平成24年11月20日

国税庁課税部長 殿

東京電力株式会社

1 照会の趣旨

今般の福島第一・第二原子力発電所の事故(以下「本件事故」といいます。)により被害を受けられた方々にお支払している賠償金の所得税法上の取扱いについては、平成23年11月30日付国税庁文書回答で明らかにされていますが、「財物価値の喪失又は減少等」に対する賠償金の取扱いについては、具体的な賠償の内容が確定した後、当社から改めて照会することとしていたところです。
 この「財物価値の喪失又は減少等」に対する賠償については、原子力損害賠償紛争審査会が本年3月16日に取りまとめた「東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針第二次追補」及び7月20日に政府の方針として公表された「避難指示区域の見直しに伴う賠償基準の考え方」を踏まえ、当社において「避難指示区域の見直しに伴う賠償の実施について」(以下「賠償基準」といいます。)を定め、7月24日に公表しました。
 また、当該賠償基準においては、精神的損害や就労不能損害、個人事業主の方の営業損害について、被害を受けられた方々の生活の再建や生活基盤の確立に向けて、まとまった賠償金を早期にお受け取りいただけるよう、将来分を含めた一定の期間を対象として一括してご請求いただける包括請求方式を選択することができるようにしています。
 今後、この賠償基準に従って被害を受けられた方々に賠償金をお支払していくことになりますが、個人の方が「財物価値の喪失又は減少等」に対する賠償金及び包括請求方式(以下、包括請求方式によるお支払を「一括払い」といいます。)による「営業損害」又は「就労不能損害」に対する賠償金を受け取られた場合の所得税の課税関係について、次の(1)及び(2)のとおりの取扱いでよろしいか照会いたします。

(1) 「財物価値の喪失又は減少等」に対する賠償金

  • イ 財物が家事用資産である場合
     家事用資産の損害に対する賠償金については、非課税所得に該当し、所得税の課税関係は生じない。
  • ロ 財物が業務用資産である場合
     棚卸資産以外の業務用資産の損害に対する賠償金については、非課税所得に該当し、所得税の課税関係は生じない。
     なお、その業務に係る事業所得等の金額の計算上、必要経費に算入される当該業務用資産の損失額は、賠償金の額を控除した金額となる。
     また、棚卸資産の損害に対する賠償金については、事業所得に係る収入金額となる。

(2) 一括払いによる「営業損害」又は「就労不能損害」に対する賠償金

 一括払いによる賠償金は、その対象期間中の時の経過に応じて金額が最終的に確定していくものであるため、その対象期間中の各年分の収入として、営業損害に対する賠償金は事業所得等の収入金額に算入し、就労不能損害に対する賠償金は一時所得の収入金額に算入する。

2 照会に係る取引等の事実関係

(1) 「財物価値の喪失又は減少等」に対する賠償金
 「財物価値の喪失又は減少等」に対する賠償については、避難指示区域(警戒区域及び計画的避難区域)の見直し後の区域(注1)の特性に沿った賠償及び避難指示の解除までに要する期間等を踏まえた賠償を行うことを基本的な考え方として、次のとおり行うこととしています。
 また、旧緊急時避難準備区域等(注2)にあっては、住宅等に生じた損傷を原状回復するために要した実費をお支払しますが、ご自宅の補修・清掃費用に限り、定額30万円を標準額としてお支払します。

(注)

  • 1 帰還困難区域、居住制限区域及び避難指示解除準備区域(以下、これらの区域を併せて「対象区域」といいます。)をいいます。
  • 2 旧緊急時避難準備区域、旧屋内待避区域、南相馬市の一部地域及び特定避難勧奨地点をいいます。
  • イ 宅地・建物(外構を含みます)に対する賠償
    • (イ) 本件事故発生当時に対象区域内に宅地・建物を所有されていた方を対象として、本件事故発生当時の価値を算定した上で、帰還困難区域においてはその全額を賠償し、居住制限区域及び避難指示解除準備区域においては避難指示の解除見込み時期に応じた避難指示期間割合を乗じて算定した金額を賠償します。
       なお、避難指示解除時期が、当初設定した避難指示の解除見込み時期を超えた場合には、実際の解除時期に応じた金額を追加してお支払します。
    • (ロ) また、避難指示解除後、対象区域から避難等を余儀なくされた方のご帰還に先立ち、建物の修復等が必要となることに鑑み、建物に対する賠償金の一部を修復費用等として建物の床面積に応じて算定した一定の金額(1平方メートル当たり14,000円)を先行してお支払します。
       この修復費用等としてお支払する金額は、建物に対する賠償金の一部を先行してお支払するものですので、今後お支払する財物に係る賠償額と精算することとなります。
  • ロ 家財に対する賠償
    •  本件事故発生当時に対象区域内の建物に家財を所有されていた方を対象として、今回の避難に伴い発生したと想定される家財の損害について、世帯人数・家族構成ごとに定額で賠償します。
       また、実際の損害総額が定額を上回ると想定される場合には、別途、個別評価による賠償方法を選択することができます。
  • ハ 業務用資産に対する賠償
    •  本件事故発生当時に対象区域内に償却資産(構築物、機械装置、車両運搬具、工具器具備品、建設仮勘定)を所有されていた個人事業主の方(農林漁業者の方を含みます。)を対象として、その財物価値の喪失又は減少分を賠償します。
       また、棚卸資産を所有されていた個人事業主の方に対しては、本件事故の影響により売却額が本件事故発生当時の帳簿価額を下回ることで発生した損失額、又は本件事故の影響により通常の販売若しくは使用が困難になり廃棄したことで発生した損失額を賠償します。
       なお、帰還困難区域から持ち出すことができない棚卸資産については、本件事故発生当時の帳簿価額を全額賠償します。

(注) 業務用の宅地・建物については、上記イの考え方により算定した金額を賠償します。

(2) 一括払いによる「営業損害」又は「就労不能損害」に対する賠償金

  • イ 営業損害に対する賠償金の一括払い
     営業損害に対する賠償金の一括払いは、避難等対象区域内で事業を営んでいた方の営業損害について、平成24年7月1日から次に掲げる日までを対象期間とし、その対象期間に係る逸失利益を賠償するものです。なお、包括請求方式をご希望されない方については、従来の方式による請求ができます。
事業を営んでいた区域 対象期間
農林業の方 農林業以外の個人事業主の方
避難指示区域 平成28年12月31日 平成27年2月28日
旧緊急時避難準備区域 平成25年12月31日 平成25年12月31日
旧屋内待避区域及び南相馬市の一部地域 平成25年12月31日 平成25年5月31日
  • ロ 就労不能損害に対する賠償金の一括払い
     就労不能損害に対する賠償金の一括払いは、平成24年6月1日から次に掲げる日までを対象期間とし、その対象期間に係る給与等の減収分の逸失利益を賠償するものです。なお、包括請求方式をご希望されない方については、従来の方式による請求ができます。
お住まいの区域 対象期間
帰還困難区域、居住制限区域、避難指示解除準備区域 平成26年2月28日
旧緊急時避難準備区域 平成24年12月31日
  従前の勤務先が避難指示区域の場合 平成26年2月28日
旧屋内待避区域及び南相馬市の一部地域 -
  従前の勤務先が避難指示区域の場合 平成26年2月28日
  従前の勤務先が旧緊急時避難準備区域の場合 平成24年12月31日

3 照会者の求める見解となることの理由

(1) 「財物価値の喪失又は減少等」に対する賠償金の課税関係
 所得税法上、不法行為その他突発的な事故により資産に加えられた損害につき支払を受ける損害賠償金については非課税とされています(所法91十七、所令30二)。
 一方、資産の損害に対する賠償金であっても、次のものは非課税所得に該当せず、事業所得等に係る収入金額に算入することとされています(所令30本文かっこ書、941)。

  • 1 各種所得の金額の計算上必要経費に算入される金額をほてんするためのもの
  • 2 棚卸資産等につき損失を受けたことにより取得する損害賠償金

今般の「財物価値の喪失又は減少等」に対する賠償金(先行してお支払する修復費用等を含みます。)は、避難指示等による避難等を余儀なくされたことに伴い、被害者の方が対象区域内に有する財物(住宅・宅地及び家財)が管理不能又は放射線の影響で使用不能の状態にあることに鑑みて、その価値の全部又は一部が失われる損害があったと認められることから、その価値減少分の損害及び原状回復のために要する追加的費用についてお支払するものであり、上記の所得税法の規定上、その取扱いは次のとおりになると考えられます。

  • イ 財物が家事用資産である場合
     家事用資産の損害に対する賠償金は、本件事故に基因して生じた財物の価値減少分の損害についてお支払するものであり、不法行為その他突発的な事故により資産に加えられた損害につき支払を受ける損害賠償金(所令30二)に該当し、非課税となります。
     なお、被害者の方が家事用資産の損害について雑損控除の適用を受けることができる場合、当該賠償金はほてん金に該当し、その損失額は賠償金の額を控除した金額となります(所法721)。
  • ロ 財物が業務用資産である場合
     棚卸資産以外の業務用資産の損害に対する賠償金は、家事用資産に対する賠償金と同様に、不法行為その他突発的な事故により資産に加えられた損害につき支払を受ける損害賠償金(所令30二)に該当し、非課税となります(注1)。
     なお、業務用資産の損失額については、その業務に係る事業所得等の金額の計算上必要経費に算入されることとなりますが、その損失額は賠償金の額を控除した金額となります(所法51)。
     また、棚卸資産の損害に対してお支払する賠償金については、事業所得に係る収入金額となります(所令941)(注2)。

(注)

  • 1 畜産業や酪農業における繁殖牛や搾乳牛などの償却資産の損害に対する賠償金は、業務用資産の損害に対するものとして非課税となります。
  • 2 販売用の商品や製品、畜産業における肉用牛などの棚卸資産の損害に対する賠償金は、事業所得に係る収入金額となりますが(所令941一)、その棚卸資産に係る仕入金額(肉用牛の場合は育成費)は売上原価として必要経費に算入されることになります。

なお、旧緊急時避難準備区域等においてお支払する住宅等の補修・清掃費用についても、その補修等が家事用資産に係るものであるときは、資産に加えられた損害につき支払を受ける損害賠償金(所令30二)として非課税となり、その補修等が業務用資産に係るものであるときは、必要経費に算入される金額を補填するものとして、いったんは事業所得等に係る収入金額に算入することとなりますが、その補修等に要した費用の額を必要経費として収入金額から控除することになりますので、実質的に課税は生じないこととなります。

(2) 「営業損害」又は「就労不能損害」に対する賠償金について一括払いを受けた場合の課税関係
 営業損害又は就労不能損害に対する賠償金の一括払いは、その対象期間に係る逸失利益をお支払するものですので、営業損害に対するものは事業所得等を生ずべき業務の収益の補償として事業所得等の収入金額(所令941)、就労不能損害に対するものは一時所得の収入金額とされるものです。
 この場合の事業所得等又は一時所得に係る収入金額として算入すべき時期については、権利確定という観点から、一般的には、被害を受けられた方が賠償金のお支払に関する合意書を当社あて送付したことにより、当社との間で合意等が成立したときになると考えられます。
 この点、従来の方式(3か月ごとのご請求・お支払)は確定した賠償金の額をお支払するもので、精算が生じることはありませんでしたが、今般の賠償金の一括払いは、その対象期間に係る逸失利益を支払うものであっても、次のとおり、精算することが必要になる場合があります。

  • イ 営業損害に対する賠償金の一括払い
    • (イ) 営業損害(逸失利益)に対する賠償金の額は、本件事故発生以前の年度の決算数値に基づいて算定した金額(以下「基礎額」といいます。)(注)に、その賠償対象期間中に支払った給料賃金及び地代家賃(以下「給料賃金等」といいます。)を加算した金額としています。
       これは、基礎額は給料賃金等を差し引いたものであるところ、本件事故により営業不能となっている場合であっても引き続き給料賃金等の支払をされていることも想定されることから、実際に支払った給料賃金等がある場合にその支払額を加算することとしているものです。
      • (注) 基礎額=粗利+売上原価中の固定費−経費中の変動費−給料賃金・地代家賃
    • (ロ) 今般の営業損害に対する賠償金の一括払いの額は、今後、対象期間にわたって雇用契約等に基づいて給料賃金等の支払が継続されることを前提に、これまで実際に支払った給料賃金等の額が基礎額に加算されたものになっています。
    • (ハ) そのため、個人事業主の方が、対象期間の途中で廃業等により支払を免れる費用項目については、先にお支払した一括払いの賠償金の一部が過払いとなるため、お申し出いただいた上で、その金額を指定の口座に振り込んでいただくといった手続を行うことにより精算することを予定しています。
      • (注) 合意書には、対象期間中において廃業等の事情が生じた場合の精算についての協議に関する文言を記載しています。
    • (ニ) 上記(イ)から(ハ)のとおり、営業損害に対する賠償金の一括払いは、基礎額に係る損害及び給料賃金等の支払が継続することを前提に算定した金額をお支払するものですので、この前提事実と異なることが生じた場合には、お支払した金額を精算することになります。また、これらの前提事実は時の経過によって確定するものであることを踏まえると、この一括払いによる賠償金の額は、その対象期間中の時の経過に応じて金額が最終的に確定していくものと考えられます。
  • ロ 就労不能損害に対する賠償金の一括払いについて
    • (イ) 平成24年3月1日以降の就労不能損害に対する賠償金の額の算定に当たっては、本件事故以降に転職や臨時の就労によって実際に得られた収入のうち月額50万円までは、特別の努力として賠償金の額から控除しないこととしています。
    • (ロ) 今般の就労不能損害に対する賠償金の一括払いにおいても、(イ)の考え方に基づき、特別の努力を反映させた金額をお支払することとしていますが、転職等によって得られる収入の部分は、これまでお支払した賠償金の額の算定上用いた金額を基に計算することになります。
    • (ハ) そのため、今後対象期間の途中で転職等によって得られる収入に変動が生じた場合には、先にお支払した一括払いの賠償金に過不足が生じることになるため、お申し出いただいた上で、その金額を指定の口座に振り込んでいただく、又は当社から追加でお支払させていただくといった手続を行うことにより精算することを予定しています。
      • (注) 合意書には、特別の努力として控除しないこととする金額について、対象期間中に上限額(50万円/月)を超えた場合の精算についての協議に関する文言を記載しています。
    • (ニ) 上記(イ)から(ハ)のとおり、就労不能損害に対する賠償金の一括払いは、転職等によって得られる収入の部分について現状の収入金額が継続することを前提に算定した金額をお支払するものですので、この前提事実と異なることが生じた場合には、お支払した金額を精算することになります。また、この転職等によって得られる収入金額の多寡は時の経過によって確定するものであることを踏まえると、この一括払いによる賠償金の額は、その対象期間中の時の経過に応じて金額が最終的に確定していくものと考えられます。
  • ハ 一括払いによる賠償金の収入すべき時期について
     上記イ及びロのとおり、営業損害又は就労不能損害に対する賠償金の一括払いは、一定の前提の下でお支払し、必要に応じて精算することが予定されているものですので、その対象期間中の時の経過に応じて金額が最終的に確定していくものです。
     したがって、被害を受けられた方にとっては、それぞれ一括払いの対象期間中の各年分の収入として事業所得等又は一時所得の収入金額に算入することになると考えられます(注)。
     なお、法人に対する営業損害についての賠償金の一括払いは、中小法人(原則として資本金又は出資金の額が1億円以下の法人)に対して行うこととしていますが、この一括払いされた賠償金の法人税法上の取扱い(収益の計上時期)も同様になると考えられます。
    • (注) 例えば、避難指示区域における農林業以外の個人事業主の方の一括払いの対象期間は、平成24年7月1日から平成27年2月28日となりますが、この場合、一括払いによる賠償金の額のうち平成24年7月1日から同年12月31日までの期間に係る部分の金額を、平成24年分の事業所得等の収入金額に算入することになります。