この章は、換価財産について買受人及び公売参加者を制限する場合の範囲とその取扱いについて定めたものである。

(買受人の制限)

94 買受人の制限については、次に留意する(徴収法第92条)。

  • (1) 滞納者の場合
     滞納者は、換価の目的となった自己の財産を直接であると間接であるとを問わず買い受けることができないこと(徴収法第92条前段、徴基通第92条関係4参照)。
     ただし、公売財産が徴収法第24条第3項《譲渡担保財産に対する執行》の規定の適用を受ける譲渡担保財産である場合には、譲渡担保権者であると譲渡担保設定者であるとを問わず買い受けることができることに留意する(徴基通第92条関係2)。

    (注) 次に掲げる者は、換価の目的となった財産の買受人となることができることに留意する。

    1 公売財産が担保物である場合における物上保証人(徴基通第92条関係1の(1))

    2 公売財産が連帯納付義務を負う者の所有物である場合における他の連帯納付義務を負う者(徴基通第92条関係1の(2))

  • (2) 税務職員の場合
     国税庁、国税局、税務署又は税関に所属する職員で国税に関する事務に従事する職員は、換価の目的となった財産を直接であると間接であるとを問わず買い受けることができないこと(徴収法第92条後段)。

    (注) 上記の国税に関する事務に従事する職員とは、国税庁、国税局、税務署又は税関に所属する全ての職員をいうものとして取り扱うことに留意する(徴基通第92条関係3)。

(公売への参加制限)

95 次に掲げる行為者については、刑法第96条の3《強制執行行為妨害等》、第96条の4《強制執行関係売却妨害》、第96条の5《加重封印等破棄等》、第96条の6《公契約関係競売等妨害》等の刑罰法規による処罰の有無にかかわらず、その事実があった後2か年間公売への参加を制限することができる(徴収法第108条第1項、徴基通第108条関係15)。この場合における公売への参加制限については、将来の新たな公売はもちろん、その事実があった公売のその後の手続にも参加させないことができるものであることに留意する(徴基通第108条関係13)。
 なお、公売の参加制限に当たる行為をした者については、その事実があれば、妨害による結果のいかんを問わず公売参加を制限することができる(徴基通第108条関係2参照)。

  • (1) 公売への参加等を妨害した者
     入札等をしようとする者の公売への参加若しくは入札等、最高価申込者等の決定又は買受人の買受代金の納付を妨げた者がこれに該当するが、具体的には、次に掲げる者を公売への参加等を妨害した者として判定すること(徴収法第108条第1項第1号)。
    • イ 公売への参加を妨げた者
       公売が中止又は延期されたと偽り他の者をして公売に参加させなかった者、公売に参加すれば暴行を加えると脅迫した者、公売の場所への入場を威力をもって妨げた者等(徴基通第108条関係2)。
    • ロ 入札等を妨げた者
       入札に当たり、入札書の記載を妨げた者、大声を発して競り売りについての買受申込みを妨げた者等(徴基通第108条関係3)。
    • ハ 最高価申込者等の決定を妨げた者
       最高価申込者等の決定に当たり、換価事務担当者に暴行を加えて最高価申込者等の決定を妨げた者、最高価申込者等を定めるための「くじ」を引く者を脅迫して「くじ」に参加させなかった者、急病等真にやむを得ない事由がないにもかかわらず最高価申込者を定めるための追加入札をしなかった者、追加入札の基因となった入札価額に満たない価額で入札した者等(徴基通第108条関係4)。
    • ニ 買受代金の納付を妨げた者
       買受代金を納付すれば暴行を加えると脅迫した者、買受代金を納付することが極めて不利益であると欺いた者等(徴基通第108条関係5)。
  • (2) 不正に連合した者
     公売に際し、価額を引き下げるため、競争による公正な価額の形成を妨げる意思をもって、入札者等相互間で、ある価額以上の入札等を行わず、ある特定の者に低額で買い受けさせるように合意約定した者がこれに該当すること(徴基通第108条関係6)。
     なお、入札者等の間における合意約定に、他の入札者等に利益配分を行う目的がない場合又は現実に入札等がなく単に合意約定にとどまるときにおいても不正に連合した者として判定すること。
  • (3) 偽りの名義で買受申込みをした者
     架空の人物の名義を用いた者のほか、実在する他の人物の名義を勝手に使用して入札等をした者がこれに該当すること(徴基通第108条関係7)。
  • (4) 正当な理由がなく買受代金を納付しない者
     換価処分を妨げる意思を有し、又は換価処分を妨げる結果となることを知りながら、故意に期限までに買受代金を納付しない者をいい、例えば次に掲げる者がこれに当たる(徴基通第108条関係8)。
    • イ 自己の責めに帰することができない事由がないにもかかわらず、その財産に転売性がないとして買受代金を納付しない者
    • ロ 自己の責めに帰することができない事由がないにもかかわらず、結果的に自己の期待に反して高価に入札等をしたこと等により買受代金を納付しない者
    • ハ 公売の引き延ばし又は再公売による見積価額の引下げの目的等のために、その公売においては自己がその財産を買い受ける意思がないにもかかわらず最高価での買受申込みを行い、買受代金を納付しない者
  • (5) 故意に公売財産を損傷した者
     公売財産の価額を減少させる意思をもって、財産の形状、性質等を損なった者はもちろん、その結果を生ずることを知りながら公売財産を損傷して価額を減少させた者がこれに該当し、過失により公売財産を損傷し、その価額を減少させた者は、これに該当しないことに留意する(徴基通第108条関係9)。
  • (6) その他公売等の実施を妨害した者
     公売又は随意契約による売却手続が公正かつ円滑に行われることを妨げた者がこれに該当すること。例えば、暴力をもって開札を妨げた者、随意契約により買い受けることは不利益であると欺いた者又は公売に係る電磁的記録を不正に改ざんした者等のうち、(1)から(5)までに掲げる者以外の者をいう(徴基通第108条関係10)。
  • (7) 参加制限の対象となる事実のあった後2年を経過しない者
     公売に際し、(1)から(6)までに該当すると認められる事実があった後2年を経過しない者がこれに該当すること(徴基通第108条関係1の(1))。
  • (8) 参加制限の対象となる行為者の使用者
     公売に際し、(1) から(6)までに該当すると認められる事実があった後2年を経過しない者を使用人その他の従業者として使用する者であって、当該妨害行為につき使用人等に指示したものがこれに該当すること。この場合における使用人その他の従業者とは、事務員、工員その他雇用契約等に基づき従業している者をいうことに留意する(徴基通第108条関係1の(2))。
  • (9) 参加制限の対象となる行為者を代理人とする者
     公売に際し、(7)及び(8)に掲げる者を入札等の代理人とする者がこれに該当すること(徴基通第108条関係1の(3))。

(参加制限に伴う処理)

96 公売への参加制限等は、次により行う。

  • (1) 参加制限の方法
     公売への参加制限は、当該事実のあった者に対して、参加制限をする理由及び参加制限をする旨を告げて行うこと。
  • (2) 注意書への記載等
     公売への参加制限については、公売の実施前に所要事項を注意書等に記載するほか、参加制限規定のあることを口頭で説明する等の方法により買受希望者にその趣旨を周知徹底すること。
  • (3) 身分に関する証明の請求
     公売への参加制限をするために必要があると認めるときは、入札者等の身分に関する証明を求めること(徴収法第108条第4項)。
  • (4) 国税局長の承認等
    • イ 公売への参加制限は、税務署長限りで行うことなく、国税局長の承認を得て行うこと。
      ただし、公売開始後においてその公売への参加を制限する必要が生じた場合等緊急やむを得ないときは、税務署長限りで制限し、速やかに国税局長にその旨を報告すること。
    • ロ 国税局は、公売への参加制限をした者の住所及び氏名又は名称、参加制限をした具体的な事由等を管内各税務署に周知するとともに国税庁徴収課に連絡すること。
       なお、上記の場合において必要があるときは、関係のある地方公共団体等と相互に連絡すること。
  • (5) 最高価申込者等の決定の取消し等
     公売への参加制限の対象となる事実のあった者については、その者のした入札等をなかったものとし、また、その者に対する最高価申込者等の決定を取り消すことができること(徴収法第108条第2項)。この場合においては、次により処理すること(徴基通第108条関係17から19まで)。
    • イ 入札等をなかったものとする場合には、その旨の決裁を了した上、入札者等に対し、その入札等をなかったこととする旨を「入札等をなかったものとした旨の通知書」により通知すること。
    • ロ 最高価申込者等の決定を取り消す場合には、その旨の決裁を了した上、最高価申込者等、滞納者及び利害関係人に対し、その最高価申込者等の決定を取り消した旨を「不動産等の最高価申込者の決定取消通知書」により通知すること。次順位買受申込者の決定を取り消したときは、「不動産等の次順位買受申込者の決定取消通知書」により通知すること。
    • ハ 売却決定後において最高価申込者の決定を取り消す場合には、ロによるほか、155から157(売却決定の取消しに伴う処理等)までにより、その売却決定を取り消すこと。
  • (6) 公売保証金の国庫帰属
     (5)により入札等をなかったものとし又は最高価申込者等の決定を取り消した場合において、これらの者の納付した公売保証金があるときは、その公売保証金(徴収法第100条第4項に規定する方法により保証銀行等に納付させた入札者等に係る公売保証金の額に相当する現金を含む。)は国庫に帰属させること(徴収法第108条第3項、徴基通第108条関係20から24まで)。この場合における公売保証金の処理については、53(公売保証金の領収等に関する処理)の(7)によること。
     また、(5)のイ及びロに定める通知に当たっては、公売保証金は国庫に帰属した旨を併せて通知するものとする(徴基通第108条関係22なお書)。
  • (7) 刑罰法規の適用
     公売への参加制限の対象となる行為をした者に対しては、実情に応じ、次に掲げる刑罰法規の適用を検討すること。この場合においては、国税局長の指示を受けて告発の手続をすること。
    • イ 95(公売への参加制限)の(2)に該当する者については、刑法第96条の6第2項《公契約関係競売等妨害》の規定

      (注) 談合罪は、公の競売又は入札において公正なる価額を害し又は不正の利益を得る目的で競争者が互いに通謀して、ある特定の者を契約者とするため、他の者は一定の価格以下又は以上に入札しないことを協定するだけで足り、それ以上その協定に従って行動されたことを要しないものと判断されていることに留意する(昭和28.12.10最高決)。

    • ロ 95(公売への参加制限)の(1)、(5)及び(6)に該当する者については、刑法第96条の3第1項《競売入札妨害》の規定
    • ハ 95(公売への参加制限)の(1)から(6)までに該当する者については、それぞれその行為の内容に応じ、刑法第95条《公務執行妨害及び職務強要》、第96条《封印等破棄》、第258条《公用文書等毀棄》、第261条《器物損壊等》、徴収法第187条《滞納処分免脱罪》、第190条《両罰規定等》等の規定

      (注) 公務執行妨害罪は、例えば、暴行脅迫により現実に職務執行妨害の結果が発生したことを要せず、妨害となるべき事実があれば足りるものと判断されていることに留意する(昭和25.10.20最高判、昭和33.9.30最高判)。

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