第2節 特殊な場合の配当

(国税につき徴した担保財産を換価した場合)

117 国税につき徴した担保財産を換価したときは、当該国税に対しては他の国税及び地方税に優先して配当する(徴収法第14条)。
 なお、上記の配当に当たっては、次に留意する。

  1. (1) 担保財産が納税者の所有に属する場合(担保権の設定時において第三者の所有に属していた場合を除く。)において、その財産について先順位の抵当権等があっても、その被担保債権には、当該担保を徴した国税の法定納期限等以前に当該先順位の抵当権等の設定又は登記がされていない限り、その国税よりも劣後して配当すること(徴収法第2章、徴基通第14条関係8)。
  2. (2) 担保財産が第三者の所有に属する場合(担保権の設定時において納税者の所有に属していた場合を含む。)において、その財産について先順位の抵当権等があるときは、その被担保債権には、当該担保を徴した国税に優先して配当すること(徴基通第14条関係9)。

(納税者が譲渡した担保権付財産を換価した場合)

118 滞納者甲が他に国税に充てるべき十分な財産がない場合において、甲がその国税の法定納期限等後に登記した抵当権等を設定した財産を乙に譲渡し、その財産を乙の国税の滞納処分により換価した場合において、甲の国税につき交付要求を受けたときの配当は、次による(徴収法第17条、第22条、第23条、徴基通第22条関係8)。

  1. (1) 第1次配当計算
    1. イ その財産の売却代金からその登記した抵当権等の被担保債権に配当すべき金額(以下「抵当権等が配当を受けることができる額」という。)を定める。
    2. ロ 次に、乙の国税に充てるべき金額を定める。
  2. (2) 第2次配当計算
     次のイからロに掲げる金額を控除した金額を限度として、抵当権等が配当を受けることができる額から甲の国税に配当すべき金額(以下「徴収可能額」という。)を定める。
    1. イ 抵当権等が配当を受けることができる額
    2. ロ その財産を甲の財産とみなし、その財産の換価代金につき甲の国税の交付要求があったものとした場合にその抵当権等の被担保債権に配当すべき金額(以下「譲渡がなかった場合の抵当権等の配当額」という。)
  3. (3) 最終配当額
    1. イ 登記した抵当権等の被担保債権には、抵当権等が配当を受けることができる額から徴収可能額を控除した金額を配当する。
    2. ロ 乙の国税には、(1)のロの金額を配当する。
    3. ハ 甲の国税には、徴収可能額を配当する。
       上記による配当を計算例によって示せば、次のとおりである。

設例1

設例2

設例3

(国税及び地方税等と私債権とが競合する場合)

119 差押えに係る国税が地方税等(他の国税、地方税又は公課をいう。以下この項において同じ。)及び私債権と競合する場合において、差押えに係る国税が地方税等に優先し、私債権がその地方税等に劣後し、かつ、その国税に優先するとき又は差押えに係る国税が地方税等に劣後し、私債権がその地方税等に優先し、かつ、その国税等に劣後するときの配当は、次による(徴収法第26条、徴基通第26条関係1)。
 なお、上記以外の場合で、国税、地方税等及び私債権が競合し、これらの債権間の優先順位が交錯してその順位を定めることができないときは徴収法第26条《国税及び地方税等と私債権との競合》の規定に準ずるものとすることに留意する(徴基通第26条関係1のなお書)。

  1. (1) 優先配当
     丸1強制換価手続の費用又は直接の滞納処分費(徴収法第9条、第10条)、丸2滞納処分による換価に際して発生し、かつ、徴収職員に通知があった酒税等及び道府県たばこ税若しくは市町村たばこ税又は軽油引取税その他総務大臣が指定する法定外普通税(144、徴収法第11条、地方税法第14条の4)、丸3留置権の被担保債権(徴収法第21条)、丸4差押え時に動産又は登録自動車若しくは登記建設機械を占有していた者についての前払借賃に係る債権(徴収法第59条第3項、第4項、第71条第4項)、丸5不動産保存の先取特権等の被担保債権(徴収法第19条)につき、丸1から丸5の順序に従ってそれぞれの債権に配当する。
  2. (2) (1)以外の債権への配当
    1. イ 配当計算
       国税及び地方税等並びに私債権((1)に掲げるものを除く。)について、法定納期限等(地方税等のこれらに相当する納期限等を含む。)又は設定、登記、譲渡若しくは成立の時期の古いものから順次に徴収法第2章《国税と他の債権との調整》又は地方税法その他の法律の規定を適用して、丸1国税及び地方税等に配当すべき金額の総額並びに、丸2私債権に配当すべき金額の総額を定める。
    2. ロ 最終配当額
      1. (イ) イの丸1の金額を国税優先の原則(徴収法第8条)若しくは国税及び地方税の調整の規定(徴収法第12条から第14条まで)又は地方税その他の法律のこれらに相当する規定により順次国税及び地方税に配当する。
      2. (ロ) イの丸2の金額を民法その他の法律の規定による優先順位に従い順次私債権に配当する(徴基通第26条関係7参照)。
         上記による配当を計算例によって示せば、次のとおりである。
        設例

(納税者が担保財産を再取得した場合等)

120 納税者が所有する財産上に抵当権等を設定した後、当該担保財産を第三者に譲渡し、更にその納税者が当該担保財産を再取得した場合等の配当については、次によるものとする。

  1. (1) 納税者が担保財産を再取得した場合
     納税者が所有する財産上に抵当権等を設定した後当該担保財産を第三者に譲渡し、更にその納税者が当該担保財産を再取得した場合におけるその納税者の国税とその抵当権等の被担保債権との調整については、(3)に掲げる場合を除き、徴収法第17条《譲受前に設定された質権又は抵当権の優先(同法第23条第3項で準用する場合を含む。)》の規定は適用されず、徴収法第15条《法定納期限等以前に設定された質権の優先》、第16条《法定納税納期限等以前に設定された抵当権の優先》又は第23条《法定納期限等以前にされた仮登記により担保される債権の優先等》の規定により処理すること(徴基通第17条関係2)。
     なお、上記の場合において、抵当権等の被担保債権の譲渡を受けた者又は質権若しくは抵当権に代位した者があるときにおいても、上記と同様に処理することに留意する(徴基通第22条関係6参照)。
  2. (2) 譲渡の取消し等があった場合において譲受人が設定した抵当権等がある場合
     納税者の所有する財産を譲り受けた者が、第三者のため抵当権等を設定した後にその譲渡が取り消された場合(詐害行為として取り消された場合を含む。)、解除された場合又は無効である場合において、それらの効果を第三者である抵当権者等に対して主張できないとき(例えば、売買が虚偽表示である場合には、善意の第三者である抵当権者等に対して、その無効を主張することはできない(民法第94条第2項)。)は、その抵当権等がその譲受け前に設定があったものとみなして徴収法第17条《譲受前に設定された質権又は抵当権の優先》の規定を適用して処理すること(徴基通第17条関係1の(注)4)。
  3. (3) 納税者が担保財産を再取得した場合において第三者が設定した抵当権等がある場合
     納税者が所有する財産上に抵当権等を設定した後その担保財産を第三者に譲渡し、その第三者がその担保財産上に抵当権等を設定し、更にその後納税者がその担保財産を再取得した場合の当該納税者の国税及び担保財産上の抵当権等の被担保債権に対する配当については、119(国税及び地方税等と私債権とが競合する場合)の方法に準じて処理すること(徴基通第17条関係7)。
     上記による配当を計算例によって示せば、次のとおりである。
    設例

(譲渡担保財産を換価した場合)

121 譲渡担保財産を換価した場合の配当については、特に次の事項に留意する。

  1. (1) 設定者の国税で換価した場合
     譲渡担保財産を譲渡担保権の設定者の国税(徴収法第24条第1項《譲渡担保権者の物的納税責任》により譲渡担保財産から徴収する国税をいう。以下同じ。)で換価した場合の配当は、次によること。
    1. イ 譲渡担保財産となる前に抵当権等又は先取特権の設定等がない場合
       譲渡担保財産上に抵当権等又は先取特権の設定がない場合において譲渡担保権者の国税等(譲渡担保権者が納付すべき固有の国税又は地方税をいう。以下同じ。)の交付要求があったときは、差押先着手(徴収法第12条)及び交付要求先着手(徴収第法13条)の規定が適用されること。
       ただし、この場合において、譲渡担保権者の国税等の交付要求の後に譲渡担保権の設定者の国税等(徴収法第24条第1項《譲渡担保権者の物的納税責任》の規定により譲渡担保財産から徴収する国税又は地方税をいう。以下同じ。)の交付要求があったときは、当該設定者の国税等には、先にされた譲渡担保権者の国税等に優先して配当すること(徴収令第9条第2項前段、地方税法施行令第6条の9第2項前段)。
        また、設定者の国税等の交付要求が2以上あるときは、これらの交付要求の先後により配当すること(徴収令第9条第2項後段、地方税法施行令第6条の9第2項後段)。
    2. ロ 譲渡担保財産となる前に抵当権等又は先取特権の設定等がある場合
      1. (イ) 設定者の国税と抵当権等又は先取特権の被担保債権との関係
         設定者の国税の法定納期限等は、当該譲渡担保権者に対する「告知書」を発した日となるので、当該財産上の抵当権等又は先取特権の被担保債権は、原則として設定者の国税に優先すること(徴収法第15条、第16条、第19条、第20条、第23条、徴基通第24条関係20の(1)のイ)。この場合において、徴収法第22条《担保権付財産が譲渡された場合の国税の徴収(同法第23条第3項において準用する場合を含む。)》の規定により、その登記された抵当権等の被担保債権につき配当を受けるべき金額から設定者の国税を徴収できるときは、同条に規定する手続によりその国税を徴収することができる(徴基通第24条関係20の(1)のロ)。
      2. (ロ) 譲渡担保権者の国税等と抵当権等又は先取特権の被担保債権との関係
         当該譲渡担保財産につき譲渡担保権者の国税等の交付要求があるときは、抵当権等又は先取特権の被担保債権は、原則として、譲渡担保権者の国税等に優先すること(徴収法第17条、第19条、第20条、第23条第3項、地方税法第14条の11、第14条の13、第14条の14、第14条の17第3項、徴基通第24条関係20の(2))。
      3. (ハ) 設定者の国税と譲渡担保権者の国税等との関係
         譲渡担保財産から徴収できる設定者の国税は、交付要求に係る譲渡担保権者の国税等の法定納期限等及び交付要求の先後とは関係なく、原則として、譲渡担保権者の国税等に優先すること(徴収令第9条、徴基通第24条関係20の(3))。

        (注) 譲渡担保権者の国税等が、徴収法第14条《担保を徴した国税の優先》の規定に該当する場合には、設定者の国税は譲渡担保権者の国税等に劣後することに留意する。

      4. (ニ) 設定者の国税と譲渡担保権者の国税等と抵当権等又は先取特権の被担保債権との関係
         当該譲渡担保財産につき、譲渡担保権者の国税等について交付要求があるときは、原則として、まず、第一に抵当権等又は先取特権の被担保債権に、第二に設定者の国税に、第三に交付要求に係る譲渡担保権者の国税等に(交付要求に係る譲渡担保権者の国税等が2以上あるときはその先後による。)それぞれ配当する。
         なお、この場合において、当該譲渡担保財産につき、担保権付財産が譲渡された場合の国税の徴収の規定の適用により交付要求ができるとき(徴収法第22条第5項、第23条第3項)の配当は(イ)の後段と同様である(徴基通第24条関係20の(4))。
         上記による配当を計算例によって示せば、次のとおりである。
        設例
    3. ハ 譲渡担保財産となった後に抵当権等又は先取特権の設定等がある場合
      1. (イ) 設定者の国税と抵当権等又は先取特権の被担保債権との関係
         設定者の国税の法定納期限等は、当該譲渡担保権者に対する「告知書」を発した日となるので、その日と抵当権等又は先取特権の設定登記等の日とを比較し、法定納期限等以前に設定された質権等の優先の規定(徴収法第15条、第16条、第18条から第20条まで、第23条)によりその優劣を定めること(徴基通第24条関係21の(1))。
      2. (ロ) 譲渡担保権者の国税等と抵当権等又は先取特権の被担保債権との関係
         当該譲渡担保財産につき、譲渡担保権者の国税等の交付要求があるときは、当該譲渡担保権者の国税等の法定納期限等と抵当権等又は先取特権の設定登記等の日とを比較し、法定納期限等以前に設定された質権等の優先の規定(徴収法第15条、第16条、第18条から第20条まで、第23条)により、その優劣を定めること(徴基通第24条関係21の(2))。
      3. (ハ) 設定者の国税と譲渡担保権者の国税等との関係
         設定者の国税は、原則として譲渡担保権者の国税等に優先すること(徴基通第24条関係21の(3))。

        (注) 譲渡担保権者の国税等が、徴収法第14条《担保を徴した国税の優先》の規定に該当する場合には、設定者の国税は譲渡担保権者の国税等に劣後することに留意する。

      4. (ニ) 設定者の国税と譲渡担保権者の国税等と抵当権等又は先取特権の被担保債権との関係
         設定者の国税と譲渡担保権者の国税等と抵当権等又は先取特権の被担保債権との間の優先関係が定まらない場合には、119(国税及び地方税等と私債権とが競合する場合)により処理すること(徴基通第24条関係21の(4))。
    4. ニ 譲渡担保財産上に譲渡の前後に抵当権等又は先取特権の設定等がある場合
       納税者が抵当権等又は先取特権の設定等がある財産を譲渡担保財産とした後、更に当該譲渡担保財産上に抵当権等又は先取特権の設定等があった場合における抵当権等又は先取特権の被担保債権と設定者の国税と譲渡担保権者の国税等との優先関係については、ロ及びハと同様に処理すること(徴基通第24条関係22)。
        上記による配当を計算例によって示せば、次のとおりである。
      設例
  2. (2) 譲渡担保権者の国税で換価した場合
     譲渡担保財産を譲渡担保権者の国税で換価した場合の配当は、次による。
    1. イ 譲渡担保財産となる前に抵当権等又は先取特権の設定等がない場合
       譲渡担保財産上に譲渡担保財産となる前に抵当権等又は先取特権の設定等がない場合において、設定者の国税等の交付要求があったときは、その交付要求に係る設定者の国税等には、譲渡担保権者の国税に優先して配当すること(徴収令第9条第1項、地方税法施行令第6条の9第1項)。
    2. ロ 譲渡担保財産となる前に抵当権等又は先取特権の設定等がある場合
       譲渡担保財産上に譲渡担保財産となる前に抵当権等又は先取特権の設定等がある場合において、設定者の国税等の交付要求があったときの配当は、次による。
      1. (イ) 設定者の国税等と抵当権等又は先取特権の被担保債権との関係
         設定者の国税等と抵当権等又は先取特権の被担保債権との関係については、(1)のロの(イ)と同様であること。
      2. (ロ) 譲渡担保権者の国税と抵当権等又は先取特権の被担保債権との関係
         譲渡担保権者の国税と抵当権等又は先取特権の被担保債権との関係については、(1)のロの(ロ)と同様であること。
      3. (ハ) 譲渡担保権者の国税と設定者の国税等との関係
         譲渡担保権者の国税と設定者の国税等との関係は、(1)のロの(ハ)と同様であること。
      4. (ニ) 譲渡担保権者の国税と設定者の国税等と抵当権等又は先取特権の被担保債権との関係
         当該譲渡担保財産につき設定者の国税等の交付要求があるときは、原則としてまず第一に抵当権等又は先取特権の被担保債権に、第二に交付要求に係る設定者の国税又は地方税に(交付要求に係る設定者の国税等が2以上あるときはその先後による。)、第三に譲渡担保権者の国税に配当すること。この場合において、当該譲渡担保財産につき、担保権付財産が譲渡された場合の国税の徴収の規定により交付要求をすることができる場合(徴収法第22条第5項)の配当は、(1)のロの(ニ)の後段と同様であること。
    3. ハ 譲渡担保財産となった後に抵当権等又は先取特権の設定等がある場合
      1. (イ) 設定者の国税等と抵当権等又は先取特権の被担保債権との関係
         譲渡担保財産の換価について、設定者の国税等の交付要求があるときにおける当該設定者の国税等と抵当権等又は先取特権の被担保債権との関係については、(1)のハの(イ)に準ずること。
      2. (ロ) 譲渡担保権者の国税と抵当権等又は先取特権の被担保債権との関係
         譲渡担保権者の国税と抵当権等又は先取特権の被担保債権との関係については、(1)のハの(ロ)に準ずること。
      3. (ハ) 譲渡担保権者の国税と設定者の国税等との関係
         譲渡担保権者の国税と設定者の国税等との関係については、(1)のハの(ハ)に準ずること。
      4. (ニ) 譲渡担保権者の国税と設定者の国税等と抵当権等又は先取特権の被担保債権との関係
         譲渡担保財産をその譲渡担保権者の国税で換価した場合における譲渡担保権者の国税と設定者の国税等と抵当権等又は先取特権の被担保債権との関係については、(イ)及び(ロ)までにより優先関係を定めるが、なお定まらない場合には、119(国税及び地方税等と私債権とが競合する場合)により処理すること。
      5. ニ 譲渡担保財産上に譲渡の前後に抵当権等又は先取特権の設定等がある場合
         納税者が抵当権等又は先取特権の設定等がある財産を譲渡担保財産とした後、更に当該譲渡担保財産上に抵当権等又は先取特権の設定等があった場合における抵当権等又は先取特権の被担保債権と設定者の国税等と譲渡担保権者の国税との優先関係については、ロ及びハと同様に処理すること。
          なお、この場合において、当該譲渡担保財産につき、担保権付財産が譲渡された場合の国税の徴収の規定により交付要求をすることができる場合(徴収法第22条第5項)の配当は、(1)のロの(ニ)の後段と同様である。

(質権又は抵当権の優先額の限度)

122 徴収法第15条から第17条まで《法定納期限等以前に設定された質権又は抵当権の優先等》の規定により、国税に優先する根質権又は根抵当権の被担保債権のうち国税に優先する元本債権額は、その根質権者又は根抵当権者が差押え又は交付要求の通知を受けた時における元本債権額を限度とする(徴収法第18条第1項)。ただし、差押え又は交付要求に係る国税に優先する先順位債権者の差押え等の通知の後、元本確定(民法第398条の20第1項)の日までに増加した部分の債権額は、その国税には劣後するが、その国税に優先する他の債権を有する者(以下「後順位債権者」という。)の債権に優先するため、先順位債権者に配当すべき当該増加した部分の債権額を法第18条第1項本文に従って国税に配当することにより、後順位債権者が配当を受けられなくなるとき又は配当額が減少するときは、この限りでない(徴収法第18条第1項ただし書、徴基通第18条関係9)。
 なお、差押え又は数個の交付要求が競合して行われた場合においては、その最初の通知を受けた時の債権額をもってその後の全ての差押え又は交付要求に係る国税に対する優先額の限度とするものではなく、それぞれの通知を受けた時の債権額をそれぞれの差押え又は交付要求に係る国税に対する優先額の限度とするものであること(徴基通第18条関係6)。この場合において差押国税、根抵当権又は根質権、交付要求地方税等の三者間で、いわゆるぐるぐる回りが生ずるときは、徴収法第26条《国税及び地方税等と私債権との競合の調整》の規定に順ずるものとする(徴基通第18条関係6のなお書)。

(注) 後順位債権者がある場合において、徴収法第18条第1項本文《質権及び抵当権の優先額の限度等》の適用があるときは、当該後順位債権者はもともと配当がないものに限定されていることから、配当計算に当たっては除外されるため、差押国税、根抵当権及び抵当権の三者間のぐるぐる回りは生じないことに留意する。

上記による配当を計算例によって示せば、次のとおりである。

設例1

設例2

設例3

(質権又は抵当権の被担保債権額の増額登記がされた場合)

123 質権又は抵当権の被担保債権額を増額する付記登記がされた場合には、その登記がされた時においてその増加部分について新たに質権又は抵当権が設定されたものとみなして徴収法第15条から第17条まで《法定納期限等以前に設定された質権又は抵当権の優先等》の規定に基づき配当金額を計算する(徴収法第18条第2項)。

(注) 質権又は抵当権の被担保債権額を増加する登記には、次のような登記があることに留意する(徴基通第18条関係12、13)。

  1.  根質権又は根抵当権の被担保債権額を増加する登記
    1. (1) 根質権により担保される極度額を増額する変更契約による極度額の登記
    2. (2) 根抵当権により担保される極度額を増額する変更契約による極度額の登記
    3. (3) 利息若しくは遅延損害金を増加する変更登記(変更登録を含む。以下同じ。)又は利息若しくは遅延損害金に関する定めの登記がない場合にその定めについて新たにする登記
  2.  質権又は抵当権の被担保債権額を増加する登記
    1. (1) 債権額の一部が被担保債権として登記されている場合においてその被担保債権額を増額する登記
    2. (2) 利息を元本に組み入れる場合の被担保債権額を増額する登記
    3. (3) 利息若しくは遅延損害金を増加する変更登記又は利息若しくは遅延損害金に関する定めの登記がない場合にその定めを新たに登記する登記

(特殊な事情がある場合等)

124 売却代金を配当する場合において、次に掲げる特殊事情があるときは、それぞれ次に定めるところにより配当する。

  1. (1) 複数の財産を一括換価した場合
     複数の差押財産等を一括換価した場合において、各財産の所有者を異にする場合や所有者が同一であっても各財産の権利関係が異なるなど、配当を行うに当たり各財産に対応する売却代金の額を定める必要があるときは、売却代金の総額を各財産の見積価額に応じてあん分して得た額を各財産に対応する売却代金の額とする(徴収法第128条第2項、徴基通第128条関係7参照)。
     なお、各財産に対応する滞納処分費の負担についても同様である。

    (注)

    1. 1 複数の財産の一括換価に当たり、権利関係が複雑で担保権者等に対する配当に支障を来すおそれがあると見込まれる場合には、一括換価は行わないことに留意する(徴基通第89条関係4参照)。
    2. 2 あん分計算に当たっての端数処理等については、一括換価する場合の見積価額の決定等(41−2の(1)の(注)2参照)に準じて行う。
  2. (2) 転質又は転抵当がある場合
     転質又は転抵当がある場合には、原質又は原抵当によって担保される債権額の範囲内で、その転質又は転抵当により担保される債権額について、まず転質権者又は転抵当権者に配当し、なお配当すべき残余があるときは、次いで原質権者又は原抵当権者に配当すること(徴基通第129条関係10)。
     なお、転質権者又は転抵当権者には、転質又は転抵当について保全仮登記をした仮処分の債権者が含まれる(徴収法第133条第3項、徴収令第50条第4項参照、徴基通第129条関係10なお書)。
  3. (3) 共同抵当がある場合
     同一債権の担保として数個の財産上に抵当権の設定がある場合(共同抵当の場合)において、その財産を換価したときは、次に掲げる事項に留意すること(徴基通第129条関係11)。
     なお、共同抵当財産の公売についての具体的方法は、151(共同抵当の目的となっている財産の換価)に定めるところによる。
    1. イ 共同抵当の目的となっている財産の一部について後順位の抵当権がある場合で、その財産の全部を換価したときは、抵当権者に交付すべき金額は、各財産の売却価額(その財産を一括換価したときは各財産の見積価額によってあん分した価額)に応じて、共同抵当によって担保される債権額をあん分した金額であること(民法第392条第1項)。
    2. ロ 共同抵当の目的となっている財産の一部を換価した場合においては、その換価した財産について後順位の抵当権があるときでも、先順位の共同抵当権者に交付すべき金額は、その共同抵当によって担保される債権額の全額であること(民法第392条第2項)。
  4. (4) 抵当権の譲渡等があった場合
     抵当権の譲渡等があった場合においては、次のように配当すること(民法第376条、徴基通第129条関係12)。
     この場合、抵当権の譲渡等を受けた者がその譲渡等を第三者に対抗するためには、付記登記をすることが必要であるから、付記登記のない場合は、これらの処分はなかったものとして配当すること(徴基通第129条関係12)。
     また、抵当権の順位の譲渡又は抵当権の順位の放棄についての保全仮登記がされている場合には、保全仮登記された抵当権により担保される債権に対して配当を行う(徴収法第133条第3項、徴収令第50条第4項参照)。
     上記による配当を例によって示せば、次のとおりである。
    設例
  5. (5) 担保権の目的となっている財産となっていない財産とを共に換価した場合
     担保権の目的となっている財産となっていない財産とを共に換価した場合において、その担保権の被担保債権が国税に優先しないときは、その担保権の目的となっていない財産の売却代金から順次国税に配当するものとする(徴基通第129条関係15)。
  6. (6) 不動産の共有持分を換価した場合
     担保権の設定後に共有となった不動産の共有持分を換価した場合には、担保権者に対しては、担保権の被担保債権に対する共有持分の割合に相当する金額を配当する(徴基通第129条関係16)。

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