平成16年3月1日

国税庁課税部長
西江 章 殿

株式会社整理回収機構
代表取締役社長 鬼追明夫

 株式会社整理回収機構(以下「RCC」という。)は、特定住宅金融専門会社の債権債務の処理の促進等に関する特別措置法(平成8年法律第93号)及び預金保険法(昭和46年法律第34号)に基づき、預金保険機構が全額出資して設立された株式会社で、預金保険機構の委託等により買取った債権の回収を行う公的な性格を有する回収専門機関ですが、一方、平成13年6月の骨太の方針、平成14年10月の金融再生プログラム、金融機能再生緊急措置法(平成10年法律第132号)54条等により、法律上、また、政府の政策上、企業再生に取組むよう公的に要請されている機関です。
 RCCによる「私的再生」は、会社が別に定めて公表した「RCC企業再生スキーム」に定める手続と基準にしたがって行われるものですが、その対象となる「私的再生」は、すべての「私的再生」を対象とするものではなく、RCCが主要債権者である再生可能な債務者又はRCCに他の金融債権者の同意を得るための調整を依頼した金融債権者が主要債権者である債務者について、会社更生法や民事再生法などの法的再生手法によらず、金融債権者間の合意の下で事業の再生を行わせることにより事業収益から最大限の回収を図ることを意図して行われるもので、債権者の立場にたって行われる限定的なものです。
 本「RCC企業再生スキーム」では、「RCCが主要債権者である再生可能な債務者に係る再生の場合の手続及び基準」は「RCC企業再生スキーム1」として、また、「RCCに他の金融債権者の同意を得るための調整を依頼した金融債権者が主要債権者である再生可能な債務者に係る再生の場合の手続及び基準」は、「RCC企業再生スキーム2」として定めています。
 このようなRCCによる企業再生を円滑に進めるためには、本「RCC企業再生スキーム」に関する税務上の取扱いを明確化する必要があると考えています。
 本照会は、「RCC企業再生スキーム」に定める手続及び基準にしたがって合意した再生計画により債権放棄等が行なわれた場合の債権者及び債務者における税務上の取扱いについて下記のとおりで特に問題がないか、ご照会するものです。

1. 債権放棄をした債権者の税務上の取扱い

  債権者である企業が取引先等を整理もしくは再建するために債権放棄等をした場合の税務上の取扱いについては、法人税基本通達9−4−1及び9−4−2において既に明確化されているところであり、同通達9−4−2には、合理的な再建計画に基づく債権放棄等による損失であれば、税務上損金算入される旨定められています。
 ついては、RCCが関与して、RCCの定める手続と基準にしたがって債権者間で合意した企業再生計画(以下単に「企業再生計画」という。)については、同通達9−4−2に沿って検討すると別紙のとおりであり、同通達に定める支援額の合理性、支援者による適切な再建管理、支援者の範囲の相当性及び支援割合の合理性等のいずれも有すると考えられるほか、更に、利害の対立する複数の支援者の合意により策定された事業再生計画であると考えられます。
 このことを前提とすれば、企業再生計画により金融機関等が債権放棄を行った場合には、原則として、同通達にいう「合理的な再建計画に基づく債権放棄等」であると解して差し支えないでしょうか。

2. 債務免除を受けた債務者の税務上の取扱い

  法人税基本通達12−3−1(3)には、債務者である企業が整理開始の命令等に伴い債務免除等を受けた場合において「債務の免除等が多数の債権者によって協議の上決められる等その決定についてし意性がなく、かつ、その内容に合理性があると認められる資産の整理があったこと」の事実が認められる場合には、法人税法施行令第117条第4号の整理開始の命令に準ずる事実に該当する旨定められており、法人税法第59条《資産整理に伴う私財提供等があった場合の欠損金の損金算入》の適用があることになります。
 ついては、企業再生計画により債務者が債務免除を受けた場合には、同通達12−3−1(3)に沿って検討すると別紙のとおりであり、同通達に掲げる事実に該当すると考えられます。このことを前提とすれば、企業再生計画により債務者が債務免除を受けた場合には、原則として、法人税法第59条の適用があるものと解して差し支えないでしょうか。


(別紙)

 RCCによる「私的再生」は、会社が定めて公表した「RCC企業再生スキーム」に定める手続と基準にしたがって行われるものであるが、その対象となる「私的再生」は、すべての「私的再生」を対象とするものではなく、RCCが主要債権者である再生可能な債務者又はRCCに他の金融債権者の同意を得るための調整を依頼した金融債権者が主要債権者である債務者について、会社更生法や民事再生法などの法的再生手法によらず、金融債権者間の合意の下で事業の再生を行わせることにより事業収益から最大限の回収を図ることを意図して行われるもので、債権者の立場にたって行われる限定的なものである。
 すなわち、「RCC企業再生スキーム」による私的再生は、以下の13の各項目について検討した結果、利害の対立する多数の支援者により行われる再生支援に該当するものであり、その再生支援については次のとおり法人税基本通達9−4−2及び同通達12−3−1(3)に該当するものと考えられる。

【法人税基本通達9−4−2に係る検討】

I 損失負担の必要性

1. 対象債務者は事業関連性のある「子会社等」に該当するか

 企業再生計画に基づき債権放棄を行う者は、企業再生計画の対象となる債務者の債権者である金融機関等のうち企業再生計画に基づく対象債務者の事業の再生のために協力を求める必要があると認められるもので企業再生計画に合意した者である(「RCC企業再生スキーム」8参照)。
 したがって、債権放棄を受ける対象債務者は、当該債権放棄を行う者と「資金関係等において事業関連性を有する者」に該当し、「子会社等」に該当する。

2. 子会社等は自力では経営再建は果たせないのか

  企業再生計画に基づき債権放棄を受ける対象債務者は、「RCC企業再生スキーム」3(1)から(4)に定めるように、過大な債務を負っている債務者であって、過大な債務を主因として自力のみによる経営の再建が困難な状況にあることが要件とされている。この点については、「RCC企業再生スキーム」5(1)又は5(2)に定めるように、企業再生検討委員会の審査を経て再生計画案作成着手の可否が決定されており、「RCC企業再生スキーム」における対象債務者は、倒産を防止するため、債権者である関係金融機関等と協力して事業の再生を図らなければならない者であると言える。

3. 債権放棄を行う者にとって損失負担を行う相当な理由はあるか

  債権者は、「RCC企業再生スキーム」1(2)及び3(4)に定めるように、当該債務者につき清算型の回収を行う場合よりもより多額の回収が見込まれるときに債権放棄を行うのである。したがって、企業再生計画に沿って行われる債権放棄には損失負担を行う相当な理由があると言える。

II 企業再生計画の合理性

1. 損失負担額の合理性

 企業再生計画は、利害の対立する複数の債権者が自己の債権の回収の極大化を図る手段として合意、実行するものであり、元々、過剰支援が発生する余地は少ないが、「RCC企業再生スキーム」にしたがって行われる企業再生は、「RCC企業再生スキーム」5(1)1及び2並びに5(2)1及び2に定めるように、必要に応じて監査法人等によるデューデリジェンスを行わせ、財務状況を適切に把握した上で行われるものであり、その妥当性については、弁護士、公認会計士、税理士、企業再生コンサルタント等の専門家からなるRCC企業再生本部長の諮問機関である企業再生検討委員会によって審議、検討され、また、債務者自身が再生のために自助努力することも明記(「RCC企業再生スキーム」1(3))されており、更に、「RCC企業再生スキーム」1(1)に定めるように最大限の回収を図ることを意図して行われるものであることから、過剰支援とならないよう損失負担額の合理性は十分検証されるものとなっている。

2. 再建管理等の有無

  債権者及び債務者間で合意された企業再生計画の進捗状況は、RCCを含む多数の債権者の監視下に置かれることとなる。
 この場合において、RCCは、「RCC企業再生スキーム」8(8)に定めるように、モニタリングを行い、モニタリングの結果を受け、債務者が弁済を履行できないなど再生計画に定められた事項を履行できない場合には、主要債権者であるRCC又は主要債権者である金融債権者を中心に対象債権者及び債務者は、再生計画の見直し又は法的再生の申立について、協議を行い、適切な措置を講じることとしており、適正な再建管理等がされるものとなっている。

3. 支援者の範囲の相当性

  「RCC企業再生スキーム」の対象となる過剰債務企業は事業を継続しながら私的再生を目指す者であるので、支援者は、「RCC企業再生スキーム」1(1)に定めるように基本的には金融債権者が対象となっており、また、再生計画の成立には「RCC企業再生スキーム」8(7)に定めるように金融債権者全員の合意が前提になっているので、支援者の範囲には相当性がある。

4. 負担割合の合理性

  基本的には、「RCC企業再生スキーム」7(6)に定めるように債権者平等の原則により債権残高に応じて負担割合を決定するが、事案の内容に応じて合理的な調整まで排除するものではない。
 しかしながら、合理的な調整を行う場合であっても、その負担割合については、関与度合い等を考慮した調整を行い、この調整内容につき対象債権者全員に説明の上、これに合意を受けるものであることから、負担割合についても合理性が担保されている。

【法人税基本通達12−3−1に係る検討】

III 整理開始の命令に準ずる事実の該当性

 上述のように「RCC企業再生スキーム」は、RCCが関与して行う私的再生の手続及び基準を明らかにしたものであるが、必要に応じ監査法人等による財務デューデリジェンスを行わせて債務者の財務状況を適切に把握した上で再生計画の立案をさせており、損失の負担割合も基本的には債権者平等の原則によるなど十分合理性を有する内容となっている。また、具体的な再生計画案については、個別にRCCの外部の弁護士、公認会計士、税理士、企業再生コンサルタント等からなる「企業再生検討委員会」の審議、承認を経て決定されており、また、その成立には利害の対立する対象債権者全員の合意が必要である。したがって、このような再生計画に基づき行われる債権放棄は、恣意性が排除され、その内容の合理性も十分担保されており、整理開始の命令に準ずる事実に該当する。