1 照会の趣旨及び内容

東京都では、「都民の健康と安全を確保する環境に関する条例(平成12年東京都条例第215号)」(以下「条例」といいます。)に基づき「温室効果ガス排出総量削減義務と排出量取引制度」(以下「都制度」といいます。)を運用しています。

都制度において、知事が指定する特定地球温暖化対策事業所の所有者等(以下「削減義務者」といいます。)は、条例で定める削減義務期間内において、特定温室効果ガス(燃料、熱又は電気の使用に伴って排出される二酸化炭素)の排出量を一定量以上削減する義務(以下「削減義務」といいます。)を負うこととされています(条例5の11)。

都制度では、削減義務者自らが設備更新による省エネ対策等を実施して削減義務を達成することが義務付けられますが、排出量の実績が排出上限量を下回っている場合、削減義務者は、東京都からその下回っている部分に相当するクレジット(以下「クレジット」(注1)といいます。)の交付を受け、これを他の者に譲渡することができます。

一方、実績排出量が排出上限量を上回っている場合、削減義務者は、他の者からクレジットを取得し、削減義務に充当することによって自己の削減義務を達成することができます。このクレジットのやりとりを排出量取引といいます。

これまでの都制度では、一般管理口座(クレジットの取得、保有、譲渡の際に利用する口座)を保有する事業者(以下「事業者」といいます。)は、クレジットを自己の削減義務の履行(以下「義務充当」といいます。)及び他の者への譲渡のみに利用できることとされていましたが、今般、「都民の健康と安全を確保する環境に関する条例施行規則(平成13年東京都規則第34号)」の改正により、クレジットを知事の管理口座(以下「無効化口座」といいます。)に移転することによって、義務充当や譲渡ができないようにすること(以下「無効化」といいます。)が可能になりました。この無効化によって、事業者は、無効化したクレジットを自己が実施するカーボンオフセット(注2)に利用することが可能となりました(無効化が完了した時点でカーボンオフセットは完了します。)。

この場合、クレジットを無効化した事業者における法人税法上の取扱いは次のとおりと解して差し支えないか、御照会申し上げます。

〔法人税法上の取扱い〕
 内国法人である事業者が一般管理口座に保有するクレジットを無効化した場合には、その無効化した日(当該クレジットが当該事業者の一般管理口座から無効化口座に移転した日)の属する事業年度における費用又は損失の額として移転時の帳簿価額を損金の額に算入する。

(注1)都制度におけるクレジットは、識別番号及びその数量等によって個別管理されます。この税務上の取扱いについては、既に国税庁ホームページで公表されている文書回答事例「東京都条例に基づく排出削減義務制度における排出量取引に係る税務上の取扱いについて」(平成24年6月11日東京国税局回答)において、資産性を有し、削減義務者自らが発行を受ける場合には取得時の処理は不要(オフバランス)であり、他の者から購入した場合には取得時にその取得に要した費用を無形固定資産等に計上することが明らかにされています。また、取得したクレジットを義務充当した場合及び他の者へ売却した場合の税務上の取扱いが明らかにされています。
 今回の照会は、都制度に新たに導入された無効化が行われた場合の税務上の取扱いについて照会を行うものです。

(注2)カーボンオフセットとは、「我が国におけるカーボン・オフセットのあり方について(指針)」(平成20年2月環境省)において、企業、自治体、政府等の社会の構成員が、自らの温室効果ガスの排出量を認識し、主体的にこれを削減する努力を行うとともに、削減が困難な部分の排出量について、他の場所で実現した温室効果ガスの排出削減・吸収量等(クレジット)を購入すること等により、その排出量の全部又は一部を埋め合わせることと定められています。また、「カーボン・オフセットガイドライン」(平成27年3月31日環境省)において、排出量の埋め合わせの際には、排出削減・吸収量等(クレジット)を無効化する必要があり、無効化を申請した者がカーボンオフセットを行ったと主張できることとされています。
 都制度におけるクレジットを自己が実施するカーボンオフセットに利用するためには、これらの指針やガイドラインに従い、当該クレジットを取得して自らが無効化を申請する必要があります。

2 照会に係る取引等(無効化)の概要(別図参照)

クレジットを無効化する場合、事業者は、知事に対して、一般管理口座に記録されているクレジットの種類、識別番号及びその数量を指定して、これを無効化する旨の申請を行います(別図1)。

東京都は、当該申請に基づき、事業者の一般管理口座から無効化口座にクレジットを移転し、一般管理口座に当該移転について記録します。無効化口座に移転された時点で、クレジットは義務充当や他の者への譲渡ができなくなり、クレジットの資産性(財産的価値)が消失します(別図2)。

また、東京都は、事業者の一般管理口座から無効化口座にクレジットを移転したときには、当該事業者に対し当該移転をした旨を書面にて通知します。この書面により、当該事業者の保有していたクレジットが無効化されたことが証明されます(別図34)。

なお、無効化するクレジットは、事業者の一般管理口座から知事の管理する無効化口座に移転されますが、これは、クレジットを無効化するための手続として記録されるものに過ぎず、東京都がクレジットという資産性(財産的価値)を有するものの贈与を受けるものではありません。また、当該クレジットの無効化は、事業者自らのカーボンオフセットにクレジットを利用するものであり、東京都にとって実質的価値を有するものでもありません。

3 照会者の求める見解となることの理由

上記2のとおり、クレジットが事業者の一般管理口座から無効化口座に移転(記録)された時点で、移転(記録)されたクレジットは義務充当や他の者への譲渡には利用できなくなり、そのクレジットの資産性(財産的価値)は消失することとなります。

したがって、内国法人である事業者が一般管理口座に保有するクレジットを無効化口座に移転(記録)した場合には、その移転(記録)した日の属する事業年度における費用又は損失の額として移転(記録)時の帳簿価額を損金の額に算入することが相当であると考えられます。

なお、削減義務者が東京都からクレジットの発行を受けた場合(オフバランスの場合)には、上記の処理を行わなくても差し支えないものと考えられます。

以上

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