、その効力が納付義務を承継した相続人、合併法人等に承継される(通基通第5条関係7、第6条関係2、第7条関係3参照)。
  3. 3 通則法第38条第3項《繰上保全差押え》の規定の適用を受けた者及び徴収法第159条第1項《保全差押え》の規定の適用を受けた者については、その納付すべき国税の額が確定した後においては、通常の納税の猶予を受けることができることに留意する。

(3) 猶予該当事実

「猶予該当事実」とは、次に掲げる事実に該当するものであって、その事実が納税者の責めに帰することができないやむを得ない理由により生じたものに限られる(通基通第46条関係8−2)。

そのため、著しい損失が生じた原因が第三者に対する金銭の贈与である場合など、その事実が納税者の責めに帰すべき事由により生じた場合は、猶予該当事実に当たらない。

  • イ 納税者がその財産につき、震災、風水害、落雷、火災その他の災害を受け、又は盗難にかかったこと(通則法第46条第2項第1号)。
    「その他の災害」とは、おおむね次に掲げる事実をいう(通基通第46条関係8−3、第46条関係1参照)。
    • (イ) 地すべり、噴火、干害、冷害、海流の激変その他の自然現象の異変による災害
    • (ロ) 火薬類の爆発、ガス爆発、鉱害、天然ガスの採取等による地盤沈下その他の人為による異常な災害
    • (ハ) 病虫害、鳥獣害その他の生物による異常な災害
  • ロ 納税者又はその者と生計を一にする親族が病気にかかり、又は負傷したこと(通則法第46条第2項第2号)。
    • (イ) 「生計を一にする」とは、納税者と有無相助けて日常生活の資を共通にしていることをいい、納税者がその親族と起居を共にしていない場合においても、常に生活費、学資金、療養費等を支出して扶養している場合が含まれる。
      なお、親族が同一の家屋に起居している場合には、明らかに互いに独立した生活を営んでいると認められる場合を除き、これらの親族は生計を一にするものとする(通基通第46条関係9)。
    • (ロ) 「親族」とは、民法第725条各号《親族の範囲》に掲げる六親等内の血族、配偶者及び三親等内の姻族をいう。
      なお、婚姻又は縁組の届出はしていないが、事実上、納税者と婚姻関係又は養親子関係にある者は、親族と同様に取り扱うものとする(通基通第46条関係10)。
  • ハ 納税者がその事業を廃止し、又は休止したこと(通則法第46条第2項第3号)。
    「事業を廃止し、又は休止した」とは、法令の規定又は業績の著しい悪化等のやむを得ない理由により、事業の全部又は一部を廃止(転業したものを含む。)又は休止したことをいう(通基通第46条関係11)。
  • ニ 納税者がその事業につき著しい損失を受けたこと(通則法第46条第2項第4号)。
    • (イ) 「事業につき著しい損失を受けた」とは、調査日(納税の猶予期間の始期の前日をいう。以下この章において同じ。)以前1年間(以下この章及び29において「調査期間」という。)の損益計算において、調査期間の直前の1年間(以下「基準期間」という。)の税引前当期純利益の額(以下この章において「利益金額」という。)の2分の1を超えて税引前当期純損失が生じていると認められる場合(基準期間において税引前当期純損失が生じている場合には、調査期間の税引前当期純損失の額(以下この章において「損失金額」という。)が基準期間の損失金額を超えているとき)をいう(通基通第46条関係11−2)。
      なお、調査期間内において、例えば、購入予定の資材の高騰、在庫商品の価額の下落、取引先の都合による売買契約の解除等の損失発生の原因となるような事実(季節変動等による恒常的なものを除く。以下4において「損失原因」という。)があり、その事実の発生した日(損失原因が継続的に発生していたような場合には、最初にその事実が生じたと認められる日)の特定ができる場合には、その日以降調査日までの間に生じたと認められる損失金額と基準期間の利益金額(損失が生じている場合には、損失金額)のうち損失原因の生じた日以降調査日までの期間に対応する期間の利益金額(又は損失金額)とを比較して上記の判定を行っても差し支えない。
    • (注) 猶予期間の始期については、下記6(2)《猶予期間の始期》に定めるところによる。
    • (ロ) 上記(イ)に該当するか否かの判定に当たっては、調査期間及び基準期間のそれぞれについて仮決算を行うこととなるが、調査日又は基準期間の末日に近接した時期において特定の損益計算期間が終了している場合には、その期間の損益計算の結果を基に、上記の利益金額又は損失金額を算定して差し支えない。
      なお、納税者が帳簿等を備えていない場合又は帳簿等による調査が困難である場合には、納税者からの聞き取りを中心に調査する等その状況に応じ、妥当と認められる方法により利益金額又は損失金額を算定して差し支えない。
    • (注) 特定の損益計算期間の結果を基に調査期間及び基準期間の利益金額又は損失金額を算定する場合は、法人については損益計算書の税引前当期純利益又は税引前当期純損失の金額を、個人の青色申告者については青色申告決算書における青色申告特別控除前の所得金額、個人の白色申告者については収支内訳書における専従者控除前の所得金額を用いることとする。
    • (ハ) 上記(イ)及び(ロ)の損失の認定に当たって、徴収上の支障があると認められるときは、資金計算上の観点から所要の調整を行う。
  • ホ 納税者に災害、盗難又は病気、負傷に類する事実があったこと(通則法第46条第2項第5号(第1号又は第2号に類するもの))。
    「災害、盗難又は病気、負傷に類する事実」とは、おおむね次に掲げる事実をいう(通基通第46条関係12(1))。
    • (イ) 詐欺、横領等により財産を喪失したこと。
    • (ロ) 交通事故の損害賠償(使用者責任による場合を含む。)をしたこと。
    • (ハ) 公害の損害賠償をしたこと。
    • (ニ) 納税者の取引先等である債務者について、おおむね次に掲げる事実が生じたため、その債務者に対する売掛金等(売掛金のほか、前渡金、貸付金、その他これらに準ずる債権を含み、また、これらの債権について受領した受取手形のうち割り引かれていない部分の金額及び割り引かれているものであっても、不渡り等のため買戻しを行ったものを含む。以下同じ。)の回収が不能又は著しく困難になったと認められること(従前に比べて決済に要する期間が著しく長期化したと認められる場合を含む。)。
      • A 所在不明又は無財産になったこと。
      • B 事業の不振又は失敗により休廃業に至ったこと。
      • C 企業担保権の実行手続の開始決定があったこと。
      • D 破産手続開始の決定があったこと。
      • E 会社法の規定による特別清算開始の命令があったこと。
      • F 法律の定める整理手続によらないが、債権者集会による債務整理の決定があったこと。
      • G 手形交換所において取引の停止処分を受けたこと。
      • H 災害、盗難、詐欺、横領により財産の大部分の喪失があったこと。
      • I 会社更生法又は金融機関等の更生手続の特例等に関する法律の規定による更生手続開始の決定があったこと。
      • J 民事再生法の規定による再生手続開始の決定があったこと。
      • K 外国倒産処理手続承認の決定があったこと。
    • (ホ) 納税者と生計を一にする親族以外の者で、納税者の親族その他納税者の親族と同視できる特殊の関係にある者が病気にかかり又は負傷したこと。
  • ヘ 納税者に事業の休廃止又は事業上の著しい損失に類する事実があったこと(通則法第46条第2項第5号(第3号又は第4号に類するもの))。
    「事業の休廃止又は事業上の著しい損失に類する事実」とは、おおむね次に掲げる事実をいう(通基通第46条関係12(2))。
    • (イ) 納税者の経営する事業に労働争議があり、事業を継続できなかったこと。
    • (ロ) 事業は継続しているものの、交通、運輸若しくは通信機関の労働争議又は道路工事若しくは区画整理等による通行路の変更等により、売上の著しい減少等の影響を受けたこと。
    • (ハ) 市場の悪化、取引先の被災、親会社からの発注の減少等により、従前に比べ納税者の事業の操業度の低下又は売上の著しい減少等の影響を受けたこと。
    • (ニ) 著しい損失の状態が生じたとまではいえないものの、それに近い税引前当期純損失の状態が生じる原因となった売上の著しい減少又は経費の著しい増加が生じたこと。
    • (ホ) 納税者が著しい損失(事業に関するものを除く。)を受けたこと。
    • (注) 「売上の著しい減少」とは、単に従前に比べて売上が減少したというだけでは足りず、事業の休廃止若しくは事業上の著しい損失があったのと同視できるか又はこれに準ずるような重大な売上の減少があったことをいう(平成23.5.26名古屋高判参照)。

(4) 猶予該当事実と納付困難との関係

  • イ 「猶予該当事実に基づき納付することができない」とは、納税者に上記(3)《猶予該当事実》に掲げる事実があったことにより、資金の支出又は損失があり、その資金の支出又は損失のあることが国税を一時に納付することができないことの原因となっていることをいう(通基通第46条関係12−2)。
  • ロ 「国税を一時に納付することができない」(以下「納付困難」という。)とは、納税者に納付すべき国税の全額を一時に納付する資金がないこと、又は納付すべき国税の全額を一時に納付することにより納税者の事業の継続若しくは生活の維持を困難にすると認められる場合をいう(通基通第46条関係12−3)。

    (注) 納付困難であるかどうかについては、下記63から66まで《現在納付能力調査》に定める現在納付能力調査に基づいて判定する。

(5) 通常の納税の猶予の申請

納税者が通常の納税の猶予を受けようとする場合には、所要の事項を記載した納税の猶予申請書(徴収事務提要(様式編)に掲載している徴収関係様式(以下「様式」という。)307010-005)に所定の書類を添付し、税務署長(国税局長及び沖縄国税事務所長を含む。以下同じ。)に提出しなければならない(通則法第46条の2第2項、通則令第15条の2第2項、第3項)。

(注)

  1. 1 納税の猶予申請書に記載すべき事項及び添付書類については、下記29《通常の納税の猶予申請書の提出》に定めるところによる。
  2. 2 通則法第46条第2項(第1号、第2号又は第5号(第1号又は第2号に類するもの))の規定による納税の猶予をする場合において、納税者が申請に当たって添付書類を提出することが困難であると認められるときは、添付書類の提出を要しない(通則法第46条の2第5項、通基通第46条の2関係2)。

(6) 相当な損失を受けた場合の納税の猶予との関係

「相当な損失を受けた場合の納税の猶予の適用を受ける場合を除く」とは、上記(5)の申請に係る国税につき、現に相当な損失を受けた場合の納税の猶予を受けておらず、かつ、受ける見込みがない場合をいう。

なお、相当な損失を受けた場合の納税の猶予を受けている納税者がその災害に基因して、その納税の猶予期間内に猶予に係る税額の全部又は一部を納付することができないと認められるときは、この節の定めるところにより、通常の納税の猶予を適用することができる(通則法第46条第2項柱書後段)。

(注) 納税者が相当な損失を受けた場合の納税の猶予の適用を受けていない場合において、当該猶予を適用することができると認められるときは、その要件及び申請手続等について説明するものとする。

(7) 換価の猶予との関係

換価の猶予を受けている国税について、その猶予期間中に通常の納税の猶予の申請があった場合において、納税の猶予の要件に該当するときは、その換価の猶予を取り消した上で、納税の猶予を適用するものとする。

(8) 担保の提供及び徴取

  • イ 担保を徴する場合
    税務署長は、通常の納税の猶予をする場合には、次のロに掲げる場合を除き、納税の猶予に係る国税の額に相当する担保を徴さなければならない(通則法第46条第5項本文)。

    (注) 担保の提供及び徴取手続については、下記39から43まで《担保》に定めるところによる。

  • ロ 担保を徴しないことができる場合
    次のいずれかに該当する場合には、担保を徴しないこととして差し支えない(通則法第46条第5項ただし書)。
    • (イ) 猶予に係る国税の額が100万円以下である場合
      「猶予に係る国税の額が100万円以下である場合」の判定は、納税の猶予の申請時において、その猶予を受けようとする国税以外に猶予の申請中の国税又は既に猶予をしている国税があるときは、これらの国税の額を含めて行う(通基通第46条関係13−7)。
    • (ロ) 納税の猶予の期間が3月以内である場合
    • (ハ) 担保を徴することができない特別の事情がある場合
      「担保を徴することができない特別の事情」とは、おおむね次に掲げる場合をいう(通基通第46条関係14)。
      • A 通則法第50条各号《担保の種類》に掲げる種類の財産がなく、かつ、保証人となる適当な者がいない場合
      • B 通則法第50条各号に掲げる種類の財産があるものの、その担保の見積価額が猶予に係る国税及びこれに先立つ抵当権等により担保される債権その他の債権の合計額を超える見込みがない場合
      • C 担保を徴することにより、事業の継続又は生活の維持に著しい支障を与えると認められる場合
    • (ニ) 納付委託に係る有価証券の提供により、納税の猶予に係る国税につき担保の提供の必要がないと認められるに至った場合(通則法第55条第4項)
      「必要がないと認められるに至ったとき」とは、納付委託を受けた証券の取立てが最近において特に確実であり、不渡りとなるおそれがないため、納付委託に係る国税が確実に徴収できると認められる場合等をいう(通基通第55条関係9)。

5 通常の納税の猶予をする金額

(1) 通常の納税の猶予をする金額及びその調査

通常の納税の猶予をする金額は、下記(2)により調査した猶予該当事実に基づく支出又は損失(以下「猶予該当支出等」という。)の合計額(下記63から66まで《現在納付能力調査》に定める現在納付能力調査によって判定した納付困難と認められる金額がその金額を下回る場合には、その納付困難と認められる金額)を限度とする。このため、納税の猶予の申請があった場合には、調査日現在の状況に基づいて猶予該当支出等を把握するための調査を行う。ただし、調査日現在における調査が困難である場合には、臨場等による調査の日の状況から、適宜その調査日現在の猶予該当支出等を算定して差し支えない。

なお、猶予該当支出等の調査に当たり、納税者が帳簿等を備えていない場合又は帳簿等による調査が困難である場合には、納税者からの聞き取りを中心に調査する等適宜な方法によって判定して差し支えない。

(2) 猶予該当支出等の範囲

  • イ 共通事項
    • (イ) 猶予該当支出等は、原則として、猶予該当事実が発生した日から調査日までの期間におけるものを認めるものとする。
    • (ロ) 下記ロ《猶予該当事実ごとの猶予該当支出等の範囲》に掲げるもののほか、猶予該当事実(上記4(3)《猶予該当事実》ヘに掲げるものを除く。)があったことにより、事業等の全部又は一部の休廃止を余儀なくされた場合には、その休廃止に伴い減少したと認められる利益の額に相当する金額を猶予該当支出等として認めて差し支えない。この場合においては、下記ロにより、猶予該当事実ごとに掲げている個々の資金の支出又は損失の額と重複して計算することのないよう留意する。
    • (ハ) 猶予該当支出等のうち、通則法第46条第2項各号の二以上に該当するものがある場合には、猶予金額及び延滞税の免除額を勘案し、それぞれの猶予該当支出等として重複しないように計算する。
    • (ニ) 猶予該当支出等に対応するものとして、調査日までに受領した保険金、補償金、賠償金等がある場合には、その受領した金額を猶予該当支出等から控除する。ただし、納税者が請求することができる保険金、補償金、賠償金等で、調査日までに受領していないものについて、調査日後これらを受領する見込みのある場合には、下記67から70まで《見込納付能力調査》の見込納付能力調査における資金収支見込みにおいて、特別収入見込みに加算することとし、猶予該当支出等からは控除しないものとする。
    • (ホ) 調査の結果、猶予該当支出等がある場合には、その資金の額が上記4(4)《猶予該当事実と納付困難との関係》の納付困難の原因となっているものとする。
      なお、猶予該当事実があった後、例えば、事業の継続又は生活の維持のために必要と認められない投資、資産の購入等のための支出があり、その支出額が異常に多額である場合等、最近において猶予該当支出等と相反する使途の支出があることが明らかであって、かつ、猶予該当支出等の範囲内の金額につき納税の猶予をすることが徴収上著しい支障があると認められる場合を除き、猶予該当支出等と相反する使途の支出を考慮することなく猶予該当支出等を計算して差し支えない。
  • ロ 猶予該当事実ごとの猶予該当支出等の範囲
    猶予該当支出等として認容する範囲は次のとおりとする。
    • (イ) 納税者が、その財産につき、震災、風水害、落雷、火災その他の災害を受け、又は盗難に遭った場合
      上記4(3)《猶予該当事実》イに掲げる事実があった場合の猶予該当支出等は、災害又は盗難に基づく現実の損失の額の合計額とし、その金額は、次により計算する。
      • A 災害又は盗難に遭った財産が事業用資産のうちの流動資産である場合には、その災害又は盗難による損失の額、例えば、商品については、災害を受けた商品の災害時における再調達価額又は製造原価に相当する金額とする。ただし、調査対象商品が膨大である等のため、これにより難い場合には、災害又は盗難に遭った時期に近接する時期における財務諸表等に計上されている価額を参考として計算して差し支えない。
      • B 災害又は盗難に遭った財産が事業用資産のうちの固定資産又は非事業用資産(生活の維持のために通常必要と認められないものを除く。)である場合には、その財産を災害又は盗難直前の状況に回復するために必要な復旧費の金額又は災害、盗難に遭った財産に相当する代替財産(経済的効用において災害、盗難に遭った財産に代わるものを含む。)を取得するために調査日までに支出した金額及び調査日後支出する見込みの金額のうち、申請に係る納税の猶予の期間中に支出される見込みの金額とする。
        なお、納税者が復旧等の意思を有し、具体的な復旧計画が立てられる場合には、徴収上の支障のない限り、その総額につき認めて差し支えない。
      • C 災害又は盗難に基づいて出費を余儀なくされるもの、例えば、災害を受けた財産の取壊費用、整理費及び消防費等の出費がある場合には、間接的な損失の額として認めるものとする。
      • D 猶予該当事実が調査日から1年以上前に生じており、それに伴って、調査日から1年以上前に現実に支出した金額があるときは、その金額が借入れによって調達されたことが確認される場合であって、かつ、その借入金が調査日前1年内に返済され、又は調査日後に返済され若しくは返済される見込みである場合に限り、その返済された、又は返済される見込みの金額だけを認めるものとする。
    • (ロ) 納税者又はその者と生計を一にする親族が病気にかかり、又は負傷した場合
      上記4(3)《猶予該当事実》ロに掲げる事実があった場合の猶予該当支出等は、病気又は負傷により要する医療費及び病気又は負傷があったことにより支出を余儀なくされる費用で、調査日までに支出した金額及び調査日後支出する見込みの金額のうち申請に係る納税の猶予の期間中に支出される見込みの金額とする。ただし、病気又は負傷の事実が調査日から1年以上前に生じている場合において、それに伴って調査日から1年以上前に現実に支払った金額があるときは、上記(イ)Dに準ずるものとする。
    • (ハ) 納税者がその事業を廃止し、又は休止した場合
      上記4(3)《猶予該当事実》ハに掲げる事実があった場合の猶予該当支出等は、事業の廃止又は休止に基づくおおむね次に掲げる金額(調査日前1年以内のものに限る。)とする。
      なお、調査日後に支出する見込みの金額がある場合には、その金額のうち申請に係る納税の猶予期間中に支出する見込みの金額を猶予該当支出等とするものとする。
      • A 在庫品の投売り等、原価を割って売却した場合のその損失の額
      • B 機械、設備等を廃棄又は処分した場合のその損失の額
      • C 売掛金等で回収困難となった部分の金額
      • D 従業員を解雇又は一時帰休させるために支払った退職金又は一時手当等の金額
      • E 転業等のためのやむを得ない支出の額(例えば、転業のための改造費、店舗の移転費、不動産の登記等に要する金額)
    • (ニ) 納税者がその事業につき著しい損失を受けた場合
      上記4(3)《猶予該当事実》ニに掲げる事実があった場合の猶予該当支出等は、その事実の判定方法に応じ、その著しい損失に当たるかどうかの認定基準とした金額を超えた部分の損失の額に相当する金額とする。
    • (ホ) 納税者に災害、盗難又は病気、負傷に類する事実があった場合
      上記4(3)《猶予該当事実》ホに掲げる事実があった場合の猶予該当支出等については、その事実に応じて生じた支出又は損失の額について上記(イ)又は(ロ)に準じて算定する。
      なお、売掛金等の回収が不能又は著しく困難になった場合の猶予該当支出等は、調査日におけるその売掛金等の金額(調査日の1年以上前から上記4(3)《猶予該当事実》ホ(ニ)に掲げる事実が生じた債務者に係る売掛金等については、調査日前1年間における増加金額とする。)から、調査日における売掛金等の総額の100分の5相当額を控除した残額に相当する金額とする。
    • (ヘ) 納税者に事業の休廃止又は事業上の著しい損失に類する事実があった場合
      上記4(3)《猶予該当事実》ヘに掲げる事実があった場合の猶予該当支出等については、その事実に応じて生じた支出又は損失の額について、上記(ハ)又は(ニ)に準じて算定する。
      なお、労働争議により事業の継続ができなかったこと又は親会社からの発注の減少があったこと等の特別の事情により、従前に比べて売上金額等の減少があったと認められる場合には、その減少した売上金額等に見合う売上総利益に相当する金額を猶予該当支出等として差し支えない。

6 通常の納税の猶予をする期間等

(1) 猶予期間

通常の納税の猶予をする期間は、1年を限度として、納税者の財産の状況その他の事情からみて、その猶予に係る国税を完納することができると認められる最短期間とする(通基通第46条関係7)。

(2) 猶予期間の始期

猶予期間の始期は、納税の猶予申請書に記載された日とする。ただし、その日が猶予該当事実が生じた日より前であるなど、その日を始期とすることが適当ではないと認めるときは、別にその始期を指定することができる(通基通第46条関係8)。

(注)

  1. 1 納税の猶予申請書に記載された日が猶予を受けようとする国税の法定納期限以前の日であるときは、当該法定納期限の翌日をその始期とする。
  2. 2 災害を受けた場合など、猶予該当事実の生じた日が明らかであると認められる場合には、その猶予該当事実が生じた日をその始期とすることができる(通基通第46条関係8また書き)。

(3) 合理的かつ妥当な金額による分割納付

通常の納税の猶予をする場合には、その猶予期間内において、その猶予に係る金額をその納税者の財産の状況その他の事情からみて合理的かつ妥当なものに分割して納付させることができる(通則法第46条第4項)。

この場合において、「納税者の財産の状況その他の事情からみて合理的かつ妥当なもの」とは、納税者の財産の状況その他の事情からみて、納税者の事業の継続又は生活の維持を困難にすることなく猶予期間内の各月において納付することができる金額であって、かつ、その猶予に係る国税を最短で完納することができる金額をいう(通基通第46条関係13−6)。

なお、通常の納税の猶予をする場合は、災害、病気等により納税者の資力が著しく低下している場合を除き、その猶予に係る金額を猶予期間内の各月(税務署長がやむを得ないと認めるときは、その期間内の税務署長が指定する月)に分割して納付させるものとし(通基通第46条関係13−5)、この場合は、分割納付の各納付期限(以下「分割納付期限」という。)及び分割納付期限ごとの納付金額(以下「分割納付金額」という。)を定めるものとする。

(注) 納税の猶予に当たって分割して納付させる場合は、その猶予に係る金額を納税者の財産の状況その他の事情からみて合理的かつ妥当なものに分割するため、分割後の金額は必ずしも一定ではないことから、通則法第119条第3項《国税の確定金額の端数計算等》の規定の適用はない(通基通第119条関係2注書き)。

(4) 1年以内に完納が見込まれない場合の取扱い

通則法第46条第2項の要件を満たす場合において、納付能力調査の結果、納税の猶予をしようとする国税の完納までに要する期間が1年を超えると認められるときは、猶予期間を1年間とし、1年を超える部分の金額は猶予期間の最終月の分割納付金額として処理するものとする。

(注) 猶予期間の延長については、下記50から52まで《猶予期間の延長》に定めるところによる。

納税の猶予等の取扱要領主要項目へ戻る