別紙
平成21年11月4日
国税庁課税部長
岡本 榮一 殿
株式会社企業再生支援機構
代表取締役社長 西澤 宏繁
株式会社企業再生支援機構(以下「機構」といいます。)は、株式会社企業再生支援機構法(平成21年法律第63号。以下「機構法」といいます。)に基づき、有用な経営資源を有しながら過大な債務を負っている中堅事業者、中小企業者その他の事業者であって、債権放棄等(注1)その他の金融支援を受けて事業再生を図ろうとするもの(以下「支援対象者」といいます。)に対し、事業再生の支援を行うことを目的として設立された法人です。
具体的には、支援対象者から支援の申込みを受け、当該支援対象者の債権者である機構法第2条に規定する金融機関等(以下「機構法上の金融機関等」といいます。注2)のうち当該支援対象者に係る事業再生計画において支援者となる者からの当該計画に対する同意を取り付けた上で、その同意をした機構法上の金融機関等のうち債権の買取りを申し出た者から支援対象者に対する債権を適正な時価で買い取り、買取り後の債権の一部放棄等を通じて、当該支援対象者の再生を図ることを目的としています。
また、このように機構が関与して策定された事業再生計画においては、株主・経営者の責任等の観点から、原則として、支援対象者の代表者等(注3)の個人に私財提供を求めることが考えられます。
機構といたしましては、多数の機構法上の金融機関等がかかわるこのような業務を円滑に進めるためには、機構が関与して策定された事業再生計画に基づき債権放棄等が行われた場合の債務者又は債権者における税務上の取扱い及び代表者等の個人から私財提供等が行われた場合の当該個人の所得税の取扱いについて、明確化しておくことが必要であると考えております。
このような必要性から、Uの「照会の内容」の1から3までに掲げる機構の見解のとおり解して差し支えないか、ここに照会いたします。
(注)
(注)
法人がその子会社等の再建に際し、その子会社等に対して経済的利益の供与をした場合において、その経済的利益の供与が合理的な再建計画に基づくものであると認められるときは、その経済的利益の供与額は、寄附金の額に該当しないこととされています。すなわち、合理的な再建計画に基づく経済的利益の供与による損失であれば、税務上損金の額に算入されることとなります。
機構の関与の下、実務運用標準に従って支援対象者及び支援者となる者の合意により策定された事業再生計画については、上記Uの1(2)の機構の見解における前提によらない場合も含め、法人税基本通達9-4-2に定める支援額の合理性、支援者による適切な再建管理、支援者の範囲の相当性及び支援割合の合理性等のいずれも有すると考えられますので、同通達9-4-2にいう合理的な再建計画に該当することとなります。
保証債務を履行するため資産(たな卸資産等を除きます。)の譲渡があった場合において、その履行に伴う求償権の全部又は一部を行使することができないこととなったときは、その行使することができないこととなった金額(不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上必要経費に算入される金額を除きます。)をその年分の譲渡所得等の金額の計算上、なかったものとみなすこととされています。
この保証債務の特例を適用するための要件を整理すると、
のすべての要件を満たすこととされています。
上記1及び2において、機構が関与して策定された合理的な事業再生計画に基づき債権放棄等が行われる際の支援対象者の代表者等に係る税務上の取扱いは、次のとおりとなると考えられます。
なお、上記1から3までの機構の見解となった理由は、次葉に記載しております。
次の(1)から(3)までのとおり、法人税法施行令第24条の2第1項に規定する「内国法人について民事再生法の規定による再生計画認可の決定があったことに準ずる事実」が生じており、その事業再生計画は同項第1号から第3号まで及び第4号又は第5号に掲げる要件を満たすものであり、かつ、同条第3項第2号に規定する一定の資産評定を行うこととされていることから、法人税法第25条第3項及び法人税法施行令第24条の2第1項から第3項に規定される資産の評価益の計上要件を満たしているものと認識しております。
また、民事再生法の規定による再生計画認可の決定があったことに準ずる事実による資産の評価損の計上要件は、資産の評価益の計上要件と同一であり、本件照会の場合は法人税法第33条第4項及び法人税法施行令第68条の2第1項及び第2項に規定される資産の評価損の計上要件も満たしているものと認識しております。
機構が関与して策定される事業再生計画は、以下の手続きに従って行われます。
支援対象者の事業再生に関する事前相談に始まり、当該支援対象者の資産査定の実施及び機構による事業再生計画の策定支援を受け事業再生計画が提出されます。
その提出された事業再生計画を、機構法第15条の規定に基づき機構に設置された企業再生支援委員会(以下「委員会」といいます。)が株式会社企業再生支援機構支援基準(平成21年内閣府、総務省、財務省、厚生労働省、経済産業省告示第1号。以下「支援基準」といいます。)に基づいて審議し、機構法第25条第4項に規定する支援決定を行います。支援決定の後、機構は、支援対象者の債権者である機構法上の金融機関等のうち当該支援対象者に係る事業再生計画の実現のために協力を求めることが必要な者に対して、機構に対する債権の買取りの申込み又は事業再生計画に従って債権の管理又は処分をすることの同意を求め、機構法第25条第4項に規定する必要債権額を満たす買取りの申込み及び同意を得ることで、機構法第31条第1項に規定する買取決定等が行われます。
このように、機構の手続が、事業者の再生手続開始の申立てに始まり、当該事業者の財産状況等の調査手続を経た上での再生計画案の提出、当該再生計画案が債権者集会における決議において再生債権者の法定多数の同意による可決及び再生計画の認可の決定をするという民事再生法の規定による再生計画策定の一連の手続に準じて成立するものであることから、民事再生法の規定による再生計画認可の決定に準ずる事実に該当するものと考えられます。
法人税法施行令第24条の2第1項のかっこ書では、「その債務処理に関する計画が、第1号から第3号まで及び第4号又は第5号に掲げる要件に該当するものに限る。」と規定されており、機構が関与して策定される事業再生計画(債務処理に関する計画)は、次のとおり、各要件を満たすものと考えられます。
事業再生計画の策定において、上記(2)イ及びロのとおり、公正な価額による旨の定めのある債務者の有する資産及び負債の価額の評定(資産評定)に関する事項が定められた実務運用標準に基づき資産評定が行われていることから、この要件を満たします。
1.のとおり、事業再生計画により債務者が債務免除等を受けた場合は、法人税法第59条第2項の民事再生法の規定による再生手続開始の決定があったことに準ずる事実に該当すると考えております。
また、上記1.の適用を受ける場合は、同法第59条第2項の規定の適用に当たっては、同項第3号に掲げる場合に該当し、期限切れ欠損金を青色欠損金等に優先して同項の損金算入額を計算することができると考えられます。
本件照会の場合に債権者が行う経済的利益の供与は、次のとおり、損失負担の必要性があり、かつ、合理的な再建計画に基づき行われるものと認識しています。
したがって、機構が関与して策定された事業再生計画により債権者が行う経済的利益の供与は、原則として、法人税基本通達9-4-2にいう「合理的な再建計画」に基づく経済的利益の供与であり、その経済的利益の供与による損失は、税務上損金の額に算入することができると考えています。
上記1.から3.の適用を受ける場合を前提とすると、下記4.及び5.のように解して差し支えないと考えておりますが、以下について照会者としての見解を説明いたします。
上記1.から3.において、機構が債権買取を行い、当該債権の債権放棄等を行うことを前提とする合理的な事業再生計画が策定される際には、当該事業再生計画において支援対象者の代表者等の個人に私財提供を求めることがあります。この場合、照会の内容3(2)のとおり、機構が関与して策定された合理的な事業再生計画に基づき、再生支援が行われることを前提とすれば、代表者等が保証債務の履行により取得した求償権を書面によって放棄した場合であっても、当該支援対象者が求償権の放棄を受けた後においてもなお債務超過の状況にあるときは、平成14年12月25日付照会回答「保証債務の特例における求償権の行使不能に係る税務上の取扱いについて」(以下「平成14年照会回答」といいます。)により、下記(2)のとおり原則として求償権の行使は不能であり、代表者等の課税関係においては所得税法第64条第2項の規定による保証債務の特例の適用があるものと解して差し支えないと考えております。
法令等の手続によらない求償権の放棄について法人が求償権の放棄を受けた後も存続し、経営を継続していたとしても、次のすべての状況に該当すると認められるときは、その求償権は行使不能と判定することとしています(平成14年照会回答)。
照会の場合、合理的な事業再生計画に基づき行われる求償権の放棄であり、当該計画後において支援対象者の状態は再生可能な状態となることが一般的でありますが、次の事情を考慮すれば、平成14年照会回答でいうところの「他の債権者の有する債権と同列に扱うことが困難である等の事情」により求償権は放棄せざるを得ない状況にあったと認められることから、支援対象者が求償権の放棄を受けた後においてもなお債務超過の状況にあるときは、当該求償権の放棄は、原則として「求償権の全部又は一部を行使することができないこととなったとき」(所得税法64)に行われたものと解することが相当であり、代表者等について保証債務の特例の適用があるものと解して差し支えないと考えられます。
合理的な事業再生計画に基づき、機構法上の金融機関等及び債権を買い取った機構が主たる債務者である支援対象者から残債務を回収できる見込みにある場合には、残債務に付されている担保権の消滅や個人保証の解除を行ったとしても、偶発債務の免除等に過ぎず、機構法上の金融機関等及び債権を買い取った機構から担保権提供者又は保証人である代表者等に対して具体的な経済的利益の供与はないことから、所得税法第36条に規定する収入の実現はなく、原則として代表者等に所得税の課税関係は生じないと考えられます。
上記の場合には、機構法上の金融機関等、債権を買い取った機構及び支援対象者から代表者等に対する具体的な利益供与は存在しないことから、原則として機構法上の金融機関等、債権を買い取った機構及び支援対象者に寄附金課税(法人税法37)の課税関係は生じないと考えられます。