平成26年6月25日

 国税庁 課税部長
 岡田 則之 殿

日本弁護士連合会
会長 村越 進
日本税理士会連合会
会長 池田 隼啓

 「中小企業等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律」(以下「金融円滑化法」といいます。)が平成25年3月末に終了した後、特に中規模以下の中小企業の経営危機が深刻化している一方で、これら中規模以下の中小企業の債務整理を実施する公的プラットフォームが存在せず、適切な経営改善・事業再生を実施することが困難な状況にありました。
 そこで、日本弁護士連合会は、最高裁判所、中小企業庁等の関係機関と協議を重ね、中小企業の再生のため、簡易裁判所の特定調停制度を活用したスキーム(以下「本特定調停スキーム」といいます。)を策定し、今般、別添の「金融円滑化法終了への対応策としての特定調停スキーム利用の手引き」(以下「手引き」といいます。)を取りまとめました。
 また、本特定調停スキームの実際の運用における税務面の課題については、日本税理士会連合会も、当該スキームの担い手として、検討に参加いたしました。
 特定調停とは、特定債務等の調整の促進のための特定調停に関する法律(以下「特定調停法」といいます。)に規定された債務の返済が困難な債務者の経済的再生に資するため、その債務者が負担する金銭債務等に関する利害の調整を目的とする民事調停をいいます(特定調停法1)。
 本特定調停スキームは、資金繰りに窮するなどして経営困難な状況に陥り、本格的な再生処理が必要となる中小企業のうち比較的小規模な企業の再生を支援することを目的としたものであり、債務者から債務整理について受任した弁護士が、税理士、公認会計士等と、調停申立前に財務・事業に関するデューデリジェンスを実施するなどして経営改善計画案を策定し、金融機関等と調整して同意の見込みを得た上で、特定調停の申立てを行うことにより、よりスムーズに調停手続を行うものです(手引き5(1))。
 本特定調停スキームの対象とする案件は、債権放棄のほか、返済の繰延べ等種々の手法が考えられますが、債権放棄を伴う案件については、別紙〔本特定調停スキームにおいて債権放棄を行う場合の具体的手順〕に記載した手順(以下「別紙に記載した手順」といいます。)に従って再建計画が策定され、特定調停手続を経て成立することが想定されています。
 つきましては、別紙に記載した手順に従って策定された再建計画が特定調停手続を経て成立し債権放棄が行われた場合、債権者及び債務者における税務上の取扱いについては、下記のとおりで問題がないか、ご照会申しあげます。

1. 債権放棄をした債権者の税務上の取扱い

   債権者である企業が取引先等を再建するために債権放棄をした場合の税務上の取扱いについては、法人税基本通達9-4-2において合理的な再建計画に基づくものである等その債権放棄について相当の理由があるときは、その債権放棄により供与される経済的利益の額は、寄附金の額に該当しないとされ、その経済的利益の供与による損失は、税務上損金の額に算入することができます。
 本特定調停スキームにより別紙に記載した手順に従い、利害の対立するすべての債権者の合意を得て策定された再建計画について、同通達9-4-2に沿って検討すると別紙の1及び2のとおりであり、同通達に定める支援額の合理性、支援者による適切な再建管理、支援者の範囲の相当性及び支援割合の合理性等のいずれも有すると考えられます。
 このことを前提とすれば、本特定調停スキームにより別紙に記載した手順に従って策定される再建計画が特定調停手続を経て成立し債権放棄が行われた場合には、原則として、同通達にいう合理的な再建計画に基づく債権放棄であると考えられます。

2. 債務免除を受けた債務者の税務上の取扱い

   債務者である企業が債務免除を受けた場合、法人税基本通達12-3-1(3)では、「債務の免除等が多数の債権者によって協議の上決められる等その決定について恣意性がなく、かつ、その内容に合理性があると認められる資産の整理があったこと」が認められるときには、法人税法施行令第117条第5号の再生手続開始の決定に準ずる事実等に該当する旨定めており、法人税法第59条第2項≪会社更生等による債務免除等があった場合の欠損金の損金算入≫の適用があることになります。
 本特定調停スキームにより別紙に記載した手順に従って策定される再建計画が特定調停手続を経て成立し債務免除を受けた場合には、同通達12-3-1(3)に沿って検討すると別紙の3のとおりであり、同通達に規定する「債務の免除等が多数の債権者によって協議の上決められる等その決定について恣意性がなく、かつ、その内容に合理性があると認められる資産の整理があったこと」に該当することから、原則として、法人税法第59条第2項の適用があるものと考えられます。
 なお、本特定調停スキームにおける手引きには、債務者の有する資産及び負債の価額の評定に関する事項等が定められていないため、法人税法施行令第24条の2第1項第1号に規定する「債務処理を行うための手続について定めた準則」には該当しないことから、資産の評価益又は評価損の益金算入又は損金算入の規定(法法253、334)の適用については、本照会の対象外としています。

(別紙)

 本特定調停スキームは、会社更生法や民事再生法などの手続によらずに、債権者と債務者の合意に基づき、債務について猶予・減免などをすることにより、経営困難な状況に陥り本格的な再生処理を必要としている企業の再生を支援するためのものであり(手引き1)、利害の対立するすべての金融機関等が債権者として関わることを前提としたものです。
 具体的な手順としては、まず、経営困難に陥った債務者が弁護士、税理士、公認会計士等の専門家(以下「専門家」といいます。)の協力を得て、役員給与の減額等債務者自身の自助努力を加味した経営改善計画書を作成します。この経営改善計画書の経営改善計画概要の中には、金融機関等が再建計画の期間を通じて債権者の立場から債務者の管理を行うことを前提とした上で、モニタリングに必要な期間を定め、金融機関等は債務者に対して、当該モニタリング期間中、年一回程度の割合で、再建計画の実施状況を報告させるなどといった債務者に対するモニタリングの内容が記載されます(手引き別紙書式3≪経営改善計画概要≫)。また、実態貸借対照表を作成し予想配当率を算出するとともに、債務免除額を決定します。
 次に、メインバンクやそれ以外の金融機関等に対し経営改善計画案を説明し、意見交換等をし、同意の見込みを得た後、その経営改善計画案に則って調停条項案を作成し、金融機関等に対して特定調停についての説明と調停条項案に対する同意の見込みを得ます。
 さらに、この見込みを得ていることを前提に特定調停の申立てを行い、事案の性質に応じて必要な法律、税務、金融、企業の財務、資産の評価等に関する専門的な知識経験を有する調停委員(以下、単に「調停委員」といいます。)が、中立公正な第三者的立場から双方の意向を確認しながら、経営改善計画案の実行性等や支援額、調停事項の合理性等を検討します。これらの過程を経たうえで特定調停の対象となる債権者全員の同意を得て最終的に調停が成立します。
 本特定調停スキームは、多数の事件を円滑に処理できる運用方法を確立したものであり、専門性のある調停委員を速やかに選任してもらう必要があることから、地方裁判所本庁に併置された簡易裁判所が管轄裁判所となっています(手引き5(2)イ)。また、経営改善計画案に対する金融機関等の同意が事前に見込まれていることが前提となっていますので、1、2回の調停期日で終結することが予定されています(手引き5(3))。さらに、事前に再建計画についての同意の見込みを得ていることから債権者毎に調停の進行が区々になる可能性は極めて低いため、債権者の数にかかわらず原則として1件の申立てで行うこととなります(手引き5(2)ア)。
 本特定調停スキームが上記手順に従って行われる場合の債権放棄について、法人税基本通達9-4-2及び同通達12-3-1(3)に沿って検討した項目及び内容は、下記のとおりです。

1. 損失負担の必要性

(1) 対象債務者は事業関連性のある「子会社等」に該当するか
 本特定調停スキームが上記手順に従って行われる場合、債務者が調停を申し立てる相手方は金融機関等であり(手引き5(2)ア)、これらの者は融資関係等を有していることから、事業関連性のある「子会社等」に該当すると考えます。

(2) 子会社等は経営危機に陥っているか
 特定調停の対象となる債務者は、「金銭債務を負っている者であって、支払不能に陥るおそれのあるもの若しくは事業の継続に支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済することが困難であるもの又は債務超過に陥るおそれのある法人」であり(特定調停法21)、本特定調停スキームが上記手順に従って行われる場合の債務者は、過剰な債務が原因となって経営困難な状況に陥っており、自力による再生が困難な状態にあります(手引き4(2)ウ2)。
 また、特定調停手続の中で、債務者は経営危機に陥っており、経営破たんを回避するため債務免除を通じて再生をしていくことが合理的であることを金融機関等や調停委員が確認します(手引き別紙書式5)。
 したがって、債務者は過剰債務を主因として経営困難な状況にあり、自力による再生が困難な企業であり、経営危機に陥っていると考えます。

(3) 支援者にとって損失負担等を行う相当な理由はあるか
 本特定調停スキームが上記手順に従って行われる場合には、専門家が、実態貸借対照表から予想清算配当率を算定するとともに、金融機関等はその数値を基に清算価値よりも多い回収を得られる見込みがあることを判断します(手引き4(2)ウ4)。したがって、金融機関等にとっても経済合理性があることから、債権放棄を行う相当な理由があると考えます。

2. 再建計画等の合理性

(1) 損失負担額(支援額)の合理性
 本特定調停スキームが上記手順に従って行われる場合には、債務者が専門家の協力を得て経営改善計画案を策定し、金融機関等との調整を経て支援額を決定します。金融機関等の同意を得るには、役員給与の減額等債務者自身の自助努力を加味した経営改善計画案の作成が必要となります。
 さらに、本特定調停スキームでは金融機関等の同意が見込まれていることを前提に申立てを行い、調停委員が、中立公正な第三者的立場から双方の意向を確認しながら、経営改善計画案の実行可能性等や支援額・調停条項の合理性等を検討します。これらの過程を踏まえたうえで、特定調停の対象となる債権者全員の同意を得て最終的に調停が成立します。
 このように、まず債務者側で専門家の協力を得て作成された経営改善計画案について利害が対立するすべての金融機関等の同意を得、さらに特定調停手続において調停委員が確認を行うという段階的手続が踏まれることにより、計画の適正性・実行可能性や支援額の合理性について担保されていると考えます。したがって、損失負担額の合理性は、十分担保されているものと考えます。

(2) 再建管理等の有無
 本特定調停スキームが上記手順に従って行われる場合、例えば、金融機関等が債務者に対して、モニタリングの期間中、年一回程度の割合で再建計画の実施状況を報告させるなどといったモニタリングの実施方法が経営改善計画書(手引き別紙書式3≪経営改善計画概要≫)に記載され、それに基づきモニタリングを実行されます。また、金融機関等は、モニタリング期間の終了後も再建計画の期間中、引き続き債権者の立場から債務者の管理を行うことから、再生計画に対する再建管理は行われているものと考えます。

(3) 支援者の範囲の相当性
 本特定調停スキームが上記手順に従って行われる場合には、債務者が専門家の協力を得て、メインバンクに対し再生への協力の要請を行った上で、それ以外の金融機関等とも調整して同意の見込みを得るように経営改善計画案の策定を行います(手引き5(1)(3))。
 また、調停申立後も簡易裁判所において、調停委員が第三者的立場から各金融機関等の意向を確認します(手引き5(3))。
 このように、経営改善計画は、各金融機関等が合意した上で成立することから、支援者の範囲の相当性は担保されているものと考えます。

(4) 負担割合(支援割合)の合理性
 本特定調停スキームが上記手順に従って行われる場合には、専門家により実態貸借対照表が作成され、当該実態貸借対照表から予想清算配当率を算出するとともに、経営改善計画案(手引き別紙書式3)を作成し債務免除額を決定します(手引き5(1))。その後、債務者が当該経営改善計画案をもとに、利害関係者である金融機関等と調整を行います。さらに、簡易裁判所において調停委員が負担割合の合理性等を検討し、金融機関等が合意したうえで調停が成立します。したがって、負担割合は合理的に決定されているものと考えます。

3. 再生手続開始の決定に準ずる事実の該当性

   本特定調停スキームが上記手順に従って行われる場合、債務者が専門家の協力を得て作成した経営改善計画案(手引き別紙書式3)について、利害が対立する金融機関等の同意の見込みを得た後、簡易裁判所において調停委員が中立公正な第三者的立場から双方の意向を確認しながら、経営改善計画案の実行可能性等や支援額の適正性、調停条項の合理性等を検討します。このような段階的手続が踏まれることにより、計画の適正性・実行可能性や支援額の合理性について担保されているものと考えます。
 このように本特定調停スキームに基づいて上記の手続の下行われる債権放棄は、恣意性が排除され、その内容の合理性も十分担保されていると考えられることから、法人税基本通達12-3-1(3)に規定する「債務の免除等が多数の債権者によって協議の上決められる等その決定について恣意性がなく、かつ、その内容に合理性があると認められる資産の整理があったこと」に該当するものと考えます。
 したがって、法人税法施行令第117条第5号の再生手続開始の決定に準ずる事実に該当し、法人税法第59条第2項の適用があるものと考えます。