別紙1−1 事前照会の趣旨(法令解釈・適用上の疑義の要約及び事前照会者の求める見解の内容)

1 委託事業の概要等

 「介護雇用プログラム緊急雇用創出事業」(以下「本件委託事業」といいます。)は、国が平成20年度から実施している「緊急雇用創出事業」として、A県が独自で事業内容を企画し、自らが事業主体となって実施するもので、具体的には、介護福祉士の資格取得を目指す離職を余儀なくされた非正規労働者、中高年齢者等の失業者等を有期雇用契約労働者として雇い入れ、介護施設・事業所において介護業務に従事させるとともに、介護資格取得のための養成講座を受講させることを内容とするものです。
 この度、当一部事務組合(以下「当組合」といいます。)は、A県と本件委託事業に関する業務の委託契約を締結し、本件委託事業の実施の委託を受けました。当組合では、当該委託契約に基づき、組合が管理経営する介護施設等において本件委託事業を実施し、A県から本件委託業務に対する委託費(以下「本件委託費」といいます。)として、約1,200万円(年額)の支払を受けます。

2 消費税法の規定等

(1) 課税の対象
 消費税は、国内において事業者が行った資産の譲渡等を課税の対象としており、この資産の譲渡等とは、事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供(代物弁済による資産の譲渡その他対価を得て行われる資産の譲渡若しくは貸付け又は役務の提供に類する行為として政令で定めるものを含む。)とされています(消法21八、41)。
 また、資産の譲渡等のうち、非課税とされる資産の譲渡等以外のものを課税資産の譲渡等というとされています(消法21九)。

(2) 非課税
 国内において行われる資産の譲渡等のうち、消費税法別表第一に掲げるものには消費税を課さない(非課税)とされ、介護保険法(平成9年法律第123号)の規定に基づく居宅介護サービス費の支給に係る居宅サービス等や社会福祉法(昭和26年法律第45号)第2条《定義》に規定する社会福祉事業等として行われる資産の譲渡等は非課税とされています(消法61、別表第1七)。

(3) 地方公共団体に関する特例
 消費税法では、地方公共団体に関して次の特例規定が設けられています。

1 地方公共団体が一般会計に係る業務として行う事業又は地方公共団体が特別会計を設けて行う事業については、当該一般会計又は特別会計ごとに一の法人が行う事業とみなして、消費税法の規定が適用される。ただし、地方公共団体が特別会計を設けて行う事業のうち、専ら当該特別会計を設ける地方公共団体の一般会計に対して資産の譲渡等を行う特別会計を設けて行う事業については、一般会計に係る業務として行う事業とみなされる(消法601、消令721)。

2 地方自治法(昭和22年法律第67号、以下「自治法」といいます。)第285条《相互に関連する事務の共同処理》の一部事務組合が特別会計を設けて次に掲げるイ〜ニの事業以外の事業を行う場合において、当該一部事務組合が、同法第287条の2第1項《第285条の一部事務組合に関する特則》の規定に基づき、その規約において当該事業に係る事件の議決の方法について特別の規定を設けたときは、当該事業に係る消費税法第60条《国、地方公共団体等に対する特例》の規定の適用については、当該事業は、同条第1項本文の一般会計に係る業務として行う事業とみなされる(消令722)。

イ 地方財政法施行令(昭和23年政令第267号)第37条各号《公営企業》に掲げる事業その他法令においてその事業に係る収入及び支出を経理する特別会計を設けることが義務づけられている事業

ロ 地方公営企業法(昭和27年法律第292号)第2条第3項《この法律の適用を受ける企業の範囲》の規定により同法の規定の全部又は一部を適用している同項の企業に係る事業

ハ 対価を得て資産の譲渡又は貸付けを主として行う事業(イ及びロに掲げる事業を除く。)

ニ 競馬法(昭和23年法律第158号)に基づく地方競馬、自転車競技法(昭和23年法律第209号)に基づく自転車競走、小型自動車競走法(昭和25年法律第208号)に基づく小型自動車競走及びモーターボート競走法(昭和26年法律第242号)に基づくモーターボート競走の事業

3 自治法第1条の3第3項《地方公共団体の種類》の地方公共団体の組合が一般会計を設けて行う2のハ及びニの事業に係る消費税法第60条の規定の適用については、当該事業は、同条第1項本文の特別会計を設けて行う事業とみなされる(消令723)。

4 地方公共団体が一般会計に係る業務として事業を行う場合には、消費税法第9条《小規模事業者に係る納税義務の免除》、第42条《課税資産の譲渡等についての中間申告》、第45条《課税資産の譲渡等についての確定申告》、第57条《小規模事業者の納税義務の免除が適用されなくなった場合等の届出》及び第58条《帳簿の備付け等》の規定は、適用しない(消法607)。

3 照会事項

 本件委託費に係る消費税の取扱い等について、次のとおりとして差し支えないかお伺いします。

1 本件委託費に係る取扱い
 本件委託費は、当組合が、委託契約に基づき、本件委託事業を実施し、これに対してA県から支払を受けるものです。
 すなわち、本件委託費は、役務の提供に対する反対給付として受けるものですから、資産の譲渡等の対価に該当するものと考えます。
 また、本件委託事業の実施は、非課税とされる資産の譲渡等に該当しませんので、本件委託費は、課税資産の譲渡等の対価に該当するものと考えます。

2 当組合の一般会計に係る取扱い
 当組合においては、本件委託事業は一般会計に係る事業として実施しているものですから、本件委託費は一般会計の収入となります。
 本件委託費が、上記1のとおり課税資産の譲渡等の対価に該当する場合、当組合の一般会計には、1,000万円を超える課税売上げが生じることになりますが、当組合は、地方公共団体に該当する団体であることから、当該一般会計については、消費税の納税申告の必要はないと考えます(消法607)。

3 当組合の特別会計に係る取扱い
 当組合においては、一般会計のほか複数の特別会計を設けています。
 本件委託費が、上記2のとおり当組合の一般会計における課税資産の譲渡等の対価に該当する場合であっても、当組合は、消費税法第60条第1項の規定により、一般会計又は特別会計ごとに一の法人が行う事業とみなして消費税法の規定が適用されますので、各特別会計に係る消費税の納税義務の判定等には影響を及ぼさないと考えます。

別紙1-2 事前照会に係る取引等の事実関係(取引等関係者の名称、取引等における権利・義務関係等)

4 当組合の概要

 当組合は、県内の周辺市町により構成される一部事務組合であり、自治法に規定する特別地方公共団体に該当する団体です(自治法1の3、284)。

(1) 業務内容
 当組合の業務内容は、組合規約において定められており、次の業務を共同処理するものです。

  • 1 老人福祉施設の管理経営に関する事務
  • 2 老人福祉施設の普及に関する事務
  • 3 その他老人福祉施設に関する必要な事項
  • 4 介護保険法に基づく介護老人福祉施設におけるサービス事業、指定居宅介護支援事業、指定居宅サービス事業及び指定介護予防サービス事業に関する事務
  • 5 その他介護保険法施行に伴って関連する老人福祉に関する必要な事項

(2) 設置している会計
 当組合は、一般会計のほか、自治法第209条第2項《会計の区分》の規定に基づき、組合の特別会計条例により次の(3)のとおり特別会計を設けています。

(3) 各施設の実施事業及び会計の所属区分
 当組合が管理経営する施設及び当該施設において実施している事業並びに当該事業に係る会計の区分は、下表のとおりです。

施設 左記の施設で実施する事業 会計名
養護老人ホーム 養護老人ホームを経営する事業
(社会福祉法22三)
一般会計(注)
特定施設入居者生活介護事業
(介護保険法411)
特定施設入居者生活介護事業特別会計
訪問介護事業
(介護保険法411)
訪問介護事業特別会計
特別養護老人ホーム 介護福祉施設サービス事業(介護保険法481一)及び短期入所生活介護事業(介護保険法411) 介護老人福祉施設特別会計
デイサービスセンター 通所介護事業
(介護保険法411)
通所介護事業特別会計

(注) 一般会計には、組合の存立を図るための基本的経費や他会計への繰入れ等のほか、市町村支出金による養護老人ホームを経営する事業(社会福祉法第2条に規定する第1種社会福祉事業に該当)に係る収支も含まれています。これは、当組合設立時における実施事業が養護老人ホームの経営のみであったことから、すべてを一般会計で処理していたことによるものです。その後、特別養護老人ホームの経営等の事業の拡大に伴い、それぞれの事業を行う特別会計を設けています。

5 本件委託事業の実施状況等

(1) 契約内容
 本件委託事業に係る委託契約書及び委託業務仕様書において、次のとおりとされています。

1 業務内容
 本件委託事業の内容は、介護福祉士の資格取得を目指す離職を余儀なくされた非正規労働者、中高年齢者等の失業者等を有期雇用契約労働者として雇い入れ、介護施設・事業所において介護業務に従事させるとともに、介護資格取得のための養成講座を受講させることとされています。

2 契約期間
 委託契約締結日(平成22年4月1日)から平成23年3月31日までとされています。
 なお、本件委託事業に係る労働者の雇用期間は原則として1年以内(最低6か月以上)とし、養成講座は平成24年3月31日までに修了するものとされています。

3 雇用者数
 4名とされています。

4 本件委託費の額
 本件委託費は、人件費及び養成講座受講費等として年間約1,200万円とされています。

(2) 当組合における実施状況等

1 実施状況
 当組合においては、委託契約に基づき、新たに4名を雇い入れ、次のとおり当組合の施設において業務に従事させています。

施設 左記の施設で実施する介護保険サービス 従事者数
特別養護老人ホーム 介護福祉施設サービス(介護保険法481一) 3名
デイサービスセンター 通所介護(介護保険法411) 1名

2 事業及び会計の区分
 当組合では、上記4(3)のとおり事業ごとに会計を設けており、これら施設の利用料等の事業収入は当該事業に係る一般会計又は各特別会計の収入としているところですが、本件委託事業は、これら各施設においてそれぞれが行う業務(介護保険サービス事業及び社会福祉事業)として請け負ったものではなく、組合の業務として請け負ったものですから一般会計における業務に該当します。
 したがって、本件委託費及び本件委託事業に係る費用は、一般会計で処理することとしており、また、当該処理については、議会の議決(予算案の承認)を得ています。

別紙1-3 別紙1−2の事実関係に対して事前照会者の求める見解となることの理由(具体的な根拠となる事例、裁判例、学説及び既に公表されている弁護士、税理士、公認会計士等の見解を含む。)

6 理由

(1) 本件委託費に係る取扱いについて(照会事項1
 本件委託事業は、A県が企画し、自身が事業主体となり、当組合に対して本件委託事業の実施を委託するものですから、当組合が行う役務の提供と本件委託費とは明白な対価関係にあると認められますので、本件委託費は、資産の譲渡等の対価に該当すると考えます(消法21八、41)。
 また、当組合が各施設で実施している業務は、上記4(3)のとおり、介護保険サービス事業や社会福祉事業であり、これらの事業として行われる資産の譲渡等は、上記2(2)のとおり消費税が非課税とされています。このため、本件委託事業がこれらの非課税規定の適用を受けるかどうかを検討したところ、次のとおりいずれも非課税規定の適用はないことから、本件委託費は課税資産の譲渡等の対価に該当するものと考えます。

1 介護保険サービス関係
 当組合の特別養護老人ホーム及びデイサービスセンターでは介護保険法に基づく事業を実施しており、これらの施設で提供する介護保険サービスについては、消費税が非課税となります(消法6、別表第1七イ)。
 しかしながら、緊急雇用創出事業は、既存事業の振替でない新たな事業を委託事業として実施することとされており、既存事業として予算措置されている事業の枠外の事業として実施することが求められています(注)。
 すなわち、緊急雇用創出事業である本件委託事業は、介護保険法に基づく事業の範囲には含まれません。
 したがって、本件委託事業は、介護保険サービスとして行われる資産の譲渡等には該当しないと考えます。

(注) 厚生労働省が公表している「緊急雇用創出事業実施要領」によると、緊急雇用創出事業は、既存事業の振替ではないこととされています。

2 社会福祉事業関係
 老人福祉法に規定する養護老人ホームを経営する事業は、社会福祉法に規定する第1種社会福祉事業に該当し、当該事業として行われる資産の譲渡等については消費税が非課税とされています(消法6、別表第1七ロ)。
 当組合では、本件委託事業を特別養護老人ホーム及びデイサービスセンターの施設内において実施していますが、これは、本件委託事業が、介護福祉士の資格取得を目指す離職を余儀なくされた非正規労働者、中高年齢者等の失業者等を有期雇用契約労働者として雇い入れ、介護施設・事業所において介護業務に従事させるとともに、介護資格取得のための養成講座を受講させるとする事業の性質によるものであり、当組合としては、本件委託事業を養護老人ホームを経営する事業として請け負ったものでもありません。
 すなわち、本件委託事業は、養護老人ホームを経営する事業として行うものではありません。
 したがって、本件委託事業は、消費税が非課税とされる社会福祉事業として行われる資産の譲渡等には該当しないものと考えます。

(2) 当組合の一般会計に係る取扱いについて(照会事項2
 普通地方公共団体が、一般会計に係る業務として事業を行う場合には消費税の納税申告を要しないこととされています(消法607)。
 当組合は、自治法に規定する特別地方公共団体に該当し、都道府県及び市町村に関する規定が準用されることから(自治法292)、会計については普通地方公共団体と同様と考えるべきもので、消費税法の適用についても、基本的には普通地方公共団体と同様に解すと考えます。
 また、次の1又は2の事業については、本来、普通地方公共団体においては特別会計を設けて会計経理することとされている事業であることから、これを一部事務組合において一般会計で行っている場合には、特別会計を設けて行う事業とみなされます(消令723)。

  • 1 競馬等の公営競技の事業
  • 2 対価を得て資産の譲渡又は貸付けを主として行う事業

 しかしながら、当組合が一般会計に係る業務として行う事業は、本件委託事業のほか、組合の存立を図るための基本的経費等及び養護老人ホームの経営を行うものであり、上記1ないし2のいずれにも該当しないため、特別会計とみなされる事業には該当しないものと考えます。
 したがって、本件委託費は課税資産の譲渡等の対価に該当しますが、当組合の一般会計は消費税法第60条第7項の適用を受けますので、消費税の納税申告は必要ないものと考えます。

(3) 当組合の特別会計に係る取扱いについて(照会事項3
 地方公共団体が一般会計に係る業務として行う事業又は地方公共団体が特別会計を設けて行う事業については、当該一般会計又は特別会計ごとに一の法人が行う事業とみなして、消費税法の規定が適用されるとされています(消法601)。
 このことから、一般会計及び特別会計に係る消費税の納税義務の判定は、一般会計及び特別会計ごとに行うものと解すことができます。
 当組合は本件委託費を受け入れることとしている一般会計のほか、4つの特別会計を設置していますが、当該一般会計及び各特別会計は、それぞれ一の法人とみなして消費税法が適用されるものと考えます。
 したがって、本件委託費が課税資産の譲渡等の対価に該当し、当組合の一般会計に1,000万円を超える課税売上げがあるとしても、当該課税売上げは一般会計に係るものであることから、当組合の各特別会計に係る納税義務の判定等には影響を及ぼさないものと考えます。