松岡 克俊
税務大学校
研究部教授

要約

1 研究の目的(問題の所在)

近年、民泊に関して、テレビや新聞等で見聞きすることが多くなった。民泊は、訪日外国人観光客の増加に伴う国内宿泊施設の不足問題や空き家問題の解決策として期待されており、2020年の東京オリンピックや2025年大阪万博開催に向け、更なる拡大が見込まれている。
 一方、民泊を巡っては、利用者と地域住民等との騒音やゴミ等を巡るトラブルや違法民泊など対処すべき問題も増加してきている。
 これを受け、政府は2013年12月に国家戦略特区法に基づく旅館業法の特例措置として、いわゆる「特区民泊」を制定した。更に2015年11月には「『民泊サービス』のあり方に関する検討会」を立ち上げ、民泊に係る新たなルール作りを進め、住宅宿泊事業法(民泊新法)が2017年通常国会において成立、2018年6月15日に施行された。
 こうした中、国税庁においても2018年6月13日付で「住宅宿泊事業法に規定する住宅宿泊事業により生じる所得の課税関係等ついて(情報)」(庁情報)を国税庁ホームページに掲載し、民泊から生じる所得の区分や必要経費の範囲等について一定の税務上の取扱いが納税者に示された。
 しかしながら、2018年6月、民泊新法が施行後、民泊の実態は刻々と変化しており、庁情報に示されている内容だけでは、十分に検討が尽くされているとはいえない状況となってきている。
 そこで、現状における民泊の実態について、その発達の経緯や法的位置付け等にも触れながら、できるだけ詳細かつ正確に把握することとしたい。その上で、民泊から得られる所得の帰属、所得区分等について、整理・研究するとともに必要に応じて提言を行うこととする。

2 研究の概要

(1)民泊の定義
 「民泊」の法的な定義はない。観光庁が運営する「民泊制度ポータルサイト(minpaku)」において、「民泊」の一般的な解釈として、「住宅の全部又は一部を活用して、旅行者等に宿泊サービスを提供すること」とあることから、本論においても同様の解釈を用いて「民泊」を論ずることとする。

(2)民泊の仕組み
 現在の民泊は、インターネットを介して、貸したい人と借りたい人をマッチングさせることにより、民泊を利用する形態が中心となっている。主な登場人物は3者。宿泊物件を貸したい「ホスト」、宿泊物件を借りたい「ゲスト」、そして「ホスト」と「ゲスト」の両者を仲介する「プラットフォーマー」により成り立っている。

(3)民泊の形態
 主要な民泊は、それぞれの法律に基づく次の3形態がある。

イ 旅館業法(簡易宿所)

ロ 国家戦略特区法(特区民泊に係る部分)

ハ 住宅宿泊事業法(民泊新法)
 その他の民泊として、次の3形態がある。

ニ イベント民泊

ホ 農家民宿

へ 農家民泊

(4)租税法と旅館業法との関連性
 法人税基本通達や消費税法施行令等においては、旅館業法の定義を借用して、課税関係が規定されているが、所得税法の関係法令においては、旅館業法に関する用語等が用いられていないと思われる。
 しかしながら、「納税義務は、各種の経済活動ないし経済現象から生じてくるのであるが、それらの活動ないし現象は、第一次的には私法によって規律されている」との見解があるように、所得税法等に旅館業法の定義等が借用されてないとしても、第一次的には旅館業法に規律されることになるであろうから、旅館業法にも考慮しながら慎重に事実認定を行う必要があると考える。

(5)民泊の所得の帰属

イ 民泊新法による民泊の所得の帰属
 「基本的に事業経営のための役務提供者をもって、帰属主体とするものであろう」との見解があり、本論においても同様の立場を取ることにし、民泊事業を営んでいる者に帰属すると考える。

ロ 民泊新法以外(特区民泊、旅館業法による民泊等)による民泊の所得の帰属
 民泊から得られる所得の帰属の考え方は、民泊新法以外に基づく民泊から得られる所得についても同様と考える。

(6)民泊の所得区分

イ 民泊新法による民泊の所得区分

(イ) 家主居住型
 民泊新法による民泊事業は、宿泊者の安全等の確保や一定程度の宿泊サービスの提供が宿泊施設の提供者に義務付けられており、利用者から受領する対価には、部屋の使用料のほか、寝具等の賃貸料やクリーニング代、水道光熱費、室内清掃費、日用品費、観光案内等の役務提供の対価などが含まれていると考えられ、この点において、一般的な不動産の貸付けとは異なり、原則、雑所得ということになると考える。

(ロ) 家主不在型
 「家主不在型」の場合、家主が届出住宅に人を宿泊させる間、不在となるような時には、原則として、住宅宿泊管理業者に届出住宅の管理を委託しなければならないとされている(民泊新法11①)。「家主不在型」の民泊の家主は、「家主居住型」と同様に、年間180日間を上限として、宿泊者の安全等の確保や一定程度の宿泊サービスの提供を行うほか、様々な事項を住宅宿泊管理業者に委託して行わなければならないなど、人的役務の提供を伴っており、不動産所得ではなく、事業所得又は雑所得になると考える。
 したがって、「家主不在型」の民泊の家主が、営業日数の上限以内で副業程度に民泊を営んでいるのであれば、上記の家主居住型と同様に、原則、雑所得に区分されることになると考える。
 なお、民泊新法から得られる所得と併有する所得がある場合には、次のとおり。

A 民泊と短期賃貸マンション
 民泊新法により年間営業日数が180日以内と制限されたことから、残りの期間の運用方法として短期賃貸マンションによる運用が実施される事例がある。
 まず、この場合、マンスリーマンションの賃貸による所得は、不動産所得に該当するということで問題はないと思われる。
 しかし、それと併有する民泊の所得区分については、単純に「家主不在型」の民泊であれば、原則、雑所得という考えもあるが、年間営業日数180日の上限がある民泊の営業と、マンスリーマンションを計画的に組み合わせ実施しているような投資運用的なケースでは、民泊から得られる所得について、①自己の計算と危険において独立して営まれ、②営利性、有償性を有し、③反覆継続して遂行し、④社会的地位が客観的に認められる業務から生ずる所得といえるのであれば、事業所得と考えることもできるのではないだろうか。
 いずれにしても、程度の問題もあり、的確に事実認定を行い、所得区分を判断する必要がある。

B 民泊と時間貸し(会議室等)
 会議室やパーティールームということであれば、「宿泊」を伴わない「時間貸し」による貸し出しということになるので、旅館業法に当たらない。
 時間貸しの駐車場と住宅という違いはあるものの、①自宅又は賃貸している部屋を貸し出すなど自己の計算と危険において独立して営まれ、②時間に応じて定めた利用料金を収受するなど営利性、有償性を有し、かつ③継続的にインターネット上の関連サイトへ貸し出し情報をアップし、鍵のやり取りをするなど一定の管理業務を反覆継続して遂行しており、④机やいすをセッティングし会議開催可能な会議室を提供したりするなど人的役務の提供を伴い、客観的に認められる業務が営まれていることから、事業所得又は雑所得ということになると考える。

ロ 特区民泊による民泊の所得区分
 特区民泊では、訪日外国人旅行客の滞在に適した施設を「賃貸借契約」による宿泊形態を取ることになるので、不動産所得の可能性も考えられるが、実態は、通常1か月未満の短期間に不特定多数の者へ宿泊サービスという人的役務の提供を行うだけであり、生活の本拠もないことから、旅館業に該当し、不動産の貸付けには当たらないと解する。
 更に最低営業日数の制限はあるものの、年間の営業日数の制限がないことから、①自己の危険と計算により自己が所有する住宅又は賃貸物件において民泊を営み、②宿泊料を受けて宿泊サービスという人的役務を提供し、③不特定多数の者を反復継続して宿泊させ、④社会通念上事業として宿泊サービスの提供を行っているということであれば、事業所得又は雑所得と区分されることになると考える。

ハ 旅館業法による民泊の所得区分
 旅館業法に基づく簡易宿所としての民泊営業については、他の民泊営業と異なり、建築基準法上、より厳しい建築基準が課される「特殊建築物」に大別され、更に消防法においても厳格な消防基準が課されることとなっている。また、年間の営業日数の上限制限がなく、住居専用地域での営業ができないなど他の民泊とは一線を画しており、①自己の危険と計算により自己が所有する住宅又は賃貸物件において民泊を営み、②宿泊料を受けて宿泊サービスという人的役務を提供し、③不特定多数の者を反復継続して宿泊させ、④社会通念上事業として宿泊サービスの提供を行っているということであれば、事業所得又は雑所得と区分されることになると考える。

ニ イベント民泊による民泊の所得区分
 イベント開催時に自治体の要請等により自宅を旅行者に提供する行為、いわゆる「イベント民泊」については、多数の集客が見込まれるイベントの開催時に宿泊施設が不足する地域において、一時的にその不足を解消する有効な手段であり、厚生労働省の通知により「旅館業」に該当しないという整理もされていることから、雑所得と考える。

ホ 農家民宿による民泊の所得区分
 農家民宿の営業状況が、①自己の危険と計算により自己が所有する住宅又は賃貸物件において民泊を営み、②宿泊料を受けて宿泊サービスという人的役務を提供し、③不特定多数の者を反復継続して宿泊させ、④社会通念上事業として宿泊サービスの提供を行っているということであれば、事業所得又は雑所得ということになると考える。

へ 農家民泊による民泊の所得区分
 厚生労働省から2011年2月に出された通知により、農家民泊は「教育旅行など生活体験等を行い、無償で宿泊させる」ため旅館業法の適用対象とならないと整理されている。つまり、農家がボランティアで農業の合間を見て、農業体験をさせたり、自宅に宿泊させたりする行為をすべて無償で行うのであれば、旅館業法の許可等は必要ないということになり、所得区分としては、営利を目的としない人的役務の提供となり、原則、雑所得ということになると考える。

ト 特殊な形態による民泊の所得区分

(イ) 違法民泊
 所得税基本通達36−1においては、「収入の起因となった行為が適法であるかどうかを問わない」としている。また、「合法な利得のみでなく、不法な利得も課税の対象となると解すべきである。」とし、「不法な利得は、利得者がそれを私法上有効に保有しうる場合のみでなく、私法上無効であっても、それが現実に利得者の管理支配のもとに入っている場合には、課税の対象となると解すべきであろう。」との見解があることから、旅館業法の範囲に該当し、必要な届出等を行わずに違法に民泊を行った場合、そこから得られた所得が課税対象であるということには異論はないであろう。
 所得の区分については、次のような裁決がある。「事業所得とは、①自己の計算と危険において独立して営まれ、②営利性、有償性を有し、③反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得とされている。」と事業所得の事業性について言及しつつ、「上記①、②及び③の前段まではこれに該当すると認められるが、法律で禁止されている『覚せい剤の売買』という業務が社会通念上『事業としての社会的地位』を有しているとは認められず、請求人が本件取引により得た利益は、所得税法第23条《利子所得》から第34条《一時所得》までに掲げるいずれの所得にも該当しないため雑所得である」としている。
 しかしながら、「違法民泊」は旅館業法に違反しているとはいえ、「覚せい剤の売買」のように反社会的な行為とまでは言えず、宿泊サービスの提供を行っているという事実があるのであれば、前述のイ〜へによる民泊の形態に応じ、所得区分を判断することになると考える。

(ロ) サブリースと民泊
 サブリース契約は、入居者に転貸することを前提としてサブリース業者である不動産管理会社等と賃貸住宅の所有者が行う賃貸借契約をいうこととされている。したがって、賃貸住宅の所有者が得る所得は、不動産の貸付けによる不動産所得と考える。

(7)シェアリングエコノミーにおける情報収集
 プラットフォーム企業には、膨大な取引情報が蓄積されており、支払金額に応じて、正確に源泉徴収を行うことが可能だと思われる。そのため、プラットフォーム企業に対し、法定調書の提出を求めるとともに、源泉徴収義務を課してはどうかという考えがある。しかしながら、法定調書を利用者へ交付する事務量増の問題や、そもそも、民事上、個人と個人との間で契約が成立している対価について、当該契約に直接関係のないプラットフォーム企業に源泉徴収義務を課すことが適当かという問題もあり、実現に向けては、今後、更なる法的な検討を行う必要があると思われる。
 そこで次に考えられるのが、より現実的にプラットフォーム企業への情報提供を求めることである。「平成31年度税制改正法案」が平成31年3月成立し、「経済取引の多様化等に伴う納税環境の整備」として次のとおり盛り込まれた。
 ①納税者が自主的に簡便・正確な申告等を行うことができる利便性の高い納税環境を整備するとともに、②高額・悪質な無申告者等の情報を税務当局が照会するための仕組みを整備することが必要とされている。

(8)民泊の営業実態の把握
 日本では、観光庁が中心となって、住宅宿泊事業に関連する行政機関が連携して情報共有を図る、「民泊制度運営システム」が既に稼動している。
 「民泊制度運営システム」では、住宅宿泊事業の申請・届出情報に加え、各種報告情報も付加され、観光庁で取りまとめの上、関係行政機関へ提供されることになっており、既に随時、関係行政機関に対し情報提供が行われている。

3 結びに代えて

  個人が行う民泊に関する所得税法上の諸問題ということで、各種の民泊に係る課税について論じてきたが、その中で大きな問題として挙げておきたいのが、所得税法と旅館業法との関連性である。
 旅館業法は、昭和23年に施行された古い法律であることから、宿泊関連事業に非常に大きな影響力を持っており、新しく制定された民泊新法も、旅館業法の影響を強く受けていると思われる。
 また、旅館業法は、周辺の経済活動についても確実にその範囲を規定しており、住宅の貸付けに関連し、下宿やマンスリーマンションについて、旧厚生省の通知文書等により明確に旅館業の範囲が規定されている。
 こうした旅館業法の対応に、租税法もその定義等を借用するなどして課税すべきであると考えるが、租税法の状況を確認すると、法人税法及び消費税法には、各基本通達を中心に旅館業法の定義を積極的に借用して課税関係を規定しているが、所得税法には同様の事例はないように思われる。
 しかし、現在のように個人による民泊事業が発達し、更なる拡大が見込まれている中、民泊新法による民泊事業に限った取扱いを示している庁情報だけでは十分とはいえないと考える。
 こうした状況を踏まえ、所得税の法令等においても、必要に応じて旅館業法の定義等を借用してみてはどうか。所得税基本通達26−4(アパート、下宿等の所得の区分)については、単に食事を提供するなどのサービスの提供の度合いにより所得区分を行うだけではなく、消費税法基本通達6−13−4(旅館業に該当するものの範囲)のように旅館業法の定義等を用い、少なくとも事業所得と不動産所得との所得区分を納税者が容易に、かつ、的確に行えるよう修正することも一案と考える。
 シェアリングエコノミーの発達に伴って拡大してきた民泊であるが、そこから得られる所得を的確に課税するためには、その所得の捕捉と合わせ、納税者が自ら申告する上で、より分かりやすい制度とすることも必要であると考える。
 いずれにしても、民泊をはじめとしたシェアリングエコノミーにおけるビジネスは、日々発展しており、常に最新状況を探求し、それに適した制度を作っていくことが大切であろう。


目次

項目 ページ
はじめに 16
第1章 民泊の概要 18
第1節 民泊の特徴と定義 18
1 民泊の定義 18
2 民泊のはじまり 18
3 シェアリングエコノミーとAirbnb 20
4 民泊の仕組み 22
第2節 民泊の現状 24
1 民泊拡大の背景 24
2 違法民泊の増加 27
3 民泊の形態 28
4 民泊の形態のまとめ 40
第3節 民泊を巡る新たな動き 42
1 住宅宿泊仲介業者であるAirbnbの対応 42
2 住宅宿泊事業者等の対応 43
3 観光庁の対応 43
4 民泊新法施行後の具体的な事例 44
5 企業の民泊ビジネスへの参入 45
6 Airbnb以外の宿泊仲介事業者の動き 46
第2章 民泊の課税の現状 48
第1節 民泊の課税上の取扱い 48
1 所得区分 48
2 必要経費 49
3 必要経費の計算例①(水道光熱費等) 51
4 必要経費の計算例②(減価償却費) 51
5 住宅借入金等特別控除の適用関係 52
6 居住用財産の3,000万円の特別控除の適用関係 54
第2節 諸外国における民泊の現状等 55
1 アメリカ(ニューヨーク) 55
2 イギリス(ロンドン) 56
3 フランス(パリ) 57
4 オーストラリア 58
5 韓国 59
第3章 民泊の所得税課税に関する考察 61
第1節 租税法と旅館業法 61
1 租税法と旅館業法との関連性 61
2 租税法における旅館業法の借用事例 63
第2節 所得の帰属 67
1 民泊新法による民泊の所得の帰属 67
2 民泊新法以外による民泊の所得の帰属 69
第3節 所得の区分 69
1 民泊に係る所得区分を考察する上での基本的な留意点 70
2 民泊新法に基づく民泊から得られる所得の所得区分 74
3 特区民泊による民泊の所得区分 78
4 旅館業法による民泊の所得区分 79
5 イベント民泊による民泊の所得区分 79
6 農家民宿による民泊の所得区分 80
7 農家民泊による民泊の所得区分 80
8 特殊な形態による民泊の所得区分 80
9 民泊に係る所得区分のまとめ 83
第4節 必要経費等の取扱い 83
1 減価償却費 84
2 登録免許税 84
3 固定資産税 85
第4章 民泊の税務上の手続きに関する考察 87
第1節 情報収集 87
1 シェアリングエコノミーにおける情報収集 87
2 プラットフォーム企業による宿泊税の源泉徴収について 89
3 民泊の営業実態の把握 90
第2節 その他の問題 92
1 非居住者が所有するマンション等による民泊 92
2 消費税の課税関係 93
結びに代えて 96