1-1 事前照会の趣旨

 相続人乙(以下「乙」といいます。)は、平成23年3月○日に死亡した被相続人甲(以下「甲」といいます。)から、未上場会社であるA株式会社の株式(以下「A株式」といいます。)を相続しました。
 A株式の発行済株式総数は1,000,000株であり、その内932,205株(議決権割合約93.2%)をB株式会社が所有しているところ、今般、B株式会社は、A株式会社を完全子会社化する目的で、会社法の規定に基づき、少数株主排除の手続を実施する予定です。
 少数株主排除の手続上、普通株式であるA株式は、定款変更により、全部取得条項付種類株式に変更された後、全部取得条項付種類株式の取得決議によりA株式会社に買い取られ、株主にはその取得の対価としてC種種類株式が交付されますが、乙をはじめとするB株式会社以外の少数株主に交付されるC種種類株式は1株未満の端数となることから、会社法第234条第4項の規定に基づき、A株式会社がこれを買い取り、当該少数株主に対しては、その端数に応じて買取り代金が交付される予定です。
 ところで、租税特別措置法(以下「措置法」といいます。)第39条《相続財産に係る譲渡所得の課税の特例》(以下「相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例」といいます。)は、相続税の課税価格の計算の基礎に算入された資産、すなわち相続又は遺贈(贈与者の死亡により効力を生ずる贈与を含みます。以下同じです。)により取得した資産を譲渡した場合に適用される特例であるところ、乙が取得するC種種類株式は、あくまでB株式会社によってA株式会社を完全子会社化する目的で行われる少数株主排除の手続の過程で取得する資産であり、乙が甲から相続により取得した資産とは異なることから、A株式会社によるC種種類株式の買い取りに係る乙の譲渡所得の金額の計算においては、相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例の適用はないとも考えられます。
 しかしながら、B株式会社によってA株式会社を完全子会社化する目的で行われる少数株主排除の手続は、少数株主である乙の意思が何ら反映されないかたちで強制的に行われるものであることなどに鑑みれば、措置法通達39−3《換地処分等により取得した資産を譲渡した場合》の取扱いに準じて、A株式会社によるC種種類株式の買い取りは、甲の相続に係る相続税の課税価格の計算の基礎に算入された資産の譲渡に該当するものとして、当該買い取りに係る乙の譲渡所得の金額の計算上、相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例の適用があるものと解して差し支えないか照会いたします。

1-2 事前照会に係る取引等の事実関係

(1) 少数株主排除の手続の内容

 B株式会社によってA株式会社を完全子会社化する目的で行われる少数株主排除の手続は、会社法の規定に基づき、以下のイからニの流れに従って行われる。

  • イ 種類株式を発行する旨の定款変更
     会社法第108条第2項の規定により、A株式会社は、株主総会の特別決議によって普通株式以外の内容の異なる種類の株式(以下「種類株式」という。)を発行する旨の定款変更を行う。
     この定款変更に当たっては、具体的に、株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2(これを上回る割合を定款で定めた場合にあってはその割合)以上に当たる多数による決議を得なければならないこととされている(会社法466、309丸2十一)。
  • ロ 普通株式を全部取得条項付種類株式に変更する旨の定款変更
     A株式会社は上記イによる変更後の定款を更に変更し、普通株式である発行済のA株式に全部取得条項を付与し、当該A株式を全部取得条項付種類株式(株主総会の決議により当該種類の株式を一斉に会社が取得することができる種類株式をいう。以下同じ。)に変更する。
     当該定款変更については、上記イと同様の株主総会の特別決議が必要とされている(会社法466、309丸2十一)。
  • ハ 全部取得条項付種類株式の取得決議
     会社法第171条第1項の規定により、A株式会社は、株主総会の特別決議によって、全部取得条項付種類株式のすべてを取得し、その取得の対価として全部取得条項付種類株式40,000株につきC種種類株式1株を交付する。
  • ニ 端数の処理
     B株式会社以外の少数株主が全部取得条項付種類株式の対価として取得するC種種類株式の数は1株未満の端数となるため、A株式会社は、裁判所の許可を得てC種種類株式を買い取り、当該少数株主に対して、その端数に応じて買取り代金を交付する(会社法234丸1丸3及び丸4)。

(2) 上記(1)ハ及びニに係る課税関係

  • イ 上記ハに係る課税関係(全部取得条項付種類株式に係る取得決議により、取得日において発行法人の株式が交付された場合の課税関係)
     所得税法第57条の4第3項第3号の規定により、全部取得条項付種類株式に係る取得決議により、全ての株主にその取得の対価として発行法人の株式のみが交付される場合(交付を受けた株式の価額が譲渡した全部取得条項付種類株式の価額とおおむね同額となっていない場合を除く。)には、当該全部取得条項付種類株式の譲渡はなかったものとみなされる。
     また、本件の株式の取得については、所得税法第25条第1項第4号かっこ書の規定により、みなし配当課税の基因となる自己の株式の取得から除かれているため、みなし配当課税は行われない。
  • ロ 上記ニに係る課税関係(1株未満の端数相当の譲渡代金が交付される場合の課税関係)
     所得税法第57条の4第3項第3号の規定を適用する場合において、株式の発行会社が、同号に規定する全部取得条項付種類株式に係る取得決議により株主に対し交付しなければならない株式に1株に満たない端数が生じたため、会社法第234条第4項の規定により、当該株式の発行会社がその端数に相当する株式の合計数を買い取り、その買取り代金が株主に交付されたときは、一旦、当該株主に対して当該1株に満たない端数に相当する株式が交付されたものとし、その上で、当該1株に満たない端数に相当する株式については、所得税法施行令第167条の7第6項第4号の規定による取得価額の引継ぎ計算が行われ、譲渡があったものとして取り扱われる(所得税基本通達57の4−2)。
     また、本件の株式の買取りについては、所得税法第25条第1項第4号かっこ書に規定する政令で定める取得(同法施行令第61条第1項第9号)に該当することから、みなし配当課税は行われない。

(3) その他の事実関係

  • イ 乙は、普通株式を全部取得条項付種類株式に変更する旨の定款変更に係る反対株主の株式買取請求(会社法116丸1二)は行わない。
  • ロ 乙は、裁判所に対する全部取得条項付種類株式の取得価格の決定の申立て(会社法172丸1)は行わない。

1-3 事前照会者の求める見解となることの理由

(1) 措置法第39条の規定

 措置法第39条第1項は、相続又は遺贈により財産を取得した個人で当該相続又は遺贈につき相続税法の規定による相続税額があるものが、当該相続の開始があった日の翌日から当該相続に係る相続税の申告書の提出期限の翌日以後3年を経過する日までの間に、当該相続税額に係る課税価格の計算の基礎に算入された資産を譲渡した場合には、その譲渡した資産に係る譲渡所得の金額の計算上、その譲渡した資産が土地等以外の資産であるときにはその者に課された相続税額のうち譲渡した資産に対応する部分の金額を取得費に加算した金額をもって当該資産の取得費とする旨規定しています。
 このように、措置法第39条第1項は、相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例の適用対象となる資産について、「当該相続税額に係る課税価格の計算の基礎に算入された資産」と規定していることから、当該特例の適用対象となる資産は、基本的に、「相続又は遺贈によって取得した資産」であると考えられます。

(2) 措置法通達39−3の取扱いの内容

 措置法通達39-3《換地処分等により取得した資産を譲渡した場合》の取扱いは、措置法第39条第1項の規定は、相続税の課税価格の計算の基礎に算入された資産そのものを譲渡した場合に適用があるとしながらも、相続税の課税価格の計算の基礎に算入された資産について、土地区画整理法による土地区画整理事業等が施行された場合において取得した換地取得資産等を譲渡したときも、当該換地取得資産等の譲渡は、相続税の課税価格の計算の基礎に算入された資産の譲渡に該当するとし、当該換地取得資産等の譲渡についても相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例の適用があるものとしています。

(注)

  • 1 「土地区画整理法による土地区画整理事業等」とは、土地区画整理法による土地区画整理事業、新都市基盤整備法による土地整理、大都市地域住宅等供給促進法による住宅街区整備事業、土地改良法による土地改良事業、独立行政法人森林総合研究所法附則第9条第1項に規定する業務のうち独立行政法人緑資源機構法を廃止する法律による廃止前の独立行政法人緑資源機構法第11条第1項第7号イ《業務の範囲》の事業、独立行政法人森林総合研究所法附則第11条第1項に規定する業務のうち森林開発公団法の一部を改正する法律附則第8条の規定による廃止前の農用地整備公団法第19条第1項第1号イの事業、都市再開発法による市街地再開発事業、密集市街地における防災街区の整備の促進に関する法律による防災街区整備事業又はマンションの建替えの円滑化等に関する法律によるマンション建替事業をいいます。
  • 2 「換地取得資産等」とは、土地区画整理法による土地区画整理事業等が施行された場合において取得した換地取得資産、変換取得資産、対償取得資産、防災変換取得資産、施行再建マンションに関する権利を取得する権利又は当該施行再建マンションに係る敷地利用権をいいます。

(3) 措置法通達39-3の取扱いの趣旨

 相続税の課税価格の計算の基礎に算入された資産について土地区画整理法による土地区画整理事業等が施行された場合において取得した換地取得資産等は、相続又は遺贈により取得した資産そのものではありませんが、この措置法通達39−3の取扱いは、次のイ及びロに掲げる理由から、当該換地取得資産等を譲渡した場合においても相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例の適用があるものとしているものと考えられます。

  • イ 土地区画整理法による土地区画整理事業等に係る換地処分等は、任意の交換や買換えに伴う譲渡とは異なり、資産の所有者の意思とは関係なく行われるものであり、また、当該換地処分等によって換地取得資産等を取得した場合には、当該換地処分等により譲渡した資産について、納税者の選択の有無にかかわらず、強制的に措置法第33条の3《換地処分等に伴い資産を取得した場合の課税の特例》(以下「換地処分等に係る課税の特例」といいます。)が適用されることになる。
     これらのことからすれば、当該換地処分等によって取得した換地取得資産等は相続又は遺贈により取得した資産と同一性を保持していると考えて相続又は遺贈により取得した資産を引き続き所有していたものと取り扱うことが妥当であること。
  • ロ 土地区画整理法による土地区画整理事業等に係る換地処分等によって換地取得資産等を取得した場合には、上記イのとおり、納税者の選択の有無にかかわらず、強制的に換地処分等に係る課税の特例が適用されるとともに、措置法第33条の6《収用交換等により取得した代替資産等の取得価額の計算》の規定が適用され課税が繰り延べられることになるため、納税者は、相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例の適用を受ける機会が奪われてしまうこと。

(4) 本件における見解

 以上のことを踏まえ本件に照らしてみると、次のイ及びロのことからすれば、乙が少数株主排除の手続の過程で取得するC種種類株式は、乙が甲から相続により取得したA株式と同一性を有している資産であると考えることができることから、A株式会社によるC種種類株式の買い取りに係る乙の譲渡所得の金額の計算において、措置法通達39−3に準じて、相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例を適用して差し支えないものと考えます。

  • イ B株式会社は、A株式の発行済株式総数1,000,000株のうち932,205株(議決権割合約93.2%)を保有していることから、その有する議決権を行使するか否かによって、少数株主排除の手続を採るかどうかを決定する権限を有しているといえるが、これに対して、B株式会社以外の少数株主である乙は、少数株主排除の手続に何ら影響を及ぼすことができないことから、乙の立場からすれば、当該手続はその意思とは関係なく強制的に行われる手続であると位置付けることができること。
  • ロ 本件における、丸1A株式会社によるB株式会社からの全部取得条項付種類株式に転換されたA株式の取得及びその対価としてのC種種類株式の交付、丸2A株式会社による乙をはじめとするB株式会社以外の少数株主からの全部取得条項付種類株式に転換されたA株式の取得及び1株未満の端数となったC種種類株式の買い取りとその買取り代金の交付については、上記2(2)のとおり、所得税法第57条の4第3項第3号及び同法施行令第167条の7第6項第4号の規定に基づいた課税の繰延べと株式の譲渡に係る課税が行われることになるが、これらの規定は、資産の所有者である株主の意思に関わらず強制的に適用されるものであることからすれば、C種種類株式は乙が甲から相続により取得した資産であるA株式と同一性を保持しているとみることができること。
     また、これらの規定が選択の有無にかかわらず強制的に適用されることにより課税が繰り延べられる結果として、乙は、相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例の適用を受ける機会が奪われてしまうこと。