平成15年5月2日

国税庁課税部長
村上 喜堂 殿

株式会社産業再生機構
代表取締役社長 斉藤 惇

 株式会社産業再生機構(以下「機構」という。)は、株式会社産業再生機構法(平成15年法律第27号。以下「機構法」という。)に基づき、有用な経営資源を有しながら過大な債務を負っている事業者に対して金融機関等が有する債権の買取り等を通じてその事業の再生を支援することを目的として設立されるものです。
 機構の具体的な業務は、過大な債務を負っている事業者等から支援の申込みを受け、当該事業者の債権者たる金融機関等から債権放棄を含む当該事業者の事業再生計画への同意を取り付けた上で、当該金融機関等から適正な時価で債権を買い取ること等を通じて、当該事業者の再生を図ることです。
 機構といたしましては、多数の金融機関等が関わるこのような業務を円滑に進めるためには、買取決定がされた事業再生計画に基づき債権放棄が行われた場合の税務上の取扱いを明確化しておくことが必要であると考えております。
 つきましては、機構が関与して策定される事業再生計画に基づき債権放棄が行われた場合の債権者及び債務者における税務上の取扱いについては、下記のとおりで特に問題がないか、ご照会申し上げます。

1.債権放棄をした債権者の税務上の取扱い

 債権者である企業が取引先等を整理もしくは再建するために債権放棄等をした場合の税務上の取扱いについては、法人税基本通達9−4−1及び9−4−2において既に明確化されているところであり、同通達9−4−2には、合理的な再建計画に基づく債権放棄等による損失であれば、税務上損金算入される旨定められています。
  ついては、機構が機構法第25条第1項に規定する買取決定(機構法第23条第1項第2号の同意をする旨の買取申込み等に係る債権額のみで必要債権額を満たしたために買取決定を行わなかった場合を含む。以下同じ。)を行った債権の債務者に係る事業再生計画(以下単に「事業再生計画」という。)については、同通達9−4−2に沿って検討すると別紙のとおりであり、同通達に定める支援額の合理性、支援者による適切な再建管理、支援者の範囲の相当性及び支援割合の合理性等のいずれも有すると考えられるほか、更に、利害の対立する複数の支援者の合意により策定された事業再生計画であると考えられます。
このことを前提とすれば、事業再生計画により金融機関等が債権放棄を行った場合には、原則として、同通達にいう「合理的な再建計画に基づく債権放棄等」であると考えられます。

2.債務免除を受けた債務者の税務上の取扱い

 法人税基本通達12−3−1(3)には、債務者である企業が整理開始の命令等に伴い債務免除等を受けた場合において「債務の免除等が多数の債権者によって協議の上決められる等その決定についてし意性がなく、かつ、その内容に合理性があると認められる資産の整理があったこと」の事実が認められる場合には、法人税法施行令第117条第4号の整理開始の命令に準ずる事実等に該当する旨定められており、法人税法第59条《資産整理に伴う私財提供等があった場合の欠損金の損金算入》の適用があることになります。
  ついては、事業再生計画により債務者が債務免除を受けた場合には、同通達12−3−1(3)に沿って検討すると別紙のとおりであり、同通達に該当すると考えられます。このことを前提とすれば、事業再生計画により債務者が債務免除を受けた場合には、原則として、法人税法第59条の適用があるものと考えられます。

以上


(別紙)

I 損失負担の必要性

1. 対象事業者は事業関連性のある「子会社等」に該当するか

 事業再生計画に基づき債権放棄を行う者は、事業再生計画の対象となる事業者(機構法第23条第1項に規定する「対象事業者」)の債権者である金融機関等のうち「事業再生計画に基づく対象事業者の事業の再生のために協力を求める必要があると認められるもの」(同項に規定する「関係金融機関等」)の中で「事業再生計画に従って債権の管理又は処分をすることの同意」(同項第2号)をした者である。なお、この債権者には対象事業者と連名で、機構に対し、再生支援を申し込む債権者が含まれる(機構法第22条第1項)。
したがって、債権放棄を受ける対象事業者は、当該債権放棄を行う者と「取引関係、人的関係、資金関係等において事業関連性を有する者」に該当し、「子会社等」に該当する。

2. 子会社等は自力では経営再建は果たせないのか

 事業再生計画に基づき債権放棄を受ける対象事業者は、「過大な債務を負っている事業者であって、その債権者である一以上の金融機関等と協力してその事業の再生を図ろうとする者」(機構法第22条第1項)であり、過大な債務を主因として自力のみによる経営の再建が困難な状況にあり、倒産を防止するためには、債権者である関係金融機関等と協力して事業の再生を図らなければならない者であると言える。

3. 債権放棄を行う者にとって損失負担を行う相当な理由はあるか

 機構が事業再生計画の諾否を判断する際の判断基準となる株式会社産業再生機構支援基準(平成15年内閣府・財務省・経済産業省告示第1号)1(2)においては、「申込事業者を支援決定時点で清算した場合の当該事業者に対する債権の価値を、事業再生計画を実施した場合の当該債権の価値が下回らないと見込まれること」との要件が定められており、事業再生計画に基づいて債権放棄を行う個々の債権者においても当該要件が妥当するものと考えられ、債権放棄を行う者にとって損失負担を行う相当な理由があると言える。
 なお、事業再生計画が支援基準を充足しているかどうかの判断は、機構法に基づき、社外取締役を一人以上含む(機構法第16条第2項)産業再生委員会によって行われることとされており、その公正性、客観性が担保されている。

II 事業再生計画の合理性

1. 損失負担額の合理性

 機構が機構法第25条第1項に規定する買取決定を行うためには、対象事業者がその債権者である一以上の金融機関等とともに策定する事業再生計画を、まず機構が支援基準に基づいて判断し、機構法第22条第3項に規定する支援決定を行った後、事業再生計画の実現のために協力を求めることが必要な者に対して、機構に対する債権の買取りの申込み又は事業再生計画に従って債権の管理又は処分をすることの同意を求め、機構法第25条第2項に規定する必要債権額を満たす買取りの申込み及び同意を得ることが必要である。
このように、機構が買取決定を行う前提となる事業再生計画は、利害の対立する複数の支援者の合意により策定されており、その妥当性についても、産業再生委員会によって判断されることから、その公正性、客観性が担保されている。
 なお、債務者の自助努力に関して、機構は、「債務者企業の最大限の努力を織り込んでも再生計画に基づく継続事業評価や資産処分価額では負担しえない金融負債を負っている場合に・・・債権放棄が必要」と判断し、「このような場合には、既存の株主については減増資手続により、その持分割合を下げること等により負担していただくことが原則」(産業再生機構に関するQ&A6-4)と考えている。

2.再建管理等の有無

 機構は、支援決定及び買取決定を行ったときは、事業再生計画その他の事項を公表することとされており(機構法第30条、株式会社産業再生機構法施行規則第12条)、事業再生計画の進捗状況は、支援者を含む多数の者の監視下に置かれることとなる。
 また、機構は、「債権買取り後の債務者企業の再生計画の実施状況については、大口債権者という立場から、メインバンクと共にフォローし、債務者企業からも定期的に計画の進捗報告を求めることでモニタリングを実施」(産業再生機構に関するQ&A8-1)することとしている。

3.支援者の範囲の相当性

 機構が機構法第25条第1項に規定する買取決定を行うためには、対象事業者がその債権者である一以上の金融機関等とともに策定する事業再生計画を、まず機構が支援基準に基づいて判断し、機構法第22条第3項に規定する支援決定を行った後、事業再生計画の実現のために協力を求めることが必要な者に対して、機構に対する債権の買取りの申込み又は事業再生計画に従って債権の管理又は処分をすることの同意を求め、機構法第25条第2項に規定する必要債権額を満たす買取りの申込み及び同意を得ることが必要である。
このように支援者の範囲については、利害の対立する複数の支援者の合意により決定されていることから、相当性が担保されている。

4.負担割合(支援割合)の合理性

 機構の買取決定に係る債権者の「権利関係の調整については債権者間で平等であることを旨とすべきと」(産業再生機構に関するQ&A6-6)している。
 いずれにしても、支援割合を含む事業再生計画は、利害の対立する複数の支援者の合意により決定されていることから、支援割合についても合理性が担保されている。

III 整理開始の命令に準ずる事実の該当性

 機構が機構法第25条第1項に規定する買取決定を行うためには、対象事業者がその債権者である一以上の金融機関等とともに策定する事業再生計画を、まず機構が支援基準に基づいて判断し、機構法第22条第3項に規定する支援決定を行った後、事業再生計画の実現のために協力を求めることが必要な者に対して、機構に対する債権の買取りの申込み又は事業再生計画に従って債権の管理又は処分をすることの同意を求め、機構法第25条第2項に規定する必要債権額を満たす買取りの申込み及び同意を得ることが必要である。
また、支援決定及び買取決定は、その選定及び解職に係る機構の取締役会の決議に主務大臣の認可が必要である委員からなる産業再生委員会により、主務大臣の意見聴取を経て行なわれるなど、し意性の排除された透明性の高い手続きによって進められるものである。

以上