1 事前照会の趣旨(別紙1−1)

(1) 経緯

日本弁理士会は、弁理士の業務の改善進歩を図るため、会員の指導、連絡及び監督、並びに弁理士の登録に関する事務を行うことを目的として弁理士法に基づき設立された法人であり、消費税法においては別表第三法人として掲名されています。
平成19年に弁理士の資質向上等を目的として弁理士法の改正が行われ、これに伴い平成20年10月1日から実務修習制度が導入されています。この実務修習は、弁理士試験の合格者等に対し弁理士として必要な技能及び高い専門的応用能力を習得させるために経済産業大臣が行うもので、弁理士となる資格を有するための要件として実務修習の修了が義務付けられています(弁理士法7、16の21)。また、経済産業大臣は、その指定する者(以下「指定修習機関」という。)に、講義及び演習の実施その他の実務修習に関する事務(以下「実務修習事務」という。)を行わせることができ(同法16の31)、日本弁理士会は、平成20年10月15日付で経済産業大臣から指定修習機関の指定を受け、実務修習事務を行うことになりました。
指定修習機関が実務修習事務を行う場合において、実務修習を受けようとする者は、弁理士法第16条の14《手数料》第2項の規定に基づき、指定修習機関が経済産業大臣の認可を受けて定める額の手数料を当該指定修習機関に納付しなければならないこととされており、日本弁理士会は、当該手数料の額について、平成20年10月31日付で経済産業大臣の認可を受けています。

(2) 照会事項

指定修習機関である日本弁理士会が行う実務修習に係る手数料を対価とする役務の提供は、消費税法別表第一第五号イ(2)及び同法施行令第12条第1項第一号イに規定する「講習」に係る役務の提供に該当し、非課税取引として取り扱って差し支えないか伺います。

2 事前照会に係る取引等の事実関係(別紙1−2)

(1) 実務修習の目的及び対象者

実務修習は、弁理士となるのに必要な技能及び高等の専門的応用能力を習得させることを目的とし、弁理士登録の条件の一つとして弁理士法により義務付けられたものであり(弁理士法16の2)、平成20年10月1日以降に、次のいずれかに該当した者が対象となります(同法7)。

  • 1 弁理士試験に合格した者
  • 2 弁護士となる資格を有する者
  • 3 特許庁において審判官又は審査官として審判又は審査の事務に従事した期間が通算して7年以上になる者

(2) 実務修習の実施方法

実務修習は、集合研修とインターネット配信によるe−ラーニング研修とを併用して行われます。
集合研修は、講師と修習生が直接対面して行われる一般的な研修形態であり、主に演習を中心とした講義を行います。また、e−ラーニング研修は、テキスト教材を手元に置いて講義の映像コンテンツを視聴するものであり、コンテンツの途中に効果確認問題が挿入されています。
なお、実務修習の延べ時間は、72時間(集合研修27時間、e-ラーニング45時間)です。

(3) 実務修習の課程及び修了基準

実務修習は次の5つの課程から構成されており、各課程を修了するためには、各課程に属するすべての課目について、一定の単位数を習得しなければならないとされています(弁理士法施行規則21の2・3)。

  • 1 弁理士法及び弁理士の職業倫理
  • 2 特許及び実用新案に関する理論及び実務
  • 3 意匠に関する理論及び実務
  • 4 商標に関する理論及び実務
  • 5 工業所有権に関する条約その他の弁理士の業務に関する理論及び実務

なお、実務修習を受けようとする者のうち、一定の条件を満たす者については、課程の一部の免除を申請することができますが、免除を申請するか否かは任意です。

(4) 指定修習機関

経済産業大臣は、指定修習機関に実務修習事務を行わせることができ(弁理士法16の31)、日本弁理士会は、平成20年10月15日付で経済産業大臣から指定修習機関の指定を受け、実務修習事務を行うことになりました。

(5) 実務修習に係る手数料

指定修習機関が実務修習事務を行う場合において、実務修習を受けようとする者は、弁理士法第16条の14《手数料》第2項の規定に基づき、指定修習機関が経済産業大臣の認可を受けて定める額の手数料を当該指定修習機関に納付しなければならないこととされており、日本弁理士会は、当該手数料の額について、平成20年10月31日付で経済産業大臣の認可を受けています。
なお、経済産業大臣の認可を受けた手数料の額は118,000円です。

3 事実関係に対して事前照会者の求める見解となることの理由(別紙1−3)

(1) 非課税となる行政手数料

消費税の非課税規定は、消費に負担を求めるという税の性格上、課税することになじまない取引や、社会政策的配慮により非課税とすることが特に必要な取引に限って、消費税を課さないこととするものであり、消費税法別表第一に限定列挙されています。
このうち、同法別表第一第五号イでは、

  • 1 国、地方公共団体、別表第三に掲げる法人その他法令に基づき国若しくは地方公共団体の委託若しくは指定を受けた者が、
  • 2 法令に基づき行う一定の事務に係る役務の提供で、
  • 3 その手数料、特許料、申立料その他の料金の徴収が法令に基づくものであり、
  • 4 同法施行令第12条第1項で定めるものを除く

ものと規定されており、その(2)において「検査、検定、試験、審査、証明及び講習」が掲げられています。
これらのいわゆる「行政手数料」は、公による役務の提供の対価という側面とその費用の分担という側面を併せ持っており、行政主体の権力を背景として徴収するものや、国民生活の遂行上その支払いが強制されているものが多いことから、「税金」と類似する性格を有していると考えられており、消費税の対象とすることには馴染みにくいという理由から、消費税は非課税とされています。すなわち、消費税が非課税となる行政手数料には、国・地方公共団体が法令に基づき強制力をもって徴収しているもの、あるいは、行政効率の観点から、法令上、国・地方公共団体に代わって国・地方公共団体から委託又は指定を受けた者が行うこととして、予め制度を仕組んで強制力を持って徴収しているものが該当するものと理解しています。

(2) 実務修習に係る手数料の取扱い

1 役務の提供の実施主体

役務の提供の実施主体については、国、地方公共団体、別表第三に掲げる法人その他法令に基づき国若しくは地方公共団体の委託若しくは指定を受けた者(以下「国等」という。)が、法令に基づき行うことが要件とされています。
日本弁理士会は、弁理士法第16条の3第1項の規定に基づき、平成20年10月15日付で経済産業大臣から指定修習機関の指定を受けています。したがって、同会は、「法令に基づき国若しくは地方公共団体の委託若しくは指定を受けた者」であり、かつ、法令(弁理士法の規定)に基づき(実務修習を)行う場合に該当するものであることから、国等が行う役務の提供の実施主体としての要件は満たしていると考えます。

2 法令に基づき行う事務に係る役務の提供

弁理士法第7条《資格》では、弁理士試験に合格した者等であって、実務修習を修了したものは、弁理士となる資格を有するものとされており、弁理士の資格を取得するためには、実務修習の修了が要件とされています。実務修習は、同法第16条の2《実務修習》第1項の規定に基づき、弁理士試験の合格者等に対して、弁理士となるのに必要な技能及び高等の専門的応用能力を修得させることを目的として実施されるものであり、講義及び演習の方法により行われ、一定の単位数の修得が求められています(弁理士法施行規則21の2・3)。
したがって、弁理士法における実務修習は、法令に基づき行われる事務であり、その目的及び実施方法等からも消費税法別表第一第五号イ(2)に規定する「講習」に該当すると考えます。

3 実務修習に係る手数料の徴収規定

実務修習を受けようとする者は、弁理士法第16条の14《手数料》第2項の規定に基づき、指定修習機関が経済産業大臣の認可を受けて定める額の手数料を当該指定修習機関に納付しなければならないこととされていることから、当該手数料は「料金の徴収が法令に基づくもの」に該当すると考えます。

4 政令で定める「特定事務」該当の有無

消費税法別表第一第五号イでは、政令に掲げる事務に係る役務の提供に該当するものについては非課税とならない旨を定めていますが、同法施行令第12条第1項第一号において検査、検定、試験、審査及び講習(以下「特定事務」という。)で同号に掲げるいずれかに該当する場合には、非課税となる役務の提供に該当するものとされています。
同政令では、「法令において、医師その他の法令に基づく資格を取得し、若しくは維持し、又は当該資格に係る業務若しくは行為を行うにつき、当該特定事務に係る役務の提供を受けることが要件とされているもの」が掲げられており、また、当該規定のかっこ書きにおいて「資格」とは、「法令において当該資格を有しない者は当該資格に係る業務若しくは行為を行い、若しくは当該資格に係る名称を使用することができないこととされているもの又は法令において一定の場合には当該資格を有する者を使用し、若しくは当該資格を有する者に当該資格に係る行為を依頼することが義務づけられているものをいう」とされています。
弁理士法では、弁理士試験に合格した者等であって、実務修習を修了したものは、弁理士となる資格を有するものとされており(同法7)、弁理士の資格を取得するためには、実務修習の修了が要件とされています(同法16の21)。また、弁理士については、同法第76条《名称の使用制限》第1項において「弁理士又は特許業務法人でない者は、弁理士若しくは特許事務所又はこれらに類似する名称を用いてはならない。」と規定されていることから、弁理士は、上記の「資格」に該当します。
したがって、実務修習は、消費税法施行令第12条第1項第一号イに定める特定事務に該当することから、非課税となる役務の提供に該当すると考えます。

4 結論

実務修習に係る手数料は、上記3(1)の要件について同(2)のとおりそれぞれ満たしているものと考えられることから、日本弁理士会が行う実務修習に係る手数料を対価とする役務の提供は、消費税法別表第一第五号イ(2)及び同法施行令第12条第1項第一号イに規定する「講習」に係る役務の提供に該当し、非課税取引になると考えます。

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