別紙

21資燃部 第14号
平成21年11月4日

国税庁 課税部長
 岡本 榮一 殿

経済産業省資源エネルギー庁
資源・燃料部長 木村 雅昭

1. 照会の経緯

現在、中東の産油国(以下「A国」といいます。)の原油を日本国内に所在するタンクに貯蔵させようとするプロジェクト(以下「本プロジェクト」といいます。)が進行しています。
 具体的には、A国政府が50%以上出資している日本国以外に所在する原油販売会社(以下「A国出資法人」といいます。)が原油を日本の石油会社(以下「B石油会社」といいます。)の日本国内に所在するタンク(以下「原油タンク」といいます。)に貯蔵するとともに、平時には、日本及び極東地域をはじめとする全世界の顧客に売却した原油を(中東から配送する代わりに)原油タンクから配送し、日本の石油の供給が不足する緊急時には、原油タンクに貯蔵した原油(以下「貯蔵原油」といいます。)を日本の石油会社に優先的に売却するものとしています。
 本プロジェクトは初めての試みですが、今後はA国以外の国との間で同様のプロジェクトを実施することも考えられるところであり、本プロジェクトの実施に当たり、その実施主体として原油を貯蔵するA国出資法人の法人税に係る課税関係を事前に整理するべく、本件照会を行うところです。

2. 中東の産油国との共同プロジェクトの概要

  • (1) A国出資法人は、A国の原油を日本国内に貯蔵するために、B石油会社の原油タンクを賃借し、原油タンクにおける原油の荷揚げ、保管・管理等の業務も委託します。B石油会社は、原油の荷揚げ、保管・管理等の業務に関し、A国出資法人から詳細な指示や包括的な支配を受けることはありません。
  • (2) A国出資法人が日本及び極東地域をはじめとする全世界の顧客に貯蔵原油を売却する場合、その取引に係る注文の取得、協議、契約の締結等の売却に関する一切の行為は、A国などの日本国外で行われます。A国出資法人が日本国内に営業所等を置いて貯蔵原油の売却に関する行為等を行うことはありません。
     また、A国出資法人のために、その事業に関し契約を締結する権限を有する者や、日本において注文の取得、協議等の行為を行う者などの貯蔵原油の売却に関する行為を行う者は、(日本国内には)存在しません。
  • (3) A国出資法人が日本及び極東地域をはじめとする全世界の顧客に貯蔵原油を売却した場合、A国出資法人は、貯蔵原油の払出し、配送等の業務をB石油会社に委託します。貯蔵原油の払出し、配送に当たっては、A国出資法人がB石油会社に対して、数量、配送先等について指示を行い、B石油会社はその指示に基づいてのみ払出し、配送を行いますが、B石油会社がそれらの業務に関し、A国出資法人から詳細な指示や包括的な支配を受けることはありません。
  • (4) A国出資法人と貯蔵原油の払出し等の業務を委託されたB石油会社との間に資本関係及び人的関係はなく、両者は独立した第三者の関係にあります。本プロジェクトにおいてA国出資法人がB石油会社に支払う業務委託に係る報酬は、取扱数量等に連動した独立企業間価格です。
     また、B石油会社は、本件業務の遂行に当たって一定の区域内において油濁事故等が起きて原油が流出した場合には、流出した原油分を返還する責任を負います。

3. 照会事項

本プロジェクトを実施した場合において、A国出資法人は、法人税法第141条(外国法人に係る各事業年度の所得に対する法人税の課税標準)第1号又は第3号の規定により日本の法人税が課税されることはないと解して差し支えありませんか。

○ 法人税法(抜すい)

(外国法人に係る各事業年度の所得に対する法人税の課税標準)
第百四十一条 外国法人に対して課する各事業年度の所得に対する法人税の課税標準は、各事業年度の所得のうち次の各号に掲げる外国法人の区分に応じ当該各号に掲げる国内源泉所得に係る所得の金額とする。

  • 一 国内に支店、工場その他事業を行なう一定の場所で政令で定めるものを有する外国法人 すべての国内源泉所得
  • 二 国内において建設、据付け、組立てその他の作業又はその作業の指揮監督の役務の提供(以下この号において「建設作業等」という。)を一年を超えて行う外国法人(前号に該当する外国法人を除く。) 次に掲げる国内源泉所得
    • イ 第百三十八条第一号から第三号まで(国内源泉所得)に掲げる国内源泉所得
    • ロ 第百三十八条第四号から第十一号までに掲げる国内源泉所得のうち、その外国法人が国内において行う建設作業等に係る事業に帰せられるもの
  • 三 国内に自己のために契約を締結する権限のある者その他これに準ずる者で政令で定めるもの(以下この号において「代理人等」という。)を置く外国法人(第一号に該当する外国法人を除く。) 次に掲げる国内源泉所得
    • イ 第百三十八条第一号から第三号までに掲げる国内源泉所得
    • ロ 第百三十八条第四号から第十一号までに掲げる国内源泉所得のうち、その外国法人が国内においてその代理人等を通じて行う事業に帰せられるもの
  • 四 前三号に掲げる外国法人以外の外国法人 次に掲げる国内源泉所得
    • イ 第百三十八条第一号に掲げる国内源泉所得のうち、国内にある資産の運用若しくは保有又は国内にある不動産の譲渡により生ずるものその他政令で定めるもの
    • ロ 第百三十八条第二号及び第三号に掲げる国内源泉所得

(注) 外国法人に対する法人税の課税標準は、法人税法第141条第1号から第4号までにおいて、外国法人の区分に応じてそれぞれの課税標準が規定されています。このうち同条第2号に規定される外国法人の区分にA国出資法人が該当することはなく、A国出資法人が同条第4号に規定される課税標準を有することもありません。このため、本照会は、同条第1号又は第3号の規定によりA国出資法人に対して日本の法人税が課されることがないことを確認するものとしています。

4. 理由

  • (1) 法人税法第141条第1号の規定による課税を受けないことについて
    • イ 法人税法第141条第1号の規定の適用対象となる外国法人は、「国内に支店、工場その他事業を行なう一定の場所で政令で定めるもの」(以下「1号PE」といいます。)を有する外国法人とされるとともに、この1号PEに該当する場所が法人税法施行令第185条(外国法人の有する支店その他事業を行なう一定の場所)第1項第1号から第3号までに掲げられているところです。
       また、同条第2項第1号から第3号までに、1号PEに含まれない場所が掲げられているところです。

      ○ 法人税法施行令(抜すい)

      (外国法人の有する支店その他事業を行なう一定の場所)
      第百八十五条 法第百四十一条第一号(外国法人に係る法人税の課税標準)に規定する政令で定める場所は、次に掲げる場所とする。
        • 一 支店、出張所その他の事業所若しくは事務所、工場又は倉庫(倉庫業者がその事業の用に供するものに限る。)
        • 二 鉱山、採石場その他の天然資源を採取する場所
        • 三 その他事業を行なう一定の場所で前二号に掲げる場所に準ずるもの
      • 2 次に掲げる場所は、前項の場所に含まれないものとする。
        • 一 外国法人がその資産を購入する業務のためにのみ使用する一定の場所
        • 二 外国法人がその資産を保管するためにのみ使用する一定の場所
        • 三 外国法人が広告、宣伝、情報の提供、市場調査、基礎的研究その他その事業の遂行にとつて補助的な機能を有する事業上の活動を行なうためにのみ使用する一定の場所
    • ロ A国出資法人がA国の原油を貯蔵する日本国内に所在する原油タンクが、A国出資法人にとって、1号PEに該当するかどうかについて検討すれば、原油タンクは、同条第1項第3号にいう「その他事業を行なう一定の場所で前二号に掲げる場所に準ずるもの」に該当する可能性があります。
    • ハ しかしながら、A国出資法人は、日本及び極東地域をはじめとする全世界の顧客との間で売買契約が成立した場合に、通常はA国から配送することとしている原油を、日本国内の原油タンクに保管しているに過ぎません。
    • ニ A国出資法人が日本及び極東地域をはじめとする全世界の顧客に貯蔵原油を売却する場合、その取引に係る注文の取得、協議、契約の締結等の売却に関する一切の行為は、A国などの日本国外で行われ、A国出資法人が日本国内に営業所等を置いて貯蔵原油の売却に関する行為等を行うことはありません。
    • ホ これらのことからすれば、原油タンクはA国出資法人の原油を保管している場所に過ぎず、1号PEに含まれないものとして同条第2項第2号に掲げられている「その資産を保管するためにのみ使用する一定の場所」に該当するものと認められます。
    • ヘ 以上より、原油タンクは、A国出資法人にとって、1号PEに該当しないこととなります。
  • (2) 法人税法第141条第3号の規定による課税を受けないことについて
    • イ 法人税法第141条第3号の規定の適用対象となる外国法人は、「国内に自己のために契約を締結する権限のある者その他これに準ずる者で政令で定めるもの」(以下「3号PE」といいます。)を置く外国法人とされるとともに、この3号PEに該当するものが法人税法施行令第186条(外国法人の置く代理人等)第1号から第3号までに掲げられています。

      ○ 法人税法施行令(抜すい)

      (外国法人の置く代理人等)
      第百八十六条 法第百四十一条第三号(外国法人に係る法人税の課税標準)に規定する政令で定める者は、次の各号に掲げる者(その者が、その事業に係る業務を、当該各号に規定する外国法人に対し独立して行い、かつ、通常の方法により行う場合における当該者を除く。)とする。

      • 一 外国法人のために、その事業に関し契約(その外国法人が資産を購入するための契約を除く。以下この条において同じ。)を締結する権限を有し、かつ、これを常習的に行使する者(その外国法人の事業と同一又は類似の事業を営み、かつ、その事業の性質上欠くことができない必要に基づきその外国法人のために当該契約の締結に係る業務を行う者を除く。)
      • 二 外国法人のために、顧客の通常の要求に応ずる程度の数量の資産を保管し、かつ、当該資産を顧客の要求に応じて引き渡す者
      • 三 専ら又は主として一の外国法人(その外国法人の主要な株主等その他その外国法人と特殊の関係のある者を含む。)のために、常習的に、その事業に関し契約を締結するための注文の取得、協議その他の行為のうちの重要な部分をする者
    • ロ 日本において唯一本プロジェクトに参画するB石油会社は、次の事実関係から検討すれば、同条各号に掲げられているいずれの者にも該当せず、3号PEには該当しないこととなります。
      • 丸1 B石油会社は、A国出資法人に原油タンクを賃貸し、原油の積込み、管理・保管、配送等の業務を委託されているに過ぎず、A国出資法人のために、その事業に関し契約を締結する権限を有していませんから、B石油会社が同条第1号に掲げられた者に該当することはありません。
      • 丸2 貯蔵原油の払出しの場面を例にしますと、B石油会社は、A国出資法人のために貯蔵原油を顧客の直接の要求に応じて自らの判断で払出しをすることはなく、A国出資法人からの相手方、払出数量等に係る指示に基づいてのみ引き渡すことになりますから、同条第2号に掲げられた者に該当することはありません。
      • 丸3 B石油会社は、A国出資法人のために日本及び極東地域をはじめとする全世界の顧客との間で、その事業に関し契約を締結するための注文の取得、協議その他の行為を行わないことから、同条第3号に掲げられた者に該当することはありません。
    • ハ 仮に、B石油会社が同条第1号から第3号までのいずれかに該当していたとしても、次の事実からすれば、3号PEから除外される「その者が、その事業に係る業務を、当該各号に規定する外国法人に対し独立して行い、かつ、通常の方法により行う場合における当該者」に該当するものと考えられます。

      ○ 法人税基本通達(抜すい)

      (独立代理人に該当する者)
      20-2-5 令第186条《外国法人の置く代理人等》の「その者が、その事業に係る業務を、当該各号に規定する外国法人に対し独立して行い、かつ、通常の方法により行う場合における当該者」とは、次に掲げる要件のいずれも満たす者をいうことに留意する。

      • (1) 代理人として当該業務を行う上で、詳細な指示や包括的な支配を受けず、十分な裁量権を有するなど本人である外国法人から法的に独立していること。
      • (2) 当該業務に係る技能と知識の利用を通じてリスクを負担し、報酬を受領するなど本人である外国法人から経済的に独立していること。
      • (3) 代理人として当該業務を行う際に、代理人自らが通常行う業務の方法又は過程において行うこと。
      • 丸1 B石油会社は、A国出資法人から委託された業務に関し、A国出資法人から詳細な指示や包括的な支配を受けるわけではなく、配送の場面を例にしますと、A国出資法人からの相手方、数量及び配送期日について指示を受けるのみで、その配送方法についてはB石油会社の裁量により決めることとなり、一般の配送業者と同様に委託者たるA国出資法人から独立していること(法的独立性あり)
      • 丸2 B石油会社は、A国出資法人から委託された業務のみを遂行しているわけではなく経済的に本件業務による報酬だけに依存しておらず、更に、B石油会社は取扱数量等に連動した報酬を受け取るなど本件業務遂行に係る事業上のリスクを負担していること(経済的独立性あり)
      • 丸3 B石油会社は、これまでも電力会社から原油の積込み、管理・保管、払出し及び配送等の業務を委託されており、本プロジェクトにおける原油の荷揚げ、保管・管理、貯蔵原油の払出し、配送等の業務は同社が通常行っている業務の方法において行われていること(通常業務性あり)
    • ニ 以上より、B石油会社は、A国出資法人にとって、3号PEに該当しないこととなります。
  • (3) 結論
     上記(1)及び(2)のとおり、A国出資法人は、1号PE及び3号PEのいずれも有していないことから、法人税法第141条第1号又は第3号の規定により日本の法人税が課税されることはないと解しております。

以上