別紙

平成21年3月13日

国税庁 課税部長
荒井 英夫 殿

金融庁 総務企画局
総務企画局長

内藤 純一

1 照会の趣旨

 サブプライム・ローン問題を契機としたグローバルな金融市場の混乱は現在も継続しており、各国の株式市場等に依然として大きな影響を及ぼしております。我が国金融・資本市場も例外ではありません。東証REIT指数は、平成19年5月につけた最高値と比べて、平成20年12月には約70%下落し、個別の投資法人の中には、その投資口が純資産価値を大幅に下回る価格で流通しているものも見受けられております。このような状況の下、今後、投資法人の体質強化の観点から投資法人間の合併が検討される機会も増えることが予想されます。
 そこで、この投資法人間での合併について、当該合併が法人税法第2条第12号の8(定義)ハに規定する「被合併法人と合併法人とが共同で事業を行うための合併」に該当するかどうかの判定においては、次の点につきそれぞれ次のとおり解して差し支えないか、ご照会申し上げます。

〔照会事項〕

(1) 投資法人間で行う合併(合併法人となる投資法人をX社とし、被合併法人となる投資法人をY社とする吸収合併であることを前提とし、以下この合併を「本件合併」という。)において、X社とY社のいずれもが主たる事業を不動産投資事業とする投資法人であり、かつ、それぞれが有していた不動産を合併後において有機一体的に活用して引き続き不動産投資事業を行うことを見込んでいるときには、「被合併法人の被合併事業と合併法人の合併事業とが相互に関連するもの」(法令4の24一)に該当する。

(2) X社の執行役員とY社の執行役員のいずれもが、合併後においてX社の執行役員となることを見込んでいる場合には、合併前の被合併法人の特定役員のいずれかと合併法人の特定役員のいずれかとが合併後に合併法人の特定役員となることが見込まれていること(法令4の24二後段)に該当する。

(3) 投資法人は、使用人を雇用することが禁じられていることから(投資信託及び投資法人に関する法律(以下「投信法」といいます。)632)、被合併法人の合併直前の従業者の総数の80%以上が合併法人の業務に従事しないことをもって共同事業要件(法令4の24三)を満たさないということはない。

(注)

  •  1 投資法人は、他の投資法人との合併をすることができるとされています(投信法145)。
  •  2 一般的に、投資法人間の合併においては、合併当事者である投資法人の間に、いずれか一方の法人が他方の法人の発行済株式の総数の50%を超える数の株式を直接又は間接に保有する関係及び同一の者によってそれぞれの法人の発行済株式の総数の50%を超える数の株式を直接又は間接に保有する関係のいずれも存しないため、「被合併法人と合併法人とが共同で事業を営むための合併」(法2十二の八ハ)に該当するかどうかの判定を行う場合について照会しています。
  •  3 投資法人に発行株式は存しませんが、法人税に係る法令の規定の適用に当たっては投資口を株式とみなすこととされています(措法67の152)。
  •  4 投資法人は登録なくして有価証券や不動産の資産運用行為を行うことができません(投信法187)。登録投資法人が新設合併を行う場合にも、合併効力発生後、新設合併設立法人について当該登録申請を行うこととなり、登録が完了するまでの期間、資産運用行為を行うことができないこととなります。このため、一般的に投資法人の合併は、新設合併ではなく吸収合併により実施されることが見込まれることから、今回の照会は、吸収合併が実施されることを前提としています。

2 照会に係る取引等の事実関係

 法人税法施行令第4条の2第4項においては、その合併が「被合併法人と合併法人とが共同で事業を行うための合併」(法2十二の八ハ)に該当するための要件(以下「共同事業要件」という。)が規定されており、吸収合併の場合においてはその合併が次の(1)から(5)までに掲げる要件のすべて(被合併法人の株主等の数が50人以上である場合又は被合併法人のすべて若しくは合併法人が資本若しくは出資を有しない法人である場合には、(5)の要件は除かれます。)に該当するものをいうこととされています。

(1) 事業関連性要件(法令4の24一)

 被合併法人の被合併事業(被合併法人の合併前に営む主要な事業のうちのいずれかの事業をいう。以下同じ。)と合併法人の合併事業(合併法人の合併前に営む事業のうちのいずれかの事業をいう。以下同じ。)とが相互に関連するものであること。

(2) 事業規模要件等(法令4の24二)

次に掲げる事業規模要件と特定役員引継要件のいずれかを満たすものであること。

1 事業規模要件

 被合併法人の被合併事業と合併法人の合併事業(被合併事業と関連する事業に限る。)のそれぞれの売上金額、従業者の数、資本金の額、出資金の額又はこれらに準ずるものの規模の割合がおおむね5倍を超えないこと。

2 特定役員引継要件

合併前の被合併法人の特定役員(社長、副社長、代表取締役、代表執行役、専務取締役若しくは常務取締役又はこれらに準ずる者で法人の経営に従事している者をいう。以下同じ。)のいずれかと合併法人の特定役員のいずれかとが合併後に合併法人の特定役員となることが見込まれていること。

(3) 従業者引継要件(法令4の24三)

被合併法人の合併の直前の従業者のうち、その総数のおおむね80%以上に相当する数の者が合併後に合併法人の業務に従事することが見込まれていること。

(4) 事業継続要件(法令4の24四)

 被合併法人の被合併事業(合併法人の合併事業と関連する事業に限る。)が合併後に合併法人において引き続き営まれることが見込まれていること。

(5) 株式継続保有要件(法令4の24五)

 合併の直前の被合併法人の株主等で合併により交付を受ける合併法人の株式又は合併親法人株式のいずれか一方の株式の全部を継続して保有することが見込まれる者及び合併法人が有する被合併法人の株式の数を合計した数が被合併法人の発行済株式等の総数の80%以上であること。

3 照会者の求める見解となることの理由

(1) 照会事項(1)について(事業関連性要件)

照会の前提として、本件合併の当事者であるX社とY社は、いずれも主たる事業が不動産投資事業であるとして照会に及んでいるところです。
 しかしながら、投資法人は、投信法において、一般事務を一般事務受託者に、その資産の運用に係る業務を資産運用会社に、その資産の保管に係る業務を資産保管会社に、それぞれ委託しなければならないこととされています(投信法117、1981、2081)。
 このように実質的に投資法人は導管体であり、このような導管体には「事業」の実態がないものとみられるため、投資法人間の合併において事業関連性要件を満たすことはできないのではないかとも考えられます。
 この点、投資法人においては、投資法人の業務を執行する執行役員を設置することとされており(投信法95一、1091)、その執行役員の職務には「資産の運用又は保管に係る委託契約の締結」が含まれているところです(ただし、締結に当たっては、執行役員と監督役員で構成される役員会の承認が必要となる。)(投信法95三、1092六、112)。
 このことからすれば、投資法人においては、実質的な業務を投信法の規定により強制的に一般事務受託者、資産運用会社及び資産保管会社に委託しなければならないとされているものの、これらの委託先は投資法人に設置された執行役員及び役員会によって決定されているところであり、これらの委託先との委託契約を通じて投資法人が自らの「事業」を行っているものと認められます。
 したがって、本件合併においては、X社とY社の投資対象がいずれも不動産であることから両社の営む事業は同一の事業と認められ、また照会事項のとおり、X社とY社のそれぞれが有していた不動産を合併後において有機一体的に活用して引き続き不動産投資事業を行うことが見込まれていることからすれば、本件合併は事業関連性要件を満たすものであると解されます。

(注) 法人税法施行規則第3条(事業関連性の判定)では、同条第1項各号に掲げられた要件のすべてを満たした場合には、その合併は事業関連性要件を充足する旨の規定があります。この規定を本件に当てはめた場合、投資法人間の合併においては後述するとおり業務に従事する者が存しないため、同条第1項第一号ロの「従業者があること。」の要件を満たすことができないこととなります。
 しかしながら、同条の規定は、同条第1項各号に掲げられた要件のすべてを満たした合併が事業関連性要件を充足する旨を定めているに過ぎず、当該要件のすべてを満たすことができない合併のすべてについて事業関連性要件を充足しないことを定めているものではなく、当該要件のすべてを満たすことができない合併については、同条の規定によることなく上記のように個別に事業関連性要件を充足するかどうかを判定することとなります。

(2) 照会事項(2)について(特定役員引継要件)

 投資法人における役員とは「執行役員及び監督役員をいう。」(投信法96)こととされ、執行役員は、「投資法人の業務を執行し、投資法人を代表する」(投信法1091)とされています。
 一方、特定役員引継要件にいう特定役員とは「社長、副社長、代表取締役、代表執行役、専務取締役若しくは常務取締役又はこれらに準ずる者で法人の経営に従事している者」(法令4の24二)をいうこととされています。
 このことからすれば、投資法人における執行役員は投資法人を代表する役員であることが明らかであり、「これらに準ずる者で法人の経営に従事している者」として特定役員に該当すると認められます。
 また、照会事項のとおり、本件合併において、X社の執行役員とY社の執行役員のいずれもが、合併後においてX社の執行役員となることを見込まれていることからすれば、本件合併は特定役員引継要件を満たすものであると解されます。

(3) 照会事項(3)について(従業者引継要件)

 投資法人は「使用人を雇用することができない」(投信法632)こととされ、前述のとおり、実質的な業務を資産運用会社及び資産保管会社に委託しているところです。このため、投資法人には業務に従事する者が存在しないことから、従業者引継要件を満たすことができず、共同事業要件を満たすことはできないのではないかとの疑義が生じるかもしれません。
 そもそも従業者引継要件は、被合併法人の従業者が引き継がれない合併は合併前の状態が継続しているとは言えず、適格合併の対象となる合併の前後で経済実態に実質的な変更が生じない合併に該当しないと考えられるため、このような合併であるか否かを判定するための要件として設けられているものと考えられます。
 この点、投資法人については、その従業者が不存在となるのは投信法の制約によるものであるから、単に従業者を引き継がない場合と同列に取り扱うのは適当でないと考えられます。また、このように従業者が不存在となる状態は投信法の制約によって合併後も変わらないのであるから、合併前の状態は合併後においても継続しているということになります。
 このような投資法人の合併について従業者引継要件を充足しないものとして共同事業要件を満たさないものとすることは、上記の従業者引継要件が設けられた趣旨に沿わないものともなりかねません。
 したがって、投資法人間の合併が共同事業要件を満たすかどうかの判定においては、従業者引継要件を充足しているものとして、その判定を行うことが相当と考えられます。

(注) 投資法人の執行役員は、上述のとおり「経営に従事する者」として特定役員に該当することから、従業者引継要件における「従業者」にも該当するのではないかとも考えられますが、投資法人においては、投信法の規定により、実質的な業務を事務受託者等に委託しなければなりません(投信法117、1981、2081)。このことからすれば、執行役員が行う職務はその事務受託者等を選考した上で、役員会の承認を受け、これと委託契約を締結するといった投資法人を代表する者としての職務であって、不動産投資事業の実質的な業務ではないことから、執行役員は「経営に従事する者」には該当すると認められますが、業務に従事する者に該当するとは認められません。