(別紙)

国海総第485号
平成26年3月11日

 国税庁課税部
 審理室長 岸 英彦 殿

国土交通省海事局総務課
企画室長 長さき 敏志

1 照会の趣旨

 船舶を安定させるための「おもし」として船底に積載される海水(バラスト水)は、到着した港で荷物を積載する際に船外へ排出されることから、近年、出港地で船舶に取り入れられたバラスト水に含まれる生物が、バラスト水の排出に伴い本来の生息地ではない場所に移入・繁殖することが原因と考えられる環境被害等の問題が顕在化しています。このような状況を踏まえ、船舶からのバラスト水の排出による環境への被害等を防止するため、平成16(2004)年2月、国際海事機関(IMO)において、国際航海を行う船舶に対し、排出基準を満たすバラスト水管理を求める「2004年の船舶のバラスト水及び沈殿物の規制及び管理のための国際条約(仮称)」(以下「条約」という。)が採択されました。その後、各国において条約の締結手続が進められており、平成26(2014)年にも発効要件を充足し、平成27(2015)年に発効する見込みです。
 条約発効後は、国際海事機関(IMO)で定められたバラスト水処理装置の設置期限に従って、国際航海を行う新造船、現存船ともにバラスト水処理装置の設置義務が生じ、これを遵守しない船舶は条約締結国への航行が不能となります。我が国において、バラスト水処理装置の設置が義務付けられる船舶は多数に上ることから、国土交通省海事局では、平成26年2月7日に関係業界宛てに文書を発出し、関係事業者に対し、今後の条約発効に備え早期計画的にバラスト水処理装置の設置をするよう促しております。
 このような状況の下、現存船へのバラスト水処理装置の設置に要する費用の法人税法上の取扱いにつき、次のとおり解して差し支えないか、ご照会申し上げます。
 なお、本件のバラスト水処理装置の設置は、新たな資産の取得ではなく、既に有する資産(船舶)につき修理、改良等を行うものです。

【照会事項】
 条約締約国への航行が不能となる事態を回避するため、国からも早期計画的にバラスト水処理装置の設置をするよう促されている状況において、内国法人が、国際航海を行う船舶にバラスト水処理装置を設置する費用について、会計上、修繕費等として費用処理した場合には、法人税基本通達7-8-4≪形式基準による修繕費の判定≫の(2)の取扱いにより当該設置に要する費用の額が当該船舶の前期末における取得価額のおおむね10%相当額以下であるときは、当該設置に要する費用の額の全額を修繕費として一時の損金の額に算入することができる。

(注) 内国法人の特定外国子会社等に係る基準所得金額を我が国の法人税法等の規定の例に準じて計算する場合も同様に取り扱われる。

2 照会に係る取引等の概要

(1) バラスト水管理条約について
 条約は、国際的に統一された規制を実施することにより、船舶からのバラスト水の排出による環境への被害等を防止することを目的とするものであり、国際航海を行う船舶を対象として、新造船、現存船ともにバラスト水の排出にあたっては一定の基準を満たすこと、同基準に適合するバラスト水処理装置の設置等について国の検査を受けること、バラスト水の排出に係る手引書及びバラスト水記録簿を船内に備え付けること等を義務付けています。
 条約の発効要件は、

  • ・ 締約国数:30箇国以上
  • ・ 商船船腹量割合:全世界の商船船腹量の35%以上

ですが、既に締約国数の要件は満たされ(現在の締約国数:38箇国)、商船船腹量割合についても約30.38%にまで至っている状況であり、平成26(2014)年にも発効要件を充足し、平成27(2015)年に発効する見込みです。
 条約の発効後、船舶が、一定の基準を満たすバラスト水処理装置の設置など条約に義務付けられた事項を遵守せずに条約締約国の港に入る場合には、当該条約締約国は当該船舶の船長に対して必要な措置をとることを命じることができるなど、当該船舶の運航上多大な支障が発生し、バラスト水処理装置を設置しない船舶は条約締結国への航行が不能となります。

(2) バラスト水処理装置について
 条約において、下表の基準を満たすバラスト水処理装置を船舶に設置することが義務付けられています。バラスト水処理装置は、同基準を満たすよう、薬剤、紫外線による照射、電気分解により生成した塩素等によりプランクトンや細菌類を殺滅します。

対象生物 排出濃度 水質基準イメージ
50μm以上の生物
(主として動物プランクトン)
10個/立法メートル未満 外洋の1/100程度
10〜50μmの生物
(主として植物プランクトン)
10個/ミリリットル未満
細菌 病毒性コレラ
(O1,O139)
1cfu/100ミリリットル未満
or
動物プランクトン1グラム当たり1cfu未満
海水浴場並み
大腸菌 250cfu/100ミリリットル未満
腸球菌 100cfu/100ミリリットル未満

cfu : colony forming unit(群体形成単位)

(3) バラスト水処理装置の設置義務について
 上記(1)のとおり、条約が平成27(2015)年に発効する見込みであることを受け、国際海事機関(IMO)の第28回総会の決議(平成25(2013)年12月4日)において、船舶の建造年及びバラスト水タンク容量毎にバラスト水処理装置の設置期限が定められました。
 当該決議によれば、我が国の大半の船舶に係るバラスト水処理装置の設置期限は平成28年の基準日(同年中に到来する竣工相当月日)以後の最初の定期検査の日となる見込みですが、バラスト水処理装置の設置が義務づけられる船舶は多数に上ることから、条約発効前から早期計画的に処理装置を設置させていく必要があります。このため、国土交通省海事局では、平成26年2月7日付で、関係業界団体宛てに文書を発出し、関係事業者に対し国際海事機関(IMO)で定められたバラスト水処理装置の設置期限について周知徹底するとともに、設置工事の遅れ等により船舶が航行不能となる事態が発生することのないよう今後の条約発効に備えバラスト水処理装置の計画的な設置を促す等の対応を求めています。

3 照会者の求める見解となることの理由

(1) 資本的支出と修繕費の区分について
 一の修理、改良等のために要した費用の額のうちに資本的支出であるか修繕費であるかが明らかでない金額がある場合には、一種の簡便法により、形式基準によりその判定を行うことが認められており、具体的にはその金額がその修理、改良等に係る固定資産の前期末における取得価額(注)のおおむね10%相当額以下である場合などは、修繕費として損金経理をすることができるものとされています(法人税基本通達7-8-4(2))。

(注) 固定資産の前期末における取得価額には、前期末までにおける当該固定資産について支出した資本的支出の額が含まれます(同通達の注書)。

(2) バラスト水処理装置の設置費用について
 国際航海を行う外航船舶へのバラスト水処理装置の設置は、当該船舶にバラスト水を浄化する機能を付加するものではありますが、他方、上記2のとおり、設置期限までに設置しない場合には条約締約国への航行が不能となる事態を回避するため、早期計画的にバラスト水処理装置の設置をしていくことが求められていることからすると、国際航海をこれまでどおり行うといった船舶本来の機能の維持のために行われるものでもあります。
 このような状況の下でバラスト水処理装置の設置に要する費用は、法人税基本通達7-8-4≪形式基準による修繕費の判定≫で定める資本的支出であるか修繕費であるか明らかでない費用に該当しますので、同通達の定める形式基準によって取り扱って差し支えないものと考えられます。