1 事前照会の趣旨

一般社団法人である当法人は、平成28年4月1日に所定の要件を満たして法人税法第2条第9号の2《定義》に規定する非営利型法人に該当することとなる予定です。当法人は非営利型法人に該当することとなった日後に、基金の拠出者からその返還に係る債務の免除を受けることが見込まれていますが、当該免除に係る債務免除益は、当法人の行う収益事業に係る益金の額に含まれないと解して差し支えないでしょうか。

2 事前照会に係る取引等の事実関係

(1) 当法人は、3月決算の一般社団法人であり、設立以後現在まで、法人税法第2条第9号の普通法人に該当していますが、平成28年4月1日以降は、法人税法施行令第3条第1項各号《非営利型法人の範囲》の要件を満たす非営利性が徹底された法人として活動したいと考えています。

(2) 当法人は、平成25年7月にA株式会社から、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「一般社団・財団法人法」といいます。)第131条《基金を引き受ける者の募集等に関する定款の定め》に規定する基金として、預金のほか、土地、建物、器具備品等の現物資産の拠出を受け、これらの現物資産を用いて薬局事業等を営んでいます。なお、当法人においては、Aから拠出を受けた基金について、拠出財産の拠出時の価額により計上しています。

(3) 当法人は、非営利型法人への移行に際し、Aから拠出を受けた土地、建物、器具備品等の現物資産について収益事業に係る資産として区分経理しますが、基金についてはその全額を収益事業以外の事業に属する債務として区分経理します(当該基金と同額を収益事業への貸付金として経理します。)。

(4) 当法人は、一般社団・財団法人法及び定款の定めるところに従い、毎年の剰余金の範囲内で、拠出者Aに対して基金を返還する予定でしたが、今般、Aが解散し清算手続に入るに当たり、今後、Aから基金の返還請求権を放棄する旨の申出がなされることが見込まれています。

(5) 当法人は、平成28年4月1日以後、法人税法施行令第3条第1項各号に掲げる要件をすべて充足すること及び当法人の行う薬局事業等は、法人税法上の収益事業(物品販売業等)に該当することを照会の前提とします。

3 2の事実関係に対して事前照会者の求める見解となることの理由

(1) 一般社団法人の基金について

一般社団法人における基金は、一般社団・財団法人法の規定により一般社団法人に拠出された金銭その他の財産であって、当該一般社団法人が拠出者に対して同法及び当該一般社団法人と拠出者との間の合意の定めるところに従い返還義務を負うものです(一般社団・財団法人法131)。基金の返還は、拠出額(金銭以外の財産が拠出されたときは、拠出時の評価額)を限度とし、かつ、基金の返還に係る債権には利息を付すことができないとされています(一般社団・財団法人法131、143)。
 基金制度は、剰余金の分配を目的としないという一般社団法人の基本的性格を維持しつつ、その活動の原資となる資金を調達し、その財産的基礎の維持を図るための制度であり、基金として集めた金銭等の使途に法令上の制限はなく、一般社団法人の活動の原資として自由に活用することができます(法務省ホームページ「一般社団法人及び一般財団法人制度Q&A」Q23)。

(2) 非営利型法人について

法人税法上は、一般社団法人・一般財団法人のうち一定の要件に該当する1非営利性が徹底された法人及び2共益的活動を目的とする法人を「非営利型法人」といい、公益法人等として取り扱われます(法法2六、九の二)。したがって、非営利型法人は、収益事業を行う場合に限り法人税の納税義務が生じ、収益事業から生じた所得に対して法人税が課されることになります(法法41、7)。なお、非営利型法人以外の一般社団法人(普通法人)が非営利型法人に該当することとなる場合には、1その該当することとなる日の前日にその普通法人が解散したものとみなし、2その該当することとなった日にその非営利型法人(公益法人等)が設立されたものとみなして、一定の法人税に関する法令の規定等を適用することとされています(法法10の3)。

(3) 収益事業について

法人税法上の収益事業とは、販売業、製造業その他の政令で定める事業で、継続して事業場を設けて行われるものをいい(法法2十三)、法人税法施行令第5条第1項《収益事業の範囲》において34事業が限定列挙され、その性質上その事業に付随して行われる行為を含むこととされています(法令51柱書)。「その性質上その事業に付随して行われる行為」とは、通常その収益事業に係る事業活動の一環として、又はこれに関連して行われる行為をいうと解されています(法基通15−1−6)。
 公益法人等は、収益事業から生ずる所得に関する経理と収益事業以外の事業から生ずる所得に関する経理とを区分して行わなければならないとされています(法令6)。また、公益法人等が他人から贈与を受けた寄附金収入などは、原則として、収益事業に係る収益の額に該当せず、固定資産の取得等に充てるための補助金等の額についても、たとえ当該固定資産が収益事業の用に供されるものである場合であっても、収益事業に係る益金の額に算入しないこととされています(法基通15−2−12(1))。

(4) 本件の当てはめ

当法人は、平成28年4月1日以降、非営利型法人の要件を満たすことを本照会の前提としていますので、法人税法上、公益法人等に該当することとなり、同日に開始する事業年度以後の各事業年度において、収益事業から生じた所得に対してのみ法人税が課されることになります(法法7)。
 当法人は、公益法人等に該当することとなった日後において、Aから基金の返還請求権を放棄する旨の申出がなされることにより、基金の返還債務の消滅に係る経済的利益(債務免除益)を収入することとなります。この場合、基金としてAから拠出された現物財産が収益事業の用に供されているとしても、基金制度は、剰余金の分配を目的としないという一般社団法人の基本的性格を維持しつつ、その活動の原資となる資金を調達し、その財産的基礎の維持を図るための制度であり、基金として集めた金銭等の使途に法令上の制限はないことから、一般社団法人の基金は収益事業に属する債務とは認められず、当法人としても収益事業以外の事業に係る債務として区分経理することとしているところです。よって、本件の基金の返還債務の免除は、収益事業に係る事業活動の一環として、又はこれに関連して行われる行為によるものとは認められないことから、法人税法施行令第5条第1項にいう「その性質上その事業に付随して行われる行為」には該当しないと考えます。また、基金はいわば実質的に元入金のような性格を有しているといえますので、その返還債務の免除に係る経済的利益は、他者から贈与を受けた寄附金と同様の性格の収益であるといえ、当法人の行う収益事業に係る益金の額には算入されないと考えます。

○ 国税庁文書回答税目別検索