(別紙)
平成28年1月5日

国税庁 課税部
課税部長 川嶋 真 殿

自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン研究会
座長 富永 浩明

T.自然災害による被災者の債務整理に関するガイドラインの策定経緯

東日本大震災以降も、地震や暴風、豪雨等による様々な自然災害が発生しており、将来的にも、このような自然災害の影響によって、住宅ローン等を借りている個人や事業性ローン等を借りている個人事業主が、これらの既往債務の負担を抱えたままでは、再スタートに向けて困難に直面する等の問題が考えられる。かかる債務者への適切な対応は、自然災害からの着実な復興のために極めて重要な課題であり、東日本大震災に関して策定された「個人債務者の私的整理に関するガイドライン」に係る対応を通じて得られた経験等も踏まえ、新たな債務整理の枠組みが望まれている。

このような状況の中、金融機関等が、個人である債務者に対して、破産手続等の法的倒産手続によらず、特定調停を活用した債務整理により債務免除を行うことによって、債務者の自助努力による生活や事業の再建を支援するため、債務整理を行う場合の指針となるガイドラインを取りまとめることを目標として、平成27年9月に当研究会が発足した。

当研究会においては、金融機関等団体、日本弁護士会連合会、商工団体等の関係者等が中立公平な学識経験者などとともに協議を重ねた結果として、平成27年12月25日に「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」(以下「本件ガイドライン」という。)を策定・公表したところである。

このような経緯から策定された本件ガイドラインは、法的拘束力はないものの、金融機関等である対象債権者及び債務者並びにその他の利害関係人によって、自発的に尊重され遵守されることが期待されている。

なお、本件ガイドラインは、利用者に対する周知や所要の態勢整備に早急に取り組み、平成28年4月1日から適用を開始することとしている。

U.本件ガイドラインの概要

1 対象となり得る債務者

本件ガイドラインの対象となり得る債務者は、

  1. 1 住居、勤務先等の生活基盤や事業所、事業設備、取引先等の事業基盤などが、当研究会の設置(平成27年9月)後に災害救助法の適用を受けた自然災害(以下「災害」という。)の影響を受けたことによって、住宅ローン、住宅のリフォームローン、事業性ローンその他の既往債務を弁済することができないこと又は近い将来において既往債務を弁済することができないことが確実と見込まれること。
    • (注) 上記の「既往債務を弁済することができない」とは破産手続の対象となる「支払不能」の状態にあることを指し、「近い将来において既往債務を弁済することができないことが確実と見込まれる」とは民事再生手続の対象となる「支払不能のおそれ」に相当する状態にあることを指す(Q&A3-2)。
  2. 2 本件ガイドラインによる債務整理を行った場合に、破産手続や民事再生手続と同等額以上の回収を得られる見込みがあるなど、対象債権者にとっても経済的な合理性が期待できること。

といった一定の要件を備える個人である債務者としている(本件ガイドライン3(1))。

2 対象債権者

対象債権者とは、特定調停手続により本件ガイドラインに基づく債務整理が成立したとすれば、それにより権利を変更されることが予定されている債権者をいう(本件ガイドライン2(2))。また、対象債権者の範囲は、主として金融機関等の債権者とするが、本件ガイドラインに基づく債務整理を行う上で必要なときはその他の債権者を含めることとしている。これに該当する場合としては、債務整理の申出の時点において保有する自由財産を除く全ての資産を換価・処分して弁済に充てる内容の調停条項案を作成する場合のほか、対象債務者及び金融機関等である対象債権者が、登録支援専門家の支援を受けつつ協議した上で、多額の債権を有する金融機関等以外の債権者が存在するなどにより、金融機関等以外の対象債権者を含めることが妥当であると認められる場合等が考えられる。そうした場合、住宅貸付を行う共済組合や取引債権者等も対象債権者に含まれることとなる(本件ガイドライン3(2)、8(2)、Q&A2-1)。

3 登録支援専門家

本件ガイドラインに基づく債務整理の申出から調停条項の確定までの間、債権者又は債務者の代理人としてではなく、双方に利害関係のない中立かつ公正な立場の者として、弁護士、公認会計士、税理士及び不動産鑑定士の「登録支援専門家」が本件ガイドラインに基づく手続の支援を行う。(本件ガイドライン4(1)、Q&A4-1)。

この登録支援専門家は、上記のような立場から本件ガイドラインに基づく手続を支援する者として予め以下の各所属団体に登録された者である。

  1. 1 日本弁護士連合会及び弁護士法第31条に規定する弁護士会
  2. 2 日本公認会計士協会及び各地域会
  3. 3 日本税理士会連合会及び各税理士会
  4. 4 公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会及び各不動産鑑定士協会

この登録支援専門家は、個々の債務整理の事案ごとに、次の業務を行う(本件ガイドライン4(2)、Q&A4-1)。

  1. 1 債務整理の申出の支援
  2. 2 債務整理の申出に必要な書類の作成及び提出の支援
  3. 3 調停条項案(調停条項案と関連して作成される資料も含む。以下同じ。)の作成の支援
  4. 4 調停条項案の作成に係る利害関係者間の総合調整の支援
  5. 5 調停条項案の対象債権者への提出及び調停条項案の対象債権者への説明等の支援
  6. 6 特定調停の申立てに係る必要書類の作成及び特定調停の申立て後当該特定調停手続の終了までの手続実施の支援
    • (注) 調停条項案が債務の減免を要請する内容を含む場合における上記CからEに掲げる業務は、弁護士法第8条の登録を有する登録支援専門家である場合に限り行うことができる。

4 本件ガイドラインに基づく債務整理手続(手順)

本件ガイドラインに基づく債務整理の手続は、次の手順に沿って実施される。

  1. (1) 債務整理の申出を行おうとする債務者(以下「対象債務者」という。)は、対象債権者のうち、当該対象債務者に対して有する債権(本件ガイドラインに基づく債務整理の対象にしようとするものに限る。)の元金総額が最大の者(以下「主たる債権者」という。)に対して、本件ガイドラインに基づく手続に着手することを申し出る(本件ガイドライン5(1))。
  2. (2) (1)の申出を受けた主たる債権者は、当該手続着手の申出を受け付けてから10営業日以内に、対象債務者に対し、本件ガイドラインに基づく手続に着手することへの同意又は不同意の意思表示を書面により回答する(本件ガイドライン5(1))。
  3. (3) (2)の同意書面を受領した対象債務者は、登録支援専門家の登録先の各団体を通じて、一般社団法人全国銀行協会(以下「全銀協」という。)に対し、当該同意書面を付して、登録支援専門家を委嘱することを依頼する(本件ガイドライン5(2))。
  4. (4) (3)の各団体は、登録支援専門家の中から、対象債務者及び対象債権者のいずれにも利害関係を有しない適当な者を全銀協に推薦し、全銀協は、当該推薦を踏まえて速やかに登録支援専門家の委嘱を行う(本件ガイドライン5(2))。
  5. (5) (2)の同意書面を受領した対象債務者は、全ての対象債権者に対して、本件ガイドラインに基づく債務整理を書面により同一の日に申し出る(本件ガイドライン6(1))。
  6. (6) 対象債務者は、(5)の申出と同時に又は申出後直ちに、全ての対象債権者に対して、財産目録、債権者一覧表その他申出に必要な書類を提出するとともに、対象債権者への調停条項案の提出までの間において、登録支援専門家の支援を受けて、対象債権者等との事前協議を行う(本件ガイドライン6(2)、8(6)、Q&A6-1)。
  7. (7) 対象債務者は、(5)の申出から、調停条項案の内容に応じて原則として3か月又は4か月以内に、本件ガイドラインに従った調停条項案を作成の上、登録支援専門家を経由して、全ての対象債権者に提出する(本件ガイドライン8(1))。
     なお、登録支援専門家は、調停条項案の作成等の支援を通じて、対象債務者が上記1の状態にあること、債権放棄額が下記5に合致した金額であること、下記6の保証履行を求めることが相当であるかどうかなど、作成される調停条項案が本件ガイドラインに適合するものであることを確認する。
  8. (8) 対象債務者は、(7)の調停条項案の提出後、全ての対象債権者に対して、調停条項案の説明、質疑応答及び意見交換(以下「調停条項案の説明等」という。)を同日中に行う(本件ガイドライン8(7))。
  9. (9) 対象債権者は、(8)の調停条項案の説明等がなされた日から1か月以内に、対象債務者及び登録支援専門家に対して、調停条項案にかかる同意あるいは同意の見込みの旨又は不同意の旨を書面により回答し、登録支援専門家はその結果をとりまとめ、速やかに全対象債権者に通知する(本件ガイドライン8(8))。
  10. (10) 全ての対象債権者から(9)の同意あるいは同意の見込みを得た対象債務者は、簡易裁判所に対し、特定調停の申立てを行う(本件ガイドライン9(1))。
  11. (11) (10)の申立てによる特定調停において、調停委員会が、中立公正な第三者的立場から双方の意向を確認しながら、調停条項案の実行可能性や合理性等を検討した上で、最終的に調停条項が確定する。

5 本件ガイドラインに基づく債権放棄額(債務免除額)

本件ガイドラインに基づいて作成・確定した調停条項により行われる債権放棄の額は、次に掲げる調停条項の内容に応じてそれぞれ次に掲げる金額となる。

なお、調停条項案における権利関係の調整は、債権者の間に差を設けても衡平を害しない場合を除き、債権者間で平等でなければならないため(本件ガイドライン8(4))、それぞれの調停条項における債権放棄額もこれを満たしたものとなる。

(1) 収入の見込みのある対象債務者(下記(3)の調停条項案を作成する場合の個人事業主を除く。)が将来の収入から分割弁済を行う調停条項案を作成する場合
[債権放棄額]

対象債務者の収入、資産等を考慮した生活実態等を踏まえ、破産手続による弁済の見込みと同等以上の弁済がなされるため、結果として、債権放棄額は破産手続によった場合の債権の免責額と同等以下となる(本件ガイドライン8(2)1ロ)。

(注) 「収入の見込みのある対象債務者」とは、将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みのある非事業者(住宅ローン等の債務者)、及び将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みのある個人事業主((3)に該当する者を除く)をいう。

(2) 収入の見込みのない対象債務者が債務整理の申出の時点において保有する自由財産を除く全ての資産を処分・換価して弁済に充てる内容の調停条項案を作成する場合
[債権放棄額]

対象債務者が上記4(5)の申出時に保有する全ての資産(自由財産等を除く。)を処分・換価して(処分・換価の代わりに「公正な価額」に相当する金額を弁済する場合を含む。)、これにより、まず担保権者その他の優先権を有する債権者が優先弁済を受けた後、全ての対象債権者がそれぞれの債権の額の割合に応じた弁済を受け、なお債権に残額がある対象債権者のその残額が債権放棄額となる(本件ガイドライン8(2)1ハ、Q&A8-5)。

(注) 1 「収入の見込みのない対象債務者」とは、収入の見込みのある対象債務者に該当しない非事業者(住宅ローン等の債務者)、及び収入の見込みのある対象債務者に該当しない個人事業主をいう。
2 この(2)によるためには、債権額が原則20万円以上の全ての債権者を対象債権者とすることを必要としている。したがって、仮に、対象債権者から債権額20万円未満の少額債権者等を除くこととした場合には、この少額債権者等に対して全額弁済を行うこととなるが、この場合であっても対象債権者に対して破産手続による弁済額と同等の弁済を行う必要がある(債権放棄額は破産手続による免責額と同等の金額となる。)(本件ガイドライン3(1)4、8(2)1ハ、Q&A8-10)。
3 収入の見込みのある対象債務者もこの(2)によることは可能である(本件ガイドライン8(2)1ハ)。

(3) 事業の再建・継続を図る事業主が事業から生ずる将来の収益による弁済を行う調停条項案を作成する場合
[債権放棄額]

破産手続による弁済の見込みと同等以上の弁済がなされるため、結果として、債権放棄額は破産手続によった場合の債権の免責額と同等以下となる(本件ガイドライン8(2)2ロ)。

(注) 「事業の再建・継続を図る事業主」とは、事業から生ずる将来の収益による弁済により事業の再建・継続を図ろうとする個人事業主をいう。

6 個人保証人への保証履行の請求

対象債務者の対象債権者に対する債務を主たる債務とする保証債務がある場合、主たる債務者が通常想定される範囲を超えた災害の影響により主たる債務を弁済できないことを踏まえ、保証人の責任の度合い、保証人の生活実態などを勘案して、保証履行を求めることが相当と認められる場合を除き、保証人(個人に限る。)に対する保証履行は求めないこととしている(本件ガイドライン8(5)、Q&A8-13、8-14)。

V.照会事項(照会者の求める見解の内容)

本件ガイドラインに基づいて作成・確定した調停条項により債権放棄が行われた場合、その債権放棄に係る対象債権者及び対象債務者の税務上の取扱いは、次のとおりと解して差し支えないか。

1 対象債権者(法人)

対象債権者において債権放棄により生じた損失は、法人税基本通達9-6-1(金銭債権の全部又は一部の切捨てをした場合の貸倒れ)の(3)にいう「法令の規定による整理手続によらない関係者の協議決定で切り捨てられることとなった部分の金額」であり、その切捨てが同通達(3)のロにいう「行政機関又は金融機関その他の第三者のあっせんによる当事者間の協議により締結された契約でその内容がイ(合理的な基準により債務者の負債整理を定めているもの)に準ずるもの」に該当することから、法人税法上、債権放棄した日の属する対象債権者の事業年度において貸倒れとして損金の額に算入する。

2 対象債務者(個人)

対象債務者において債務免除を受けたことによる債務免除益は、所得税基本通達44の2-1(「資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難」である場合の意義)にいう「破産法の規定による破産手続開始の申立て又は民事再生法の規定による再生手続開始の申立てをしたならば、破産法の規定による免責許可の決定又は民事再生法の規定による再生計画認可の決定がされると認められるような場合」になされたものであることから、所得税法上、各種所得の金額の計算上、総収入金額に算入しないものとされる。

W.照会者意見(照会者の求める見解となる理由)

1 対象債権者(法人)

(1) 法人税基本通達9-6-1

法人税基本通達9-6-1(金銭債権の全部又は一部の切捨てをした場合の貸倒れ)においては、債権者たる法人が、債務者につき法的手続又は私的手続による債務整理によりその有する債権の切捨て(債務免除)を行った場合において、この債務免除による損失を貸倒れとして損金の額に算入される場面及び金額が明らかにされているところである。

同通達の(1)においては、更生計画認可の決定があった場合又は再生計画認可の決定があった場合において、これらの決定により切り捨てられることとなった部分の金額は、貸倒れとして損金の額に算入されることが明らかにされている。

同通達の(2)においては、特別清算に係る協定の認可の決定があった場合において、この決定により切り捨てられることとなった部分の金額は、貸倒れとして損金の額に算入されることが明らかにされている。

同通達の(3)においては、法令の規定による整理手続によらない関係者の協議決定で、一定のものにより切り捨てられることとなった部分の金額は、貸倒れとして損金の額に算入されることが明らかにされている。

最後に、同通達の(4)においては、債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合において、その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額は、貸倒れとして損金の額に算入されることが明らかにされている。

本件ガイドラインは法的手続ではないため、本件ガイドラインに基づいて作成・確定した調停条項により行われる債務免除については、同通達の(1)及び(2)の場面とは異なる。また、本件ガイドラインに基づいて作成・確定した調停条項により債務免除を受ける対象債務者は「債務超過の状態が相当期間継続」しているとは限られないことから、同通達の(4)により照会の課税関係を判断することは相当でない。

したがって、本件ガイドラインに基づいて作成・確定した調停条項により行われる債務免除による損失が貸倒れとして損金の額に算入されるかどうかは、同通達の(3)によりその判断を行うこととなる。

(2) 法人税基本通達9-6-1(3)

法人税基本通達9-6-1(金銭債権の全部又は一部の切捨てをした場合の貸倒れ)の(3)においては、前述のとおり、法令の規定による整理手続によらない関係者の協議決定で、一定のものにより切り捨てられることとなった部分の金額は、貸倒れとして損金の額に算入されることが明らかにされている。

この「関係者の協議決定で、一定のもの」として、同通達(3)において、次の2つの協議決定が明らかにされている(法基通9-6-1(3)イ、ロ)。

  1. 1 債権者集会の協議決定で合理的な基準により債務者の負債整理を定めているもの
  2. 2 行政機関又は金融機関その他の第三者のあっせんによる当事者間の協議により締結された契約でその内容が@に準ずるもの

上記1は、債権者集会の協議決定であるため、複数の債権者がいる場合を念頭に置いた取扱いと考えられるところである。

しかしながら、本件ガイドラインの対象となり得る債務者には、非事業者である住宅ローンを抱える個人も含まれており、対象債権者が単一の金融機関となる場合も想定されること(Q&A1-3)、及び登録支援専門家や裁判所という「行政機関又は金融機関その他の第三者」が手続に関与することから、照会の課税関係については、上記Aに該当するかどうかによりその判断を行うことが相当と考えられる。

(3) 法人税基本通達9-6-1(3)のロへの当てはめ

本件ガイドラインに基づいて作成・確定した調停条項により債務免除(債権放棄)が行われた場合において、当該調停条項が本件ガイドラインに適合したものであることを本件の照会の前提とすれば(上記V参照)、当該調停条項の確定に至るまでの手続、当該調停条項の対象となる個人債務者及びその債権放棄額については、次の事実が認められることとなる。

  1. 1 民事再生法における再生計画は、再生手続開始の申立て、裁判所及び裁判所の選任する監督委員(又は個人再生委員)の監督の下で行われる財産状況等の調査手続を経た再生計画案の提出及び再生債権者の同意を経た認可決定により成立する。この点、本件ガイドラインによる調停条項は、債務整理の申出、登録支援専門家の支援の下に作成された調停条項案の提出、対象債権者の同意を経た特定調停の申立て、裁判所の特定調停という手続により確定することから、民事再生法による再生計画に係る一連の手続に準じて成立するものであること(上記Uの4)。
  2. 2 当該個人債務者は、住居、勤務先等の生活基盤や事業所、事業設備、取引先等の事業基盤などが災害の影響を受けたことによって、住宅ローン、住宅のリフォームローン、事業性ローンその他の既往債務を弁済することができないこと又は近い将来において既往債務を弁済することができないことが確実と見込まれることから(上記Uの11)、破産手続開始の原因となる「支払不能」(破産法211、15、301)又は民事再生手続開始の条件である「破産手続開始の原因となる事実の生ずるおそれがあるとき」(民事再生法211、331)と同様の状態にあること(上記U11の(注))。
  3. 3 対象債権者が行う債権放棄額は、破産手続による債権の免責額と同等以下となること(上記Uの5(1)、(3))又は破産手続による債権の免責額と同等であること(上記Uの5(2))からすれば、再生計画不認可決定事由の一つである「再生計画の決議が再生債権者の一般の利益に反するとき」(民事再生法1742四)に該当しないよう破産手続による弁済額以上の弁済をすること(債権の切捨額が破産手続による債権の免責額と同等以下であること)が求められる民事再生手続による債権の切捨額と同等と認められるほか、債権者間において平等又は衡平と認められるものとなること(上記Uの5)。
  4. 4 対象債務者の対象債権者に対する債務を主たる債務とする保証債務がある場合、保証人に対して保証履行を求めることが相当な場合には、保証履行を求めること(保証履行を求める部分については債権放棄を行わないこと)(上記Uの6)。
  5. 5 登録支援専門家が、対象債務者が上記Aの状態にあること、債権放棄額が上記3に合致した金額であること、上記4の保証履行を求めることが相当であるかどうかなど、作成される調停条項案が本件ガイドラインに適合するものであることを確認すること(上記Uの4(7))。加えて、調停委員会が、中立公正な第三者的立場から、作成された調停条項案の実行可能性や合理性等を検討すること(上記Uの4(11))。

以上の事実からすれば、本件ガイドラインに基づいて作成・確定した調停条項により債権放棄が行われた場合には、その手続は民事再生法による再生計画に係る一連の手続に準じており、対象債務者は破産法又は民事再生法による債務整理の対象となる者であるとともに、その債権放棄額も破産手続による免責額の範囲内であり、保証債務の履行を求める部分については債権放棄が行われないことから、当該調停条項による債権放棄額については「合理的な基準により債務者の負債整理を定めているもの」(法基通9-6-1(3)イ)により算出された債権放棄額に該当すると解される。

また、調停条項案が登録支援専門家の支援の下に作成され、特定調停において調停委員会がその内容を確認し、これらの過程を踏まえて最終的に調停条項が確定することからすれば、「行政機関又は金融機関その他の第三者のあっせんによる当事者間の協議により締結された契約でその内容がイに準ずるもの」(法基通9-6-1(3)ロ)による債権放棄額であると認められる。

したがって、本件ガイドラインに基づいて作成・確定した調停条項により行われる債権放棄額は、法人税基本通達9-6-1の(3)ロを根拠として、法人税法上、貸倒れとして損金の額に算入されることとなる。

2 対象債務者(個人)

(1) 債務免除益に係る所得税法上の取扱い

個人が債務免除を受けた場合の債務免除益については、所得税法第36条第1項かっこ内に規定する「金銭以外の物又は権利その他経済的な利益」に該当し、原則として、各種所得の金額の計算上収入金額又は総収入金額に算入することとなる(所基通36-15(5))

ただし、「資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難である場合」に受けたものについては、各種所得の金額の計算上、総収入金額に算入しないこととされており(所得税法第44条の2第1項)、さらに、上記の「資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難である場合」とは、破産法の規定による破産手続開始の申立て又は民事再生法の規定による再生手続開始の申立てをしたならば、破産法の規定による免責許可の決定又は民事再生法の規定による再生計画認可の決定がされると認められるような場合とされている(所基通44の2-1)。

(2) 所得税基本通達44の2-1への当てはめ

本件ガイドラインに基づいて債務免除を受けることとなる対象債務者は、上記1(3)の2のとおり、破産手続開始の原因となる「支払不能」又は民事再生手続開始の条件である「破産手続開始の原因(支払不能)となる事実の生ずるおそれがあるとき」と同様の状態にある者とされ、民事再生手続の対象者又はそれよりも資力を喪失している者が対象となっている。

また、本件ガイドラインに基づく債権放棄額(債務免除額)は、上記1(3)の3に記載したとおり、民事再生法による再生手続と同様に破産手続による債権の免責額と同等以下となるように設定することとなる。

さらに、これらのことにつき、調停条項案が登録支援専門家の支援の下に作成され、特定調停において調停委員会により確認されていることが照会の前提であることからすれば、本件ガイドラインに基づく債務免除額は、民事再生手続の対象となり得る者に対して、民事再生手続による債権の切捨額と同等の債務免除をするものと認められる。

したがって、本件ガイドラインに基づき債務免除を受けた対象債務者に係る債務免除益については、民事再生手続による債権の切捨額と同様に、所得税基本通達44の2-1にいう「破産法の規定による破産手続開始の申立て又は民事再生法の規定による再生手続開始の申立てをしたならば、破産法の規定による免責許可の決定又は民事再生法の規定による再生計画認可の決定がされると認められるような場合」になされたものであることから、その債務免除益は、所得税法第44条の2により各種所得の金額の計算上、総収入金額に算入されないこととなる。

以上