医政発第0406002号
平成17年4月6日

国税庁課税部長 竹田 正樹 殿

厚生労働省医政局長 岩尾 總一郎

1 特別医療法人の概要

 医療法人制度は、医療機関の開設主体を法人化することにより、医療の永続性及び継続性並びに資金の集積性を確保し、もって私人による医療機関の経営を容易にすることを目的として、昭和25年に創設されたものである。
また、近年、地域における民間医療機関の重要性の増大、医療機関の経営の悪化等医療を取り巻く環境が変化している中で、地域において重要な役割を果たしている民間医療機関の経営の安定性の確保等が求められていることから、これに応えるべく平成10年の医療法の改正により、一定の要件を満たし公的な運営が確保されている医療法人を特別医療法人として位置付け、その収益を医業経営に充てることを目的とした収益業務を実施することができるものとし(医療法(昭和23年法律第205号)第42条第2項)、地域における医療の安定的な提供体制を整備することとされた。
ところで、この特別医療法人は、「財団である医療法人又は社団である医療法人で持分の定めのないものであること」が要件とされており(医療法施行規則(昭和23年厚生省令第50号)第30条の35第1項第1号)、そのため、既存の出資持分の定めのある社団医療法人が特別医療法人としての都道府県知事の認可を受けるためには、出資者の全員がその持分を放棄し、定款を変更して、出資持分の定めのない社団医療法人に移行する必要がある。
なお、特別医療法人の内容は、別添「特別医療法人について」のとおりである。

2 照会事項

 特別医療法人の認可を得るために、既存の出資持分の定めのある社団医療法人が定款を変更して出資持分の定めのない社団医療法人に移行する場合があるが、その際に生じる課税関係については下記のとおり取り扱われるものと解して差し支えないか、照会申し上げる。
なお、照会に当たっては、平成10年7月6日付健政発第802号「特別医療法人について」(厚生省健康政策局長通知)において定めているとおり、特別医療法人の設立又は特別医療法人とするための定款の変更等がなされたときは、当該特別医療法人は、設立の日又は定款等の変更がなされた日以後2月以内に、都道府県知事(厚生労働大臣)の設立認可書又は定款変更等認可書に定款等の写し等を添付し、これを納税地の所轄税務署長に提出することとしていることを申し添える。

1 既存の医療法人を解散し、新たな医療法人(特別医療法人)の設立があったものとしての課税について

 持分あり社団医療法人から持分なし社団医療法人への移行について、種類の異なる法人への組織変更であるから事実上の解散・設立があったものとみなされるとすれば、既存の医療法人の清算所得課税、出資者の配当所得課税等が生じることとなると考えられる。
しかし、当該移行は、定款の変更により行うものであり、現実に解散・設立という手続がとられるものではない上、事業内容等からみた実態面でも従前の法人格が継続しているものであるから、解散・設立があったとしての課税関係は生じないものと解される。

2 定款変更による出資持分の放棄に伴う課税について

(1) 医療法人の受贈益課税
 出資者が出資持分を放棄しても、次の理由から、医療法人にあっては受贈益課税の問題は生じないと解される。

1 医療法人にあっては、「移行する場合にあっては、当該医療法人は、その資本金の全部を資本剰余金として経理する」こととされていること(医療法施行規則第30条の36第2項)

2 上記の資本金の経理に関する規定は、移行による資本金から資本剰余金への振替えが資本等取引であることを明確化する意味で設けられたものであり、税務上においても、資本金の全部が減少すると同時に資本積立金が増加するという資本等取引に該当すると考えられること

(2) 法人出資者の課税関係
 持分なし医療法人への移行は、出資者の出資持分の放棄により行われることから、法人出資者の放棄については、一義的には対価がゼロの取引として、その帳簿価額が損失として計上されることになる。ただし、その持分に時価相当額が認識できる(時価がゼロでない)場合には、その持分の放棄が経済的利益の供与に該当するため、その供与することについて相当な理由がない限り、その持分の時価相当額については、法人税法(昭和40年法律第34号)第37条に規定する寄附金に該当するものとして取り扱われる。

(3) 個人出資者の課税関係
 個人出資者の持分なし医療法人への移行に伴う出資持分の放棄については、それが、医療法人への贈与による出資持分の移転を伴うものであれば、出資持分の時価によるみなし譲渡課税(所得税法(昭和40年法律第33号)第59条)の問題が生じるが、次のことから株式の消却と同様、譲渡性が認められないため、譲渡所得課税は生じないものと解される。

1 自己株式の取得が認められている株式会社の場合と異なり、医療法人においては、自己の出資持分を取得(保有)することはできないと解されていること

2 出資の減少や株式の消却により金銭等の交付があったときには、みなし配当部分を除いて譲渡収入金額とみなすこととされている(租税特別措置法(昭和32年法律第26号)第37条の10第4項)が、出資が譲渡により移転したとみなすものではなく、無償の場合にも、出資が贈与により移転したものとみなされるものではないこと

3 このように解すことは、平成16年6月16日付で文書回答を受けた「持分の定めのある医療法人が出資額限度法人に移行した場合等の課税関係について」に示されている、出資者が出資額の払戻しにより退社した場合にみなし譲渡課税の対象とならないとする取扱いとも整合性がとれること

(4) 医療法人に対する贈与税課税
 移行に伴う出資持分の放棄については、出資者の全員が行うものであり、出資持分の定めのある社団医療法人への後戻りはできないこととされているから、当該放棄に伴う出資者の権利の消滅に係る利益は、結果として医療法人に帰属するものである。そのため、個人出資者の放棄については、相続税法(昭和25年法律第73号)第66条第4項の規定による課税の問題が生じる。
すなわち、当該放棄により個人出資者の親族等の相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められるときには、医療法人を個人とみなして、贈与税が課税されることとなる。
この場合の相続税又は贈与税の不当減少の有無については、出資者等への特別利益供与の有無、役員等の親族要件などに基づき判定することとされており(昭和39年6月9日付直審(資)24「贈与税の非課税財産(公益を目的とする事業の用に供する財産に関する部分)及び公益法人に対して財産の贈与等があった場合の取扱いについて 」の14)、特定医療法人の承認基準と同等の要件を満たすものについてはこれに該当しない(贈与税課税は生じない)。
一方、特別医療法人については、役員に占める親族の制限(医療法第42条第2項第1号)など、法令上は特定医療法人と同等の要件が付されているとはいえないため、個別に判定することとなるが、厚生労働省から都道府県へ通知している平成10年7月6日付健政発第802号「特別医療法人について」(厚生省健康政策局長通知)及び同日付指第39号「特別医療法人に係る定款変更等の申請について」(厚生省健康政策局指導課長通知)により同等の要件が付されているため、医療法に定める要件に加えて上記の各通知に定める要件のいずれの要件も満たす医療法人については、原則として贈与税課税は生じないものと解される。