暮らし支える税を知る

安倍晋三首相が2019年10月の消費税率10%への引き上げを改めて表明するなど、税への関心が高まっている。11〜17日の「税を考える週間」に合わせ、「牛乳石鹸共進社」(大阪市城東区)の宮崎仁之会長、玉岡雅之・神戸大大学院教授(財政学)、タレントの吉川亜樹さん、大阪国税局の榎本直樹局長――の4人に税務行政のあり方について意見交換してもらった。【司会・小栗高弘毎日新聞社会部長】

座談会写真
【座談会出席者(敬称略)】  
牛乳石鹸共進社株式会社 代表取締役会長 宮崎 仁之
神戸大学大学院経済学研究科 教授 玉岡 雅之
タレント 吉川 亜樹
大阪国税局長 榎本 直樹

小中学生教育、積極的に


――税を考える週間について教えてください。

榎本 日本では自分で税金を計算して申告・納税する「申告納税制度」が採用されています。制度を機能させるためには、皆様に租税の意義や役割を理解いただき、税務行政に対する知識を深めてもらって、自発的かつ適正に申告や納税をしていただく必要があります。このため国税庁では毎年11月11〜17日の1週間を「税を考える週間」として、集中的な広報活動をしています。

――租税教育に力を入れているそうですね。

榎本 小学生から高校生を対象とした租税教室や、大学生や社会人を対象とした講演会などを実施しています。租税教室では一方的に教えるのではなく、生徒たちと一緒に考える授業を心がけており、2016年度は約3200回、17年度は約4100回開催しました。

吉川 私は日本酒が大好きで、利き酒師と日本酒学講師の資格を取りました。その際、酒税について勉強させてもらいました。日本酒を振興することが財源確保につながり、その税金が教育や医療など身の回りにも使われていることを学びました。小中学生の頃から税金の役割や使い道などについて学習することは大切だと思います。

玉岡 租税教育について研究していますが、いつでも誰でも受けられる「生涯租税教育」が大切だと思っています。ある街頭インタビューで、道行く会社員のほとんどが税を「重たい」と感じながら、自分がいくら納めているかを知らないという結果が出ていました。税を知る機会から遠ざかっているためだと思います。


宮崎 仁之さん

宮崎 日本の将来を担う小中学生を対象とした租税教育には、積極的に取り組む必要があると思います。私が所属する城東納税協会では、租税教室への講師派遣や地域イベントでの税金クイズ、税に関する書道展などを実施しています。また、納税協会連合会として、今回の「税を考える週間」に合わせて、子ども向け職業体験施設「キッザニア甲子園」に税務署体験ができるブースを出展します。

企業が社会的責任認識

――次に「適正・公平な課税」について聞かせてください。

榎本 資産運用の多様化や国際化により実態把握が困難な取引が増えており、税金の調査や徴収業務は年々複雑化し、困難になっています。その中で、適正に申告した納税者が不公平感を抱かないように課税や徴収をすることが必要です。
 課税では、国際課税及び富裕層への対応、消費税の適正課税の確保、無申告者への取り組みという三つの課題に重点的に取り組んでいます。特に富裕層や海外取引のある企業による国際的な租税回避行為に対しては、体制を整備して臨んでいます。今年9月からはその国に住んでいない人物の金融口座情報を各国の税務当局間で交換できる「CRS(共通報告基準)」という制度も始まっています。例えば日本の居住者が海外の金融機関に口座を持っている場合、海外の税務当局から日本の国税庁にその口座情報が提供されます。一方、徴収では悪質な滞納者に対して、捜索や差し押さえといった処分を厳しく実施しています。また、電話で納税を促すなど滞納の未然防止にも努めています。

吉川 テレビや新聞で申告漏れや脱税のニュースに接する度に、不公平だなと感じます。こうしたニュースがなくならないのは、租税教育が行き届いていないためかもしれません。税金がどのように役立っているのか、知る機会を増やす必要があると思います。「真面目に申告すると損だ」と感じないよう、脱税する人や滞納する人には厳しく対応してほしいです。


玉岡 雅之さん

玉岡 企業の国際的な税逃れというのは世界的な流れで、どの国も必要な税を徴収できず、国民に必要なサービスを提供できないという事態に陥っています。ですから企業に対しての租税教育が必要になっていると思います。納税は企業の社会的責任の一つであると、認識を改めてもらう。個人納税者も企業がきちんと納税しているか、見ていかなければなりません。

宮崎 企業が安定的に成長する上で、コーポレートガバナンスは重要です。来年弊社は創業110周年を迎えますが、税務担当者には日ごろから厳正な処理を指導するなど、コーポレートガバナンスの充実に取り組んでいます。

申告手続きスマホでも

――昨年6月に国税庁が「税務行政の将来像」を公表しました。「納税者の利便性の向上」と「課税・徴収の効率化・高度化」が2本柱ですね。

榎本 国税当局が中長期的にどんなことを目指しているのか示したものです。まず、ICT(情報通信技術)などを活用して、申告や納付手段をさらに便利にしようとしています。電子申告手続き(e―Tax)では現在、マイナンバーカードとICカードリーダーが必要ですが、来年1月からは税務署が発行したIDとパスワードがあれば申告できるようになります。また、スマートフォン専用画面も提供予定です。納付手段では、来年1月からQRコードを利用したコンビニ納付も可能となります。


吉川 亜樹さん

吉川 今回、国税庁のホームページで動画サイト「確定申告書等作成コーナーの利用方法」を拝見しました。本当にできるのか不安でしたが、案内に従って必要事項を入力するだけで簡単に申告書が作成できました。この手続きがスマホでもできるようになれば、とても便利で利用者が増えると思います。

宮崎 効率化を求める企業にとって、デジタル化で税の申告や納付が簡単になることは歓迎すべきことです。ICTは日々進歩していますので、一層使い勝手がよくなれば、デジタルでの申告や納付の頻度も高まると思います。

玉岡 肝心なのは、何のためにデジタル化を進めるかということです。税を徴収する側と納める側の両方のコストを下げることで、本来入るべき税収がきちんと入るようにする。納付されるべき税額と実際の納付額の差額を小さくすることにつながると思います。

――課税・徴収の効率化と高度化とはどんな取り組みですか。

榎本 国税庁では、ICTやAI(人工知能)などを活用して、申告内容の自動チェックや軽微な誤りの自動処理などを行い、効率化と高度化を図っています。その分、重点課題である国際的租税回避への対応などに力を入れたいと考えています。

軽減税率準備呼び掛け

――ところで、来年10月1日から消費税が10%に引き上げられると、それに伴って軽減税率制度も導入されますね。

榎本 軽減税率制度では「酒類・外食を除く飲食料品」と「定期購読契約が締結された週2回以上発行される新聞」の税率が8%に据え置かれます。消費税率が8%と10%の2種類となるため、事業者は売り上げや仕入れをそれぞれの税率ごとに区分して帳簿に記載する必要があります。大阪国税局では会計システムの改修や軽減税率に対応したレジの導入など、早めの準備を進めるよう呼び掛けています。全ての事業者が制度を十分に理解して適正に申告してくれるよう、広報に力を入れているところです。

――最後にそれぞれご意見を。

吉川 多くの人は普段の生活の中で税について考える機会はほとんどないと思います。「税を考える週間」をきっかけに、暮らしを支える税について考えてもらいたいと思います。私も引き続き、メディアを通じて税について発信していきたいと思います。

宮崎 税務行政は、国税当局と納税者の信頼関係の上に成り立つと考えます。納税者は税に関する理解を深め、コンプライアンスを高める必要があります。一方、国税当局も引き続き納税者に分かりやすい税務行政に取り組んでいただきたい。


榎本 直樹さん

玉岡 国税局は納税しない者には怖い存在で、真面目な納税者には尊敬できる存在であってほしいと思います。納税者が自発的に税を納めるようになるには、租税教育がますます重要になってくると思います。

榎本 皆様の意見や要望は税務行政に生かしたいと思います。
 今後も「正直者には尊敬の的、悪徳者には畏怖(いふ)の的」の姿勢で取り組んでいきたいと思います。