本橋 稔
税務大学校
研究部教授


要約

1 研究の目的(問題の所在)

国税通則法63条5項は、一般的な滞納者に対して、滞納に係る国税の全額を徴収するために必要な財産の差押えをした場合には、納税者の負担軽減を図るため、その差押えに係る国税の延滞税につき、その差押えがされている期間のうち、当該国税の納期限の翌日から二月を経過する日後の期間に対応する部分の金額の二分の一に相当する金額を免除することができると規定している。
 他方、相続税法34条により、相続税及び贈与税(以下「相続税等」という。)の徴収を担保するため、主たる納税義務者以外の者に、連帯して納付する責任(連帯納付義務)を負わせた場合に、主たる納税義務者に対する滞納処分を進める傍ら、連帯納付義務者に対して、相続税等に充足する財産の差押えを実施し、納付や差押財産の換価処分を行う等により、結果として、主たる納税義務の全額が完納に至ることが間々ある。
 ここで、双方の事例の納税の負担額を比較してみると、1一般的な滞納者に適用される充足免除について、連帯納付義務者における「延滞税に相当する連帯納付義務」部分に関して、適用することはできるのか、2連帯納付義務者の充足免除が適用可能となるならば、主たる納税義務者の滞納額についても、延滞税部分の充足免除を適用することはできるのかという疑義が生じる。【次頁(イメージ図)参照】
 しかしながら、これらについては、現行、特段の定めがなく、実務上の取扱いにおける明確な解釈基準がない状況にある。  研究に当たっては、延滞税に相当する連帯納付義務は、主たる納税義務の延滞税の発生に照応して当然生ずるものではあるものの、実質的な効果として、間接的に、早期の連帯納付義務の履行を強制していることから、この点を踏まえて、1主たる納税義務者以外に納税義務を拡張する制度として他に設けられている第二次納税義務や納税保証との異同を確認するほか、2国税の連帯納付義務は、民法の連帯保証に類似するものと解されていることから、連帯保証の裁判例等を念査する等により法的整理を行い、充足免除適用の可否の明確化を図る。

相続税の連帯納付義務者の財産の差押えによる延滞税の充足免除について(イメージ図)

2 研究の概要

(1)延滞税の免除

延滞税は、納付の遅延に対する民事罰の性質を有し、期限内に申告及び納付をした者との間の負担の公平を図るとともに、期限内の納付を促すことを目的とするものである。
 法定納期限までに国税を完納しない場合は、その翌日から完納するまでの期間の日数に応じ、未納の税額に一定の割合(平成29年は9.0%)を乗じて計算した延滞税が課される(通則法602、措置法941)。
 他方、納税者の延滞税負担の軽減を図るため、納税の猶予等の納税緩和措置を講じた場合には、納税者の納付能力が減退したことに応じて、一定期間、納税等を猶予又は停止するものであることから、その期間に対応する延滞税の全部又は一部の免除規定(通則法6313)、差押えによる直接強制を講じた場合には、延滞税により納付を間接強制する必要性が減少することから、延滞税の一部を免除することができる規定(通則法635)等を設けている。

(2)延滞税に相当する連帯納付義務の免除

イ 相続税の連帯納付義務
 同一の被相続人から相続により財産を取得した全ての者は、自らが負担すべき固有の相続税の納税義務のほかに、その相続により取得した財産に係る他の相続人固有の相続税についても、相続により受けた利益の価額に相当する金額を限度として、互いに連帯納付の責めを負う(相続税法341)。
 これは、各相続人個々に相続税の納税義務を負わせると、共同相続人中に無資力者があった場合など、相続税債権の満足が得られなくなるおそれがあり、結果的に遺産のうち相続税として徴収する部分が減少するため、たとえ、課税の面では公平な負担が図られても、徴収(実質的負担)の面では、同一相続における相続人間はもとより他の相続案件との租税負担の公平を阻害するほか、国にとっては租税の徴収が困難となることが懸念されることから講じられた措置といわれる。
 したがって、相続税の連帯納付義務は、これらの目的のため、相互に各相続人に課した特別の責任であって、その義務履行の前提条件をなす連帯納付義務の確定は、各相続人の固有の相続税の納税義務の確定という事実に照応して、法律上当然に生ずるものであるから、格別の確定手続を要するものではないと解されている。

ロ 延滞税に相当する連帯納付義務
 延滞税は、その額の計算の基礎となる税額の属する税目の国税とする旨規定され(通則法604)、基礎となる税が相続税であるときは、その延滞税も相続税として取り扱われることを意味するから、連帯納付義務を負う者は、本税とともに延滞税についても連帯納付の責に任ずるものと解されている。

ハ 延滞税に相当する連帯納付義務の免除の可否
 連帯納付義務と同様に納税義務の拡張制度の一つである第二次納税義務者や保証人に関しては、国税通則法63条の規定に該当する事由が生じた場合、これら第二次納税義務者等についても、延滞税により納付を間接強制する必要性が減少することから、負担を軽減するため、実務上、同条の規定に準じて免除することができるとしているが、相続税の連帯納付義務に関してはどのように取り扱うか明確ではない。
 以上のことを整理すると、延滞税に相当する連帯納付義務は、主たる納税義務の延滞税の発生に照応して当然に生ずるものであるところ、その実質的な効果として、遅延利息の性質を有する延滞税に相当する連帯納付義務を課すことにより、連帯納付義務の履行を間接強制している。このため、第二次納税義務者等と同様に、連帯納付義務者の所有する財産について充足する差押えにより直接強制がされたときは、延滞税に相当する連帯納付義務を課すことにより納付を間接強制する必要性が減少することから、延滞税に相当する連帯納付義務を免除することができると解すことができる。
 なお、連帯納付義務者の「相続により受けた利益の価額に相当する金額」の限度額が主たる納税義務者の滞納額を下回っている場合は、その後に生ずる延滞税に相当する連帯納付義務は、責任限度額を超える自然債務であり、連帯納付義務者に対して納付を間接的に強制する効果を有しないため、国税通則法63条5項に基づきその延滞税に相当する連帯納付義務を免除することはできないことになる。

ニ 免除の効果

(イ) 主たる納税義務者との関係
 前述イのとおり、相続税の連帯納付義務は、相続税の徴収の確保を図るため、主たる納税義務の確定という事実に照応して法律上当然に生ずるものであることから、主たる納税義務との関係において附従性を有しているといわれる。
 また、第二次納税義務者や保証人(徴収法324、同法33、通則法524等)とは異なり、相続税の連帯納付義務には補充性を認める規定が設けられていないことから、補充性はないものと解し、民法上の連帯保証に類似する性質を有するものといわれている。
 なお、連帯保証は、補充性はないものの、あくまでも担保であって附従性があるから、主たる債務者に生じた事由は全て連帯保証人に影響するが、他方、連帯保証人に生じた事由は主たる債務者に影響しないと解される。
 これらを踏まえ、実務上、主たる納税義務者の免除は、連帯納付義務者に対してその効果を及ぼし、連帯納付義務額は主たる納税義務の残額の範囲内においてなお存続するものとするが、連帯納付義務者の免除は主たる納税義務者にその効果を及ぼさないとしている。

(ロ) 他の連帯納付義務者との関係
 複数の連帯債務者が存する場合の取扱いに関し、連帯債務について民法437条が存するものの、連帯保証人の一人に対する債務免除が、他の連帯保証人に効力を及ぼすかどうかについては規定がない。
 この点につき、最高裁昭和43年11月15日第二小法廷判決(民集22巻12号2649頁)は、「複数の連帯保証人が存する場合であっても、右の保証人が連帯して保証債務を負担する旨特約した場合(いわゆる保証連帯の場合)、または商法511条2項に該当する場合でなければ、各保証人間に連帯債務ないしこれに準ずる法律関係は生じないと解するのが相当であるから、連帯保証人の一人に対し債務の免除がなされても、それは他の連帯保証人に効果を及ぼすものではないと解するのが相当である。」と判示している。
 これを踏まえ、連帯保証類似の性質を有する連帯納付義務も同様に、連帯納付義務者の一人に対し、時効の中断や債務の免除(充足免除を含む)を行ったとしても、その効果は、他の連帯納付義務者には影響を及ぼさないと解することができる。

(3)連帯納付義務者の財産差押えに基づく主たる納税義務者の延滞税免除の可否

イ 類似する他の納税義務の拡張制度の場合
 相続税の連帯納付義務者が有する財産を差し押さえたことにより、連帯納付義務の全額を充足することとなった場合における主たる納税義務者の延滞税を免除することの可否を検討するに当たっては、まず、第二次納税義務など、主たる納税義務者以外に納税義務を拡張させる類似の制度での取扱いを確認する。

(イ) 第二次納税義務の場合
 第二次納税義務の制度は、滞納者の財産について滞納処分をしても徴収すべき租税が不足すると認められる条件下で、滞納者の所有に属しない財産が、租税の徴収の観点からは、実質的にその滞納者の責任財産に属すべきものと認められるような特定の場合において、その財産の所有形式に即しながら実質的に滞納者から徴収の実を挙げようとする制度である。すなわち、その責任財産に属すべき財産を目的として、その所有者に補充的な納税義務を課し、その納税義務の実行として当該財産等から滞納者の租税を徴収しようとするものである。
 すなわち、第二次納税義務は補充的な納税義務であることから、第二次納税義務者の財産を差し押さえたとしても、主たる納税義務者に対しては、引き続き、延滞税によって納付を間接的に強制する必要があるため、主たる納税義務に係る延滞税を免除することはできないと整理できる。

(ロ) 納税保証人の場合
 国税通則法63条5項は、「納付すべき税額に相当する担保の提供を受けた場合」に延滞税を免除することができるとしている。
 また、同法50条6号は、税務署長が確実と認める保証人の保証を国税の担保とすることを認めている。
 これらの規定を踏まえると、滞納者の負担によって保証人の保証が担保として提供され、その保証人の資力が滞納国税の全額を確実に徴収することができると認められるものであるならば、延滞税を課すことによる納付の間接強制の必要性が減少するから、同法63条5項に基づき延滞税を免除することができると整理できる。
 なお、実務においては、「担保が保証人の保証である場合には、保証人に対して滞納処分を執行した場合に徴収できると認められる金額をもって」充足適用の可否を判定することと定めている。

ロ 主たる納税義務者の延滞税免除についての可否判断
 以上の考察及び他の納税義務の拡張制度との異同を踏まえると、連帯納付義務者の財産を差し押さえ、主たる納税義務者の滞納額を充足する場合であっても、相続税の連帯納付義務は、相続税の徴収を確保するために、主たる納税義務者以外の相続人に課された特別の責任であり、連帯納付義務者の財産の差押えも、あくまで連帯納付義務を追及するために行うものであると言える。
 このため、主たる納税義務者は、連帯納付義務者に係る保全状況のいかんにかかわらず、常に履行の請求や強制処分を受ける立場にあることから、連帯納付義務者の財産の差押えにより主たる納税義務の間接強制の必要性が減少したとは言えず、引き続き、延滞税によって納付を間接的に強制する必要があり、主たる納税義務に係る延滞税を免除することはできないと整理できる。
 なお、この考え方は、連帯納付義務者に対する免除は主たる納税義務者にその効果が及ばないと規定する国税通則法基本通達8条関係3(前述(2)ニ(イ))とも整合性がとれている。
 ところで、大阪高裁平成14年2月15日判決(裁判所ウェブサイト)において、相続税の連帯納付義務は「連帯保証人の責任と類似した特殊な法定の人的担保の性格を有する」と判示していることから、納税保証人(前述イ(ロ))と同様に、免除適用可能ではないかとの疑義が生じるが、この点については、相続税の連帯納付義務が人的担保の性格を有するとしても、相続税法34条に基づき課されるものであって、主たる納税義務者の負担において提供された担保ではないことから、納税保証人と同様の取扱いはできないと考える。

ハ 国税通則法改正の提言(私見)

(イ) 上記ロのとおり、現状、主たる納税義務者について延滞税の免除適用はできないと整理できたところであるが、次のとおり多角的に考察を進めてみた結果、主たる納税義務者に関して延滞税の免除適用の制度を導入することについて検討の余地があるのではないかと考えるに至った。

A 延滞税免除制度の趣旨からの検討

(A) 連帯納付義務者の財産の充足差押えにより、主たる納税義務者の全額の徴収が確保できているのであるから、引き続き、主たる納税義務者に過重な延滞税による間接強制をする必要性はないのではないか。

(B) 連帯納付義務者の財産の換価手続において、当局側の都合による執行遅滞等が生じた場合にまで、主たる納税義務者に過重な延滞税の負担を負わせるのは酷ではないか。

(C) 国税通則法63条5項の条文は、「誰」の財産についてであるか、「誰」の免除であるか等について明白な規定がないところ、文理解釈上、連帯納付義務者など「特定の人」に限定して充足の有無を判断するようには必ずしも読めず、滞納処分全体による国税の満足を免除理由としているとも考えられることから、包括的に免除規定を適用してよいのではないか。

B 連帯納付義務の制度趣旨からの検討

(A) 同一の相続によって生じた相続税の徴収を確保し、他の一般の納税者との公平を図るなど、連帯納付義務制度の目的は既に達成されていることから、相続人の一人である主たる納税義務者にも、その効果を及ぼしてよいのではないか。

(B) 一般的に、相続の事案には、複数の連帯納付義務者の存在が想定されるところ、主たる納税義務者に係る延滞税を免除しないとするならば、納付資力を欠く主たる納税義務者の延滞税部分については、(免除適用のあった連帯納付義務者を除いた)他の連帯納付義務者に対してのみ追及することになり、同一の相続関係者でありながら、人それぞれによって区々な延滞税負担となり、開差が生じる結果になるのではないか。

(ロ) 免除規定導入に係る改正試案
 国税通則法63条5項「・・・・を受けた場合」の後方に「(相続税法34条に規定する連帯納付義務者に係る財産の差押え又は担保の提供を含む。この場合、免除の効果は、連帯納付義務の目的となった納税義務者の国税に及ぶ。)」の一文を加筆することを試案として提案したい。

3 まとめ

連帯納付義務者の延滞税の充足免除については、適用可能との結論に到達した。
 また、連帯納付義務者の充足免除が適用可能となった場合、主たる納税義務者の充足免除適用の可否については、現行法上、免除は適用できないと整理したが、多角的に考察を進めたところ、免除規定を導入することについて検討の余地があると考え、法改正を提案する。


目次

項目 ページ
はじめに264
1 問題の所在264
2 研究に当たって266
第1章 延滞税の免除制度268
第1節 延滞税の概要268
1 国税通則法制定以前268
2 国税通則法の制定270
3 国税通則法制定後の主な改正点271
4 延滞税の意義・性質等273
5 国税通則法60条2項ただし書きの構成について275
第2節 延滞税の免除制度の概要277
1 国税通則法の制定(昭和37年4月法律66号)277
2 国税通則法制定後の主な改正点277
3 延滞税免除の意義・性質等280
4 充足免除の概説284
第2章 延滞税に相当する連帯納付義務の充足免除の可否291
第1節 相続税法における連帯納付義務291
1 相続税の連帯納付義務の沿革291
2 現行相続税法における連帯納付義務制度の概要301
第2節 連帯納付義務の意義・性格等305
1 連帯納付義務の意義及び法的性格等305
2 主たる納税義務者との関係321
3 他の連帯納付義務者との関係322
4 憲法上の財産権保障及び適正手続保障に抵触しないか323
第3節 延滞税に相当する連帯納付義務325
第4節 延滞税に相当する連帯納付義務の免除326
1 他の納税義務の拡張制度における免除規定326
2 延滞税に相当する連帯納付義務の免除の可否328
第3章 連帯納付義務者の財産差押えに基づく主たる納税義務者の延滞税の充足免除の可否329
第1節 連帯納付義務者と主たる納税義務者との関係329
第2節 連帯納付義務者の財産の差押えに伴う主たる納税義務者の延滞税の免除329
1 類似する他の納税義務の拡張制度における免除規定329
2 主たる納税義務者への延滞税の充足免除適用の可否332
第3節 小活333
第4章 法改正への一考察(私的考察)335
第1節 法改正を検討すべきとする考察335
1 延滞税免除制度の趣旨からの検討335
2 連帯納付義務制度の趣旨からの検討335
第2節 現行制度下での対応336
第3節 今後の対応として338
結びに代えて340

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