この章は、国税に関する法律の規定に基づく処分につき、税務署長又は国税不服審判所長に対して不服申立てがあった場合等における換価事務の処理手続について定めたものである。

(不服申立てと換価の制限)

159 換価の実施手続中において、国税に関する法律の規定に基づく処分に対して不服申立てがあった場合には、次の事項に留意する。

 (注) 特定参加差押不動産の換価において、換価同意行政機関等に対する不服申立ては、その争点が差押財産の帰属など、換価行政機関等の参加差押えの違法事由となり得るものであるときは、換価執行決定の取消しを検討する(徴基通第89条3関係10参照)。

(1) 換価の制限
 当該不服申立てに係る国税の徴収のため差し押さえた財産(特定参加差押不動産を含む。)の滞納処分による換価は、その財産の価額が著しく減少するおそれがあるとき又は不服申立人(不服申立人が処分の相手方でないときは、不服申立人及び処分の相手方)から別段の申出があるときを除き、その不服申立てについての決定、裁決又は取下げがあるまでは、することができないこと(通則法第105条第1項ただし書)。

(2) 滞納処分の続行の停止等
 税務署長は、必要があると認めるときは、当該不服申立てをした者の申立てにより又は職権で、不服申立ての目的となった処分に係る国税の全部若しくは一部の徴収を猶予し、又は滞納処分の続行の停止をすることができるから、これらの猶予又は続行の停止があったときは、その後の換価手続は進めることができないこと(通則法第105条第2項参照)。
 また、税務署長は、国税不服審判所長から徴収の猶予若しくは滞納処分の続行の停止を求められ、又は差押えをしないこと若しくはその差押えの解除を求められたときは、審査請求の目的となった処分に係る国税の全部若しくは一部の徴収を猶予し若しくは滞納処分の続行を停止し、又はその差押えをせず、若しくはその差押えを解除しなければならないから、このときは、その後の換価処分は進めることはできないこと(通則法第105条第6項参照)。

(3) 差押えの解除
 不服申立てをした者が、担保を提供して、不服申立ての目的となった処分に係る国税につき、滞納処分による差押えの解除の請求をした場合において、税務署長が相当と認めるときは、その差押えの解除をすることができること(通則法第105条第3項)。

(4) 換価の留保
 税務署長に対してされた再調査の請求に対する決定があった場合において、その決定が却下、棄却、一部取消し又は事実行為の一部の撤廃であるときには、当該決定に係る通則法第77条第2項《審査請求の期限》に規定する「審査請求書」の提出期限までは、換価は行わないこととして取り扱うこと(徴基通第90条関係11参照)。
 なお、この場合には通則法第77条第2項ただし書《正当な理由がある場合の不服申立期間の延長》の規定は考慮しないこととして差し支えない。

(注)

1 不動産等についての公売公告(随意契約による売却の通知を含む。)から売却決定までの処分に対する不服申立ては、通則法第77条第1項《不服申立ての期限》又は同条第2項《審査請求の期限》に規定する期限と、徴収法第171条第1項第3号《不動産等の換価処分に関する不服申立ての期限の特例》の換価財産の買受代金の納付の期限とのうち、いずれか早い方の期限までにしなければならないことに留意する(徴収法第171条第1項参照)。

2 不動産等についての公売公告(随意契約における売却の通知(90の(3))を含む。)から売却決定までの処分及び換価代金等の配当に係る再調査の請求書又は審査請求書が郵便又は信書便により提出された場合には、郵便物又は信書便物の通信日付印により表示された日にその提出がされたものとみなす旨の通則法第22条の規定は準用されないことから、原則どおり、これらの再調査の請求書又は審査請求書が税務署長又は国税不服審判所長に到達した時にその提出がされたことになる。したがって、再調査の請求又は審査請求が適法な不服申立期間(同法第11条、第77条第1項から第3項まで)内にされたものか否かについては、これらの再調査の請求書又は審査請求書が税務署長又は国税不服審判所長に到達した日により判断することに留意する(徴収法第171条第3項参照)。

(不服申立てがあった場合の換価の制限に関する処理)

160 国税に関する法律の規定に基づく処分に対する不服申立てがあった場合において、換価制限に該当することとなったときにおける換価に関する処理は、次による。

(1) 公売公告前の場合
  公売公告前に換価制限に該当することとなった場合には、公売公告以下の換価手続をしないこと。ただし、当該不服申立ての速やかな却下又は棄却が明らかに予見される場合で、特に換価を必要とするときは、(2)に準じ換価手続を進めても差し支えない。この場合においては、「公売公告」及び「公売通知書」に不服申立て中である旨及び売却決定の日時までに換価制限が解除されないときは、当該日時には売却決定をしない旨を記載すること。

(2) 公売公告後売却決定前の場合

イ 公売公告後売却決定前に換価制限に該当することとなった場合においては、その後の換価手続を中止すること。ただし、当該不服申立ての速やかな却下又は棄却が明らかに予見され、特に換価を必要とするときは、入札等の終了の告知(徴収法第106条第1項)までの手続を進めて差し支えないが、売却決定はしないこと。この場合においては、公売参加者及び最高価申込者等に対し不服申立て中である旨及び売却決定の日時前に換価制限が解除されないときは、当該日時には売却決定をしない旨を適宜の方法により周知すること。
 なお、この場合において、最高価申込者等の決定をしているときは、その最高価申込者等に対し換価制限中は、「換価財産の買受申込等取消申出書」(様式308020-057)によりその入札等を取り消すことができる旨を適宜の方法により周知するものとする(徴収法第114条参照)。

ロ イにより売却決定をしなかった場合において、売却決定の日時前に換価制限の解除があったときは、その売却決定の日時に売却決定を行う等そのまま換価手続を進めること。

ハ 売却決定の日時以後に換価制限の解除があったときは、次の措置をとった上で換価手続を続行すること。

(イ) 売却決定の日時及び買受代金の納付の期限を変更し、その旨の公売公告の変更の公告をするとともに、先に公売通知をした者に対しては公売通知の変更の通知をすること。この場合においては、変更に係る売却決定の日の前日までに再度「債権現在額申立書」を提出すべき旨を催告すること。

(ロ) (イ)の変更後の売却決定の日時は、公売通知の変更の通知をする日から起算して相当の期間(おおむね10日程度とする。)を経過した日とすること。

(ハ) (イ)の変更後の買受代金の納付の期限は、変更後の売却決定の日とすること。ただし、変更前の買受代金の納付の期限が55(納付の期限の延長)による納付の期限の延長に係るものである場合には、(ロ)の変更後の売却決定の日に変更前の延長期間の日数を加えて算出した日とすること。

(ニ) 「配当計算書」の謄本は、(ハ)の買受代金の納付の期限に基づく買受代金の納付の日から3日以内に発送するものとし、この発送の日を基として換価代金等の交付期日を決定すること。

(3) 売却決定後買受代金の納付前の場合

イ 売却決定後買受代金の納付前に換価制限に該当することとなった場合には、買受代金の領収はしないものとする。この場合においては、買受人に対し、換価制限中は、その買受けを取り消すことができる旨を適宜の方法により周知するものとする(徴収法第114条参照)。

ロ イにより買受代金の納付が制限されていた場合において、買受代金の納付の期限前に換価制限の解除があったときは、そのまま手続を進めることとし、当該納付の期限以後に換価制限の解除があったときは、次の措置をとった上で手続を続行すること。

(イ) 買受代金を納付すべき最終の日時を定めその旨を適宜の方法により買受人に通知すること。

(ロ) (イ)の買受代金の納付の日時は、買受人に対して(イ)の通知を発する日から起算して相当の期間(おおむね10日程度とする。)を経過した日とすること。

(注) 不動産等の売却決定等の処分に関する不服申立てがあった場合の当該不服申立ての期限の特例(徴収法第171条第1項第3号)に係る「換価財産の買受代金の納付の期限」とは、当該公売に係る公売公告をした当初の納付の期限であることに留意する。

(ハ) (イ)による買受代金を納付すべき最終の日時を定めたときは、先に確認した債権額につき、売却決定後における債権額の異動を調査確認すること。この場合においては、既に「債権現在額申立書」を提出していた者に対し、買受代金を納付すべき最終の日時を適宜の方法により通知するとともに、その後の異動がある場合には、当該日時の前日までにその異動後の債権額を申し出る旨を併せて通知するものとする。

(ニ) 「配当計算書」の謄本は、(ロ)による買受代金の納付の日時に係る買受代金の納付の日から3日以内に発送するものとし、この発送の日を基として換価代金等の交付期日を決定すること。

(4) 買受代金の納付の期限後の場合
 買受代金の納付の期限後においては、換価制限はされないから、通常の手続に従い、換価財産について権利移転の手続をすること(徴収法第171条第1項第3号参照)。

(不服申立てがあった場合の換価処分の続行停止に関する処理)

161 国税に関する法律の規定に基づく処分に対する不服申立てがあった場合において、通則法第105条第2項《滞納処分の続行停止等》の規定による換価処分の続行の停止(以下「続行停止」という。)があったときの滞納処分による換価に関する処理は、次による。

(1) 公売公告前の場合
 公売公告前に続行停止があった場合には、その停止期間中は、公売公告以下の換価手続をしないこと。

(2) 公売公告以後公売の日時前の場合
 公売公告以後公売の日時前に続行停止があった場合には、入札等を行わず、続行停止がなくなった後に新たに公売公告以下の換価手続をすること。

(注) 上記の新たな公売公告は、再公売の手続によるものではないことに留意する。

(3) 公売の日時以後売却決定前の場合及び売却決定以後買受代金の納付の期限前の場合
 公売の日時以後売却決定前に続行停止があった場合の処理については、160(不服申立てがあった場合の換価の制限に関する処理)の(2)に、また、売却決定以後買受代金の納付の期限前に続行停止があった場合の処理については、160の(3)に、それぞれ準ずること。

(訴訟と換価の制限)

162 訴訟と換価処分との関係については、特に次の事項に留意する。

(1) 第二次納税義務者等が訴えを提起した場合
 次に掲げる場合には、それぞれの訴訟の係属する間は、当該国税につき滞納処分による財産の換価をすることができないこと(徴収法第90条第3項、第24条第3項)。この場合の換価制限に関する処理は160(不服申立てがあった場合の換価の制限に関する処理)と同様である。

イ 第二次納税義務者又は保証人が、その「納付通知書」による告知、「納付催告書」による督促又はこれらに係る国税に関する滞納処分につき訴えを提起した場合

ロ 譲渡担保権者が、譲渡担保権者に対する「告知書」による告知又はこれらに係る国税に関する滞納処分につき訴えを提起した場合

ハ 担保のための仮登記の権利者に対して差押えを通知し、当該仮登記の権利者がその通知に係る差押えにつき訴えを提起した場合

(2) 執行停止があった場合
 国税に関する法律の規定に基づく処分で、不服申立てをすることができるものの取消しを求める訴え又は無効確認の訴え((1)に掲げるものを除く。)が係属する場合であっても、これによって換価処分の執行又はその手続の続行は制限されないが(行政事件訴訟法第25条第1項、第38条第3項)、行政事件訴訟法第25条第2項《執行停止》の規定による執行停止が換価処分を停止するものである場合には、当該換価処分はできないこと。この場合における換価手続の停止に関する処理は161(不服申立てがあった場合の換価処分の続行停止に関する処理)と同様である。

(滞納処分の中止等に関する処理)

163 会社更生法の規定に基づく滞納処分の中止命令(会社更生法第24条第2項)又は包括的禁止命令(会社更生法第25条第1項)に係る換価処分の中止又は禁止並びに更生手続開始の決定があった場合の滞納処分の制限及び滞納処分の中止(会社更生法第50条第2項)に係る換価処分の制限及び中止があった場合における換価手続の中止等に関する処理は、161(不服申立てがあった場合の換価処分の続行停止に関する処理)と同様である。

(滞納処分の失効に関する処理)

164 企業担保権の実行手続の開始の決定があったことにより実行手続に対する関係において滞納処分が失効したとき(企業担保法第28条)は、その実行手続の継続する期間中は、公売公告以下の換価手続をしないものとし、既に換価手続が開始されているときは、その換価手続を中止し、その実行手続が実行の申立ての取下げ又は実行手続の開始の決定の取消しにより終結した後、新たに公売公告以下の換価手続をするものとして取り扱う。

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