山林 茂生
鈴木 久志
幡野 正仁
税務大学校
研究部教授


要約

1 研究の目的(問題の所在)

平成14年7月に導入された連結納税制度は、いわゆる単一主体概念の下、連結グループを一体として所得計算又は税額控除計算を行うこと(以下、これを「グループ計算」という。)とされており、このグループ計算を行うためには、連結法人間において一定の調整が必要とされる。また、グループ計算項目については、益金不算入額及び損金不算入額並びに税額控除額のうち、各連結法人に帰属する部分の金額(以下「個別帰属額」という。)の算定を行うこととされるが、当該調整及び当該算定は、連結法人数が多くなるほど納税者及び課税当局の双方にとって事務負担が重くなる(処理コストを増加させる)ものとなっている。
 このような現行制度は、理論上、特段の問題があるものとはいえないが、連結納税制度の導入から15年となることから制度の見直しを行うことも必要と考え、本稿においては、主に処理コスト削減の観点から、制度の見直しについて研究を行うこととした。

2 研究の概要

第一に、現行制度のうち処理コストを増加させる要因となっているものから問題点の抽出を図る。第二に、抽出された問題点に対し、現行制度の枠を維持しつつ、処理コストの削減を図ることができるもの並びに所得計算及び個別帰属額の計算をより正確に行うことができるもので短期的に実現可能と考える改正案の提言を行う。そして、第三に、中長期的改正項目として、現行制度を大きく変える改正案の提言を行う。

(1)現行制度の問題点

イ 離脱する連結子法人のステータスに由来する問題
 連結納税制度を適用しているグループに属する連結子法人には、連結法人というステータスが与えられているが、連結グループから離脱する連結子法人(以下「離脱子法人」という。)は、離脱に伴い当該ステータスを失うこととされる。
 当該ステータスを失う時期は、平成15年度の税制改正によって、離脱日(連結親法人との間に当該連結親法人による連結完全支配関係を有しなくなった日をいう。以下同じ。)に当該ステータスを失わせるとされたが(法法4の512)、当該改正により離脱子法人にあっては、離脱日の前後でみなし事業年度を設ける必要が生じ(法法141八〜十、十七)、当該離脱日の前日の属する連結事業年度開始の日から当該前日までの期間(以下「離脱事業年度」という。)については、当該前日が連結親法人事業年度終了の日となる場合を除き、連結法人のステータスを持ちながら単体で確定申告を行うこととされた(法法15の21一〜三、741)(以下、当該確定申告を「連結法人の単体申告」という。)。
 離脱子法人においては、連結法人の単体申告を行うために、離脱事業年度に係る決算を行う必要があることとなり、この点、当該離脱子法人の処理コストを増加させることとなっている(合併解散又は残余財産の確定により離脱するものを除く。)。

ロ 連結開始又は連結加入時の時価評価(時価評価制度)に由来する問題
 連結納税の開始又は連結納税への加入に際しては、連結子法人となる一定の法人のその開始直前又は加入直前の事業年度末に保有する一定の資産に係る時価評価損益をそれぞれの事業年度の所得の金額の計算上、益金の額又は損金の額に算入することとされている(以下、これを「時価評価制度」という。)(法法61の111、61の121、法令122の121)。
 この時価評価制度は、単体納税から連結納税へという納税単位の変更に伴う清算、すなわち、単体期間中に稼得した所得は単体納税で、連結期間中に稼得した所得は連結納税で清算を行うという考え方と、含み損益のある資産を連結納税へ持ち込むことによる租税回避の防止のために設けられたものとされるが、法人の事務負担や課税上の弊害が生じにくい点を考慮し、時価評価の対象は一定の法人の一定の資産に限定されている(連結グループからの離脱については、当該資産の時価評価損益を単体納税制度に持ち出して行う租税回避が想定され難いこと等を理由として時価評価の対象とされていない。)。
 このことからすると、時価評価制度は租税回避防止措置としての側面が強いものであるという見方もできるところであるが、当該法人が保有する一定の資産について時価評価を行うことは処理コストを増加させるものといえ、また、当該時価評価に基づく未実現利益に対する課税は、更に処理コスト(納税資金の手当て等)を要するものとなっているといえる。

ハ グループ計算に由来する問題
 グループ計算が求められている各項目の問題点として、処理コストの面からみると、単体規定ならば、当該各項目の適用がない連結法人(例えば、配当等の受取がない連結法人における受取配当等の益金不算入額の計算)については、当該項目に係る数値を拾い上げることは不要であるところ、連結規定では、グループ計算が求められることから、各連結法人の各種の数値等(例えば、受取配当等の益金不算入額の計算であれば、関連法人株式等から控除する負債利子の計算要素となる前連結事業年度末及び当連結事業年度末の総資産の帳簿価額などの各数値等)を集計する必要が生じ、単体規定に比して処理コストを増加させることとなることなどが挙げられるが、最も問題となるのは、いずれかの連結法人に修正事項等が生じた場合に、当該連結法人の個社ベースでの是正ができず、修正事項等の影響が他の連結法人の連結所得等の個別帰属額の計算に及ぶこととなり、また、それが各連結法人の地方税の申告計算にも影響することによる過重な処理コストが生ずるという点であると考えられる。
 そして、グループ計算が求められている各項目について、連結規定で計算した場合と単体規定で計算した場合とで生ずる金額的な差異についてモデルケースを用いて分析したところ、その計算結果については、極端な差異が生ずるものではないものの、少なからず差異が生ずるものとなっている。当該差異の原因は、各項目によって様々な要因があり、連結規定で計算した場合の金額と単体規定で計算した場合の金額のいずれが大きいものとなるかについては、必ずしも一定ではなく、ケースバイケースとなることが分かった。
 また、グループ計算が求められている各項目については、連結グループを単一の主体として捉えるという点に軸足を置くならば、現行の規定による計算方法に合理性があるともいえるが、グループ計算をした結果を各連結法人の個別帰属額に振り分ける際に、各連結法人に帰するべき金額については、正確性という観点からすると必ずしも疑問がないわけではない。
 更に、上記で分析した各項目は、基本的には個々の法人の収入や支出の内容に着目して、益金不算入額や損金不算入額などを計算するものとなっており、グループ計算によらず、個々の連結法人において各種計算を単体規定によって行うこととしたとしても、所得の計算の正確性が損なわれるとは言い難いのではないかと考えられる。この点、平成22年度税制改正によりグループ法人税制が導入され、連結規定を採用していない100%グループ法人であっても、グループ間で調整が必要なものが規定されたことなどを考え合わせると、グループ法人税制がグループ計算を求めていない項目については、必ずしもグループ計算によらなければ所得計算の正確性が確保できないものとはいえず、単体規定による計算によってもその正確性は担保されるものと考えられる。

(2)短期的改正項目

イ 連結法人のステータス(連結法人の効力取消日)の改正
 離脱子法人の離脱事業年度(ここでは、合併解散又は残余財産の確定によるものを除く。)について、連結法人のステータスが維持されている理由は、離脱直前の取引が連結法人としての取引となるか否かが不明確であったことを解消するためとされるところ、グループ法人税制の導入により、連結法人のステータスを持たない場合であっても100%グループ間で調整が必要なものが規定されたことから、連結法人としてのステータスを維持させる根拠は現時点では弱まっているといえる。また、連結法人の単体申告は、連結グループとして稼得した所得は連結納税で課税関係を完結させるという考え方に反していることからすれば、処理コスト削減の観点から、離脱子法人の連結法人のステータスについて、離脱する連結事業年度の開始の日で失わせることとすることも理由があると考える。そこで、離脱子法人の連結法人のステータスの取消日を当該開始の日とする改正を提言する。
 この場合のみなし事業年度であるが、当該開始の日から離脱子法人の当該開始の日を含む事業年度の末日までの期間(離脱日が当該事業年度の末日後である場合には、当該開始の日を含む連結事業年度終了の日までの期間)とすることが適当であると考える(当該期間は、単体法人の単体申告ということになる。)。
 これにより、離脱日の前後でみなし事業年度を設け、離脱事業年度に係る決算を行う必要がなくなるとともに、離脱子法人が連結法人であるが故に必要とされる連結調整も不要となる(例えば、離脱事業年度に係る利益積立金額は投資簿価修正に係る帳簿価額修正額の対象外となる。)ことから、処理コストの大幅な削減が図られるものと考える(ただし、離脱子法人は、離脱までの期間については、連結法人のステータスは失うものの連結親法人の100%グループ内の法人であることから、グループ法人税制においてグループ法人間の調整が必要とされる項目についてはその調整を行う必要がある。)。

ロ 時価評価制度の改正
 処理コストの削減という観点からは、時価評価制度を廃止することが考えられるが、当該制度を廃止した場合、別途当該制度の導入時に想定された租税回避行為の防止策を講ずる必要がある。
 しかしながら、現行の時価評価制度における時価評価は租税回避行為の防止策として優れており、これに代えて別途当該防止策を講ずることは難しいことから、現行の時価評価制度を廃止するという選択は困難と考える。
 その一方で、現行の時価評価制度のもう一つの問題である未実現利益(評価益)に対する課税に係る処理コストの問題については、次の案により解決することが可能と考える。
 現行制度と同様、各時価評価資産について連結開始直前又は連結加入直前の事業年度末において時価評価を行い、各時価評価資産に係る評価損については当該事業年度(単体申告)の所得の金額の計算上、損金の額に算入する一方、各時価評価資産に係る評価益については、当該所得の金額の計算上、益金の額に算入するとともに、当該評価益に相当する金額を評価益調整勘定として損金の額に算入し、当該評価益に対する課税を繰り延べることとする(評価益を繰り延べることとなる各時価評価資産についても、その帳簿価額は時価で付け替えることとなる。また、評価益調整勘定は時価評価資産ごとに管理することとなる。)。そして、当該評価益調整勘定については、連結期間中に当該評価益を有する各時価評価資産について売却、償却、評価換え又は除却などの事由が生じた場合に、当該事由が生じた時価評価資産に係る評価益調整勘定の全部又は一部を当該事由に応じて取り崩し、連結所得の金額の計算上、益金の額に算入するというものである(評価益調整勘定を有する連結子法人が連結グループから離脱した場合には、評価益調整勘定の残高全額を取り崩すことが適当と考える。)。
 この案による場合、当該益金の額は、本来ならば単体申告で課税されるものであることから、当該益金の額を計上する連結法人が有する連結欠損金個別帰属額以外とは通算できないものとする(当該連結法人以外の連結法人が有する連結欠損金個別帰属額とは通算できないものとする。)ほか、連結子法人の離脱等に伴い連結子法人株式の帳簿価額を修正する場合(投資簿価修正)の帳簿価額修正額の対象としないこととすることが必要となる。
 これにより、時価評価資産に係る評価損益を利用した租税回避及び単体納税における時価評価益に対する課税(未実現利益に対する課税)に係る処理コストの削減に対応することができることとなると考える。
 ただし、この案の場合、時価評価資産ごとに評価益調整勘定を管理する必要があるという点で、現行制度よりも処理コストを要するものとなる。
 そこで、この問題に対処するため、各時価評価資産の評価益の全てを課税繰延の対象とするのではなく、時価純資産超過額(各時価評価資産の評価益の合計額が各時価評価資産の評価損の合計額を超える場合のその超える部分の金額をいう。)がある場合にのみ、各時価評価資産の評価益について課税の繰延べを行うこととすれば、処理コストの問題はある程度緩和されるものと考える。
 なお、連結子法人となる法人の状況により、現行の時価評価制度の方が処理コストを要しないことも考えられることから、改正案としては、現行制度を維持しつつ、上記案を特例として、納税者にその選択を認めることとするものを提言する。

ハ グループ計算項目の改正
 各連結法人の各数値等や保有期間の判定方法などをグループ計算によることとしていることによって、むしろ計算の正確性などが損なわれるなどの問題があり、個別的に改正することが望ましいと思われる以下の項目について提言する。

(イ) 受取配当等の益金不算入
 受取配当等の益金不算入において、短期保有株式等について、益金不算入の規定を適用しないこととする趣旨は、配当落ちした株式の譲渡による損失の計上と当該株式に係る受取配当等の益金不算入規定を適用することによる租税回避の防止であり、制度の濫用を防止するための措置であるといわれている。
 しかしながら、連結規定では、株式等の譲渡損益の計算においては、譲渡した株式の帳簿価額、すなわち、譲渡原価について連結グループ全体で計算することとしておらず、各連結法人の個別計算における帳簿価額によることとされているのであるから、ある銘柄の株式について、ある連結法人が従来から保有していた当該銘柄の株式を譲渡するに当たって、他の連結法人が配当等の基準日の1月以内の配当落ち前の高値で取得していたとしても、当該他の連結法人の当該株式の取得価額が当該譲渡した連結法人の当該株式の譲渡原価に影響を及ぼすということにはならない。
 また、短期保有株式等の判定については、特に、その保有割合が5%未満である非支配目的株式等などの場合では、一般的に、その取得及び譲渡は、個々の連結法人のそれぞれの事情等において行われるものとも考えられ、グループ全体で判定して、益金不算入の対象とならない配当等の額を算出するというのは、その譲渡及び取得の実態に合致しておらず、制度の濫用の防止という短期保有株式等の益金不算入を制限した趣旨にもそぐわないと考えられる。
 この短期保有株式等の判定に関して、グループ全体で判定することは、単体で判定する場合に比して処理コストを増加させるものとなっていることを考え併せると、短期保有株式等の判定については、グループ計算によることをやめて、単体規定と同様に、各連結法人において、その判定を行うよう改正することが処理コストの面からみても望ましいのではないかと考える。

(ロ) 外国税額控除
 現行のような当期の控除限度額を各連結法人の国外所得の比であん分するという計算方法では、各連結法人の個別所得金額の多寡にかかわらず、単純に、国外所得の額に応じて、当期の控除限度額が各連結法人に配分されることとなり、仮に、個別欠損金額が生じているような連結法人であっても外国税額控除の枠が与えられることとなり、個々の連結法人に帰する控除枠を計算するという観点からすると問題があると考えられる。
 また、連結控除限度額の計算については、個別欠損金額が生ずる連結法人がある場合に、そのような欠損法人の国外所得についても全体の国外所得に含めて控除限度額を計算するため、おおむね当該国外所得に法人税率を乗じた金額に相当する控除限度額が増加する計算構造となっているという問題もあると考える。
 この点については、逆に、当該欠損法人の国外所得がマイナスであった場合には、そのマイナス分が、他のグループ内の各連結法人の控除枠を減少させるものとなるということにもなり、いずれにしても算出される金額はいびつなものとなる。
 連結規定における外国税額控除は、グループ全体の当期の控除限度額をグループ計算して、それを各連結法人に配分し、その後の計算は各連結法人によって行い、各連結法人において計算される当期の控除額を集計して、連結申告における当期の控除額とするものである。そうすると、あえて当期の控除限度額だけをグループ計算によって算出するという計算構造を採らなくとも、控除される外国税額の計算の正確性が保てないというものではないとも考えられ、特に、当期の控除限度額という控除枠については、その後、連結グループを離脱した場合には、その離脱した連結法人に引き継がれるものであることなども考慮するならば、当期の控除限度額を各連結法人が単体規定に基づき計算し、その合計額を連結法人税額から控除することとした方が、むしろ、合理的であるとさえいえる。
 そうすると、外国税額控除の計算についてグループ計算を行うことは、それ自体が処理コストを増加させていることを考え併せると、外国税額控除の計算については、グループ計算によらず、各連結法人が単体規定に基づき個別計算によって当期の控除額を計算し、その合算額を連結申告において、控除又は還付の金額とするよう改正することが処理コストの面からも望ましいと考える。
 仮に、グループ計算による当期の控除限度額の計算を維持するとしても、個別欠損金が生ずる連結法人の国外所得については、当期の控除限度額の計算の基礎から除き、欠損法人には当期の控除限度額という控除枠を配分しないこととすべきではないかと考える。

(ハ) 試験研究費に係る税額控除
 連結規定における特別試験研究費に係る控除額の個別帰属額の計算では、特別試験研究費に係る控除税額を特別試験研究機関等に係るものとそれ以外のものとに区分して、各連結法人が支出した特別試験研究機関等に係る特別試験研究費の額とその他の特別試験研究費の額に応じて個別帰属額を算出することとされている(措令39の3923三)ため、各連結法人の支出した特別試験研究費に係る税額控除の対象とされた金額がそれぞれ個別帰属額として計算されるものとなっている。これに対して、総額基準に係る控除額の個別帰属額の計算では、各連結法人の試験研究費の額から差し引く特別試験研究費の額をグループ全体の特別試験研究費の額のうち特別試験研究費の税額控除の対象となった特別試験研究費の額の割合を各連結法人の試験研究費の額に乗じて算出することとされている(措令39の3923一、二)ため、個々の連結法人の試験研究費の額のうち、実際に総額基準の対象となった試験研究費の額(試験研究費の額から特別試験研究費の税額控除の対象とされる特別試験研究費の額を控除したもの)とは異なる金額で個別帰属額が計算されることになる。
 したがって、総額基準において試験研究費の額から控除する特別試験研究費の額は、各連結法人の特別試験研究費に係る税額控除の対象とされ、各連結法人に帰するものとされた特別試験研究費の額を控除した金額とすることで、各連結法人に帰することとなる総額基準の対象とされる試験研究費の額の計算を正確にすべきではないかと考える。

(3)中長期的改正項目

イ 外国の制度
 連結納税制度はどこの国にもあるわけではない。また、各国で導入されている連結納税制度を見ても様々なものがある。このように国ごとに対応が区々なものとなっていることに対しては、事業部形態と子会社形態との間で税制が中立でなければならないという考え方があるものの、両者が等しくない以上、両者を等しく扱うべきであるという論理的帰結は生まれず、どのような条件の下でグループを単一の課税単位として扱うとすべきなのかは各国の立法政策の問題であるという見解がある。
 このような点からすると、我が国がどのような連結納税制度を構築するかは、立法政策によるといえるので、単一主体概念を主軸においた連結納税制度にこだわる必要はなく、過重な処理コストを要しない制度の構築を目指すことも政策上の選択として可能といえる。

ロ 個別所得合算方式の採用
 連結納税制度では、いわゆる単一主体概念の下、連結グループを一体として法人税の申告納付を行うものであるという理由から、受取配当等の益金不算入、寄附金の損金不算入及び交際費等の損金不算入などの計算について、グループ計算を行うこととされていると考えられる。しかし、内部取引損益の消去については処理コストの問題を理由に一定程度しか行うこととされていない中で、これらの計算について連結グループ全体で行うことに説得力があるとは言い難い。
 また、グループ計算を求められている各項目について、連結法人ごとにこれらの所得計算を行うことには、上記(1)ハのグループ計算に由来する問題で述べたとおり、十分な理由があるものと考えられる上に、グループ計算によって計算される金額とグループ計算によらずに計算される金額とでは、いずれが大きい金額となるかはケースバイケースであって、極端な差異が生ずるものともいえない。そうすると、各連結法人が個別に計算することとしても一定の合理性が認められるものであれば、グループ計算を採用するか否かは立法政策としての割り切りとも考えられ、加えて、処理コストの面などを考慮するならば、グループ計算によらず、各連結法人の個別所得を合算する方法(以下「個別所得合算方式」という。)とする方のメリットがより大きいものと考えられる。
 したがって、グループ計算を廃止し、連結納税制度をいわゆる個別主体概念の下に組み替え、個別所得合算方式を採用することを提言する。

(4)租税回避への対応

ここまで主に処理コスト削減に焦点を当てて、論を進めてきたが、処理コスト削減の結果、租税回避が容易になってしまうということでは、課税の公平という観点から問題である。個別所得合算方式を採用した場合であっても、現行の連結納税制度において想定される租税回避が行われると考えられることから、現行の制度下において想定される租税回避スキームを念頭に置きつつ、租税回避への対応について検討する必要がある。

イ 法人税法132条の3における不当性の判断基準
 法人税法132条の2及び同法132条の3の規定の創設当時の立案当局者の解説によれば、いずれもその行為の形態や方法が相当に多様なものとなると考えられることから、これに適正な課税を行うことができるように規定が設けられたとされており、これらの規定の趣旨・目的は基本的に同じといえる。また、連結納税制度において想定される租税回避には、連結納税制度に係る各規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるものもあると考えられることから、通説的な経済合理性基準(最高裁昭和53年4月21日第二小法廷判決(訟月24巻8号1694頁)の原審である札幌高裁昭和51年1月13日判決(訟月22巻3号756頁)が示した判断基準)により不当性を判断することでは不十分である。このため、同法132条の3における不当性の判断基準は、同法132条の2と同一と考えることが適当である。そして、同法132条の2については、最高裁判所がその適用の可否を制度濫用基準(最高裁平成28年2月29日第一小法廷判決民集70巻2号242頁が示した判断基準)によって判断することとする判断枠組みを示していることから、同法132条の3の適用の可否を判断するに当たっても、同様に制度濫用基準によるべきであると考える。

ロ 連結納税制度を利用した租税回避の特質と各否認規定の適用関係
 連結納税制度に係る租税回避については、連結法人の行為・計算による場合のみならず、連結加入前や連結離脱後の連結法人以外の法人による行為・計算による場合やこれらの行為・計算を一連の行為に追加する場合など様々な租税回避が想定される。これらに対して行為・計算の否認規定を適用する場合には、それぞれの租税回避スキームに応じて、各否認規定を使い分ける必要がある。すなわち、法人税法132条の3の規定は、「その連結法人の行為又は計算」により税負担の不当減少が生ずる場合に、その行為又は計算を否認することができることとされており、同規定は、行為者を「連結法人」に限定した規定であることから、連結納税制度に係る租税回避否認の検討に当たっては、法人税法132条の3だけで対処することは不十分であり、同法132条又は132条の2の適用の有無の検討が必要となる場面もあると考えられる。
 そして、不当性について、同法132条の場合は、経済合理性基準により判断し、また、同法132条の2の場合は、制度濫用基準により判断するという見解があるが、連結納税制度に係る租税回避に対する同法132条の適用の可否の検討に当たっては、通説的見解とされる経済合理性基準のみで判断することでは不十分となるケースも想定されることから、経済合理性基準に加えて、制度濫用基準でも判断することが必要な場面が生ずると考えられる。

3 結びに代えて

本稿は、現行の連結納税制度は理論上特段の問題があるものとはいえないが、納税者及び課税当局の双方に相当な事務負担を要する制度となっているという認識の下、主に処理コスト削減の観点から現行制度の見直しを行い、問題点の抽出、その問題点に対し短期的に改正可能と考える改正案の提言及び現行制度を大きく変える中長期的改正案の提言を行った。
 問題点として抽出したグループ計算項目の検討においては、基本的には、連結規定と単体規定で計算した場合の全体額にどの程度の差異が生ずるものなのか、その差異が生ずる原因はどのようなところにあるのかという点に主眼を置いて検討を行ったことから、連結規定でグループ計算した各金額が各連結法人に配分されることとなる個別帰属額については、試験研究費に係る税額控除での個別帰属額の計算の特別試験研究費と総額基準に係る試験研究費の計算のように、個別帰属額が異常計数となっていたため違和感を覚え詳細を検討したものは別として、個々にその算出方法等についての合理性や正確性の検証が不十分なものとなっている。個別帰属額の計算は、地方税などの計算に影響するものであって、その算出方法については、一定の合理性及び正確性が担保されるべきものと考えられることから、このような点について今後の研究に委ねたいと考える。
 また、本稿では、連結納税制度における租税回避への対応についても研究を行ったが、租税回避の意義について、連結納税制度を利用した租税回避スキームをいくつか想定した上で、分かり易く整理しようと試みたが成し得なかった。納税者と課税当局の双方にとって、節税と租税回避の分水嶺が分かりづらいのは好ましいことではない。今後、益々巧妙かつ複雑になると考えられる租税回避スキームに対処するために、具体的な事例を題材として、租税回避への対応に関する研究を続け、その成果を発信していく必要があると考える。


目次

項目 ページ
はじめに20
第1章 連結納税制度の概要22
第1節 連結納税制度の導入22
1 制度導入までの政府税制調査会における議論の経過22
2 導入された連結納税制度の概要25
第2節 制度導入後の主な改正事項46
第3節 現行制度の問題点63
1 離脱子法人のステータスに由来する問題
(連結法人の効力取消日)
63
2 連結開始時又は連結加入時の時価評価に由来する問題65
3 グループ計算項目に由来する問題66
第2章 短期的改正項目131
第1節 連結法人の効力取消日の改正131
1 提言131
2 投資簿価修正との整合性135
第2節 時価評価制度の改正135
1 提言135
2 時価評価益の繰延べに係る具体的処理例140
第3節 グループ計算項目の改正142
1 受取配当等の益金不算入143
2 外国税額控除144
3 試験研究費に係る税額控除146
第3章 中長期的改正項目149
第1節 外国の制度の検討149
1 ドイツの機関関係(Organschaft)制度149
2 イギリスのグループ・リリーフ制度151
3 フランスの連結納税制度151
4 EUのCCCTB指令案152
第2節 グループ計算についての検討153
1 受取配当等の益金不算入153
2 寄附金の損金不算入155
3 交際費等の損金不算入156
4 外国税額控除156
5 所得税額控除156
第3節 提言157
1 個別所得合算方式の採用157
2 投資簿価修正及び内部取引損益の消去の必要性159
第4章 租税回避への対応163
第1節 租税回避の意義163
1 政府税制調査会の整理163
2 学説165
第2節 法人税法上の租税回避否認規定167
1 判例等167
2 法人税法132条の2における不当性の判断基準173
第3節 連結法人等に係る行為・計算の否認175
1 連結納税制度において想定される租税回避175
2 法人税法132条の3における不当性の判断基準178
3 連結納税制度を利用した租税回避の特質と各否認規定の適用関係179
第4節 小括181
結びに代えて184

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