国空ネ企第108号
平成26年11月14日

国税庁 課税部長
藤田 博一 殿

国土交通省 航空局
航空ネットワーク部長 平垣内 久

1.照会の趣旨

民間の能力を活用した国管理空港等の運営等に関する法律(平成25年法律第67号)に基づき、今後、民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律(平成11年法律第11号。以下「PFI法」といいます。)が定める公共施設等運営権(以下「運営権」といいます。)制度を活用して実施する国管理空港及び地方管理空港の運営事業(以下「本件PFI事業」といいます。)が増加することが見込まれています。本件PFI事業においては、運営権を有する者(以下「運営権者」といいます。)が、既に設定された運営権に基づく維持管理義務の履行の一環として、公共施設等運営権実施契約(以下「実施契約」といいます。)に従って、運営権の設定対象となった空港基本施設等(以下「運営権設定対象施設」といいます。)の修理、改良、増設等(以下「更新投資」といいます。)に係る費用を負担することとなりますが、更新投資の法人税法上の取扱いについては以下のとおり解して差し支えないでしょうか。

【照会事項】

  1. 1 本件PFI事業における更新投資に係る支出は、運営権者が実施契約に基づく維持管理義務の履行として行うものであるから、運営権者の費用となる。ただし、その支出の効果が一年以上に及ぶものについては、自己が便益を受ける公共的施設の改良のために支出する費用で、支出の効果がその支出の日以後一年以上に及ぶもの(法人税法第2条第24号、法人税法施行令第14条第1項第6号イ)として、繰延資産に該当する。
  2. 2 更新投資のうち繰延資産に該当する支出について、その償却限度額計算の基礎となる「支出の効果の及ぶ期間」(法人税法施行令第64条第1項第2号)は個々の支出内容に応じて適正に見積もることとなる。ただし、運営権の存続期間満了時に運営権者は運営権設定対象施設の使用収益権を失うことから、運営権の存続期間満了後は更新投資に係る「支出の効果」は及ばないと解される。したがって、更新投資に係る費用の償却期間は最長でも運営権に係る事業期間終了日までの期間とすることが相当である。
     なお、本件PFI事業における更新投資に係る費用の償却期間の見積もりに際しては、法人税基本通達8−2−3《繰延資産の償却期間》の「公共的施設の設置又は改良のために支出する費用(8−1−3)」の(1)の取扱いに準じて、運営権設定対象施設の耐用年数の10分の7の年数を償却期間とすることとして差し支えない(この場合も、償却期間は、最長でも運営権に係る事業期間終了日までの期間となる。)。

2.照会に係る取引等の事実関係

(1)公共施設等の運営権制度について

公共施設等の管理者等(国、地方公共団体等)は、その有する施設の運営等(PFI法第2条第6項に規定する運営等(運営及び維持管理並びにこれらに関する企画)をいいます。以下同じです。)を行い、利用料金を決定・収受する権利を有しているとともに、当該施設の処分(売却等)を行うこともできます(以下、これらの権利を「施設所有権」といいます。)。
 運営権は、この施設所有権のうち運営等を行い利用料金を収受する(収益を得る)権利を切り出したもので、PFI法上、公共施設等運営事業を実施する権利とされています(PFI法第2条第7項)。また、運営権は、「物権」とみなされ、他のみなし物権と同様、管理者等により民間事業者に設定される権利です(PFI法第24条、公共施設等運営権及び公共施設等運営事業に関するガイドライン(以下「ガイドライン」といいます。)「7運営権対価」)。運営権の設定に対する対価やその支払い方法等については、あらかじめ実施契約において管理者等と運営権者間で定められますが、その額の算出方法としては、運営権者が将来得られるであろうと見込む事業収入から事業の実施に要する支出を控除したものを現在価値に割り戻したもの等の合理的な手法が考えられています(ガイドライン「7運営権対価」)。公共施設等の管理者等は、運営権の設定の対象となる民間事業者を選定しようとする場合には、その選定に際し公表する実施方針に運営権の存続期間を定めるものとされており(PFI法第17条第3号)、当該期間の満了時に当該運営権は消滅します。

(2)本件PFI事業の概要

本件PFI事業は、空港の管理者等である国及び地方公共団体が所有権を有する空港基本施設等の運営について、公募の方法等により選定された民間事業者に対し、公共施設等運営事業を実施する権利である運営権を設定し、当該運営権を設定された民間事業者(運営権者)が運営等を行い、利用料金を自らの収入として収受するものです。空港の管理者等は、運営権設定後も空港基本施設等の所有権を有する一方で、運営権者は当該施設の運営権を有し、実施方針に定められた運営権の存続期間の間、当該施設の運営等をすることになります。
 なお、本件PFI事業の事業期間は、実施方針及び実施契約において定められた事業開始日から事業終了日までであり、この事業終了日をもって運営権は消滅することとなります。この事業終了日については、例えば、「運営権設定日の30年後の応答日の前日」などと定められます。

(3)運営権者による更新投資(維持管理)義務

本件PFI事業において、運営権者は、運営権の存続期間中、利用料金を収受する権利を有するとともに、実施契約に従って運営権設定対象施設(空港基本施設等)を適切に維持管理する義務を負うこととなります。この維持管理は公共施設等の新設(建設)又は公共施設等を全面除却し再整備するもの(改修)を除く資本的支出又は修繕(いわゆる増築や大規模修繕も含む。)を指すと考えられており(ガイドライン「11 更新投資・新規投資」)、運営権者は、当該維持管理義務の履行の一環として当該施設の機能維持や機能劣化等に対応した修理、改良、増設等(更新投資)に係る費用を負担することとなります。
 本件PFI事業における運営権者が実施すべき更新投資としては、例えば、滑走路・誘導路・エプロン等の局部的破損等の原状回復、舗装打替え、滑走路・誘導路の延長、エプロンの増設、航空灯火の更新等があり、実施契約においてその範囲が定められるとともに、運営権者が作成する中期計画及び単年度計画に従い、原則として運営権者自らの判断でこれらの更新投資を実施することとなります。
 本件PFI事業における更新投資は、既に設定された運営権に基づき運営権者が実施契約に従って運営事業の一環として行うものであることから、運営権者が、滑走路・誘導路・エプロン等の舗装打替えや延長、増設などの更新投資を実施した結果、更新投資の対象部分は、投資対象の施設完成後、その所有権は当然に管理者等に属し、運営権設定対象施設に含まれるものとして、運営権の存続期間中、運営権者が維持管理を行うことになります。
 なお、本件PFI事業における更新投資は、別添に掲げた実施方針、実施契約に沿って実施されるものであることを本照会の前提としています。

3.事実関係に関して照会者の求める見解となることの理由

(照会事項1について)

運営権は、法人税法上「無形固定資産」として減価償却資産に該当し(法人税法施行令第13条第8号ル)、運営権の取得価額に定額法の償却率を乗じて計算した金額を各事業年度の償却限度額として減価償却を行うこととされています。しかし、本件PFI事業における更新投資に係る支出は、既に設定した運営権に基づいて支出されるものであり、新たに運営権を設定して運営権者に取得させるものではないことから、運営権の取得価額として減価償却の対象となるものではありません。
 また、滑走路・誘導路・エプロン等の舗装打ち替えや延長、増設等の更新投資がされた場合、投資対象の施設完成後、その所有権は当然に管理者等に帰属し、運営権者がその所有権を取得しないことから、更新投資に係る支出は、運営権者にとって有形固定資産の取得価額を構成するものともなりません。
 さらに、本件PFI事業において、更新投資に係る資産の所有権は当然に管理者等に属することとなりますが、運営権者による当該更新投資は、実施契約に基づく維持管理義務の履行をしたにすぎず、対価なく管理者等に利益供与等をするものではないことから、法人税法第37条に規定する寄附金にも該当しません。よって、更新投資に係る支出は、運営権者の費用として取り扱われます。
 ただし、本件PFI事業に係る更新投資のうち、原状回復にとどまらずその支出の効果が一年以上に及ぶものもあるところ、運営権者は運営権設定対象施設を使用収益できるという権利を有しており、当該更新投資に係る支出は、運営権者が便益を受ける公共的施設(運営権設定対象施設)の改良のために支出する費用と考えられることから、この場合には、繰延資産に該当します(法人税法第2条第24号、法人税法施行令第14条第1項第6号イ)。

(照会事項2について)

繰延資産の償却限度額に関しては、法人税法施行令第64条第1項第2号のとおり、「その繰延資産の額をその繰延資産となる費用の支出の効果の及ぶ期間の月数で除して計算した金額に当該事業年度の月数を乗じて計算した金額」とされ、法人税基本通達8−2−1のとおり「繰延資産となる費用の支出の効果の及ぶ期間は、この節に別段の定めのあるもののほか、固定資産を利用するために支出した繰延資産については当該固定資産の耐用年数、一定の契約をするに当たり支出した繰延資産についてはその契約期間をそれぞれ基礎として適正に見積った期間による。」とされているところであります。
 本件PFI事業における更新投資のうち繰延資産に該当する支出についても、個々の支出内容に応じて「支出の効果の及ぶ期間」を適正に見積もることとなりますが、運営権者は運営権の存続期間満了時に運営権設定対象施設の使用収益権を失うことになることから、当該運営権に基づく運営事業の一環として行った更新投資についても、運営権の存続期間満了後にはその支出の効果が及ばないと考えられます。したがって、更新投資に係る費用の償却期間は最長でも運営権に係る事業期間終了日までの期間とすることが相当です。
 ところで、法人税法施行令第14条第1項第6号に掲げる「公共的施設の設置又は改良のために支出する費用」の償却期間は、その受益の程度に応じて、その負担者に専ら使用される施設については耐用年数の10分の7、それ以外の施設については10分の4に相当する年数によるとの取扱いがなされています(法人税基本通達8−2−3)。本件PFI事業において、運営権者は、公共的施設に該当する運営権設定対象施設(空港基本施設等)を専ら使用収益することから、当該施設に対する更新投資に係る費用の償却期間の見積もりに際しては、上記法人税基本通達8−2−3の取扱いに準じて、対象施設の耐用年数の10分の7に相当する年数を償却期間としても差し支えないものと考えられます(この場合も、償却期間は、最長でも運営権に係る事業期間終了日までの期間となります。)。

(注) 本照会に当たり、照会文書の記載内容については、PFI法を所管する内閣府に確認しています。
 なお、平成25年9月6日に内閣府において「公共施設等運営権に係る会計処理方法に関するPT研究報告(中間とりまとめ)」を公表していますが、これは、その前書きにもあるとおり、公表時点で想定される範囲内の空港における運営事業スキームを前提にPTの委員等の意見をとりまとめたものであり、実務上の指針として位置づけられるものではありません。
 この報告においては更新投資の会計処理等について「・・・使用可能期間の延長・価値の向上を伴う更新(資本的支出)は、運営権(無形固定資産)として資産計上し、運営事業の残存期間にわたって減価償却することが考えられる。」といった記載がされていますが、本件PFI事業に係る更新投資の整理について本照会のとおりとなることについては内閣府にも確認をしています。