(別紙)

令和2年11月4日

国税庁 課税部
審理室長 江﨑 純子 殿

自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン研究会

座長  富永 浩明

「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」に基づき作成された調停条項に従い債権放棄が行われた場合の課税関係について(照会)

Ⅰ.過去の照会について

1 個人債務者の私的整理に関するガイドラインに係る照会
 個人債務者の私的整理に関するガイドライン研究会が平成23年7月15日に東日本大震災の被災者支援に関して策定・公表した「個人債務者の私的整理に関するガイドライン」(以下「個人版ガイドライン」という。)については、個人版ガイドラインに基づいて作成・成立した弁済計画により債権放棄が行われた場合のその債権放棄に係る対象債権者及び対象債務者の税務上の取扱いについて、同年8月11日付の照会(以下「平成23年照会」という。)に対して、同月16日付で同研究会の考え方で差し支えない旨の文書回答をいただいている。

2 自然災害による被災者の債務整理に関するガイドラインに係る照会
 当研究会が平成27年12月25日に自然災害の被災者支援に関して策定・公表した「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」(以下「自然災害ガイドライン」という。)については、自然災害ガイドラインに基づいて作成・確定した調停条項により債権放棄が行われた場合のその債権放棄に係る対象債権者及び対象債務者の税務上の取扱いについて、平成28年1月5日付で照会を行い、同月15日付でそれぞれ次に掲げるとおり解して差し支えない旨の文書回答をいただいている。

(1) 対象債権者(法人)
 対象債権者において債権放棄により生じた損失は、法人税基本通達9-6-1(金銭債権の全部又は一部の切捨てをした場合の貸倒れ)の(3)にいう「法令の規定による整理手続によらない関係者の協議決定で切り捨てられることとなった部分の金額」であり、その切捨てが同通達(3)のロにいう「行政機関又は金融機関その他の第三者のあっせんによる当事者間の協議により締結された契約でその内容がイ(合理的な基準により債務者の負債整理を定めているもの)に準ずるもの」に該当することから、法人税法上、債権放棄の日の属する対象債権者の事業年度において貸倒れとして損金の額に算入する。

(2) 対象債務者(個人)
 対象債務者において債務免除を受けたことによる債務免除益は、所得税基本通達44の2-1(「資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難」である場合の意義)にいう「破産法の規定による免責許可の決定又は民事再生法の規定による再生計画認可の決定がされると認められるような場合」になされたものであることから、所得税法における各種所得の金額の計算上、総収入金額に算入しないものとされる。

Ⅱ.自然災害ガイドラインの特則の制定等

1 経緯
 我が国の全土に大きな影響をもたらした新型コロナウイルス感染症による失業や収入・売上の大きな減少によって、住宅ローンや事業性ローン等を借りている個人や個人事業主がこれらの債務の負担を抱えたままでは、再スタートに向けて困難に直面する等の問題が起きることが考えられる。かかる債務者への支援は、新型コロナウイルス感染症の影響からの着実な立て直しのために極めて重要な課題である。
 このような状況の中、当研究会において、自然災害ガイドラインを補完するものとして、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた個人債務者の債務整理に関する金融機関等関係団体の自主的自律的な準則として、令和2年10月30日に「『自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン』を新型コロナウイルス感染症に適用する場合の特則」(以下「本件特則」という。)を策定・公表したところである。
 なお、本件特則は、令和2年12月1日から適用を開始することとしている。

2 本件特則の概要

(1) 対象となり得る債務者
 本件特則の対象となり得る債務者は、

1 新型コロナウイルス感染症の影響により基準日以前の収入や売上等に比して自然災害ガイドライン第6項(1)の債務整理開始申出日時点における収入や売上等が減少していることによって、住宅ローンや事業性ローンその他の本件特則における対象債務を弁済することができない又は近い将来において弁済することができないことが確実と見込まれること。

(注1) 上記の「基準日」とは、新型コロナウイルス感染症を指定感染症として定める等の政令が施行された日(令和2年2月1日)をいう。

(注2) 上記の「対象債務」とは、対象債権者に対する債務のうち、基準日以前に負担していた既往債務及び基準日の翌日以降、本件特則制定日(令和2年10月30日)までに新型コロナウイルス感染症の影響による収入や売上等の減少に対応することを主な目的として、貸付等を受けたことに起因する債務をいう(本件特則4(2))。

(注3) 上記の「対象債務を弁済することができない」とは、破産手続の対象となる「支払不能」の状態にあることを指し、「近い将来において対象債務を弁済することができないことが確実と見込まれる」とは民事再生手続の対象となる「支払不能のおそれ」に相当する状態にあることを指す(Q&A3-2)。

2 本件特則による債務整理を行った場合に、破産手続や民事再生手続と同等額以上の回収を得られる見込みがあるなど、対象債権者にとっても経済的な合理性が期待できること。

といった自然災害ガイドラインと同様の要件を備える個人債務者としている(本件特則5(1))。

(2) 対象債権者
 対象債権者とは、特定調停手続により本件特則に基づく債務整理が成立したとすれば、それにより権利を変更されることが予定されている債権者をいう(Q&A2-1)。また、対象債権者の範囲は、主として金融機関等の債権者であるが、自然災害ガイドラインと同様に、本件特則に基づく債務整理を行う上で必要なときはその他の債権者を含めることとされている(本件特則5(2)、Q&A2-1)。

(3) 調停条項案の類型の追加
 債務者が住宅を手放すことなく生活や事業の再建を希望する場合、自然災害ガイドライン第8項(2)1又は2に定める調停条項案を作成する方法のほか、住宅資金貸付債権(民事再生法第196条第3号)について住宅資金特別条項(民事再生法第196条第4号)と同様の内容の条項を定める調停条項案を作成することができる。この場合には、自然災害ガイドライン第7項にかかわらず、対象債務者の選択により、住宅資金貸付債権について約定返済を継続することができる(本件特則6)。

(注) なお、自然災害ガイドラインは、破産法や民事再生法並びで作成されたものであるが、自然災害の場合には、住宅が滅失等する場合が多いため、民事再生法に基づく住宅資金特別条項の類型としての調停条項案の作成は想定されず、公正価値弁済型や将来収入弁済型による調停条項案の類型を設けていたところである。一方、新型コロナウイルス感染症の場合には、自然災害と異なり住宅の損傷がなく、その住宅を手放すことなく再建を行うことが想定されるため、民事再生法並びとして上記調停条項案の類型を明記することとした。

(4) その他
 本件特則に定めのない事項については、自然災害ガイドライン、同Q&A、その他自然災害ガイドラインの運用による(本件特則7)。

3 個人版ガイドラインの廃止及び自然災害ガイドラインの改正
 個人版ガイドラインは、令和2年10月30日の改正により、令和3年3月31日をもって適用が終了することとされている。ただし、令和3年3月31日までになされた個人版ガイドライン第5項(1)による申出に係る債務整理については、個人版ガイドラインを適用することとされている。
 また、自然災害ガイドラインは、令和2年10月30日の改正(以下「本件改正」という。)により、令和3年4月1日以降は、東日本大震災についても自然災害ガイドラインの対象となる災害に含むこととされている。

Ⅲ.照会事項

  本件特則及び本件改正により自然災害ガイドラインの対象債務者として、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた一定の債務者並びに東日本大震災の被災者のうち一定の債務者を追加した場合の対象債権者及び対象債務者の課税関係について、引き続き上記Ⅰ2(1)及び(2)のとおりと解して差し支えないか。
 また、令和3年3月31日までになされた個人版ガイドライン第5項(1)の申出にかかる債務整理については、令和3年4月1日以降に弁済計画が成立した場合及び弁済計画を履行中の場合においても、平成23年照会に対する回答のとおりと解して差し支えないか念のためご照会申し上げる。

Ⅳ.理由

1 対象債権者(法人)
 次の(1)、(2)及び(3)の事実からすれば、本件特則及び本件改正により自然災害ガイドラインの対象債務者として新型コロナウイルス感染症の影響を受けた一定の債務者及び東日本大震災の被災者のうち一定の債務者を追加した場合の対象債権者の課税関係については、引き続き上記Ⅰ2(1)のとおりと解することとなる。

(1) 本件特則の対象となり得る債務者
 本件特則の対象となる新型コロナウイルス感染症の影響を受けた債務者は、自然災害ガイドラインの対象となる債務者と同様に、破産手続開始の原因となる「支払不能」(破産法211、15、301)又は民事再生手続開始の条件である「破産手続開始の原因となる事実の生ずるおそれがあるとき」(民事再生法21、331)と同様の状態にあること(上記Ⅱ2(1)1の(注3))。

(2) その他本件特則に関する事項
 調停条項が民事再生法による再生計画に係る一連の手続に準じて成立するものであること、対象債権者が行う債権放棄額が民事再生手続による債権の切捨額と同等と認められること及び作成される調停条項案を登録支援専門家が確認を行い、特定調停において調停委員会がその調停条項案の実行可能性や合理性を検討することなどの事実は、本件特則による場合も自然災害ガイドラインによる場合と同様であること(上記Ⅱ2(3)(4))。

(3) 本件改正
 本件改正により追加される東日本大震災の被災者である対象債務者に対しては、自然災害ガイドラインに基づいて作成・確定した調停条項により債権放棄が行われること。

 

2 対象債務者(個人)
 本件特則に基づいて債務免除を受けることとなる対象債務者は、上記1(1)のとおり、自然災害ガイドラインの対象となる債務者と同様に、破産手続開始の原因となる「支払不能」又は民事再生手続開始の条件である「破産手続開始の原因(支払不能)となる事実の生ずるおそれがあるとき」と同様の状態にある者とされ、民事再生手続の対象者又はそれ以上に資力を喪失している者が対象となっている。
 さらに、本件特則に基づく債権放棄額(債務免除額)は、上記1(2)のとおり、自然災害ガイドラインと同様に、民事再生手続の対象となり得る者に対して、民事再生手続による債権の切捨額と同等の債務免除をするものと認められる。
 また、本件改正により追加される東日本大震災の被災者である対象債務者は、上記1(3)のとおり、自然災害ガイドラインに基づき債務免除を受けることとなる。
 したがって、本件特則及び本件改正により自然災害ガイドラインの対象債務者として、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた一定の債務者及び東日本大震災の被災者のうち一定の債務者を追加した場合の対象債務者の課税関係については、引き続き上記Ⅰ2(2)のとおりと解することとなる。

3 個人版ガイドラインの適用関係
 令和3年3月31日までになされた個人版ガイドライン第5項(1)による申出に係る債務整理については、個人版ガイドラインを適用することとされている(上記Ⅱ3)。この個人版ガイドラインに基づいて作成・成立した弁済計画により債権放棄が行われた場合のその債権放棄に係る対象債権者及び対象債務者の税務上の取扱いについては、平成23年照会に対する回答のとおりと解することとなる。