10月1日に消費税率が10%に引き上げられ、税への関心が高まっている。11〜17日の「税を考える週間」に合わせ、竹村彰通・滋賀大教授(データサイエンス学部長)、聖護院八ッ橋総本店(京都市)の鈴鹿且久社長、タレントの山口実香さん、大阪国税局の榎本直樹局長――の4人に、税務行政のあり方などをテーマに意見交換してもらった。【司会・小栗高弘毎日新聞大阪本社社会部長】

座談会写真
【座談会出席者(敬称略)】  
滋賀大データサイエンス学部長 竹村 彰通
聖護院八ッ橋総本店社長 鈴鹿 且久
タレント 山口 実香
大阪国税局長 榎本 直樹

消費税は常に意識


――税を考える週間について、教えてください。

榎本 日本では納税者自身が税金を計算し、申告・納税する「申告納税制度」が採用されています。制度を機能させるため、租税の意義や役割、税務行政を深く理解してもらう必要があります。国税庁ではとりわけ、毎年11月11〜17日の1週間を「税を考える週間」として、集中的な広報活動をしています。

――消費税は特に国民生活と密接な関わりを持っています。

榎本 税率が10%に引き上げられ、「酒類・外食を除く飲食料品」と「定期購読契約が締結された週2回以上発行される新聞」を対象に「軽減税率制度」が導入されました。

鈴鹿 食品関係の事業者では持ち帰りの問題などで混乱した面もあったが、軽減税率制度については国税局に適切な説明会を何度も実施していただき、良かったと思います。今後は申告・納税が実際にうまくいくかどうかが課題になると思いますので、この時もきちんと指導していただきたいです。


山口 実香さん

山口 買い物のレシートを見ると8%と10%に分かれています。改めて、軽減税率制度が始まったんだなと実感しました。ただし、戸惑いがある人はまだ多いのでは。事業者だけでなく、私たち消費者もきちんと知識を深めなければと思います。支払った消費税が社会の中でどのように使われているのかも、テレビや新聞などを通じて詳しく説明してほしいですね。

竹村 制度としては複雑で社会的コストも大きい。一方で生活必需品に対し軽減税率制度を適用する趣旨は理解できるので、導入された制度がしっかり執行されるよう、国税局の方で今後も注意喚起などの対策をしていただければと思います。

AI相談で効率化 

――「納税者の利便性の向上」を柱とし、国税庁は2017年に「税務行政の将来像」を公表しています。また、本年には最近の取り組み状況の公表がありました。

榎本 ICT(情報通信技術)を活用し、税務行政の「スマート化」を目指しています。その取り組みの一つが「スマートフォン・タブレットによる電子申告」です。

山口 スマホは財布代わりになる生活の必需品です。サービス内容が増えれば電子申告の利用者は増えると感じます。ただし、若者とは異なり、お年寄りには操作に慣れていない方も多いと思います。見やすい画面、音声による操作説明など機能を工夫し、誰もが利用しやすくしてはいかがでしょうか。

榎本 「年末調整手続の簡便化」と「企業が行う手続のオンライン・ワンストップ化」にも取り組んでいます。

鈴鹿 人手不足の状況の中で、非常に助かります。うちの会社の事務は昔ながらのやり方なので、特に総務の仕事に時間がかかる。機械モノは理解するのが大変ですが、国税局のシステムは積極的に使わせてもらいたい。実は会社で一番、コンピューターが苦手なのは私なんですけれど。


榎本 直樹さん

榎本 さらに一つ。「税務相談の効率化・高度化」があります。20年に向け、AI(人工知能)が自動応答する「チャットボット」の本格運用を準備中です。

竹村 AIを活用することで、納税者へのサービスの向上につながります。一方で、税務署の業務の効率化も期待できる。決算のチェックなど機械的処理はやはり、人間よりは機械が優れている。AIは学習しますので、質問事例の蓄積により、チャットボットはいいシステムになっていくでしょう。納税者が利用したくなるようなインセンティブ、例えばポイントを付与するとか、考えてみてはいかがでしょうか。 

税は社会のデータ 

――「税務行政の将来像」では、「課税・徴収の効率化・高度化」も柱に据えています。

榎本 情報の一元化を図りながら、保有するデータを積極的に活用できるシステムと組織作りを進めています。インターネットなどから収集した情報について、ICTツールによる加工・分析をします。こうした業務改革で生じたマンパワーを活用し、国際的租税回避への対応、富裕層に対する適正課税の確保、大口・悪質事案への対応――という重点課題に取り組み、「適正・公平な課税・徴収の実現」を図ります。


竹村 彰通さん

竹村 「デジタル・トランスフォーメーション」という概念が幅広く、使われるようになっています。「ITの進化が人々の生活をより良いものに変革する」との意味です。デジタル化を進めるとともに、マンパワーはより高度な人間の判断が必要とされるところに注力していただきたい。また、税務に関するデータの重要性は国税庁だけにとどまらない。経済の現状を反映しており、社会の基礎データの一つなのです。経済活動の分析という役割も視野に入れていただくとさらに良いと思います。

鈴鹿 京都の老舗は300年以上も続いています。一方の近代税制は明治政府の誕生後に導入され、その半分の150年ほど。合わないところはあったと思います。それでも、父祖代々に言われてきたのは「税は納める。それから、いろいろと申し上げればよい」。税金の使われ方に納得がいかないこともあります。けれど、税をお支払いするのは当然の義務。だからこそ、適正に徴収してもらいたい。先日、榎本局長に講演会をしてもらった際に流されたビデオ番組、あれは良かった。

榎本 資産家一族が資産を海外に移そうとし、国税が摘発するというストーリーですね。国税庁のホームぺージで見ることができます。Web―TAX―TVというインターネット番組があり、税に関する動画がたくさんありますよ。

山口 それはぜひ、見てみたいです。脱税のニュースは話題になりますが、ショックで、悲しいですね。税金を払うという国民の義務を逃れようと、ごまかしをする人がいるのは残念。国のサービスは受けながら、他の納税者に負担させるのはおかしいと思います。正直者がばかを見る、とならないように頑張ってください。

納税協会も支援

――私たち自身もまた、税の仕組みと役割を理解する必要があります。

榎本 国税局としては租税教育に力を入れています。小学生から高校生までを対象とした租税教室、大学生や社会人を対象とした講演会、作文の募集などです。近畿税理士会、納税協会などの協力も得て、租税教室の開催は18年度に約4500回、前年度比で約400回増えました。しかし、全国的に見れば決して進んでいるわけではありませんので、さらに開催を増やしていく必要があります。

山口 租税教室は正直に言うと受けた記憶がありません。けれども平成生まれで、物心ついたときには消費税がありました。親にお駄賃をもらってお菓子を買う時、1円玉、5円玉も持っていて、既に消費税を意識していました。そう考えると税金は年齢に関係なく、身近なもの。一緒に生活していかなくてはならないと思います。

竹村 一人一人が生きがいを感じる社会のため、税には格差の是正という社会的役割がある。しかし、今の若い人は「世代間の不公平」というものを感じているのではないでしょうか。高齢世代をなぜ、支えなければならないのかと。租税教育は非常に重要です。税に関する経済的な役割はもちろん、歴史的役割についても、考えてもらうべきです。


鈴鹿 且久さん

鈴鹿 納税協会に23年前に青年部をつくり、初代の部会長をやらせてもらいました。当時と比べると今の青年部は大変よく勉強されていて、メンバーには租税教室の講師も務めていただいております。納税協会では税務署職員を講師に招いた研修会や勉強会などを積極的にやっております。今後も納税協会の活動を通じ、適正な申告・納税に協力していきたいと考えております。

榎本 貴重なご意見、ご要望を役立てていきたい。税は一人一人の意識の問題でもあります。国税局として、国民の皆さんに税を考えてもらえる環境をつくっていくことが大事だと思っています。