(別紙)

28食産第1110
20160601商庶第1号
平成28年6月15日

 国税庁 課税部
 審理室長 山寺 尚雄殿

農林水産省 食料産業局
食品流通課長 たか橋 和宏
経済産業省 商務流通保安グループ
商取引・消費経済政策課長 三浦 聡

1 照会の趣旨

平成25年6月14日に閣議決定された「規制改革実施計画」において、「商品先物取引について、ヘッジ会計における実務指針に関する具体的なニーズを調査・把握し、所要の対応を検討する」とされています。これを受けて、企業会計基準委員会及び日本公認会計士協会において検討を行った結果、ヘッジ会計の適用に関し、金融商品会計に関する実務指針(以下「金融商品会計実務指針」といいます。)及び金融商品会計に関するQ&A(以下「金融商品会計Q&A」といいます。)において、要旨次の改正が行われています。

  • (1) 異なる商品間でのヘッジ

    異なる商品間でのヘッジが認められるか否かに関して、一定の前提条件の下、ヘッジ対象と異なる類型のデリバティブ取引をヘッジ手段として用いる、いわゆるクロスヘッジもヘッジ会計の対象となることが金融商品会計実務指針の改正により明確化されました。

  • (2) ロールオーバーを伴う取引に関するヘッジ会計の適格性

    例えば、事業者が輸入を予定している商品の価格変動リスクをヘッジするためにデリバティブ取引を行っていたところ、船積みの遅延等の理由により、予定取引の実行前に満期が到来するデリバティブ取引を決済し、改めて到着見込時期の価格変動に備えた新たなデリバティブ取引を行う場合があります(この新たなデリバティブ取引に係る契約の締結は一般的に「ロールオーバー」と呼ばれています。)。
     こうしたケースの取扱いについて、金融商品会計Q&Aに事例が追加されました。

そこで、上記(1)又は(2)の改正の内容に即してヘッジ会計を適用した場合における法人税法第61条の6《繰延ヘッジ処理による利益額又は損失額の繰延べ》に係る取扱いを整理したく、本件の照会を行うに至ったところです。

2 照会に係る取引等の事実関係

金融商品会計実務指針等の改正の内容は、次のとおりです。

(1) 「異なる商品間でのヘッジ」が認められるか否かに関して、ヘッジ対象と同一の商品市場が存在しない、若しくは存在しても極めて流動性が低い市場であるなどの理由により、他に適当なヘッジ手段がない場合は、有効性を事前に予測しておくことを前提条件として、ヘッジ対象と異なる類型のデリバティブ取引をヘッジ手段とすることができます。この取扱いを周知するために、以下のとおり、金融商品会計実務指針第143項に一文を追加した上で、結論の背景に第314-2項が新設されました。

○ 金融商品会計実務指針(抄)
(ヘッジ取引開始時(事前テスト))

143. 企業はヘッジ取引開始時に、次の事項を正式な文書によって明確にしなければならない。

  • (1) ヘッジ手段とヘッジ対象

    企業は一般的に市場リスク、すなわち、事業活動に伴う為替変動、金利変動、価格変動のリスクにさらされている。ヘッジ会計を適用するためには、ヘッジ対象のリスクを明確にし、これらのリスクに対していかなるヘッジ手段を用いるかを明確にする必要がある。ヘッジ対象とヘッジ手段の対応関係として、具体的には、例えば、外貨建取引(金銭債権債務、有価証券、予定取引等)の為替変動リスクに対して為替予約取引、通貨オプション取引、通貨スワップ取引等を株式の株価変動リスクに対して株式オプション等を、固定金利又は変動金利の借入金・貸付金、利付債券等の金利変動リスク(相場変動リスク又はキャッシュ・フロー変動リスク)に対して金利スワップ、金利オプション(キャップ及びフロアーを含む。)、金利先渡、金利先物等を、非鉄金属、食糧、食品、燃料等の商品価格変動リスクに対して国内外の商品取引所における商品先物取引・商品オプション取引等をヘッジ手段として用いることが考えられるので、これらの関係を正式な文書によって明確にしなければならない。なお、他に適当なヘッジ手段がない場合には、ヘッジ対象と異なる類型のデリバティブ取引をヘッジ手段として用いることもできる(金融商品会計基準第102項)。また、ヘッジ手段に関しては、その有効性について事前に予測しておく必要がある。

  • (2) 省 略

314−2. 金融商品会計基準第102項では、「他に適当なヘッジ手段がなく、ヘッジ対象と異なる類型のデリバティブ取引をヘッジ手段として用いるいわゆるクロスヘッジもヘッジ会計の対象となる。」とされており、利用可能なデリバティブ取引に制約がある場合には、ヘッジ対象と価格変動が類似する商品のデリバティブ取引をヘッジ手段として利用することが認められている。例えば、石油関連商品をヘッジ対象としてヘッジを行う場合に、流動性が高く価格変動が類似する原油関連のデリバティブを用いる場合などが該当する可能性がある。この場合、ヘッジ手段とヘッジ対象の経済的な関係や価格変動の推移から、ヘッジの有効性を事前に予測しておく必要がある。

(2) 「ロールオーバーを伴う取引に関するヘッジ会計の適格性」に関して、企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」(以下「金融商品会計基準」といいます。)及び金融商品会計実務指針において取扱いが明確なケースについて、これを周知するために金融商品会計Q&Aに以下の事例が追加されました。

○ 金融商品会計に関するQ&A(抄)
予定取引に関するヘッジ会計の中止と終了
第180項及び第181項

Q59-2:当初、6カ月後に輸入を予定しているある商品の仕入価格の変動リスクをヘッジするため、輸入の見込時期に合わせた商品スワップ契約(輸入時期の当該商品の市場価格を参照して固定価格と交換するスワップ契約)を締結していました。しかし、船積みの遅延から1か月程度、到着が遅れることが明らかとなったため、元の商品スワップ契約を満期に決済し、改めて到着見込時期の価格変動をヘッジする新たな商品スワップ契約を締結しました。この輸入の予定取引に対してヘッジ会計を適用していた場合に繰り延べられたヘッジ手段(元の商品スワップ契約)に係る損益又は評価差額は、商品スワップの満期時点で純損益に認識することとなりますか。

A:実務指針第180項にあるように、ヘッジ手段が満期、売却、終了又は行使のいずれかの事由により消滅した場合には、ヘッジ会計の適用を中止しなければならないとされ、この場合、その時点までのヘッジ手段に係る損益又は評価差額はヘッジ対象に係る損益が純損益として認識されるまで繰り延べることとされています。また、実務指針第181項では、「ヘッジ対象である予定取引が実行されないことが明らかになったときは、繰り延べていたヘッジ手段に係る損益又は評価差額を当期の純損益として処理しなければならない。」とされています。
 ご質問のケースにおける新たな商品スワップ契約の締結は一般的に「ロールオーバー」と呼ばれる取引の一例です。この場合、当初のヘッジ手段である元の商品スワップ契約について、満期時点で商品の到着より先に決済がなされるため、ヘッジ会計の中止に該当し、実務指針第180項を適用する例の一つとなります。本ケースの場合、引き続き当初のヘッジ指定時に特定された商品の予定取引の実行が見込まれることから、それまでに繰り延べたヘッジ手段に係る損益又は評価差額については、ヘッジ対象に係る損益が純損益として認識されるまで引き続き繰り延べることとなります。
 ただし、ご質問のケースとは異なり、予定取引が実行されないことが明らかになったときは、実務指針第181項に従い、当該損益又は評価差額を当期の純損益として認識します。

3 照会事項

  • (1) 金融商品会計実務指針に追加された第314-2項の例のように、ヘッジ対象と異なる商品のデリバティブ取引をヘッジ手段として用いた場合、当該デリバティブ取引についても繰延ヘッジ処理(法人税法第61条の6第1項)が認められるか。
  • (2) 金融商品会計Q&Aに追加されたQ59−2の事例のように、ヘッジ対象である金銭の支払に係る取引で、その実行可能性が極めて高いと見込まれる取引(予定取引)について、その取引の実行時期が後ずれしたことにより、ヘッジ手段であるデリバティブ取引の決済が先行した場合には、ヘッジ対象に係る損益が純損益として認識されるまで(事例では輸入仕入代金が支払われるまで)、当初のヘッジ手段であるデリバティブ取引の決済によって生じた損益額の計上を繰り延べることができるか。

なお、次の事項を照会の前提とします。

  • 1 照会事項(1)について、本照会におけるヘッジ手段であるデリバティブ取引については、帳簿記載要件(下記4(1)ロ)を充足すること及びそのデリバティブ取引を行った時から当該事業年度終了の時までのいずれかの有効性判定(法人税法施行令第121条第1項)において、「有効性割合がおおむね100分の80から100分の125までとなっている」との要件(以下「有効性要件」といいます。)を満たすこと。
  • 2 照会事項(2)について、本照会におけるヘッジ手段であるデリバティブ取引については、帳簿記載要件を充足すること及びデリバティブ取引を行った時以降決済時までの間、期末時及び決済時のいずれの有効性判定においても、有効性要件を満たすこと。
  • 3 本照会におけるヘッジ手段は、全て法人税法第61条の5第1項に規定するデリバティブ取引に該当すること。
  • 4 上記前提のほか、本照会に記載する事項以外に繰延ヘッジ処理の適用に当たり必要な要件は全て満たしていること。

4 事実関係に関して照会者の求める見解となることの理由

(1) 繰延ヘッジ処理の概要

  • イ 繰延ヘッジ処理によるデリバティブ取引の決済損益額等の繰延べ

    法人が、資産(売買目的有価証券等を除く)・負債の価額又は受払が予定されている金銭の額の変動に伴って生ずるおそれのある損失の額(以下「ヘッジ対象資産等損失額」といいます。)を減少させるためにデリバティブ取引を行った場合において、その行った時から事業年度終了の時までの間において当該資産・負債又は金銭(以下「ヘッジ対象資産等」といいます。)につき譲渡等(譲渡若しくは消滅又は受取若しくは支払をいいます。以下同じです。)がなく、かつ、そのデリバティブ取引が当該ヘッジ対象資産等損失額を減少させるために有効であると認められるときは、当該デリバティブ取引に係る利益額又は損失額(決済損益額等)のうちヘッジとして有効である部分の金額として算定した金額(以下「有効決済損益額」といいます。)は、ヘッジ対象資産等の譲渡等の日の属する事業年度まで益金の額又は損金の額への算入を繰り延べることとされています(以下、有効決済損益額の繰延べを「繰延ヘッジ処理」といいます。)(法法61の61)。

  • ロ 繰延ヘッジ処理の適用を受けるための帳簿書類への記載要件

    繰延ヘッジ処理の適用を受けようとする場合には、デリバティブ取引を行った日において、ヘッジ対象資産等損失額を減少させるためにデリバティブ取引を行った旨、ヘッジ対象資産等及びヘッジ手段であるデリバティブ取引の種類、名称、金額、ヘッジ対象資産等損失額を減少させようとする期間その他参考となるべき事項をヘッジ対象となる資産若しくは負債の取得若しくは発生又はデリバティブ取引に係る契約の締結等に関する帳簿書類に記載することが要件(以下「帳簿記載要件」といいます。)とされています(法法61の61、法規27の812)。

  • ハ 繰延ヘッジ処理における有効性判定

    繰延ヘッジ処理は、デリバティブ取引がヘッジ対象資産等損失額を減少させるために有効であると認められる場合に行うこととなりますが(法法61の61)、この場合の有効であるか否かの判定(以下「有効性判定」といいます。)は、期末時(デリバティブ取引の決済をしていない場合)及び決済時(デリバティブ取引の決済をした場合)に行わなければならないとされています(法令1211)。
     また、デリバティブ取引が「ヘッジ対象資産等損失額を減少させるために有効であると認められる場合」とは、デリバティブ取引を行った時から当該事業年度終了の時までの間のいずれかの有効性判定において、法人税法施行令第121条の2各号に規定する割合(有効性割合)がおおむね100分の80から100分の125までとなっている場合とされています(法令121の2)。

  • ニ 繰延ヘッジ処理におけるデリバティブ取引の決済損益額の計上時期

    繰延ヘッジ処理したデリバティブ取引に係る有効決済損益額のうち、当該デリバティブ取引の決済により生じた利益の額又は損失の額は、ヘッジ対象資産等の譲渡等のあった日の属する事業年度の益金の額又は損金の額に算入することとされています(法令121の51)。
     なお、繰延ヘッジ処理の適用後、期末時又は決済時における有効性判定において、有効性要件を満たさないと認められる場合には、有効であった直近の有効性判定におけるデリバティブ取引に係る利益額又は損失額と当該期末時又は決済時におけるデリバティブ取引に係る利益額又は損失額との差額は、当該事業年度の益金の額又は損金の額に算入することになります(法令121の34)。
     また、繰延ヘッジ処理の適用後に、ヘッジ対象とした金銭の受払に係る予定取引(法人税基本通達2−3−53に掲げる履行確定取引又は履行予定取引をいいます。)が事情変更等により実行されないことが確実となったときは、ヘッジ対象資産等損失額も生じないこととなるので、以後、繰延ヘッジ処理の適用はなく(法人税基本通達2−3−56)、それまで繰り延べられていた有効決済損益額は、その事業年度において損金の額又は益金の額に算入することとされています。

(2) 照会事項(1)について

法人税法上、ヘッジ手段としてデリバティブ取引を行った場合に、繰延ヘッジ処理が適用されるのは、上記(1)のイないしハのとおり、帳簿記載要件を充足し、かつ、デリバティブ取引を行った時から当該事業年度終了の時までの間のいずれかの有効性判定においてそのデリバティブ取引がヘッジ手段として有効であると認められることが必要となります。この点、本照会は、上記31のとおり、有効性要件を満たすことを前提としていますし、また、法人が、ヘッジ対象と異なる商品のデリバティブ取引をヘッジ手段として用いた場合であっても、ヘッジ対象資産等及びヘッジ手段であるデリバティブ取引の種類、名称、金額などの所定の事項が帳簿書類等へ記載されている限り、帳簿記載要件も充足するものと考えます。
 また、上記33のとおり、本照会におけるヘッジ手段については、全て法人税法第61条の5第1項に規定するデリバティブ取引に該当することを前提としているところ、法人税法第61条の6第1項におけるデリバティブ取引について、「ヘッジ対象資産等とヘッジ手段であるデリバティブ取引は同一商品に限る」などといった別段の定めも規定されていないところです。
 これらのことから、法人税法第61条の6第1項の適用については、ヘッジ手段とヘッジ対象が同一の類型の商品を参照とするものであることを要件とはしていないといえますので、有効性要件を満たすという前提の下では、本照会の例のようにヘッジ対象と異なる商品のデリバティブ取引をヘッジ手段とした場合であっても、繰延ヘッジ処理が認められるものと考えます。

(3) 照会事項(2)について

本照会の事例は、当初、6カ月後に輸入を予定しているある商品の仕入価格の変動リスクをヘッジするため、輸入の見込時期に合わせた商品スワップ契約(輸入時期の当該商品の市場価格を参照して固定価格と交換するスワップ契約)を締結し、この予定取引である輸入に伴い支払うこととなる仕入代金に対してヘッジ会計を適用していたところ、船積みの遅延により1か月程度、ヘッジ対象である輸入商品の到着が遅れることが明らかとなったため、ヘッジ手段である元の商品スワップ契約を満期に決済し、改めて到着見込時期の価格変動をヘッジする新たな商品スワップ契約を締結したというものです。
 法人税法上は、期末時及び決済時に有効性判定を行うこととされているところ、当初のヘッジ手段である商品スワップ契約について、ヘッジ対象である輸入仕入代金の支払に係る決済より先に決済が行われることとなりますので、当該商品スワップ契約の決済時において有効性判定を行うこととなります。
 そして、本照会においては、上記32のとおり、ヘッジ手段である商品スワップ契約について、決済時における有効性判定において有効性要件を満たすことを照会の前提としていますので、元の商品スワップ契約の決済によって生じた損益額については、上記(1)ニのとおり、ヘッジ対象資産等の譲渡等(本照会の事例では輸入仕入代金の支払)のあった日の属する事業年度の益金の額又は損金の額に算入する(法法61の61、法令121の51)、すなわち、ヘッジ対象である輸入仕入代金の支払に伴い当該商品の輸入取引に係る損益が純損益として認識されるまでその計上を繰り延べることとなります。
 なお、繰延ヘッジ処理の適用を受けた後に、予定取引が事情変更等により実行されないことが確実となったときは、企業会計上、繰り延べられたヘッジ手段に係る損益又は評価差額を当期の純損益として認識し(金融商品会計基準34、金融商品会計実務指針181)、法人税法上の処理としても、上記(1)ニのとおり、以後、繰延ヘッジ処理の適用はないこととなりますが、照会の事例においては、引き続き商品の輸入取引の実行が見込まれているため、この取扱いの対象ではないと考えます。