第5節 差押財産等の実地調査等

(実地調査の実施)

18 実地調査は、差押財産等の換価の適否を判断するため、滞納者宅、差押財産等の保管場所又は所在地への臨場その他の方法により行い、必要に応じ、滞納者の現況確認や公売に向けた資料収集などを併せて行うものとする。
 また、実地調査は、財産を差し押さえてから相当の期間が経過した後に行う場合も多いことから、「差押調書」又は「参加差押調書」(土地登記簿などの公簿等に種類、数量等が記載されている財産については、その公簿等を含む。)に記載されている差押財産等の内容と現況を比較照合しておおむね次により行い、把握した事実に基づき、措置を講ずるものとする。

  • (1) 確認すべき事項
    • イ 「差押調書」又は「参加差押調書」に記載されている表示財産が現存しているか否か(例えば、差押財産等に類似した財産をもって差押財産等をすり替えていないか、建物を建て替えたり増改築したりしていないか、差押え又は参加差押え時の数量と異なっていないか等について確認する。)。
    • ロ 差押財産等を滞納者又はその財産を占有する第三者に保管させている場合において、その保管が適切に行われているか否か。特に化学製品等については保管の不良によって品質の変化が生じていないか。
    • ハ 差押財産等は換価性があるか。
    • ニ 差押財産等の現況に照らし、その差押えの解除、差押換え、追加差押え等の必要はないか。
    • ホ 自動車、建設機械又は小型船舶については、換価前の占有に遺漏はないか。
    • ヘ 差押財産等につき修理その他によってその価額を増加する必要があるか。
    • ト 差押財産等の現実の使用状態はどうか(例えば、建物の敷地になっている、近隣住民の通路になっている、滞納者が居住している等)。
  • (2) 確認結果に基づく所要の措置
    • イ 差押財産等の現況が、たなざらしにされているもの、粗悪なもの、陳腐化しているもの、破損しているもの等換価性の乏しいものであるときは、他の財産を差し押さえるとともに、必要に応じて換価性の乏しい財産の差押解除又は換価執行決定の取消しをすること(徴収法第89条の3第1項第3号参照)。
    • ロ 滞納者の実情及び差押財産等の現況等からみて、換価の猶予(徴収法第151条第1項又は第151条の2第1項)又は滞納処分の停止(徴収法第153条第1項)等換価以外の方法により整理することが適切と認められるものについては、その方法により処理すること。
    • ハ 滞納者又はその財産を占有する第三者に保管させている差押財産等の換価価値が著しく減損するおそれがあると認められるときは、当該財産について速やかに換価を実施すること。
    • ニ 差押財産等の数量が不足している場合において、その処分予定価額が徴収すべき滞納税額に不足すると認められるときは、追加差押えを行うこと。
       なお、この場合においては、次により処理すること。
      • (イ) 「差押調書」又は「参加差押調書」の欄外に、不足する旨及びその不足する数量を付記しておくこと。
      • (ロ) 差押財産等を保管している滞納者又は第三者から、その不足する事由についてのてん末書を徴し、必要に応じて保管者の責任を追及すること(徴収法第187条、第188条、第190条、刑法第252条第2項、第262条等参照)。
    • ホ 差押財産等を代替物をもってすり替えている場合には、新たにその代替物又は他の財産を差し押さえるとともに、早期に換価を実施すること。この場合においては、すり替えられた財産に係る「差押調書」又は「参加差押調書」の欄外余白にその旨を付記しておくほか、ニの(ロ)により必要な処理をすること。

(差し押さえた不動産の実地調査)

19 差押財産等が不動産である場合における実地調査については、18(実地調査の実施)によるほか、その不動産の種類、構造、地目、地積又は建物の床面積、名義人の表示等が不動産登記簿(土地登記簿及び建物登記簿をいう。以下同じ。)上の表示と符合しないときは、その不動産の同一性の有無について判定した上、次により処理する。
 なお、建物の同一性の有無については、新旧建物の材料、構造、規模等の異同に基づき社会観念に照らして判断すること。

  • (1) 同一性がない場合
     差し押さえた不動産の種類、構造等に変更があり、別個独立の不動産と判断できる場合は、その不動産に当初の差押えの効力が及ばないことから、現況における不動産の帰属について確認し、その不動産が滞納者に帰属するときは、差押換え(特定参加差押不動産についてその同一性がない場合は、新たに差押え)をした上で換価すること。

    (注) 特定参加差押不動産について同一性がなく、特定差押えが解除された場合は、換価執行決定を取り消すことに留意する(徴収法第89条の3第1項第2号)。

     同一性がないと判断されたものとして、以下の裁判例があることに留意すること。
    • イ 差し押さえた不動産が滅失又はき損し、不動産の性格を失っている場合(大正5.6.28大判参照)
    • ロ 差し押さえた建物を取り壊し、その材料を使用して再建築したが、外観的部分は全部新材料を使用した場合(昭和16.9.16大判参照)
    • ハ 差し押さえた建物を取り壊し、その材料の一部(建物全体の1割から2割程度)を使用して板ぶきの建物を瓦ぶきの建物として再建築した場合(昭和30.1.21東京高判参照)
    • ニ 差し押さえた平屋建物をほとんど取り外し、柱や屋根等を新しくして二階建にし、新築と同一視すべき構造の変更をした場合(昭和37.3.6東京地判参照)

      (注) 差押登記した建物を取り壊し、同一敷地上に滞納者に帰属する建物を新築しているときは、滞納者に代位して所有権保存登記を嘱託するが、この場合、旧建物の滅失登記については、所有者が申請しなければならない(不動産登記法第57条)ため、代位による滅失登記の嘱託はすることができず、登記官の職権による滅失登記(不動産登記法第28条)のしょうようをすることができるにすぎないことに留意する(昭和45.7.16最高判参照)。

  • (2) 同一性がある場合
     差し押さえた不動産の種類、構造等に変更はあるが、別個独立の不動産とは認められず、その不動産の同一性が失われていない場合には、不動産登記簿上の表示と現況とを一致させるために滞納者に代位してその登記の表示を変更した上で換価することが望ましいが、特段の事情のない限りこの手続は省略して差し支えない。
     なお、そのような不動産を換価する場合においては、「公売公告」(随意契約により売却する場合は売却の通知書)に「土地(建物)登記簿上何平方メートル」、「現況約何平方メートル」等のように、不動産登記簿上の表示と現況とを併記すること。
     同一性があると判断されたものとして、以下の裁判例があることに留意すること。
    • イ 既存建物に物理的に接着延長した場合、例えば、不動産登記簿上に表示されている建坪15坪の工場及び建坪12坪の居宅の現況が、それぞれ建坪43坪5合及び建坪32坪6合6勺となっている場合(昭和7.6.9大判、昭和30.6.23東京高決、昭和32.2.20東京高判参照)
    • ロ 既存建物の種類構造等に変更がある場合、例えば、不動産登記簿上に表示されている木造瓦ぶき2階建工場建坪12坪2合5勺(2階の坪数には変更がない。)の現況が、木造瓦ぶき2階建店舗建坪11坪7合8勺、便所建坪1坪及び木造亜鉛ぶき居宅2坪9合7勺となっている場合(昭和31.7.20最高判参照)
    • ハ 既存建物の相当部分が取り壊されたが、その主要部分である8畳間と押し入れは一部改造されたものの、元の場所に存置され、既存建物を支えていた柱も8畳間の四囲にあった相当数のものが残って新建物の支柱となっており、既存建物の残存部分は、新建物の主たる構成部分を形成しているような場合(昭和44.3.25最高判参照)
    • ニ 既存建物の所在位置が移転した場合、例えば、差し押さえた建物を取り壊し、その材料の大部分を使用して同字内の他の地番に移転した場合(昭和7.2.27大判、昭和8.3.6大判、昭和12.6.30大判、昭和29.3.25大阪高判参照)
  • (3) 不符合の場合の測量又は調査
     差し押さえた不動産が不動産登記簿上の表示と符合しない場合におけるその不動産の測量又は調査に当たっては、その測量又は調査が比較的簡単なものについては、換価事務担当者が行うものとする。ただし、例えば、広大な地積の土地、市街地、ビルディング等でその測量又は調査が困難な不動産については、測量業者(測量法第10条の3《測量業者》)又は土地家屋調査士(土地家屋調査士法第3条《業務》)に委託するものとする。
     なお、この場合においては測量又は調査結果に基づいて、「差押調書」又は「参加差押調書」の欄外余白に実測面積その他その不動産の現況による表示を付記しておくこと。

    (注) 上記の測量又は調査は、差し押さえた不動産の同一性がある場合に限り行うものであることに留意する。

  • (4) 名義が相違している場合の処理
    • イ 一般承継があった場合
       滞納者の不動産について滞納処分を執行した後、滞納者が死亡し又は滞納者である法人が合併により消滅し、納税義務が一般承継人に承継されている場合においても、その不動産について滞納処分の続行をすることができることに留意する(徴収法第139条第1項)。また、滞納者が死亡した後、その国税につき滞納者の名義の財産に対してした差押えは、徴収職員がその死亡を知っていた場合を除き、当該国税につきその財産を有する相続人に対してされたものとみなされる(徴収法第139条第2項)。
    • ロ 信託の受託者の変更等があった場合
       信託の受託者の任務が終了した場合において、当該受託者の任務終了までに既に信託財産に属する財産について当該受託者を名宛人として滞納処分を執行したとき及び当該受託者の任務終了から新たな受託者の就任までの間に当該任務の終了した受託者を名宛人として信託財産に属する財産について滞納処分を執行した後、新たな受託者が就任したときは、その財産につき滞納処分を続行することができることに留意する(徴収法第139条第3項、徴基通第139条関係7)。また、信託の受託者である法人の信託財産に属する財産について滞納処分を執行した後、当該受託者である法人としての権利義務を承継する分割が行われたときは、その財産につき滞納処分を続行することができることに留意する(徴収法第139条第4項)。

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