第1節 財産評価の基本的事項

1 財産評価の基本

(1) 財産評価の考え方

差押財産等の公売は、その財産の所有者(滞納者)の意思にかかわらず滞納処分手続により強制的に売却し、その売却代金をもって滞納国税を早期かつ確実に徴収することを目的として実施するものであり、国税債権の確保に向けた一連の滞納処分の締めくくりとしての性格を有するほか、滞納者や財産上の権利者の権利・利益に重大な影響を及ぼす効果を有していることから、公売に関する一連の手続においては、その適正性を十分に確保しなければならない。
 このため、差押財産等の評価に当たっては、財産の所在する場所の環境、種類、規模、構造等、その財産の特性に応じて適切な評価方法を用いるとともに、財産の市場性、収益性、費用性その他の財産の価格形成要因を適切に考慮して、その財産の時価に相当する基準価額を求める必要がある(徴基通第98条関係2参照)。
 なお、差押財産等の評価は、見積価額の決定の基礎となるほか、超過差押え若しくは無益な差押え(徴収法第48条)又は差押解除(徴収法第79条第1項第2号、第2項第1号)、延滞税の免除(通則法第63条第5項)等に係る法令の適用の判断の根拠となるものでもあることにも留意する必要がある。

(注) 上記の「時価」とは、特定の者の主観的な価値をいうものではなく、その財産を現に売却する場合に想定される客観的な交換価値をいう。

(2) 現況評価の原則

公売財産の買受人は、当該公売財産の状況及び権利関係を公売時の現況で引き受けることになるため、現況に基づき、公正に評価しなければならない。
 したがって、公売財産の評価は、例えば、不動産の地目、地積、種類、構造、床面積等について、現況と登記簿上の表示が異なる場合であっても、現況に基づいて行う必要がある。この場合において、公売によって消滅又は新たに成立する権利があるとき(徴収法第125条、第127条等参照)は、これを適切に考慮して行う必要があることに留意する(徴基通第98条関係2(1)参照)。

2 見積価額の考え方

(1) 見積価額の意義

公売財産の見積価額は、著しく低廉な価額による公売を防止し、適正な価額により売却するための最低売却額を保障する機能を有するもので、差押財産等の公売又は随意契約による売却に当たり、当該財産の評価により得られた評価額に基づき、税務署長が決定する(徴基通第98条関係1参照)。
 見積価額の決定に当たっては、このような見積価額が有する機能や公売の有する性格及び効果を踏まえつつ、見積価額が、差押財産等を公売により強制的に売却するためのものであることを考慮して、公売の特殊性を適切に反映しなければならない(徴基通第98条関係3参照)。
 なお、見積価額については、①競争売買である公売は、多数の買受希望者が参加することにより適正な競争原理が働き、その公正さが維持される関係にあることや、②買受人として想定される者は、最終消費者に限らず、卸売業者等が多く含まれていると考えられるといったことも考慮すべきである。

(2) 見積価額の適正性の確保

見積価額は、公売の特殊性を考慮して決定するため、時価よりも低い価額となるのが通常であるが、公売の結果、売却価額が時価よりも著しく低額である場合は、その公売処分が違法とされるおそれがあるため、見積価額の決定に当たっては、公売財産の所在地の近隣の取引事例や類似財産の取引価格等との均衡保持にも配意するなどにより、その適正性を十分に確保する必要がある。
 なお、見積価額が時価より低額であったとしても、公売の結果、売却価額が適正であると認められるときは、その公売処分が違法とまではいえないこと、公売の売却価額は、競争原理によってその適正性が担保されるものであることを踏まえ、買受希望者の公売参加を阻害するような高額な見積価額とならないよう、適正な価額で決定する必要がある。

(参考)

1 公売処分が違法とされた裁判例

市価7億904万5,199円の酒類を、鑑定人に鑑定依頼の上、2億3,486万8,136円と見積もり、2億5,857万7,503円で落札された公売について、「本件公売の見積価額は、市価に比して著しく低く、公売価格も著しく低廉で、本件公売処分は違法であるというべきである。」とし、また、「鑑定書を十分に検討することなく、たやすくその結果を信用して、前記見積価額を決定したのであるから、過失があったといわざるをえない。」と判示している(平成7.4.24東京地判参照)。

2 公売処分を適法とした裁判例

市価470万円の不動産を298万3,147円と見積もり、333万3,000円で落札された公売について、「見積価格の当否は、単に公売物件の売却決定を違法ならしめることがありうるにすぎない。従って、右見積価格の不当は、そのために公売物件が著しく低価に売却されたような事実の存しないかぎり、それだけでは公売処分の取消または無効の原因に値するものとは解しがたい。」とし、「売却価額は、右時価の7割を超える333万3,000円であったというのであるから、著しく不当なものとは認められない。」と判示している(昭和43.10.8最高判参照)。

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