別紙
環地温発第090213001号
平成21・02・13産局第1号
平成21年2月13日
国税庁 課税部長
荒井 英夫 殿
環境省 大臣官房審議官
(地球環境局担当)
森谷 賢
経済産業省 大臣官房審議官
(地球環境問題担当)
有馬 純
1 照会の趣旨
気候変動に関する国際連合枠組条約の京都議定書(以下「京都議定書」といいます。)(注)に基づく温室効果ガスの排出削減の取組に関して、政府や企業は国内での自助努力に加えて京都議定書に基づく京都メカニズムを活用して排出クレジット(以下「クレジット」といいます。)を購入することとしており、国際連合の同条約事務局(以下「国連」といいます。)による電子システム等のインフラの整備に伴い国別登録簿の運用が開始され、実際の取引が活発化しつつあります(京都メカニズムを活用したクレジットの取引の概要は、「2 照会に係る取引等の概要」のとおり)。
このような京都メカニズムを活用したクレジットに係る取引として、内国法人が他の者から当該クレジットを取得(購入)し、償却(自社使用)を目的として政府保有口座に移転又は内国法人等に売却(有償譲渡)する場合があります。これらの取引があった場合において、次に掲げる法人税及び消費税の取扱いにつき、それぞれ次のとおり解して差し支えないか、ご照会申し上げます。
(注) 地球温暖化防止に向けた具体的な方針を示す国際的枠組みとして、1997年12月に京都において採択され、2005年2月に発効しています。
[法人税について]
[消費税について]
2 照会に係る取引等の概要
(1) 京都メカニズムを活用したクレジットの取引の概要
(2) 京都メカニズムを活用したクレジットの資産性
環境省に設置された研究会により取りまとめられた登録簿報告書(注)においては、クレジットは、京都議定書の排出削減約束達成に使用できるという意味において、元々ある種の法律上の利益又は地位としての実態を有しているとしつつ、権利移転方法の簡便性・明確性及び取引の安全の確保といった観点から、「動産類似の財産権」的な存在として扱うことが妥当であるとしています。この考え方を基礎として、地球温暖化対策の推進に関する法律の一部を改正する法律(平成18年6月2日法律第57号。以下「改正温対法」といいます。)においては、クレジット(改正温対法第2条第6項の算定割当量をいいます。)の帰属は、国別登録簿(同法第29条第1項の割当量口座簿をいいます。)における記録によって定まること、国内におけるクレジットの譲渡の効力は、譲受人の保有口座(同項の管理口座をいいます。)における当該クレジットの増加記録をもって効力が発生すること、悪意や重大な過失がない限り、政府や内国法人がその保有口座においてクレジット増加の記録を受けた場合には、そのクレジットを正当に取得したとみなされること等を規定し、クレジットを資産的存在として取引するための基本的な法的基盤を提供しています。また、手続き面では、内国法人が我が国登録簿内に保有口座を開設する場合やクレジットを自らの保有口座から他(政府及び民間)の保有口座に移転する場合の手続き等を定め、クレジット取引の安定性を担保しています。
(注) 京都メカニズムを安定的に運用するために必要な国別登録簿を法制化するに当たり、必要な法的論点等について検討するため、環境省において研究会を設置し、その検討結果を「京都議定書に基づく国別登録簿制度を法制化する際の法的論点の検討について」(2006年1月公表)として取りまとめています。
(3) 京都メカニズムを活用したクレジットの移転に係る手続き及び会計処理
京都メカニズムを活用したクレジットを我が国登録簿内の自己の保有口座から国内外の他の者の保有口座に移転する場合には、改正温対法の規定に基づき、申請書その他補足資料を揃え、環境大臣及び経済産業大臣に申請することが必要となります。また、両大臣は、申請を受理した場合には遅滞なくこれを処理する(すなわち、書類に不備がないか確認した後、登録簿を操作してクレジット記録の変更を行う)こととされています。
京都議定書の排出削減約束達成に用いるためにクレジットを償却する場合には、口座保有者は、申請書に償却目的であることを明記した上で政府保有口座への移転を申請することとなります。政府による処理が完了すると、当該口座保有者の口座からクレジットの番号が消去され、同じ番号が政府保有口座に記録されることとなります。なお、次の過程である政府保有口座から償却口座への移転は、口座保有者の申請とは切り離された政府内での処理であるため、口座保有者の立場からすれば、償却を目的としてクレジットが政府保有口座に移転された段階(すなわち、該当クレジットの番号が政府保有口座に記録された時点)で、実質的には償却が完了した、と考えることができます。(ただし、京都議定書の排出削減約束達成という観点からは、政府の責任においてこれを償却口座に移転することが必要です。)
他方、京都メカニズムにおけるクレジットの会計処理については、企業会計基準委員会による「排出量取引の会計処理に関する当面の取扱い」(2004年11月30日(2006年7月14日改定)実務対応報告第15号)において、将来の自社使用を見込んでクレジットを取得(他の者から購入)する場合は、原則として「無形固定資産」又は「投資その他の資産」の購入として会計処理を行い、国別登録簿の政府保有口座に償却を目的として移転した時点において費用とする旨が定められており、この費用については、原則として「販売費及び一般管理費」とすることが考えられる、とされています。また、専ら第三者に転売する目的でクレジットを取得(他の者から購入)した場合は、原則として「棚卸資産」の購入として会計処理するものと定められています。
3 照会者の求める見解となることの理由
(1) 照会事項について
内国法人が、償却を目的としてクレジットを取得(購入)し、当該クレジットを我が国の国別登録簿における同法人の保有口座から政府保有口座に移転する場合には、基本的には、上記2(2)のとおり、クレジットは資産性を有するものであること、クレジットが我が国の京都議定書に基づく温室効果ガスの削減目標達成に寄与するため政府にとって実質的価値を有するものであること、内国法人から政府へのクレジットの無償移転が条約や法律等に基づき課せられた義務ではなくあくまで任意に行われるものであること、内国法人の事業と直接の関係がないこと、内国法人に経済的に裨益するものではないこと、無償移転であり対価性がなく、内国法人から政府への資産の贈与と認められることがその特徴として挙げられます。
したがって、当該クレジットの政府に対する無償移転は、原則として、法人税法第37条第7項に規定する「金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与」に該当し、その相手先が我が国政府であることから、当該クレジットの価額に相当する金額を法人税法第37条第3項第1号に規定する「国等に対する寄附金」として、その支出があったと認められる日、具体的には当該クレジットが政府保有口座に記録された日(当該クレジットの政府保有口座への移転が完了した日)を含む事業年度において損金算入することが相当であると考えられます。
ところで、この場合のクレジットの価額は、売買実例等を参考として適正に時価を算定する必要がありますが、クレジットの政府に対する無償移転を行う内国法人においては、現状において我が国にクレジットの取引市場が形成されておらず、第三者間で行われる売買実例等の指標を把握することが容易ではないことも考えられます。
このような場合であっても、クレジットの政府に対する無償移転が国等に対する寄附金として損金算入されることを考えると、内国法人がこの無償移転を行うに当たって、売買実例の把握が容易でないこと等により時価の算定が困難である場合には、クレジットの帳簿価額をクレジットの価額とみて処理することとしても課税上の弊害は特段生じないものと考えられます。
なお、内国法人が、仮に転売を目的としてクレジットを取得(購入)し、これを他の者に売却(有償譲渡)した場合には、原則として、会計処理と同様に棚卸資産の譲渡として扱い、その売却により生じた損益の額を、その確定した日を含む事業年度の損金又は益金の額に算入することが相当であると考えられます。
(2) 照会事項について
消費税法第2条第1項第8号及び第12号に規定する「資産」とは、取引の対象となる一切の資産をいい、棚卸資産又は固定資産のような有形資産のほか、権利その他の無形資産が含まれることとされており(消基通5-1-3)、上記2(2)のとおり、クレジットは資産性を有するものとして取引されるものですので、これに該当すると解されます。
また、クレジットの譲渡が国内で行われたかどうかの判定は、その譲渡を行う者の当該譲渡に係る事務所、事業所その他これらに準ずるもの(以下「事務所等」といいます。)の所在地で判定することとなります(消令6九)ので、内国法人が他の内国法人にクレジットを譲渡した場合、当該取引は、消費税法第4条第1項に規定する「国内において事業者が行った資産の譲渡等」に該当して消費税の課税の対象になり、一方、内国法人が他の内国法人からクレジットを有償で取得した場合には、国内における課税仕入れとして、仕入税額控除の対象になると解されます(消法30)。
なお、クレジットを取得した内国法人の消費税の課税売上割合が95%未満で、消費税法第30条第2項第1号の個別対応方式により仕入税額控除を行う場合には、将来の自社使用を見込んで取得する場合は「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの」に、第三者に転売する目的で取得する場合は「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に、それぞれ区分されることになると考えられます。
(3) 照会事項について
上記3(2)のとおり、クレジットの譲渡が国内で行われたかどうかの判定は、その譲渡を行う者の当該譲渡に係る事務所等の所在地で判定することとなります(消令6九)ので、内国法人がクレジットを譲渡した場合には国内取引に該当すると解されます。
ところで、消費税法においては、特許権等の無体財産権を非居住者に譲渡した場合には、輸出免税の対象としています(消令17六)。これは、消費税などの内国消費税については、生産地(輸出国)では課税せず、消費地(輸入国)において課税する「消費地課税主義」が原則となっているところ、特許権等の無体財産権を国外の非居住者に譲渡した場合には、当該無体財産権の効用は国外で発揮されることから、「消費地課税主義」という国際的な原則に従い、国外の非居住者に税負担を負わせないように輸出免税の対象としているものであると考えられます。
上記2(2)のとおり、クレジットは、もともとある種の法律上の利益又は地位としての実態を有しており、取引の対象となる権利として無体の財産権的に扱われており、これが国外の非居住者に譲渡された場合のその効用は国外で発揮されるものです。
このように、特許権等の無体財産権を非居住者に譲渡した場合に輸出免税としていることに鑑みれば、内国法人が外国法人にクレジットを有償譲渡する場合には、当該クレジットは消費税法施行令第6条第1項第5号に掲げる資産に準ずるものとして、同令第17条第2項第6号の規定により輸出免税が適用されると解するのが相当であると考えられます。
なお、輸出免税が適用されるためには、当該クレジットの譲渡を行った相手方との契約書その他の書類で、消費税法施行規則第5条第1項第4号に掲げる事項が記載されているものを、当該譲渡を行った日の属する課税期間の末日の翌日から2月を経過した日から7年間、事務所等の所在地に保存する必要があると解されます(消法7、消規5)。
(4) 照会事項について
上記3(2)のとおり、クレジットの譲渡が国内で行われたかどうかの判定は、その譲渡を行う者の当該譲渡に係る事務所等の所在地で判定することとなります(消令6九)ので、外国法人がクレジットを譲渡した場合には国外取引となると解されます。したがって、内国法人が外国法人からクレジットを有償で取得する場合は国外取引となり、消費税の課税の対象にはならないため、当該内国法人においては、当該クレジットの取得について仕入税額控除することはできないと解されます。