第4節 換価執行決定の取消し

この節は、換価執行決定の取消し及び換価執行決定の取消しに伴う手続について定めたものである。

(換価執行決定を取り消さなければならない場合)

173 次に掲げる場合には、換価執行決定の取消しをする。

(1) 特定参加差押えを解除したとき(徴収法第89条の3第1項第1号)。

(注) 2以上の参加差押えに基づき換価執行決定をした場合において、そのうちの一部の参加差押えのみを解除したときは、換価執行決定を取り消す必要はないことに留意する(徴基通第89条の3関係1)。

(2) 特定差押えが解除されたとき(徴収法第89条の3第1項第2号)。

(注)

  • 1 換価同意行政機関等の滞納処分による差押えが解除された場合において、当該換価同意行政機関等による参加差押えに差押えの効力が生じる場合(この場合の差押えを「旧差押え」、参加差押えを「新差押え」という。以下、本項(注)1において同じ。)は、次の(1)から(3)に該当する場合を除き、換価執行決定を取り消す必要はないことに留意する(徴収令第42条の3)。
    (1) 新差押えに係る不動産につき強制執行等が開始されている場合(徴収令第42条の3第1項第1号)
     滞納処分による差押え後に強制執行等による差押えがされている場合において、その強制執行等による差押え前に滞納処分による参加差押えがされているときは、滞納処分による差押えが解除されたとしても、当該参加差押えに係る差押えの効力は、強制執行等による差押え以前にさかのぼらないものとされている(滞調法第13条第2項による準用後の滞調法第5条第3項)。
     このため、旧差押えが解除されたとしても、新差押えの差押えの効力は、強制執行等による差押え以前にさかのぼらないものとされているため、強制執行等が進められることとなることから、換価執行決定を取り消す。
    (2) 新差押えよりも先にされた交付要求がある場合(徴収令第42条の3第1項第2号)
     参加差押えより先にされた交付要求がある場合は、当該交付要求の配当順位は参加差押えに優先するところ、差押えが解除され、参加差押えが差押えの効力を生じた場合は、当該交付要求は効力を失い、配当から除外される。
     この場合には、換価執行決定に従い、当初の配当順位を維持することは適当でないことから、換価執行決定を取り消す。
    (3) 旧差押えが解除される前にその旧差押えに係る不動産を換価したとすれば消滅する権利で、新差押えに係る不動産の換価に伴い消滅しないものがある場合(徴収令第42条の3第1項第3号)
     旧差押えの登記と新差押えの登記の間に、第三者に対抗できる用益物権等がある場合には、その用益物権等の存続が、旧差押えの解除の前後で異なり(旧差押えの解除前の換価の場合は旧差押えに劣後するため消滅し、旧差押えの解除後の換価の場合は新差押えに優先するため消滅しない)、見積価額を変更する必要があることから、換価執行決定を取り消す(徴基通第89条の3関係2)。
     ただし、これらの用益物権等の設定前に、換価によって消滅する質権、抵当権、先取特権、留置権、買戻権又は担保のための仮登記がある場合には、その用益物権等も消滅し、見積価額を変更する必要がないことから、換価執行決定を取り消す必要はない(徴基通第89条関係9)。
  • 2 特定差押えの解除に伴い、特定参加差押えに差押えの効力が生じる場合は、換価執行決定を取り消した上で、換価手続を続行することができる(徴収法第89条の4、177)。

(3) 特定参加差押不動産の価額が特定参加差押えに係る滞納処分費及び特定参加差押えに係る国税に先立つ他の国税、地方税その他の債権の合計額を超える見込みがなくなったとき(徴収法第89条の3第1項第3号)。

(4) 特定参加差押えに係る滞納者につき換価の執行をすることによってその生活を著しく窮迫させるおそれがあると認められるとき(徴収法第89条の3第1項第4号、徴収令第42条の3第2項)。

(換価執行決定を取り消すことができる場合)

174 次に掲げる場合には、換価執行決定の取消しをすることができる。

(1) 特定参加差押えに係る国税の一部の納付、充当、更正の一部の取消し、特定参加差押不動産の価額の増加その他の理由により、その価額が特定参加差押えに係る国税及びこれに先立つ他の国税、地方税その他の債権の合計額を著しく超過すると認められるに至ったとき(徴収法第89条の3第2項第1号、徴基通第89条関係6、7)。

(2) 滞納者が他に差し押さえることができる適当な財産を提供した場合において、その財産を差し押さえたとき(徴収法第89条の3第2項第2号、徴基通第89条の3関係8)。

(3) 特定参加差押不動産について、3回公売に付しても入札等がなかった場合において、その特定参加差押不動産の形状、用途、法令による利用の規制その他の事情を考慮して、更に公売に付しても買受人がないと認められ、かつ、随意契約による売却の見込みがないと認められるとき(徴収法第89条の3第2項第3号、徴基通第89条の3関係9)。

(注) 上記の公売の回数には、換価執行決定前に換価同意行政機関等において行った公売の回数を含める(徴基通第79条関係10)。

(4) 特定参加差押えに係る国税につき納税の猶予又は換価の猶予をしたとき。

(5) 国税に関する法律の規定により換価することができない期間が終了するまでに長期間を要すると認められるとき(徴基通第89条関係6、徴基通第89条の3関係10(1))。

(6) 換価執行行政機関等が納付受託をしたとき(通則法第55条、徴基通第89条の3関係10(2))。

(7) 次に掲げる場合において、換価執行行政機関等が換価執行決定を取り消すことを相当と認めるとき(徴基通第89条の3関係10(1))。

イ 換価同意行政機関等が納税の猶予をしたとき。

(注) 換価同意行政機関等が換価の猶予をしたときは、換価執行決定の取消しは要しない。
 ただし、滞納者の現況に鑑み、換価手続の継続の適否について検討すること。

ロ 換価同意行政機関等の処分に対する不服申立て又は訴訟が提起された場合において、その争点が差押財産の帰属など、換価執行行政機関等の参加差押えの違法事由となりうるものであるとき。

(8) 他の法律で定める納税の猶予又は換価の猶予をしたとき(会社更生法第169条第1項、租税特別措置法第40条の3の4等)。

(9) 換価執行行政機関等が徴収の猶予をしたとき(通則法第23条第5項、第105条第2項、第6項)。

(10) 換価執行決定に係る国税に関する訴訟の終了まで長期間を要すると見込まれるとき(徴収法第90条第3項)。

(11) 換価執行決定に係る国税に関する不服申立てについての決定又は裁決まで長期間を要すると見込まれるとき(通則法第105条第2項、第6項)。

(12) 会社更生法の規定により換価が制限される期間が終了するまで長期間を要すると見込まれるとき(会社更生法第50条第6項)。

(13) 行政事件訴訟法の規定により、換価執行行政機関等の換価が制限される期間が終了するまでに長期間を要すると見込まれるとき(行政事件訴訟法第25条第2項)。

(注) 不服申立てなどにより、換価が一定期間制限された場合であっても、制限期間を経過すれば再び換価を行うことができるため、換価制限期間が長期間に及ぶと見込まれる場合でなければ取消しをする必要はない。
 なお、不服申立てに続き訴訟が提起された場合には、換価は制限されないため、換価執行行政機関等による換価を行うことができる。
 ただし、行政事件訴訟法第25条第2項の規定により処分の執行の停止を命ぜられた場合は、換価手続を停止することに留意する。

(換価執行決定を取り消した旨の通知)

175 換価執行決定を取り消した換価執行行政機関等は、速やかに、次に掲げる者に対し、その旨を「換価執行決定取消通知書」(様式306020-061〜063)により通知する(徴収法第89条の3第3項)。

(1) 換価同意行政機関等(特定差押えが解除されたことによる取消しの場合を除く)

(2) 滞納者

(3) 特定参加差押不動産につき交付要求をした者

(注)

  • 1 上記の「滞納者」には、徴収法第24条《譲渡担保権者の物的納税責任》の規定により追及を受けた譲渡担保権者及び担保物処分の場合における当該担保物の差押え時の所有者が含まれることに留意する(徴基通第54条関係12、第100条関係12参照)。
  • 2 特定参加差押不動産の換価代金から配当を受ける権利を有する者(47(1)ハ、ニ、ホに掲げる者)については、換価執行決定を取り消した旨の通知は要しない(172(注)2参照)。

(交付要求書等の引渡し)

176 換価執行決定の取消しをする場合において、特定参加差押不動産につき当該換価執行決定の取消し前に交付要求を受けているとき(徴収法第89条の4の規定により換価を続行する場合を除く)は、次に掲げる書類を各行政機関等へ引き渡す(徴収令第42条の3第4項、第5項)。

(1) 特定差押えの解除以外の事由により換価執行決定を取り消す場合
 交付要求書等及び差押関係書類(徴収令第42条の3第4項第1号に規定する差押関係書類をいう。以下同じ。)を換価同意行政機関等に引き渡す(徴収令第42条の3第4項第1号)。

(2) 特定差押えが解除されたことにより換価執行決定を取り消す場合
 参加差押書(特定差押えの解除により差押えの効力を生ずべき参加差押えに係る参加差押書を除く。)及び差押関係書類を特定参加差押えの解除により差押えの効力を生ずべき参加差押えをした行政機関等に引き渡す(徴収令第42条の3第4項第2号)。

(注)

  • 1 交付要求書等及び差押関係書類の原本を引き渡すことができないときは、その写しの引渡しで差し支えない。
  • 2 上記により交付要求書等の引渡しがあった場合には、その引き渡された交付要求書等に係る交付要求をした行政機関等は、その交付要求をした時に、その引渡しを受けた行政機関等に対して交付要求をしたものとみなされ、その引き渡された交付要求書等及び差押関係書類については、当該行政機関等に提出されたものとみなされる(徴令第42条の3第5項)。
     なお、差押え等の順序による書類の引渡し等の例を示すと、次のとおりである。

〔設例1〕
 次の順序により差押え等が行われた場合(徴収法第89条の3第1項第1号、徴収令第42条の3第4項第2号該当)

  • ① 甲市長による差押え
  • ② 乙税務署長による参加差押え
  • ③ 丙市長による交付要求
  • ④ 乙税務署長による換価執行決定(甲市長は、丙市長から提出された交付要求書を乙税務署長へ引き渡す。)
  • ⑤ 丁市長による交付要求(乙税務署長に提出)
  • ⑥ 乙税務署長による参加差押え解除に伴い換価執行決定取消し

〔書類の引渡し等〕
 乙税務署長は、丙市長及び丁市長から提出された交付要求書を甲市長に引き渡す。
 この場合、丙市長による交付要求は3の時、丁市長による交付要求は5の時に、それぞれ甲市長に対してされたものとみなされる。

〔設例2〕
 次の順序により差押え等が行われた場合(徴収法第89条の3第1項第2号、徴収令第42条の3第4項第2号該当)

  • 1 甲市長による差押え
  • 2 丙市長による参加差押え
  • 3 乙税務署長による参加差押え
  • 4 丁市長による交付要求
  • 5 乙税務署長による換価執行決定(甲市長は丙市長及び乙税務署長から提出された参加差押書と、丁市長から提出された交付要求書を乙税務署長へ引き渡す。)
  • 6 戌市長による交付要求(乙税務署長に提出)
  • 7 甲市長による差押え解除(丙市長による参加差押えが差押えに繰り上がる。)に伴い、換価執行決定取消し

〔書類の引渡し等〕
 乙税務署長は、自署の参加差押書を丙市長に引き渡す。

(注) 丙市長から提出された参加差押書は引渡しを要しない(徴収令第42条の3第4項第2号の中欄かっこ書)。
 この場合、乙税務署長による参加差押えは、3の時に丙市長に対してされたものとみなされる。
 なお、丁市長及び戌市長による交付要求は、効力を失う。

〔設例3〕
 次の順序により差押え等が行われた場合(徴収法第89条の3第1項第2号、徴収令第42条の3第4項第2号該当)

  • 1 甲市長による差押え
  • 2 乙税務署長による参加差押え
  • 3 丙市長による参加差押え
  • 4 丁市長による交付要求
  • 5 乙税務署長による換価執行決定(甲市長は、乙税務署長及び丙市長から提出された参加差押書と、丁市長から提出された交付要求書を乙税務署長へ引き渡す。)
  • 6 戌市長による交付要求(乙税務署長に提出)
  • 7 甲市長による差押え解除(乙税務署長による参加差押えが差押えに繰り上がる。)に伴い、換価執行決定取消兼続行決定(徴収法第89条の4、177参照)

〔書類の引渡し等〕
 乙税務署長による換価が続行するため、書類の引渡し等は不要。
 なお、丙市長による参加差押えは3の時、丁市長による交付要求は4の時、戌市長による交付要求は6の時に、それぞれ乙税務署長に対してされたものとみなされる。

〔設例4〕
 次の順序により差押え等が行われた場合(徴収法第89条の3第1項第2号、徴収令第42条の3第4項第2号該当)

  • 1 甲市長による差押え
  • 2 甲市長による参加差押え
  • 3 乙税務署長による参加差押え
  • 4 丙市長による交付要求
  • 5 乙税務署長による換価執行決定(甲市長は、甲市長及び乙税務署長から提出された参加差押書と、丙市長から提出された交付要求書を乙税務署長へ引き渡す。)
  • 6 丁市長による交付要求(乙税務署長に提出)
  • 7 裁判所による競売開始決定
  • 8 甲市長による差押え解除(甲市長による参加差押えが差押えに繰り上がる。)に伴い、換価執行決定取消し
    (注) 甲市長による参加差押えに差押えの効力が生じるが、裁判所による競売開始決定がされているため、換価執行決定を取り消す(徴収令第42条の3第1号該当)。

〔書類の引渡し等〕
 乙税務署長は、自署の参加差押書を甲市長に引き渡す。
 なお、乙税務署長による参加差押えは、3の時に甲市長に対してされたものとみなされる。
 また、丙市長及び丁市長による交付要求は効力を失う。

〔設例5〕
 次の順序により差押え等が行われた場合(徴収法第89条の3第1項第2号非該当、徴収令第42条の3第4項参照)

  • 1 甲市長による差押え
  • 2 甲市長による参加差押え
  • 3 丙市長による交付要求
  • 4 乙税務署長による参加差押え
  • 5 丁市長による交付要求
  • 6 乙税務署長による換価執行決定(甲市長は、甲市長及び乙税務署長から提出された参加差押書と、丙市長及び丁市長から提出された交付要求書を乙税務署長へ引き渡す。)
  • 7 戌市長による交付要求(乙税務署長に提出)
  • 8 甲市長による差押え解除(甲市長による参加差押えが差押えに繰り上がる。)

〔書類の引渡し等〕
 換価執行決定を取り消す必要がなく、乙税務署長による換価が継続するため、書類の引渡し等は要しない。

(換価の続行)

177 特定差押えが解除された場合において、換価執行決定の取消しに係る特定参加差押えにつき差押えの効力が生ずるときは、換価執行決定の取消しをした換価執行行政機関等は、当該換価執行決定に基づき行った換価手続を、当該差押えによる換価手続とみなして、換価を続行することができる(徴収法第89条の4、173(2)(注)2参照)。

(注)

  • 1 特定差押えと特定参加差押えの間に質権等の設定をした質権者等は、差押えの効力を生ずる特定参加差押えに対抗できることとなるため、速やかに当該質権者等に対して「公売通知書」を送付するとともに、債権現在額申立書を徴取することに留意する。
  • 2 次の場合は換価を続行することができないことに留意する。
    (1) 差押不動産につき強制執行等が開始されている場合(徴収法89条の4第1号)
    (2) 換価執行行政機関等が行った換価執行決定の取消しに係る参加差押えよりも先にされた交付要求がある場合(徴収法第89条の4第2号)
    (3) 特定差押えが解除される前に特定参加差押不動産を換価したとすれば消滅する権利で、差押不動産の換価に伴い消滅しないものがある場合(徴収法第89条の4第3号)
    (4) 特定差押えと特定参加差押えの間に設定された質権等に配当が生じる場合において、差押えの効力が生ずる特定参加差押えに係る国税への配当見込みがない場合(配当見込みの有無が入札日のおおむね1週間前において判明しない場合においても同様に取り扱う。)

(換価の続行をする旨の通知)

178 換価の続行をする場合は、換価執行行政機関等は、速やかに、次に掲げる者に対し、その旨を「換価執行決定取消通知書兼公売手続の続行通知書」(様式306020-065・066)により通知する(徴収法第89条の3第3項、徴収令第42条の4後段)。

(1) 滞納者

(2) 特定参加差押不動産につき交付要求をした者

(注)

  • 1 特定差押えの解除により換価執行決定を取り消した場合には、換価同意行政機関等への通知は要しない。
  • 2 上記の「滞納者」には、徴収法第24条《譲渡担保権者の物的納税責任》の規定により追及を受けた譲渡担保権者及び担保物処分の場合における当該担保物の差押え時の所有者が含まれることに留意する(徴基通第54条関係12、第100条関係12参照)。
  • 3 特定参加差押不動産の換価代金から配当を受ける権利を有する者(47(1)ハ、ニ、ホに掲げる者)については、換価執行決定を取り消した旨の通知は要しない(172(注)2参照)。

(換価の続行をした場合における交付要求の効力)

179 換価の続行があった場合には、換価執行決定を取り消した行政機関等が、特定参加差押不動産につき換価執行決定の取消し前に交付を受けた交付要求書等に係る交付要求は、次に掲げる時に、それらの交付要求書等に係る交付要求の順序に従い、当該行政機関等に対して交付要求をしたものとみなされる(徴収令第42条の4前段)。
 なお、差押えの効力を生ずる参加差押えの解除がされるまで、その交付要求の効力は維持されることに留意する。

(1) その交付要求が換価執行決定前にされたものである場合は、交付要求書等が換価同意行政機関等に送達された時

(2) その交付要求が換価執行決定以後にされたものである場合は、交付要求書等が換価執行行政機関等に送達された時

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