(別紙)

平成24年3月21日

国税庁 課税部
 審理室長 住倉 毅宏 殿

中小企業庁経営支援部経営支援課長 丸山 進

1 前回照会について

 産業活力再生特別措置法(現行「産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法」)に基づき、各都道府県において中小企業再生支援業務を行う者として認定を受けた者が実施する中小企業再生支援協議会事業(中小企業再生支援協議会(以下「協議会」という。)の設置及び運営並びに再生計画策定支援等の再生支援業務を実施する事業)では、各地で公正中立な第三者である協議会が中小企業からの相談を受け付け、助言や再生計画の策定支援を行うなど、中小企業の再生支援を行っているところです。
 この協議会が行う中小企業の再生支援については、「中小企業再生支援協議会の支援による再生計画の策定手順(再生計画検討委員会が再生計画案の調査・報告を行う場合)」(以下「策定手順」という。)を作成・公表し、当該策定手順に従って策定される再生計画により債務者が2以上の金融機関等又は政府関係金融機関等から債務免除を受ける場合の次の(1)から(3)までに掲げる税務上の取扱いについて、平成17年6月23日付で国税庁に照会を行い、同月30日付でそれぞれ次に掲げるとおり解して差し支えない旨の文書回答をいただいております。

  • (1) 策定手順に従って再生計画が策定され、対象債権者全員の同意によって再生計画が成立した場合においては、当該再生計画は、法人税法施行令第24条の2第1項第2号《再生計画認可の決定に準ずる事実等》のイからハまで及びニ又はホ(現行:同条第1項第1号から第3号まで及び第4号又は第5号)に掲げる要件を満たすことから、当該再生計画の成立は、同号に規定する「再生計画認可等に準ずる事実」に該当する。
     また、当該再生計画における資産評定は、策定手順に従って行われることから、債務者の有する資産の価額につき、同条第3項第2号に規定する資産評定が行われていることとなり、当該資産評定による価額を基礎とした貸借対照表に計上されている資産の価額と帳簿価額との差額(評価益又は評価損)は、法人税法第25条第3項《資産の評価益の益金不算入等》及び第33条第3項(現行第4項)《資産の評価損の損金不算入等》の規定を適用することができる。
  • (2) 上記(1)により法人税法第25条第3項又は第33条第3項(現行第4項)の規定の適用を受ける場合には、同法第59条第2項《会社更生等による債務免除等があった場合の欠損金の損金算入》の規定により損金の額に算入する金額は、同項第3号に掲げる場合に該当するものとして計算することができる。
  • (3) 策定手順に従って策定された再生計画により債権者が債権放棄等(債権放棄、無償又は低利による貸付け等をいう。)を行う場合には、原則として、法人税基本通達9-4-2(子会社等を再建する場合の無利息貸付け等)にいう「合理的な再建計画に基づく債権放棄等」であり、その債権放棄等による損失を損金算入することができる。

2 策定手順の改定内容

 策定手順については、その策定後において実務を通じて把握した対象事業者等の実情のほか、法的手続や他の私的整理手続における資産評価基準との整合性等の反映を踏まえ、平成24年3月21日付で次の改定を行っています。
 本改定内容のうち、本件照会に関するものは次のとおりです。

  • (1) 支援方法への債務の株式化(DES)による債務消滅の追加
     いわゆる債務の株式化(DES)により債務の消滅に係る利益が生じる場合は、対象債務者にとって債務免除を受けた場合と同等の効果をもたらすものです。このため策定手順における「債務免除」を「債務免除等」とし、当該債務免除等にはいわゆる債務の株式化(DES)により債務の消滅に係る利益が生じる場合が含まれることを明らかにしました(別添新旧対照表前文参照)。
  • (2) 債務超過解消年数の変更
     改定前の策定手順(以下「旧策定手順」という。)では、再生計画における実質的な債務超過を解消するまでの年数を3年以内と規定しておりましたが、中小企業の実態や取り巻く事業環境に鑑み、改定後の策定手順(以下「新策定手順」という。)では5年以内といたしました(別添新旧対照表6.(2)参照) 。
  • (3) 再生計画検討委員会の設置主体の変更
     策定手順においては、第1回債権者会議における要請に基づき、資産負債や損益の状況及び再生計画案の正確性、相当性、実行可能性などを調査・報告するために、再生計画検討委員会を設置することとなっています。この再生計画検討委員会については、旧策定手順では、対象債権者の承諾を得た上で、協議会の会長が委嘱する委員をもって構成することとしていましたが、新策定手順では、対象債権者と協議会の承諾を得た上で、中小企業再生支援全国本部(中小企業再生支援指針(平成23年経済産業省告示第146号)第二3.(2)に基づき独立行政法人中小企業基盤整備機構が中小企業再生支援業務について協議会に対し助言等の支援を行う部署。以下「全国本部」という。)が委嘱する委員をもって構成することとしています(別添新旧対照表7.(1)、(2)及び(3)参照)。
  • (4) 再生計画検討委員会の委員数の変更
     旧策定手順においては、再生計画検討委員会の委員が3名以上の委員で構成されていましたが、中小企業の規模に合わせた人員配置をするために、相談企業の借入金その他の債務で利子の支払の起因となるものの額が10億円に満たない場合には、2名以上の委員をもって構成することとしました(別添新旧対照表7.(2)参照)。
  • (5) 実態貸借対照表作成に当たっての評価基準の改定
     旧策定手順においては、再生計画の策定において実態貸借対照表を作成する場合は「実態貸借対照表作成に当たっての評価基準」(以下「評価基準」という。)に基づくものとされていましたが、経済産業省において開催した研究会等を通じ、法的手続や他の私的整理手続における資産評定基準との整合性の観点から見直しを行った結果として、当該評価基準の改定を行いました(別添新旧対照表7.(3)丸1及び「実態貸借対照表作成に当たっての評価基準」参照)。
     なお、主な改定内容は、以下のとおりです。
    • イ 目的
       改定後の評価基準(以下「新評価基準」という。)では、新評価基準は債務者の再生可能性の判断と債権者の経済合理性の判断とを公正かつ適正な資産・負債評定のもとで行うために定めたことを明らかにしました。
    • ロ 評定の原則
       各項目に共通する基本的な原則を記載することにより、個別に規定のない資産項目について、改定前の評価基準(以下「旧評価基準」という。)がやや不明確であった部分を見直すこと等により、旧評価基準をさらに発展させ、資産評価が公正な価額によって行われるための基準とすることを主眼としています。
    • ハ 用語の定義
       基本的な用語についての定義を集約して記載しました。
    • 二 売上債権
        旧評価基準においては、相手先別に信用力の程度を評価し、回収可能性に応じて各債権金額から減額する額を決定しましたが、新評価基準では、金融商品に関する会計基準に準じて、原則として、各債権金額から債権の区分に応じた貸倒見積額を控除した価額により評定することとしました。
    • ホ 棚卸資産、販売用不動産等
       新評価基準においては、商品・製品、半製品・仕掛品、原材料に区分してそれぞれ評定の方法を定めるとともに、品質低下、陳腐化等により収益性の低下している棚卸資産については、一定の回転期間を超える場合、規則的に帳簿価額を切り下げる方法を追加するなど、棚卸資産の評価に関する会計基準の考え方も採用できることを明らかにしました。
       また、販売用不動産等については、評価方法をより明確にするため、区分を独立して記載することとしました。
    • ヘ 事業用不動産、投資不動産、その他償却資産
       旧評価基準では、有形固定資産として評価方法をまとめて記載していましたが、新評価基準では、評価方法をより明確にするため、事業用不動産、投資不動産、その他償却資産に区分して、それぞれ独立した記載にしました。
    • ト 無形固定資産、有価証券、関係会社株式
       新評価基準では、原則として、観察可能な市場価格があるか否かで分類し、ある場合は当該市場価格により評定し、ない場合は合理的に算定された価額により評定することとしました。
    • チ 繰延税金資産及び負債
       旧評価基準においては、繰延税金資産及び繰延税金負債については、見合いの資産の調整に応じて、必要額を調整することとされており、具体的な評定の基準に関する記載はなかったものを、新評価基準においては、繰延税金資産及び繰延税金負債について原則として繰延税金資産及び負債に関する一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して評定し、また、その評定の際には、繰延税金資産の回収可能性を特に慎重に判断することなどを明らかにすることにしました。
    • リ 退職給付引当金
       旧評価基準では、退職給付債務の積立不足額は全額を負債とみなすこととしていましたが、新評価基準では、中小企業等で合理的に数理計算上の見積もりを行うことが困難である場合は、退職給付に関する一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して簡便な方法を用いることができることとしました。
    • ヌ デリバティブ取引
       新評価基準において、新たにデリバティブ取引について項目を設けることとし、市場価格又はこれに準じて合理的に算定された価額により評定することとしました。

    注) 上記の改定以外に「支援業務責任者」を「統括責任者」とするなどの改定を行っていますが、単に呼称の変更に伴うものであり、実質的な内容の変更を伴うものではありません。

3 今回の照会事項

 上記2に記載のとおり、旧策定手順の一部が改定されていますが、新策定手順に基づき策定された再生計画により債権放棄等が行われる場合においては、引き続き、上記1の(1)から(3)までのとおりと解して差し支えないか、ご照会申し上げます。

4 理由(照会者の求める見解となる理由)

  • (1) 支援方法への債務の株式化(DES)による債務消滅の追加
     いわゆる債務の株式化(DES)により債務の消滅に係る利益が生じる場合は、対象債務者にとって債務免除を受けた場合と同等の効果をもたらすことになります。そこで、新策定手順において、DESにより債務の消滅に係る利益が生じる場合も、債務免除を受けた場合と同様に取り扱うとする改定を行ったところです。
     この改定は、債務免除と同等の効果が生じるDESが行われた場合の取扱いの明確化を図ったに過ぎず、策定手順に基づき策定される再生計画の適正性が損なわれるものではありません。
  • (2) 債務超過解消年数の変更
     旧策定手順では、再生計画における実質的な債務超過を解消するまでの年数を3年以内と規定しておりました。しかしながら、再生計画における債務超過の解消期間は債務者企業の規模又は事業の特質を考慮する必要があるところ、中小企業は、一般に遊休資産の売却やリストラの余地も小さく、債務超過解消までに時間がかかります。そこで、このような中小企業の実態に鑑みて、協議会が策定支援する再生計画の債務超過解消年数を5年以内とする改定を行ったところです。
     したがって、協議会の下で、この改定に従い再生計画が策定された場合であっても、再生計画の適正性が損なわれるものではありません。
  • (3) 再生計画検討委員会の設置主体の変更
     旧策定手順においては、資産負債や損益の状況及び再生計画案の正確性、相当性、実行可能性などを調査・報告するために、協議会の会長が委員を委嘱して再生計画検討委員会を設置することとなっていました。つまり、再生計画検討委員会の設置主体については、改定前は各協議会となっていましたが、ノウハウの蓄積や案件の集約化により、案件の調査・報告に係る業務の効率化や再生計画案の質の均一化を図るため、改定後は、全国本部が委員を委嘱して、再生計画検討委員会を設置する、換言すれば全国本部が設置主体となることとしました。
     この点、設置主体は変わることになりますが、この設置主体により委嘱を受けて資産負債や損益の状況などを調査・報告する委員は、別添新旧対照表の7.(2)丸2に記載しているとおり、債務者及び対象債権者との間に利害関係を有しない者であり、債務処理に関する専門的な知識と経験を有する者のうちから、対象債権者及び協議会の承諾を得た上で、全国本部が委嘱することとしており、さらに委員には公認会計士及び弁護士を含めることとしていることから、改定前と同様に再生計画の適正性が保たれることになります。
  • (4) 再生計画検討委員会の委員数の変更
     旧策定手順においては、再生計画検討委員会の委員は3名以上の委員で構成されていましたが、改定後は、相談企業の借入金その他の債務で利子の支払の起因となるものの額が10億円に満たない場合には、2名以上の委員をもって構成することとしたところです。
     この改定は、有利子負債が10億円未満である中小規模の企業再生案件においては、それ以上の規模案件と比べ、資産評価の適正性の検証といった専門家による検証業務量に相当の相違があるという実態を踏まえた場合、必ずしも一律3名以上の委員を確保する必要性は低いため行ったものです。
     したがって、協議会の下で、この改定に従い再生計画が策定された場合であっても、再生計画の適正性が損なわれるものではありません。
  • (5) 実態貸借対照表作成に当たっての評価基準の改定
     新評価基準への見直しは、経済産業省において開催した研究会等を通じ、法的手続や他の私的整理手続における資産評定基準との整合性の観点から見直しを行ったものです。具体的には、新評価基準への改定は、上記2の(5)に記載のとおり、その内容において旧評価基準をさらに発展させ、資産評価が公正な価額によって行われるための基準とすることを主眼としており、新評価基準が公正な価額によって行われるための基準であるという点は、旧評価基準と変わるところはありません。
     さらに、新評価基準と同様の資産評価基準の改定を行った特定認証紛争解決手続に従って策定された事業再生計画により債権放棄等が行われた場合の税務上の取扱いについては、既に平成21年7月9日付で国税庁から経済産業省に対し、改定後においても引き続き過去の照会に対する回答のとおり解して差し支えない旨の文書回答が行われています。また、新評価基準と同様の資産評価の改定を行ったRCC企業再生スキームに基づき策定された再生計画により債権放棄等が行われた場合の税務上の取扱いについても、既に平成23年9月15日付で国税庁から(株)整理回収機構に対し、改定後においても引き続き過去の照会に対する回答のとおり解して差し支えない旨の文書回答が行われています。このことから、新策定手順における評価基準の改定についても同様の取扱いが認められると考えられます。