(趣旨)
 住宅の品質確保の促進等に関する法律(以下「品確法」という。)に基づいて弁護士会が指定住宅紛争処理機関として行う紛争処理業務は、法人税法第2条第13号の「収益事業」に該当せず、従って、弁護士会が同業務を行うにあたり同法に基づいて受ける収受金については、申告の要なきものと思料します。よって、当連合会は、各弁護士会に対して、その旨伝達いたしたいと考えますが、意見を伺いたく照会申し上げます。

(理由)
 弁護士会が品確法に定める指定住宅紛争処理機関として行う紛争処理業務が上記「収益事業」に該当しないと思料する理由は、第一に、弁護士会の指定住宅紛争処理機関としての地位は法律の定めに基づくものであること、第二に、指定住宅紛争処理機関の組織の態様から判断の基準まで法令の定めが存じていること、第三に、その業務はあっせん・調停・仲裁を行う準司法機関としての業務であり、その業務を行うに当たり収受する申請手数料等は、実費そのものを収受するに止まり、対価性・報酬性はありません(別添1「対価性・報酬性のない収受金と経理について」及び別添2「住宅紛争処理機関の紛争処理の業務に関するキャッシュフロー」参照)。以下に詳述します。

一 品確法上の弁護士会の地位

1 法律の目的及び制度の枠組みの面から

 品確法は、住宅の性能に関する表示基準及びこれに基づく評価の制度を設け、住宅に係る紛争の処理体制を整備するとともに、瑕疵担保責任について特別の定めをすることにより、住宅の品質確保の促進、住宅購入者等の利益の保護及び住宅に係る紛争の迅速かつ適正な解決を図り、もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを、その目的とする法律です(法1条)。
 そして、制度の枠組みは、

(イ) 住宅の性能の基準に関する共通のものさしとして国土交通大臣告示の形で「日本住宅性能表示基準」を策定し(法3条)、

(ロ) 住宅の性能を設計、施工、完成段階でチェックする第三者機関として国土交通大臣が「指定住宅性能評価機関」を指定し(法5条、7条以下)、

(ハ) 契約書に住宅の性能を明確に表示するため「性能評価書」の交付について定め(法6条)、

(ニ) 当該住宅に関して万一トラブルが発生した場合の適正迅速な裁判外紛争解決手段として「指定住宅紛争処理機関」の制度を設け(法62条以下)、

(ホ) 国土交通大臣によって全国に一に限って指定される住宅紛争処理支援センターが、指定住宅紛争処理機関の行う業務の支援その他住宅購入者等の利益の保護及び住宅に係る紛争の迅速かつ適正な解決を図る(法78条以下)、

ことを大きな柱とするものであります。この5つの柱が有機的・機能的に作用し合って目的が達成されるのであり、その1つでも欠ければ制度は維持されません。
 指定住宅紛争処理機関は制度の重要な柱であり、品確法上「住宅に係る紛争の処理体制」として第1条の目的の中に定められ、また第6章第62条以下に節をもって定められ、かつ、省令に詳細に定められているところであります。
 弁護士会は、品確法立案の当初より、当時の建設省から「指定住宅紛争処理機関としては弁護士会以外には考えていない。もし、弁護士会に指定住宅紛争処理機関としての指定を受けてもらえないとすれば、この法律は廃案とせざるを得ない。」と協力を求められてきました。
 しかして品確法は、指定住宅紛争処理機関として指定を受けられるものとして「弁護士会」を直接指名し、指定住宅紛争処理機関としては「弁護士会」をもってこれに当てるとする考えを示した訳です。

2 民法34条法人の指定は想定されていないこと

 法第62条第1項は、国土交通大臣は、「弁護士会」の他に、「民法第34条の規定により設立された法人」であって「建設工事の請負契約又は売買契約に関する紛争」の「あっせん、調停及び仲裁」の業務を「公正かつ的確に行うことができると認められる」法人も指定住宅紛争処理機関として指定できる旨を定めています。
 しかしながら、品確法の国会審議における政府答弁からも明らかなとおり、いわゆる民法34条法人は、万一弁護士会を指定できない場合の救済的代替措置として定められているに過ぎず、国(国土交通大臣)が指定住宅紛争処理機関として想定している機関は、あくまで弁護士会だけであります。従って、弁護士会は指定住宅紛争処理機関として指定される事実上唯一の法人であると言って過言ではありません。
 因みに、現在、全国52の弁護士会のうち仙台弁護士会は指定住宅紛争処理機関としての申請をせず指定を受けていませんが、国(国土交通大臣)は、宮城県内において民法34条法人を指定することは全く考えておらず、隣接の福島県弁護士会・山形県弁護士会・岩手弁護士会がこれをカバーするところとなっています。

二 法令による規制

1 指定住宅紛争処理機関は、

(イ) 指定住宅性能評価機関・指定試験機関等に対して、説明を受け、資料の提出を求める権限を与えられ(法67条)、

(ロ) 紛争処理の手続は非公開で行われ(法68条)、

(ハ) 国土交通大臣が定めた技術的基準を参考とすることとされ(法70条)、

(ニ) 審理の経過を記載した調書等について20年間の保存義務を課せられる(省第99条)、

など様々に権限を付与され義務を課せられています。
 そして、指定住宅紛争処理機関は、紛争処理の申請があったときは、正当な理由のない限りこれを断ることができない旨定められています。紛争処理の申請を受ける受けないの自由はないのです(法66条)。

2 その選任する紛争処理委員についても、様々な規制を受けています。

(イ) その員数は10人以上とされます(省103条)。

(ロ) 個々の処理事件に関わる委員の数は3人以内と定められ(省96、97、101条)、そのうち少なくとも1人は弁護士でなければならないと定められています(法64条3)。

(ハ) 委員の氏名・略歴を国(国土交通大臣)に届け出なければなりません(省90・91条)。

3 指定住宅紛争処理機関の紛争処理委員・役員・職員には秘密保持義務が課されているのみならず、刑法その他の罰則についてはみなし公務員とされています(法65条)。

三 指定住宅紛争処理機関の業務は準司法機関としての業務であること

 このように法律の要請に基づいて指定住宅紛争処理機関の地位を与えられ、法令による様々な規制の下に紛争処理業務を行うこととなった弁護士会の、その行うべき業務は、「建設住宅性能評価書が交付された住宅の建設工事の請負契約又は売買契約に関する紛争の…あっせん、調停及び仲裁」です(法63条)。即ちそれはADR(裁判外紛争解決手続−Alternative Dispute Resolution)という準司法的作用を有した業務です。「裁判の機能不全を補うADR」は、今般(平成13年6月12日)発表された政府の司法制度改革審議会の最終意見書においても、今後いよいよ拡充されるべき重要な「司法」問題として捉えられています。因みに、仲裁の手続については、公示催告手続及ビ仲裁手続ニ関スル法律(旧民事訴訟法第7編・8編)に準じて行うこととされ(省101条4)、仲裁判断は確定判決と同一の効力を有することとなっております(同法800条)。
 裁判所の行う裁判や調停、あるいはまた行政法にいう行政委員会(人事院、労働委員会、公害等調整委員会等)の行うあっせん、調停、仲裁等が収益事業でないことは言うまでもありません。

四 結び

 法人税法の収益事業課税の主旨に照らして、上記の如き理由から、指定住宅紛争処理機関の紛争処理業務は「同法の収益事業」には該当しないものと思料します。

以上