別紙

平成22・02・10経局第3号
平成22年2月15日

国税庁 課税部
課税部長 岡本 榮一 殿

経済産業省大臣官房審議官
(経済産業政策局担当) 北川 慎介

1 照会の趣旨

(1) 平成18年度税制改正において、債務者である法人(以下「債務者」といいます。)のデットエクイティスワップによる自己宛債権の現物出資(法人税法第2条第12号の14に規定する適格現物出資を除き、以下「DES」といいます。)に伴い生じた債務消滅益については、債権放棄に伴う債務免除益と同様に期限切れ欠損金(法人税法第59条の規定の適用対象となる欠損金額をいいます。)を青色欠損金等(法人税法第57条第1項及び第58条第1項の規定の適用対象となる欠損金額をいいます。)に優先して控除することができることとされました。
 このDESが行われた場合において債務者の増加する資本金等の額は、資本金又は出資金の増加額と「払い込まれた金銭の額及び給付を受けた金銭以外の資産の価額その他の対価の額からその発行により増加した資本金の額又は出資金の額を減算した金額」との合計額(法令81一)となり、「払い込まれた金銭の額」は存しませんから、結果として「金銭以外の資産の価額」、すなわちDESによる自己宛債権の時価が資本金等の増加額となります。
 したがって、上記のDESに伴い生ずる債務消滅益の額は、自己宛債権の額面のうち資本金等の増加額とならなかった部分の金額、すなわち額面と時価との差額ということになります。

(2) また、平成21年度税制改正においては、法人税法施行令第24条の2第1項に規定する民事再生に準ずる私的整理の事実の要件の一つである2以上の金融機関等の「債務の免除」を「債務免除等」に改正してDESが追加されたことにより、DESを利用しやすい環境が整えられました。

(3) しかし、このような制度改正は行われているものの、一方で企業再生に際してDESが行われた場合において給付を受ける債権に付される時価についての具体的な評価方法が不明確であるため、DESの活用に支障があるとも言われております。

(4) このため、平成21年8月5日及び同年12月3日に、経済産業省経済産業政策局産業再生課長の私的研究会として「事業再生に係るDES研究会」を開催し、法人税法施行令第24条の2第1項の要件を満たす私的整理の場面(以下「企業再生税制適用場面」といいます。)においてDESが行われた場合に債務者が給付を受ける債権及び債権者が交付を受ける株式に付される時価の評価方法を検討し、一定の結論を得たところです(別添の「事業再生に係るDES(Debt Equity Swap:債務の株式化)研究会報告書」(PDF/437KB))。
 つきましては、この検討結果を踏まえ、企業再生税制適用場面においてDESが行われた場合に債務者が給付を受ける債権及び債権者が交付を受ける株式に付される時価の評価に係る税務上の取扱いにつき、照会申し上げます。

2 照会の内容(照会者の見解)

 企業再生税制適用場面においてDESが行われた場合に債務者が給付を受ける債権に付される時価の評価方法として、法人税法施行令第24条の2第1項による資産評定に関する事項に従って資産評定が行われ、その評定による価額を基礎として作成された貸借対照表の資産及び負債の額と、債務処理に関する計画における損益の見込み等に基づき算定する方法が考えられます(具体的な時価の算定については、別添の「事業再生に係るDES(Debt Equity Swap:債務の株式化)研究会報告書」のYの「3 具体的な事例へのあてはめ(PDF/437KB)」を参照してください。)。
 この方法によった場合には、それぞれ次のとおり解して差し支えないでしょうか。

(1) 企業再生税制適用場面における債務者の取扱い

 上記方法により算定された現物出資債権の時価を、法人税法施行令第8条第1項第1号における給付を受けた金銭以外の資産の価額とします。

(2) 企業再生税制適用場面における債権者(DESにより新たに株主となる者)の取扱い

 法人税法施行令第119条第1項第2号において、現物出資を行った現物出資法人が交付を受ける被現物出資法人の株式の取得価額は、現物出資により給付をした金銭以外の資産の価額の合計額(その給付による取得のために要した費用(以下「取得に要する費用」といいます。)がある場合にはその費用の額を加算した金額)とされています。
 この場合における現物出資により給付をした金銭以外の資産の価額の合計額についても、上記(1)の法人税法施行令第8条第1項第1号における給付を受けた金銭以外の資産の価額とします。

3 照会者の見解となった理由

(1) 企業再生税制適用場面における債務者の取扱い

 イ 合理的な再建計画における債務免除額

 企業再生税制適用場面においては、一般に公表された債務処理を行うための手続についての準則に従い合理的な再建計画が策定されることとなりますが、その策定過程において資産評定基準に基づき資産及び負債ごとに評価が行われ実態貸借対照表が作成されます。そして、この実態貸借対照表の債務超過金額をベースに債権者調整が行われ、事業再生計画における損益見込み等を考慮し、債務者及び債権者双方の合意のもとで回収可能額が算定されることとなります。
 債務免除が行われる場合には、この合理的に見積もられた回収可能額に基づき債務免除額が決定されることとなります。すなわち、合理的な再建計画においては、債権のうちこの回収可能額を超える部分、換言すれば回収不能と見込まれる部分の金額が債務免除額ということになります。
 この場合、この債務免除額につき、債務者は債務免除益を計上することとなります。

 ロ DESに伴う被出資債権の時価

 企業再生税制適用場面においてDESが行われた場合においても、債務免除が行われる場合と同様に実態貸借対照表の債務超過金額をベースに債権者調整が行われ、事業再生計画における損益見込み等を考慮し、債務者及び債権者双方の合意のもとで回収可能額が算定されることとなります。
 そして、DESが行われる場合においても、債務免除額が決定される場合と同様に、この合理的に見積もられた回収可能額に基づいて実質的な債務免除額が決定されることとなります。すなわち、合理的な再建計画においては、債権のうちこの回収可能額を超える部分、換言すれば回収不能と見込まれる部分についてはDESの対価である株式の交付の対象とされず、この回収可能額に相当する部分についてのみこの株式の交付の対象とされるということになります。そこで、DESの対象となる債権の時価については、この合理的に見積もられた回収可能額に基づいて評価することが妥当であると考えます。
 この場合、この債権金額(額面)と債権の時価との差額について、債務者は債務消滅益を計上することとなります。
 なお、債権者が有する債権のうちにDESの対象とされなかった債権が存在する場合、DESの対象となる債権が債務者の株式に変わるため、DESの対象とされなかった債権は、DESの対象となった債権(株式)に優先して回収されることになります。
 このため、例えば、債権者の有する1,000(簿価)の債権について、その合理的な回収可能額が900と見込まれる場合において、その債権のうち800をDESの対象としない債権とし、200をDESの対象としたときは、DESの対象となる債権(200)の評価額は、DESの対象とされなかった債権(800)を含んだ回収可能額(900)から、DESの対象とされなかった債権の債権金額(800)を控除した金額(100)となります(この場合、債務消滅益100を計上することとなります。)。

 ハ 債務者が給付を受けた金銭以外の資産の価額

 この結果、イ及びロにより算定された現物出資債権の時価が、法人税法施行令第8条第1項第1号における被現物出資法人が給付を受けた金銭以外の資産の価額(DESにより増加する資本金等の額)となります。

(2) 企業再生税制適用場面における債権者(DESにより新たに株主となる者)の取扱い

 イ 現物出資により交付を受ける株式の取得価額

 法人税法施行令第119条第1項第2号において、現物出資を行った現物出資法人が交付を受ける被現物出資法人の株式の取得価額は、現物出資により給付をした金銭以外の資産の価額の合計額(取得に要する費用がある場合にはその費用の額を加算した金額をいいます。以下同じ。)とされています。

 ロ DESに伴う現物出資債権の評価額

 企業再生税制適用場面におけるDESについても、債権者が保有する金銭以外の資産である債権を現物出資し、その対価として株式の交付を受けるものであるため、現物出資債権の時価(現物出資により給付をした金銭以外の資産の価額の合計額)が、交付を受ける株式の取得価額となります。
 この場合における現物出資債権の時価は、債務者及び債権者の双方が合理的な再建計画に合意する立場にあるため、合意した回収可能額に基づき評価されることが合理的であり、かつ、債務者における処理とも整合的であります。このため、DESを行う債権者から見た現物出資債権の評価額についても、上記(1)に基づき算定された被現物出資債権の評価額と一致させることが合理的であると考えます。

 ハ 債権者が交付を受ける株式の取得価額

 この結果、上記(1)で算定された法人税法施行令第8条第1項第1号における給付を受けた金銭以外の資産の価額(被現物出資債権の評価額)が、同令第119条第1項第2号における現物出資により給付をした金銭以外の資産の価額(DESにより交付を受ける株式の取得価額)となり、債権の帳簿価額からDESにより交付を受ける株式の取得価額(取得に要する費用が含まれている場合にはその費用の額を減算した金額)を控除した金額が債権者における債権の譲渡損の額となります。

[参考] 種類株式が発行される場合

 DESに伴い債権者に対して、普通株式ではなく償還条件の付された種類株式が交付されることがあります。
 この場合、DESにより交付された株式が種類株式であっても、合理的な再建計画におけるDESにより出資を受ける債権に係る回収可能額が変わるわけではありません。
 したがって、この場合の債務者におけるDESに伴う被現物出資債権の時価については、上記(1)のロと同様に、合理的に見積もられた回収可能額に基づいて評価することが妥当であると考えます。
 また、この場合の債権者におけるDESに伴う現物出資債権の評価額についても、上記(2)のロと同様に、被現物出資債権の時価と一致させるのが合理的であると考えます。

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