この章は、換価代金等の処理について、その配当の順位、債権現在額の確認等の手続に関する取扱いを定めたものである。

第1節 配当の原則

(配当の原則)

114 差押財産等の売却代金又は有価証券、債権若しくは無体財産権等の差押えにより第三債務者等から給付を受けた金銭(以下「換価代金等」という。)は、次に掲げる国税その他の債権に配当する(徴収法第129条第1項)。また、差し押さえた金銭又は交付要求により交付を受けた金銭は、それぞれ差押え又は交付要求に係る国税に充てる(徴収法第129条第2項)。この場合において、配当した金銭に残余があるときは、これを滞納者に交付する(134、徴収法第129条第3項参照)。

(注) 滞納者に残余の金銭を交付する場合には、次のことに留意する(徴基通第129条関係6)。

1 換価した財産が譲渡担保財産又は担保物処分に係るものである場合は、配当した金銭の残余は、譲渡担保権者又は差押え時における担保物の所有者に交付する。

2 差押え後に譲渡された財産を換価した場合において、配当した金銭に残余があるときは、その残余の金銭は、差押え時の所有者である滞納者に交付するものとする(徴収法第129条第3項)。

(1) 差押えに係る国税(特定参加差押不動産の売却代金を配当する場合にあっては、特定参加差押えに係る国税)

(2) 交付要求を受けた国税、地方税及び公課(特定参加差押不動産の売却代金を配当する場合にあっては、差押えに係る国税、地方税及び公課を含む。)

(3) 差押財産等上の質権、抵当権、先取特権(これらについて仮登記されているものも含む。また、仮登記には、保全仮登記が含まれる(徴基通第129条関係1)。以下この章において同じ。)、留置権又は担保のための仮登記に係る権利の被担保債権

(注) 質権、抵当権又は先取特権に関する負担を買受人に引き受けさせる方法(徴収法第124条第2項)により換価した場合におけるその引受けに係る担保権の被担保債権及び滞納処分又は強制執行等による差押え後に設定した担保権の被担保債権については、配当しないことに留意する(徴基通第129条関係2、14)。

(4) 滞納者の動産でその親族その他の特殊関係者以外の第三者が占有しているものを徴収職員が差し押さえた場合又は第三者の占有する滞納者の登録自動車、登記建設機械若しくは登録小型船舶を引渡命令により徴収職員が占有した場合において生ずる第三者の滞納者に対する損害賠償請求権又は前払借賃に係る債権(徴収法第59条第1項後段、第3項、第4項、第71条第4項)

(配当順位の原則)

115 換価代金等が配当を受けることのできる債権の総額に不足するときの配当の順位は、原則として次のとおりであることに留意する(徴収法第129条第5項)。

(注) 換価執行決定をした行政機関等(以下「換価執行行政機関等」という。)が換価する場合、配当の順位は、差押行政機関等が換価する場合と同一であることに留意する(徴基通129条関係17参照)。

(1) 第1順位のグループ(差押国税に常に優先して配当する債権)

イ 直接の滞納処分費(徴収法第10条)

(注) 換価同意行政機関等が支出した滞納処分費(財産の差押えのために要した費用、差押財産の運搬に要した費用等)は直接の滞納処分費には該当しないが、特定差押えに係る国税、地方税又は公課に先立って充当することに留意する(徴収法第137条、徴基通第10条関係2)。

ロ 滞納処分による換価に際して発生し、かつ、徴収職員に通知があった酒税等及び道府県たばこ税若しくは市町村たばこ税又は軽油引取税その他総務大臣が指定する法定外普通税(144、徴収法第11条、通則法第39条、地方税法第13条の3、第14条の4)

ハ 留置権の被担保債権(徴収法第21条)

ニ 114(配当の原則)の(4)に掲げる前払借賃に係る債権(徴収法第59条第3項、第4項、第71条第4項)

ホ 不動産保存の先取特権等徴収法第19条第1項各号《不動産保存の先取特権等の優先》に掲げる先取特権の被担保債権

(2) 第2順位のグループ(一定の場合に差押国税に優先して配当する債権)

イ 質権、抵当権又は担保のための仮登記に係る権利(以下「抵当権等」という。)の被担保債権(徴収法第15条第1項、第16条、第17条、第23条第1項、第3項)

(注) これらの抵当権等が、納税者が譲り受ける前に差押財産に設定されていた場合又は差押国税の法定納期限等以前に設定されていた場合に限る。

ロ 徴収法第20条第1項各号《不動産賃貸の先取特権等》に掲げる先取特権の被担保債権

(注) これらの先取特権が、納税者が譲り受ける前に差押財産に設定されていた場合又は差押国税の法定納期限等以前に設定されていた場合に限る。

ハ 担保を徴した国税又は地方税(徴収法第14条)

(注) 滞納処分による差押えより先に他の国税又は地方税の担保として徴されていた場合に限る。

(3) 第3順位のグループ
 差押えに係る国税(徴収法第12条第1項)

(4) 第4順位のグループ(差押国税に劣後する債権)

イ 国税の法定納期限等後その国税に係る差押え前に設定又は成立した(2)のイ又はロに掲げる担保権の被担保債権

ロ 交付要求に係る国税及び地方税(徴収法第12条)((2)のハを除く。)

ハ 公課

ニ 114(配当の原則)の(4)に掲げる損害賠償に係る債権(徴収法第59条第1項、第4項、第71条第4項)

(優先質権等についての証明等)

116 換価財産上の担保権の被担保債権への配当については、次による。

(1) 証明

イ 換価財産上の担保権が次に掲げるものであるときは、その被担保債権は、その担保債権者が強制換価手続において、税務署長に対し、その設定の事実又は存在の事実を売却決定の日の前日(金銭による取立ての方法により換価する場合には、「配当計算書」の作成の日の前日)までに証明したときに限り、国税に優先すること(徴収令第4条第3項)。

(イ) 登記をすることができる質権以外の質権で、差押国税に優先するもの(徴収法第15条第2項前段)

(注) 国税に劣後する質権については、上記の証明をする必要はないが、「債権現在額申立書」を提出しなければならない(徴収法第130条第1項)。

(ロ) 登記をすることができる質権以外の質権で、換価財産上に納税者の譲受け前に設定されたもの(徴収法第17条第2項前段)

(ハ) 換価財産上の先取特権で、徴収法第19条第1項第3号から第5号まで《立木の先取特権等の優先》に掲げるもの(徴収法第19条第2項)

(ニ) 換価財産上の先取特権で、差押国税の法定納期限等以前からある徴収法第20条第1項第1号《法定納期限等以前にある不動産賃貸の先取特権等の優先》に掲げるもの(徴収法第20条第2項)

(ホ) 換価財産上の留置権(徴収法第21条第2項)

ロ 抵当権、担保のための仮登記に係る権利、登記をすることができる質権、徴収法第19条第1項第1号及び第2号《不動産保存の先取特権等の優先》に掲げる先取特権並びに徴収法第20条第1項第2号から第4号《不動産売買の先取特権等の優先》までに掲げる先取特権については、上記の証明を要せず、徴収職員においてその設定又は存在の事実を公簿によって確認することに留意する(徴基通第16条関係10、第15条関係33、第19条関係36、第20条関係19、第23条関係19)。

ハ 国税に優先する質権者(登記をすることができる質権以外の質権を有する者に限る。)が2人以上ある場合において、先順位質権者が徴収法第15条第2項の質権設定の証明をしなかったためその質権が国税に劣後することとなるときは、私法上の質権の優先順位にかかわらず、その劣後することとなる金額の範囲内において、国税に優先する後順位質権者に対して優先権を行使することができない(徴収法第15条第4項、徴基通第15条関係38)。
 この場合の配当の具体例を示すと次のとおりである。
設例1代金80万円第1質権の被担保債権30万円第2質権の被担保債権40万円第3国税25万円配当まず第2順位の質権の被担保債権に債権40万円を充て、次に第3順位の国税に25万を充てる。そして残余金15万は、第1位の質権の被担保債権にあてる。したがって第1位の質権の被担保債権に15万、第2位の質権の被担保債権に40万、第3位の国税に25万を配当することとする。
設例2代金100万円第1質権の被担保債権50万円第2根質権配差押通知時の被担保債権5万当時の被担保債権15万円第3国税40万円配当まず根質権の被担保債権に5万国税に40万を充て
次に法上の原則に従って第1位の質権の被担保債権に50万残余金5万を根質権の被担保債権に充てる。したがって第1位の質権の被担保債権に50万、第2位の根質権の被担保債権に10万、第3位の国税に40万を配当することとする。

ニ 換価財産上に納税者の譲受け前に設定された質権で、かつ、登記することができる質権以外のものが2以上ある場合において、先順位の質権について徴収法第17条第2項の証明がなく、後順位の質権について同項の証明があったときの配当については、徴収法第26条《国税及び地方税と私債権との競合の調整》の規定に準ずるものとする(徴基通第17条関係6)。
  この場合の配当の具体例を示すと次のとおりである。
設例3設例代金90万円譲渡人を設定者とする先順位の質権甲の被担保債権30万円譲渡人を設定者とする後順位の質権乙の被担保債権40万円納税者70万配当1、法律により質権乙の被担保債権に40万国税に50万換価代金90万円質権乙の被担保債権40万となり国税に充てるべき金額の総額は40万となる。2、法律により国税に50万とする3、法律により私債権に充てるべき40万は質権甲の被担保債権30万質権乙の被担保債権10万(40万−30万)となる。4、結果質権甲の被担保債権30万質権乙の被担保債権10万国税50万

(2) 証明手続
 (1)の証明は、その担保権を有する者にその設定の事実、若しくは存在の事実を証する書面又はその事実を証するに足りる事項を記載した書面をその換価に係る売却決定をする日の前日まで(金銭による取立ての方法により換価する場合には、「配当計算書」の作成の日の前日まで)に、税務署長に提出することによって行うこと(徴収令第4条第1項、第3項)。
 なお、その担保権が有価証券を目的とする質権以外の質権である場合には、税務署長に対して次に掲げる書類を提出するか又はこれを呈示した上で、その写しを提出することによって行うこと(徴収法第15条第2項後段、徴収令第4条第2項)。

イ 公正証書

ロ 登記所又は公証人役場において日付のある印章が押されている私署証書

ハ 郵便法第48条第1項《内容証明》の規定により内容証明を受けた証書

ニ 民法施行法第7条第1項《公証人法の規定の準用》において準用する公証人法第62条ノ7第4項《書面の交付による情報の提供》の規定により交付を受けた書面

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