第1節 総則

1 建物の類型

(1) 自用の建物

自用の建物とは、所有者が使用している建物で、所有者による使用収益を制約する権利の付着していないものをいう。
 なお、賃貸借契約の締結されている建物であっても、当該契約に基づく賃借権の登記がなく、かつ、使用されていない建物(空家等)は、貸家には該当せず、自用の建物に準じて取り扱う。

(2) 貸家

貸家とは、所有者以外の者が使用している建物又は登記のある賃借権の目的となっている建物をいう。

(3) 借家権

借家権とは、借地借家法(旧借家法を含む)が適用される建物の賃借権(建物が避暑等のために一時使用されている場合等、当該建物の明渡しにつき買受人がその費用の負担を要しないと認められるものを除く。)をいう。建物の居住人が法律上の対抗要件(民法第605条、借地借家法第2条)を具備している場合は、公売によって建物の所有権を買受人が取得したとしても、その効力を失わない。
 また、買受人に対抗できない借家権であっても、平成16年4月1日(平成15年改正民法の施行日)以降に設定された賃借権のうち、抵当権設定登記には遅れるものの、差押登記の前に占有を開始したものは、民法第395条の明渡猶予の適用が認められることに留意する。
 ただし、使用権のないものであっても、当該建物の明渡しにつき買受人がその費用の負担を要すると認められるときは、借家権に準じて取り扱う。

(4) 区分所有建物

区分所有建物とは、1棟の建物に構造上区分された数個の部分で独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるものをいう(区分所有法第1条)。

2 建物の評価の原則

(1) 評価単位

建物は、原則として床面積1平方メートルをもって評価単位とする。
 ただし、取引事例比較法により評価する場合は、建物1棟を評価単位とする。

(2) 建物の評価方法

建物の評価は、原則として原価法により行う。
 ただし、例えば、マンション、建売住宅のように適当な取引事例価格を容易に知り得るときには、取引事例比較法により評価する。

(3) 原価法の適用に当たっての留意事項

  • イ 原価法により評価する場合の減価償却は、原則として定額法による。
  • ロ 残存使用可能年数が短期間で近い将来取り壊されることが見込まれる場合において、取壊し、廃材の除去、運搬等に必要な費用が建物の残存価額又は解体により発生する資材の価格を超えるときには、建物の残存価格はないものとして取り扱って差し支えない。
  • ハ 残存使用可能年数を求めるに当たっては、精通者の意見を聴取し、物理的、機能的及び経済的要因を考慮して決定する。
  • ニ 原価法により評価する場合の建物の取得時期は、当該建物を新築した当初の時期をいう。

(4) 建物に対応する敷地利用権の考慮等

  • イ 建物のみを公売する場合は、その建物の買受人が法律上第三者に対抗できる借地権を取得するか否かにかかわらず、原則として土地利用権を考慮して評価する。ただし、この場合においては、土地利用権の態様(法定地上権、使用借権等)により建物の市場性が大きく異なることになる場合があることに留意する。
  • ロ 建物に居住人がいる場合には、その居住人が法律上第三者に対抗できる借家権を有しているか否かにかかわらず、借家権価格を控除して評価する。この場合においては、例えば、居住内容(不法占拠、使用貸借等)等により、借家権の価格が異なることに留意する(本節1(3)参照)。
  • ハ 収去を要求されている建物、明渡しを要求している建物又は買取請求権行使の目的となっている建物(借地借家法第5条、第13条)等、特殊、異例な事情のある建物については、それぞれの事情に応じ、借地権又は借家権の有無及びその程度又は買取請求権の内容等を判定し、所要の調整を行うことに留意する。

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